「キャラクターをつくりたい」という動機から、3DCGやイラストレーションの制作に挑戦し、「これを仕事にしたい」と考えるようになる人は数多くいる。そんな人たちの自己分析と業界研究の足がかりにしてもらうため、本連載では様々なゲーム会社やCGプロダクションを訪問し、キャラクター制作に従事しているアーティストたちの仕事内容やキャリアパスを伺っていく。第1回は『DARK SOULS』シリーズや『ARMORED CORE』シリーズといったゲームで知られるフロム・ソフトウェアにおける、キャラクター制作の仕事を紹介する。なお、本記事は非常に情報量が多いため「前編」「後編」の2回に分けてお届けする。
マネージャー
1997年入社。モデラーからキャリアをスタートし、現在は3DCG系の部署を統括。アーティストの採用にも関わっている。
デザインマネージャー
2001年入社。デザイナーの部署にてリーダーを務める傍ら、制作業務も行う。アーティストの採用にも関わっている。
3Dグラフィックアーティスト
大学では経済学を専攻。学業の傍ら独学で3DCG制作を学び、2014年にフロム・ソフトウェアへ入社。背景モデラーを2年間務めた後、キャラクターモデラーへ転向。
モーションデザイナー
大阪アミューズメントメディア専門学校で3DCG制作を学び、2014年にフロム・ソフトウェアへ入社。モーションデザイナーとして、キャラクターのモーション(アニメーション)制作を担当。
株式会社フロム・ソフトウェア
1994年、ビジネスアプリケーションの開発からゲーム業界へ参入。『DARK SOULS』シリーズや『ARMORED CORE』シリーズなど、数多くのゲームソフトの企画・開発・販売を行なってきた。同社のゲームにおける世界観やキャラクターの制作では、「リアリティが感じられること」を重視している。本社(東京都渋谷区)に加え、福岡スタジオ(福岡県福岡市)を有する。
www.fromsoftware.jp/
『DARK SOULS Ⅲ THE FIRE FADES EDITION』
『DARK SOULS Ⅲ』のゲーム本編に、DLC(DownLoadable Content)第1弾『ASHES OF ARIANDEL』と、DLC第2弾『THE RINGED CITY』を完全収録したオールインバージョン。本記事の前編では、『THE RINGED CITY』に登場する「闇喰らいのミディール」のモデリングの仕事を紹介する。さらに後編では、同じく『THE RINGED CITY』に登場する「デーモンの王子」のモーションの仕事を紹介する。
www.darksouls.jp/
ディレクターを驚かせ喜ばせれば、その先にいるユーザーも喜んでくれる
--手はじめに、フロム・ソフトウェアでキャラクター制作の仕事に携わる方々の組織構成を教えていただけますか?
マネージャー:キャラクター制作に携わるスタッフは、大きく3つの職種に分かれます。1つはデザイナー、もう1つは3Dグラフィックアーティスト、もう1つはモーションデザイナーです。アーティストの職種はこれ以外にもUIアーティスト、VFX(※1)アーティストなどがありますけれど、話が広がりすぎてしまうので、今回は、この3つの職種に絞ってお話していきたいと思います。
デザインマネージャー:私はデザイナーの部署でリーダーをしています。デザイナーは現在30名ほどおり、ディレクターや企画職がつくる企画やコンセプトに基づき、キャラクター、武器などの小道具、背景をデザインします。ゲームのグラフィックスに求められるクオリティは年々上がっているため、デザイナーも専門性を極める必要が出てきました。それに伴い、キャラクター班と背景班に分かれて仕事をするようになっています。
3Dグラフィックアーティスト:3Dグラフィックアーティストは現在50名ほどおり、デザイナーの制作したデザイン画を基に、ゲーム内に表示される3DCG全般を制作します。私は背景のモデリングを2年間担当した後、現在はキャラクターのモデリングを担当しています。われわれの部署もキャラクター班と背景班に分かれつつありますが、本人の適性や希望に応じて、両方担当する場合もあります。
モーションデザイナー:モーションデザイナーは現在20名ほどおり、3Dグラフィックアーティストが制作したモデルにモーションを付けます。カットシーンと呼ばれる、ゲーム内のリアルタイムムービーを制作する場合もあります。私は入社以降、一貫してキャラクターのモーションを担当してきました。
--デザイナー、3Dグラフィックアーティスト、モーションデザイナーの順番でデータがリレーされ、キャラクターがつくられていくわけですね。
マネージャー:大筋はその通りです。ただし実際の開発は単純な一方通行ではなく、データが行ったり来たりするケースが多いです。
--もう少し具体的にキャラクター制作のながれを解説していただけますか?
デザインマネージャー:最初に、ディレクターや企画職がキャラクターの「発注書」をつくります。発注書には、デザインのとっかかりとなるコンセプトやキーワードが書かれており、それを起点にデザイナーが「コンセプトスケッチ」を描きます。キャラクターに限らず、小道具や背景デザインの場合もながれは同じです。ゲームのキーとなる重要なキャラクターの場合は、幅広いアイデアやイメージの中から最適なものを選ぶため、複数人数のデザイナーがコンセプトスケッチを描き、ディレクターに提出します。
--つまり、コンペ方式で選ばれるということでしょうか。採用されるデザインがある一方で、ボツになるデザインもあるわけですよね?
デザインマネージャー:その通りです。先入観のない状態で「ゲームにとってベストのデザイン」を見極めてもらうため「誰が描いたのか」はディレクターに伝えません。1人のデザインだけが選ばれるのではなく、複数人のデザインを組み合わせることも多々あります。例えば、「A案のこの部分」と「B案のこの部分」を組み合わせたものをブラッシュアップして、新たなイメージをつくり、デザイン画を仕上げていくといった具合です。キャラクターも背景も、色々な人のアイデアやイメージを組み合わせて形づくられていくことが大半なので、「これは誰々のデザインである」と言いきれるものはほとんどありません。
--多い場合、1体のキャラクターに何人くらいのアイデアが詰まっているのでしょうか?
デザインマネージャー:キーになるキャラクターだと、10人くらい関わることもありますね。パブリッシャー(発売元)となる外部のパートナー会社のプロデューサーや広報の方にもお見せして、意見を取り入れる場合もあります。数ヶ月かけても決定打が見つからず、しばらく寝かせることもあれば、デザイン画を基に3Dモデルをつくってみて、その3Dモデルを基にデザインをやり直すこともあります。
マネージャー:開発中のゲーム内に仮置きしてあったプリミティブの3Dモデルがディレクターの目に留まり「このイメージはおもしろい。新しい感覚の画になる」という理由で、新規のデザイン発注が出されたこともありましたね。
デザインマネージャー:そんな調子ですから、一方通行のベルトコンベア方式で仕上がっていくわけではないのです。さらに付け加えると、デザイナーの仕事は「ディレクターのイメージを100%再現すること」ではありません。発注書の内容を種にしつつ、求められている以上のものをデザインし、ディレクターを驚かせ、喜ばせることがデザイナーの役割です。そうすれば、その先にいるユーザーも喜んでくださいます。与えられた枠の中だけでつくっているようでは、今の時代に通用するゲームにならないと思うのです。多様なアイデアや価値観を取り込み、デザイナーが一丸となって提案力を強めることが、われわれの部の方針です。
--紆余曲折を経てデザイン画が仕上がった後は、どうなるのでしょうか?
デザインマネージャー:そのゲームに関わっているデザイナー全員と、ディレクター、さらに企画、3Dグラフィック、モーション、サウンドといった各部署のリーダーが一室に集まってブレストを行います。デザイン画を見ながら、キャラクター1体につき30分∼1時間かけて「このキャラクターはどこにいて、どういう生き方をして、どういう攻撃をするのか?」「ゲーム内でどんな使われ方をするのか?」「ユーザーに何を感じさせるべきなのか?」といったことを話し合います。その結果、「このキャラクターには、こういうデザインが足りない」とわかれば、デザインのやり直しとなります。まるまるひっくり返ることはほぼないですが、この段階で何らかの修正が入るのが常ですね。
マネージャー:「このキャラクターは親子にした方がいい」「新たな武器が必要だ」といった理由で新規のデザイン発注が出されることもありますね。そうやって「あれもやりたい」「これもやりたい」というリクエストを全部受け付けていたらデザイナーの作業量が限界を超えてしまうので、「これを追加するなら、別のものを削ってもらう必要がある」といった意見をデザイナー自身が伝えることも大切です。そういう場合は、1体のキャラクターの中で足し引きをするだけでなく、ゲーム全体の中でも足し引きをします。「このキャラクターは重要だから、ほかを抑えてでも力を入れよう」「このキャラクターはボスのつもりだったけど、ゲームとして面白くならないのでボスから外そう」「単品としてのデザインはいいけど、似たようなデザインのキャラクターがほかにもいるから変更しよう」といった具合です。
--1枚絵としての完成度ではなく、ゲーム全体での完成度を優先して良し悪しが判断されるわけですね。そのブレストの結果をデザイン画に反映させたら、晴れて3Dモデルの制作が本格化するのでしょうか?
デザインマネージャー:そうです。モデラーはモデリング、企画はモーションリストの制作を開始します。サウンドやエフェクトの担当者も、ブレストで話した3Dモデルやモーションが上がってくる前提で作業を始めます。とはいえ、そうやって量産が開始された後でも、デザインの修正は発生します。
--まだ終わりじゃないんですか......(汗)。
マネージャー:実際に3Dモデルをつくり、モーションも付け、ゲーム内に配置してみた結果、「世界観にマッチしない」「思ったより面白くない」といった理由で、やり直しになるケースもあります。フロム・ソフトウェアのゲームはクリアまでに何度も挑戦していただくものが多いので、ちょっとでも不合理なこと、面倒くさいことがあると、ユーザーの気持ちが離れてしまうのです。没入感を増すための画づくりやしくみを全員が必死になって考え、丁寧につくり込んでいます。われわれのゲーム開発は、トライ&エラーを繰り返す仕事とも言えますね。
独学で3DCGを習得して入社
--では続いて「闇喰らいのミディール」の事例を基に、3Dグラフィックアーティストの仕事のながれを伺いたいと思いますが......、その前にフロム・ソフトウェアへ入社するまでの経緯を聞かせていただけますか? 大学では経済学を専攻したにも関わらず、どうしてアーティストとして新卒採用されたのか、とても気になります。
3Dグラフィックアーティスト:大学の1年次が終わる頃、ゲームの3DCGをつくりたくなり、まずはBlenderを独学で使い始めたのです。その後学生向けのMaya(※2)に移行しましが、フロム・ソフトウェアでは3ds Max(※2)を使っているため、内定が決まってからは3ds Maxを勉強しました。今はZBrushも使っています。
--独学で3DCG制作を習得したのはすごいですね。
3Dグラフィックアーティスト:私は昔からゲームが好きで、何時間でもプレイできるのですが、それと同じ感覚で3DCG制作にのめり込んでいました。好きなことだと、時間を忘れてしまうというか。今でも仕事が終わったら、家に帰って延々と自主制作をやっています。
--圧倒的な熱量ですね。就職活動を始めたのはいつ頃ですか?
3Dグラフィックアーティスト:4年次の7月です。ものすごく遅くて「何考えてんだ!」って言いたくなりますよね。私は昔からフロム・ソフトウェアのゲームが好きだったので、最初にフロム・ソフトウェアを受けて、そのまま採用されました。
--無駄がないですね。
3Dグラフィックアーティスト:ほとんど就職活動のやり方を調べなかったので、ポートフォリオも面接もボロボロでした。今ふり返ると、失礼なことをしていたと思います。当時の募集要項には「提出する作品にコメントを付けてください」という主旨のことが書かれていたので、コンビニのプリンターで作品を印刷し、コメントを書いた紙をホチキス留めして提出しました。そのくせ、コンビニのプリンターで何度も色調整をして、気に入らなければ家に帰ってコントラストなどの調整をやり直し、もう1回コンビニに行って出力していたのです。完全に努力する方向を間違っていましたね。
マネージャー:「ポートフォリオのつくり方を知らないんだろうなぁ」と思いましたね。とはいえ、独学で3DCGをつくっていたにも関わらず、専門学校生の作品と比べても見劣りしないレベルだったのに加え、キャラクター、背景、ハードサーフェイスなど、幅広いバリエーションの3Dモデルが並んでいたので、会ってみる価値があると思ったのです。ドアをノックせずに面接室に入ってきたときには「駄目だ」と思いましたがね(苦笑)。
デザインマネージャー:よく覚えています(苦笑)。
3Dグラフィックアーティスト:本当に申し訳なかったです(汗)。前日に面接対策用のビデオを見てはいたのですが、練習しなかったので完全に忘れていました。
マネージャー:ノックについては冗談ですよ(笑)。実際、話してみるとモデリングに対する真摯な姿勢や熱い思いが感じられたので、採用することにしました。
デザインマネージャー:キャリア採用では即戦力になるかどうかを重視する傾向にありますが、新卒採用の場合は、その時点の実力だけを見ているわけではありません。そこから「どこまで伸びそうか」を見極めるようにしています。とくに重視するのは「どういうことをやっていきたい」という本人の明確な意志ですね。「何となく」としか答えられない人は、何となくしか成長しないのです。「これをやりたい」という意志を強くもっている人は、着実にそれをやりつつ、それ以外のできることも増やしていけます。
3Dグラフィックアーティスト:私の場合は、第一に「説得力のあるものをつくりたい」と答えました。フロム・ソフトウェアのゲームに登場するキャラクターや世界観は、必ず何かしらのバックグラウンドが考えられており、それがゲームの説得力や魅力につながっています。入社したら、私もそういうものをつくりたいと思っていました。加えて、ファンタジー作品に関わりたいとも答えましたね。
自分の限界に挑戦するため、ウロコの1枚1枚までZBrushで手彫り
--かなり引っ張ってしまいましたが、今度こそ「闇喰らいのミディール」のモデリングの仕事について伺っていきます。
3Dグラフィックアーティスト:「闇喰らいのミディール」は「滅びの竜」というコンセプトをもち、ものすごく大きいという設定でした。デザイン画を基にモデリングして、3Dグラフィックのリーダーに何度もチェックしてもらい、相談しながら進めました。ある程度できたらデザイナーにも見せ、主に全身のシルエットに対する指摘を受けながら仕上げていきました。3Dモデルをデザイナーに戻し、デザインをやり直すといったことはありませんでしたが、テクスチャ作業やスキニング、ゲーム用データの準備工程などを含めて、完成までに2ヶ月を要しています。当初は1.5ヶ月の予定だったので、2週間オーバーしたことになりますね。
--なぜオーバーしたのでしょうか?
3Dグラフィックアーティスト:一言で表現すると「こだわりすぎ」ですね。自分の限界に挑戦したかったので、ウロコを1枚1枚、ZBrushで手彫りしたのです。複製したものを使うとウロコのながれが崩れるし、納得のいかない部分がでてきます。1枚1枚自分でコントロールして、自分が表現できる生物のディテールの限界を証明したいという目論見がありました。時間がかかるだろうとは思いましたが、彫り続ければ、いつかはできあがりますから。
--彫りきるまでに、どの程度の時間がかかりましたか?
3Dグラフィックアーティスト:約1ヶ月ですね。その中には、ラフモデル制作など、ZBrush以外の工程も多少含まれます。
--フロム・ソフトウェアらしい常軌を逸する熱量は流石ですが、途中で誰か止めなかったのでしょうか?
3Dグラフィックアーティスト:「彫りきらせてください!」と頭を下げ続けました。ただ、私のこだわりはユーザーに伝わらない部分もあったので、費用対効果の低い部分に時間をかけてしまい、制作期間が延びた点は課題だと感じています。それでも「やりきった感」はありました。
マネージャー:すごい集中して彫っていたので、ほかの仕事を差し込もうにも話しかけにくい状態でした。1回失敗した方が、学べることが多いだろうという思いもありましたね。同じ過ちを繰り返したら流石に大問題ですが。
3Dグラフィックアーティスト:世の中には色々なアーティストがつくった、色々なドラゴンがあります。それを目にしたとき「自分だったら、これをつくれるだろうか」「ここまでのディテールを表現できるだろうか」と疑問に思うことがすごく嫌でした。だから1度自分の限界に挑戦し、「自分はつくれる」ということを証明した上で自分に自信をつけ、スキルアップしたかったわけです。彫ることが大切なのではなく、彫った上で、どこまでクオリティを上げられるか、どれだけカッコ良いドラゴンをつくれるか、その限界に挑戦することが課題でした。
--仮にもう1度同じようなドラゴンをつくるとしたら、今度はどうしますか?
3Dグラフィックアーティスト:細かいディテールは実物を3Dスキャンした素材集を使うなどして、効率化すると思います。前回の経験により、力を入れるべきところ、抜くべきところの見極めができるようになったので、すべてに全力を出すのではなく、予定した期間内でクオリティの高いものを仕上げる前提でつくります。
マネージャー:われわれは1本のゲームを3年くらいかけてつくるので、途中で飽きてくることもあると思うのですが、そういう気配を一切見せず、とことんまで突き詰める熱意はすごいと思います。一方で、費用対効果についても学んでいるので、この調子で1つ1つ経験しながら成長していけば、制作中の新タイトルではさらにいい仕事をしてくれるだろうと期待しています。夢中になりすぎて、たまに食事を忘れたりするのは「止めてくれ」と思いますが(苦笑)。
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc. /©2011-2017 FromSoftware, Inc.
前編は以上です。後編も、ぜひお付き合いください。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充