CG制作の現場では、画面の見え方がそのまま創作のテンションに直結する。今回取り上げるのは、ASUSのクリエイターブランド「ProArt」から登場したデタッチャブルPC「ProArt PZ14(HT7407)」だ。タブレット単体で厚さ9mm・約790gという薄型軽量ボディに、リフレッシュレート144Hz・DCI-P3 100%対応の3K有機ELディスプレイ「ASUS Lumina Pro OLED」を搭載。付属の「ASUS Pen 3.0」は4,096段階の筆圧検知に対応する。
この一台を、緻密なスカルプトと大胆なオーバーペイントで独自の世界を築くスカルプター・三枝木ニコ氏に試していただいた。ZBrush・Blender・Krita・Photoshopという普段どおりのワークフローで、頂点数300Milを超えるデータまで持ち込んだ検証をお届けする。
薄型のデタッチャブルPCというと、どうしても「移動中にラフを描くための機材」という位置づけで語られがちだ。だが今回のレビューで検証したのは、そこから一歩踏み込んだ領域──ハイエンドのデスクトップ環境でつくり込んだ重量級のデータを、この一台でどこまで扱えるのかという点である。
三枝木ニコ(SAEKI NIKO)氏 プロフィール
クリーチャー専門アーティスト集団「干支」所属
コンセプトアーティスト/キャラクターアーティスト
ArtStation:https://www.artstation.com/onnnno
Instagram:https://www.instagram.com/saeki_niko
X:https://x.com/NIKO_SAEKI
普段の制作環境
まずは、私が普段使っているPC環境と使用ソフトからお伝えします。
プロセッサ:Intel Xeon w7-2495X(2.50GHz)/メモリ:128GB/グラフィックス:GeForce RTX 4090
使用ソフト:ZBrush/Blender/Krita/Photoshop
メインはZBrushで、そこで出した形をスクリーンショットに撮り、KritaやPhotoshopで上から描いて方向性を探る、というつくり方をしています。立体出力を前提にしたデータを扱うことも多いので、頂点数はどうしても膨らみがちです。
この環境で普段制作しているデータを、そのままProArt PZ14に持ち込んで検証していきます。
普段の環境と比べて、というよりも「普段の作業がそのまま成立するかどうか」を基準に見ていきます。
01|まずはペンの筆圧に慣れる ── 過去作をKritaでオーバーペイント
新しい機材を触るとき、私が最初にやるのは、過去に描いた絵をもう一度画面の上でなぞってみることです。線の入りと抜き、力を抜いたときにどのくらい薄く乗るのか。ここが自分の感覚とズレていると、どんなに性能が高くても手が止まってしまうので。
というわけで、はじめにペンの筆圧の感覚に慣れるため、過去作品をKritaに読み込んでオーバーペイントしてみました。
筆圧検知の良さと、144Hzで画面の遅延も気にならないこと、そしてペン自体の形と重さがちょうど良く、質感も気に入りました!
狙ったところに狙った濃さで乗ってくれる感覚があって、最初の数本を引いた時点で「これは大丈夫だ」と思えました。ペンを持ち替えたときの違和感がほとんどないのは、地味なようでいてかなり大きいポイントです。
さらにOLEDディスプレイなので、解像度の良さと色味がとにかく凄い。ラフでザックリ描いていても解像度が良いので、描くこと自体が楽しくなってきます!
黒がしっかり締まって見えるぶん、暗部にどれだけ情報を残せているかがひと目で分かります。普段なら「あとで大きい画面で確認しよう」と保留にしていた判断を、その場で決められる感覚がありました。
02|ZBrushでの使用感 ── コンセプトモデル制作も普段どおり
続いてZBrushでも使用感を試してみました! 過去作品から流用して、制作中の物語のキャラクターなどのコンセプトモデルを作成しましたが、問題なく進められました。
私の制作は、ZBrushで形を出す→スクリーンショットを撮る→別ツールで上から描く→またZBrushに戻る、という行き来が基本になっています。なのでここで確かめたかったのは、単体ツールの速さよりも、この往復がストレスなく回るかどうかでした。
スクリーンショットを撮って別ツールへオーバーペイントする、という普段の流れがそのまま変わらずできるのも助かります!
しかも画面に直接ペンで描けるので、モニタとタブレットで視線が分かれない。頭に浮かんだシルエットをそのまま画面の上に置ける感覚があって、場面によっては普段より判断が速いくらいでした。
03|どこまでの密度で作業できるか ── 合計頂点数50〜80Milまで
どのくらいの密度まで気にならずに作業ができるのか気になったので、キャラクターを追加していきました。
気になり出すと止まらなくなる性分なので、羽根や装飾といった密度の高いパーツを重ねながら、少しずつ盛っていきます。
合計頂点数50〜80Mil程度までは気にならず作業できたので、他のデータも試したくなりました!
この規模が普通に回るのであれば、外に持ち出して案を詰める用途としては十分すぎるくらいです。
裏で別ツールを起動しながらの作業も問題がないので、迷ったときの案出しや修正がスムーズにできるスペックにも驚かされます!
制作中は「この方向で合っているか」を確かめるために、別ツールを開いたまま行き来したい場面が必ず出てきます。そのたびに片方を閉じなければいけないとテンポが切れてしまうので、ここが問題なかったのは正直かなり助かりました。
04|頂点数300Mil超のデータは開けるのか
普段の環境で制作している作品も、どのくらい動作するのか試してみました。
ここが今回いちばん気になっていたところです。
立体出力に向けて制作中のデータで、頂点数も300Milを超えるので読み込みできるか不安でしたが、問題なく開くことができました。
立体出力を前提にしているデータは、細部まで形として成立させる必要があるぶん、密度を落とすわけにいきません。正直なところ「開かないだろうな」と思いながら読み込んだので、そのまま立ち上がったときは思わず声が出ました。
さすがにサブディビジョンをすべてハイにした状態での全体表示は多少動作が気になりますが、ソロ表示やサブディビジョンを下げれば動作も気にならず、問題なく作業ができたのでスペックに驚きました!
全体表示のままゴリゴリ進めるというより、見たい箇所をソロ表示にして詰めていく。もともと普段からそういう進め方をしているので、作業の仕方を変えずに済んだのは大きいです。
05|Blenderのデータも開いてみた ── OLEDで感じた「奥行き」
普段の環境で制作途中のBlenderのデータも開いてみました。
ZBrushだけでなく、レンダリング側もどこまで触れるのか見ておきたかったからです。
まず色味がとにかく綺麗。OLEDの特徴なのか、普段の制作環境では感じなかった奥行き感を感じました。
同じデータのはずなのに、光が奥へ抜けていくように見える。暗いところに落ちている情報が見えるかどうかで、ライティングの判断はまったく変わってくるので、これはかなり効きます。
レンダリング状態でのビューポート上の動作はさすがに重く感じたので、ZBrushでデシメーションをかけ、改めてBlenderへインポートして対策しました。
ここは割り切りが必要な部分だと思います。ただ、あらかじめ軽くしてから持ち込むというひと手間さえかければ十分に実用になるので、作業の組み立て次第という印象でした。
06|スクショ→オーバーペイントで方向性を探るのが楽しい
ペンの筆圧と描き心地が気持ちいいので、とにかくスクリーンショットを撮ってオーバーペイントし、方向性を探るのが楽しい!
オーバーペイントは、答えを出すというより可能性を潰していく作業だと思っています。だからこそ数を出せるかどうかが重要で、「描いていて気持ちいい」ことがそのまま案の数に効いてくる。
色を乗せた状態とモノクロにした状態を行き来しながら、光の当たり方と全体のシルエットを詰めていきました。
使用した感想
まず初めに、画面の解像度の良さと色味の良さに驚きました! 制作途中の作品も「完成でいいかな」と思うくらいに良く見えるので、創作のモチベーションが上がります。
そして14インチのディスプレイもちょうど良く、全体像が見えるので創作意欲が湧き、様々な表現を試したくなりました! 画面の動作自体も144Hzなのでストレスなく作業ができてとても良いです。
ペンの筆圧検知のおかげでとても描きやすく、遅延も気にならなかったのですぐに慣れることができたのも良かった! 個人的にペンの形と重さがちょうど良く、そして質感がとても好きです。
普段の環境で制作しているデータも問題なく動作するスペックにも驚きました。メインツールのZBrushでは、さすがに頂点数300Milを超えると全体表示での動作が少し気になりますが、制作に支障がないのも素晴らしい!
メインの環境で制作したBlenderのデータも動作するので、コンセプトアーティストとしてとても心強いアイテムだなと感じました!
性能の数字そのものよりも、「普段のつくり方を変えなくていい」という点がいちばん大きかったように思います。環境が変わると手癖も判断もいったんリセットされてしまうものですが、今回はその感覚がほとんどありませんでした。
ASUS ProArt PZ14(HT7407)主なスペック
プロセッサ:Snapdragon X2 Elite(NPU 80TOPS)/メモリ:32GB/ストレージ:1TB SSD(PCIe 4.0 x4 NVMe/M.2)
ディスプレイ:14型 3K有機EL「ASUS Lumina Pro OLED」/16:10/144Hz/最大輝度1,000nits/DCI-P3 100%/4,096段階の筆圧検知に対応
本体:厚さ9mm・約790g(スタンドカバー装着時 約1.06kg、着脱式Bluetoothキーボード装着時 約1.53kg)/IP52・MIL-STD-810H準拠
付属ペン:ASUS Pen 3.0(4,096段階の筆圧検知、ハプティックフィードバック対応)/インターフェイス:USB4(Type-C)×2、SDカードリーダー
EDIT_池田大樹(CGWORLD)