アニメ制作の現場では、4K化や3DCGの多用、ツールの高度化に伴い、取り扱うデータ容量が年々増加の一途をたどっている。旭プロダクションでは、こうした環境変化に対応し、クリエイターが常に最高のパフォーマンスを発揮できる環境を維持するため、3年ごとに機材を刷新するサイクルを徹底している。
AMDと旭プロダクション、そしてTSUKUMOによる戦略的パートナーシップが生み出したコラボレーションPCプロジェクトは2023年に始動し、今回が第3弾となる。このコラボモデルはなぜ生まれ、どのような思想で設計されているのか。旭プロダクションのシステムを統括する本田拓望氏と、パーツ選定や構成を担当したツクモの岡嶋大地氏に、PCの定期更新がもたらす真の経済的メリットと、コラボモデルに込められた意図を深く聞いた。
「AMD × 旭プロダクション 使用スペックモデル」TSUKUMO BTOパソコン
数多くのアニメーション制作を手掛けるスタジオ『旭プロダクション』、高性能なプロセッサーを開発する世界的半導体開発企業『AMD』、長年のパーツ販売による豊富な実績と経験を持つ『TSUKUMO』の3社による連携のもと、『どのようなアニメーション制作の依頼が来てもストレスを感じず作業に集中できるPC』をテーマに徹底検証を行い、制作現場にて実証されたPC構成を制作業務用途・デジタル作画用途・撮影処理/VFX用途・3DCG制作用途・VFX/レンダリングの作業工程別に5モデルご用意。
作業効率と生産性を追求する制作スタッフの方や、新たにアニメーション制作業務に携わる方、アニメーション制作を学ばれている方まで、幅広いユーザーにオススメのラインナップです。
気付かないうちに“指数関数的”に増大するデータ容量
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まず、本田さんのご担当領域について伺います。
本田拓望氏(以下、本田):旭プロダクションでシステム班マネージャーを務めている本田です。端的に言えば、会社全体の環境を最適化し、現場がより良い活動を行えるようにするのが役割です。ソフトウェアの選定・購入・管理、サーバーやインフラの構築、そして今回のテーマであるPCの構築、選定、購入、導入まで、幅広く担当しています。
本田拓望氏
旭プロダクション 管理本部人事総務部システム班 マネージャー
制作進行としてキャリアをスタートし、様々な職種の経験を経て約11年前にシステム担当へ転身。現在は制作現場から経営層まで、会社全体のシステム環境最適化を一手に担う。
asahi-pro.co.jp/creator/honda-takumi
CGW:システム担当になられてどのくらいですか?
本田:約11年になりますね。遥か昔になりますが制作進行としてアニメ制作に携わっていたので、キャリアのスタートは制作現場です。
CGW:その本田さんから見て、ここ5年ほどでアニメ制作の現場にどのような変化を感じますか?
本田:システム側の見解として単純明快にお答えするなら、1話あたりのデータ容量が激増しています。2025年現在、アニメ1話あたりの容量は平均で約500GBに達します。5年前には400GB程度でしたから、確実にデータ量は増加しています。
CGW:その要因は何でしょう?
本田:よく制作ツールの変化や作業負荷の増大が挙げられるのですが、それだけでは説明がつかない部分があります。年によって伸び幅も異なり、平均化するのは難しいです。私個人の計測では、2003年頃、アニメがデジタル化し始めた当初は、1話あたり30GBもあれば十分でした。当時はMOディスクでデータをやり取りしていた時代です。
そこから比べると、この約20年でデータ量は10倍以上。計測している限り、データ容量は毎年1.75〜2倍近く、指数関数的に伸びている感覚があります。これはもはや何かにチャレンジしている、新しいツールを使用しているからという理由ではなく、「自然にデータ容量は増加していくもの」だと考えています。つまり、それだけPCの作業負荷は増加し続けているという見方もできます。
CGW:このながれが続くと、将来はどうなるのでしょう。
本田:10年後の2035年には、1話あたりの容量は最低でも700GBを超えるでしょう。クオリティを追求した作品であれば1話1TB、1クール12話とすれば、1クールでは1PB(ペタバイト)を超えることも十分にあり得ます。これは海外の映像制作ではすでに起きていることで、日本のアニメでも同じことが起こるはずです。
3年間全力を出し切って戦えるコラボレーションモデル
CGW:今回のコラボレーションモデルは、現場のどのような課題を解決するために設計されたのでしょうか。
本田:最大の目的は、従来から一貫して「3年に1回、必ず買い替える」というサイクルをつくることです。データ容量は自然に増加し、作業負荷は年々上がっていきますから、3年前に快適だったマシンは3年後には重くなってしまいます。逆に言えば、われわれが求めるのは「3年間、全力を出し切って戦えるモデル」です。3年きっちり性能を発揮してもらって新しいモデルに買い替えるサイクルをつくることが最も現実的な運用だと考えています。
CGW:そのために特にこだわった点はどこですか?
本田:パーツの安定供給や選定です。「このメーカーのこのモデルでなければ無理だ」という細かい指定を、TSUKUMOさんにご無理を言ってお願いしています。例えば、CPUはAMD Ryzen™、SSDはSeagate FireCudaシリーズ、マザーボードはASUS ProArtシリーズのWi-Fiモデル、といった具合です。3年間戦いきるための最低限の条件がそこにあるので、こだわっています。
CGW:そこが旭プロダクションモデルらしい譲れないこだわりだと。
本田:BTOパソコンはどうしても「スペックと価格」で勝負しがちで、そこでまずコストカットの対象になるのがマザーボードです。たとえばCPUやGPUが自動車、マザーボードが道路だとして、もしCPUやGPU、メモリが140km出せる高級車でも、マザーボードが60km制限の一般道だったら意味がないですよね?
SSDも同じです。速さを謳った製品は多いですが、映像業界では処理時間を含めて24時間365日に近いフル稼働状態で、膨大なデータの読み書きが尋常ではない回数発生します。そうすると、純粋に「瞬間速度」だけで製品を評価することは難しい。
以前、プロゲーマーの間で評判になっていたある高速SSDを導入したことがありますが、われわれの環境では1年も持たずに書き込み総回数の限界を超えてトラブルが頻発してしまいました。これでは3年の交換サイクルには届きません。
CGW:パーツメーカーまで指定するこだわりは、TSUKUMOさんだからこそ対応できたのでしょうか。
岡嶋大地氏(以下、岡嶋):TSUKUMOの岡嶋です。われわれはパーツ専門店という立場もあり、パーツの需給に関しては選択肢の幅が多いと自負しています。本田様からいただく「実用に即したお題」と、われわれが提案できる内容がうまくマッチしたのが、今回のコラボPCだと考えています。
ヤマダデンキ ツクモ商品部 商品企画課
旭プロダクションとのコラボレーションモデルにおいて、パーツ選定や構成の企画・設計を担当
本田:こうしたこだわりは、一般ユーザーには届きにくい部分かもしれません。ですが、旭プロダクションと同じようにシステム環境に悩む同業の担当者からは「あれはよく考えてくれている」「大変だったでしょう」と、非常に良い反応をいただきます。
TSUKUMOさんは、われわれの「こうしないと現場が戦えない」という熱意に応え、採算度外視で付き合ってくれている。パーツのラインナップも圧倒的で、得難いパートナーだと感じています。
故障率80%が導き出した3年サイクルという最適解
CGW:3年サイクルについて、もう少し詳しく伺わせてください。
本田:PCの法定耐用年数(減価償却期間)は4年ですし、長期運用すべきという風潮があるのは事実です。ですが、われわれの実データに基づくと、PCは3年を超えたあたりから障害が急激に増え始めます。
CGW:3年を超えると、具体的に何が起こるのでしょうか。
本田:まず、最も多いのがストレージの不良セクターの増大です。これはメーカーに関わらず、3年頃を目途に急増する印象です。ストレージに問題が起きると、当然ながら内部のデータ処理のバランスが崩れ、CPUやメモリにも過剰な負荷がかかり始めます。
特にCPUは、それ自体の劣化というよりも、冷却ファンの劣化やグリスの消耗、あるいは電源周りの不安定さによって本来の性能が維持できなくなり、結果としてマシン全体のパフォーマンスが著しく低下するのです。以前の運用では、導入から3年を超えたマシンのうち、年間の故障・メンテナンス発生率が80%を超えていた時期がありました。
CGW:80%!
本田:メーカー保証に期限が設定されているのは伊達ではなく、PCは「消耗品」なのだと強く感じるデータでした。そこで3年保証やリースの期間にも合わせられる3年の更新サイクルを導入したのですが、その結果、現在、年間の故障率はほぼゼロに近くなりました。具体的に言うと、(導入した240~250台のうち)年間1台か2台壊れるかどうか、です。
CGW:劇的な改善ですね。
本田:現場のクリエイターは作業が止まるという致命的な事態を避けられますし、我々システム班も、故障対応業務から解放されます。
PCが安定稼働していれば、システム班はネットワークやサーバの改善、あるいは新しいソフトウェアやAI、クラウド技術の調査・検証など、会社の利益を創出するための建設的な活動に時間を使えます。マシンが安定しているからこそ、私もこうしてインタビューを受けたり、情報収集のために外に出たりできるわけです。
“機械平等”で最大化するチームの生産性
CGW:先ほど、パーツメーカーまで指定されたとのお話がありましたが、CPUにAMD Ryzen™を選定した理由を教えてください。
本田:AMDのCPUはAMD Ryzen™にしろAMD Ryzen™ Threadripper™にしろ非常に安定していて、コアあたりの性能など、製品としてすごく「真っ直ぐ」なつくり方をされていると感じます。
少し現実的な話をすると、ソケット(CPUの規格)が頻繁に変わらない点が非常に重要です。CPUメーカーが規格を変えるとマザーボードを再設計しなければならず、コストが上がります。それについて、AMDさんは規格変更のサイクルが比較的長く、導入する企業側にとって優しい。
岡嶋:プラットフォームの継続性は重要です。マザーボードごと変えるのか、BIOSアップデートだけで新しいCPUが使えるのかでは、ユーザーの負担が大きく違います。単純なコストメリットもありますが、特に法人の場合、導入台数が多くなる分、マザーボードが変わることによる周辺機器の相性リスクが減るメリットも大きくなるので、同じプラットフォームを継続できるメリットは非常に大きいですね。
CGW:コラボPCの導入後、現場の反応はいかがですか?
本田:故障はほぼなく、非常に安定しています。ここ数年、アニメ業界では劇場版作品が増え、TVシリーズより明らかに処理が重くなっていますが、現場から不平不満が出ることはありません。
CGW:今回、用途別に5つのモデルをラインアップしています。
本田:例えば「撮影処理/VFX用途モデル(WA7A-C255XB/AP)」は、当社の肝である撮影部が使っています。そして重要なのは、撮影監督のようなエース級のベテランも、今年の4月に入った新入社員も、同じ部署の全員がまったく同じモデルを使っていることです。
CGW:新人にもハイスペック機を?
本田:そうです。考えてみてください。エースが最新機種でつくった高負荷のデータを、下のスタッフに「よろしくね」と渡した時、型落ちのPCだったなら、そのデータはまともに開きませんよ。
CGW:なるほど。
本田:そうなると、エースは「もういい、俺がやった方が早い」となって、エースは仕事を抱え込み、新人はチャンスを掴めずに成長が阻害される。われわれはチームで動くクリエイター集団です。機械は平等に、仕事は効率的に。同じ仕事をするなら同じスペックであるべき。これがチームで動くということだと考えています。
TSUKUMO「AMD×旭プロコラボPC」5モデルの構成意図
旭プロダクション アニメーション制作 撮影処理/VFX 使用スペックモデル WA7A-C255XB/AP
CGW:各モデルの構成意図について、具体的に教えてください。まず「撮影処理/VFX用途モデル(WA7A-C255XB/AP)」ですが、メモリが128GBと大容量です。
- CPU
AMD Ryzen™ 7 9700X
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5070
- メモリ
128GB(32GB×4)DDR5-5600 ※DDR5-3600認識
- SSD
1TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS ProArt X870E-CREATOR WIFI(ATX)
- OS
Windows 11 Pro
- 価格
439,800円(税込)
本田:メモリは作業速度を上げるものではなく、データの一時保存領域です。処理が重くなればなるほど、この一時的なデータを置く場所が大量に必要になります。また、一部のアプリケーションは終了後も一時保存領域が解放されず、PCを再起動しないとメモリが空かなかったりします。
さらに、Windows 11はOS自体が非常に多くのメモリを消費します。AI機能の搭載なども進み、OSが要求するリソースは増える一方です。こうした複合的な要因を考慮すると、撮影部門では128GBが必須、というのがわれわれの結論です。
旭プロダクション アニメーション制作 制作業務 使用スペックモデル WA5A-A255B/AP
CGW:最も安価な「制作業務用途モデル(WA5A-A255B/AP)」はいかがでしょう。
- CPU
AMD Ryzen™ 5 7600
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5050
- メモリ
32GB(16GB×2)DDR5-5600 ※DDR5-5200認識
- SSD
1TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS TUF GAMING B650-PLUS WIFI(ATX)
- OS
Windows 11 Pro
- 価格
209,800円(税込)
本田:これは、制作進行出身である私の“わがまま”を詰め込んだモデルです。制作進行は「管理業務だから」とスペックを軽視されがちで、10万円程度のPCをあてがわれることも珍しくありませんでした。
しかし、制作進行こそ、あらゆるデータを開けなければならないんです。作画データ、CGデータ、撮影データ、編集データ、その全てをチェックすることも彼らの仕事です。それなのに、低スペックPCでは1つのデータを開くのに3~4分待たされる。1日に何回もチェックが発生することを考えると、1日あたり平気で1時間ほどを待つことに浪費しているんです。その1時間があれば、もっと早く帰宅できるのに。
グラフィックボードの約5万円をケチった結果、社員が疲弊して貴重な時間を失うなんて、会社にとって大きな損失ですよ。なので、このモデルは、制作進行のストレスをなくし、時間を捻出するためにつくりました。
旭プロダクション アニメーション制作 デジタル作画 使用スペックモデル WA7A-B255XB/AP
CGW:「デジタル作画用途モデル(WA7A-B255XB/AP)」もメモリ128GBですね。
- CPU
AMD Ryzen™ 7 7700
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5060 Ti
- メモリ
128GB(32GB×4)DDR5-5600 ※DDR5-3600認識
- SSD
1TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS ProArt X870E-CREATOR WIFI(ATX)
- OS
Windows 11 Pro
- 価格
359,800円(税込)
本田:CLIP STUDIO PAINTやRETAS STUDIOといった作画ソフト単体で見れば、過剰スペックに見えるかもしれません。ですが、作画スタッフは資料として複数のウィンドウを開いたり、Photoshopを併用したり、最近ではレイアウト補助にBlenderを使い始める人も増えていますし、もはやこれらを同時・複数展開している方のほうが多いくらいじゃないでしょうか。
そして何より、作画は1枚もしくは1カットいくらの世界なので、スタッフの手がめちゃくちゃ速いんです。PCの処理が追いつかず手が止まってしまうと、それは彼らの収入に直結します。ストレスなく、そのスピードをPCが受け止めきるために、このスペックが必要なんです。
旭プロダクション アニメーション制作 3DCG制作 使用スペックモデル WA9A-D255XBH/AP
CGW:「3DCG制作用途モデル(WA9A-D255XBH/APA)」についてはいかがでしょう。撮影モデルよりCPU性能(AMD Ryzen 9 9900X)が高い一方、GPUは撮影モデル(RTX 5070 Ti)と同じです。
- CPU
AMD Ryzen™ 9 9900X
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5070Ti
- メモリ
128GB(32GB×4)DDR5-5600 ※DDR5-3600認識
- SSD
1TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)+1TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS ProArt X870E-CREATOR WIFI(ATX)
- OS
Windows 11 Pro
- 価格
529,800円(税込)
本田:ここが一般の方とプロの現場で認識がズレやすい点です。3DCGというとGPUが重要だと思われがちですが、それはゲームをプレイしている時のように「リアルタイムで演算結果を表示し続ける」場合です。
我々がやっているのは、その元データをつくる作業です。モデルを構築している最中は、数値データの演算、つまりCPUパワーが最も重要になります。もちろん、最終的な描画やチェックにはGPUも必要ですが、作業の核はCPU。だからこのバランスになっています。
旭プロダクション アニメーション制作特注機 VFX/レンダリング 使用スペックモデル WE9A-E255WBH/AP
CGW:最上位の「VFX/レンダリング用途モデル(WE9A-E255WBH/AP)」はRyzen Threadripper 9970Xを搭載しています。
- CPU
AMD Ryzen™ Threadripper™ 9970X
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5090
- メモリ
256GB(64GB×4)DDR5-5600 ECC Registered
- SSD
2TB(M.2規格/NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS Pro WS TRX50-SAGE WIFI(E-ATX)
- OS
Windows 11 Pro
- 価格
1,699,800 円(税込)
本田:これは本当の“バケモノ”です。一部のトップクリエイターが使う特注機でもありますが、主に最終レンダリング用のサーバとして5台稼働しています。AMDさんの研究結果にもある通り、Ryzen ThreadripperはシミュレーションやレンダリングのようなCGの特に重い処理に爆発的な効果を発揮します。われわれの実験では、これまで6時間かかっていたレンダリングがわずか10分で終わりました。
CGW:6時間が10分に!
本田:以前はレンダリング用に89万円のPCを10台並べていました。それが今や、このモデル5台で(当時より安価に)置き換えられています。しかも、Ryzen Threadripperはコア数が多いので、1台で4台分(8コア×4)の仕事を並行処理させることも可能です。5台で20台分のマシン群があるとも言えます。
これは、トップクリエイターが早く帰れたり、よりこだわり抜いた作業を行えるだけでなく、“企業が儲かる”モデルです。投資額を抑え、台数を減らし、生産性は倍以上になる。この価値には早く気付いてほしいですね。
CGW:ほぼ全てのモデルにマザーボード”ASUS ProArt”シリーズを指定している理由は?
本田:高価なモデルなのですが、10ギガビット・イーサネットのポートが標準搭載されている。それが絶対に譲れない理由です。
CGW:ネットワークの速度ですね。
本田:はい。一般のご家庭を前提とするとイーサネットポート=インターネット(外線)の速度という認識が多いかと思うのですが、会社ではほぼ確実に社内ネットワークを経由することになります。
データ容量が増え続ける中、社内のネットワークが旧来の1ギガビットのままでは、そこがボトルネックになります。先ほどの自動車と道路の例でいえば、データは「車」、マザーボードは「道路」、そしてネットワークポートは「料金所」です。1ギガビットは毎回停止して精算する料金所、10ギガビットはETCです。このProArtシリーズは、標準でETCを搭載している、数少ないマザーボードなんです。
岡嶋:弊社BTOパソコンの採用基準を満たし、かつオンボードで10ギガビットが使えるマザーボードは本当に選択肢がありません。後から拡張カードを挿す方法もありますが、PC内部のエアフローを阻害したり、パーツ点数が増えることで故障リスクが上がったりします。オンボードであることで、バランスを崩さず安定した高速通信が可能になります。
本田:ProArtを導入した結果、サーバとのデータ転送が劇的に速くなり、あらゆるデータがストレスなく「パカパカ開く」ようになりました。
「コスト」を「費用」だけで見るのはもうやめよう
CGW:このコラボモデルを通じて伝えたいメッセージをお願いします。
本田:皆さん、「コスト」を「費用」だけで見るのはもうやめませんか。コストには、金銭だけでなく、時間・精神・頭脳という、見えないコストが含まれています。PCが重いせいで「待たされる時間」。思うように動かないことで溜まる「精神的ストレス」。やりたい表現を諦めて別の手段を考える「頭脳の無駄遣い」。これら全てが、金銭以上に重いコストとして会社や個人にのしかかっています。
PCのスペックが足りないのは、昔のインターネットで画像が少しずつ表示されていた、あのストレスと同じです。あのストレスを抱えながら仕事をするのか、それとも一瞬で表示させて次の創造的な作業に進むのか。答えは明らかです。トータルコストで物事を考えましょう。
また、最初に言った通り「自然とデータ量は増大していくフェーズ」に我々は立たされています。画像生成だけがAIではありませんから、アニメ制作の現場にも何かしらの形でAIは関わってくるでしょう。そうすると、今後AIの活性化により、データ量の増大はさらに加速することになる。
データ量の増大=処理の増大です。
処理が増大していくということは、PCの更新サイクルやスペックがどんどん重要になっていくということです。
なので適切な更新サイクル・適切なPCスペックで仕事をして、時間・精神・頭脳・お金のトータルコストで安くしましょう。そうしてうまれた時間で「イかした仕事」をしましょう!
岡嶋:われわれのモデルは、そのこだわりのぶんだけ少し高価ですが、そこには本田様がおっしゃった「3年間の安定性」や「安心感」が含まれています。工夫して処理を軽くする時間に頭脳を使うより、新しいアイデアを次々に試すことに時間を使っていただいた方が、クリエイターにとっても業界にとってもポジティブなはずです。
本田様のように、業界とPCリテラシーの両方に精通した方が監修してくださっているモデルは、他にはないと自負しています。PC選定に困っている管理者の方やクリエイターの皆様の助けになれれば幸いです。
CGW:その通りですね。本日はアニメ制作の最前線の課題と、それに対する具体的な解決策を、非常にロジカルにお話しいただきました。ありがとうございました。
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_大沼洋平
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)