スター・ウォーズ:ビジョンズ『The Duel』メイキング[前篇]黒澤映画と『スター・ウォーズ』を組み合わせ、斬新な世界観を構築
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『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977/以降、『EP4』)のキャラクターや脚本が黒澤 明監督の『隠し砦の三悪人』(1958)を下敷きにしていることは、映画ファンの間では周知の逸話だ。約13分のCGアニメーションの中に、黒澤監督とジョージ・ルーカス監督への尊敬やユーモアを凝縮した『The Duel』。その舞台裏を、中核スタッフに語ってもらった。なお、本記事は前後篇に分けてお届けする。
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※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.279(2021年11月号)掲載の「黒澤映画と『スター・ウォーズ』への尊敬と共に、全力で遊んだ スター・ウォーズ ビジョンズ『The Duel』」を再編集したものです。
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1950〜60年代の黒澤映画と『EP4』の世界観が交差する映像
『The Duel』総監督の水﨑淳平氏(神風動画代表取締役)が、「やばくないですか? 『スター・ウォーズ』(以降、『SW』)の企画ですよ」と岡崎能士氏(漫画家・イラストレーター)に参加を打診したのは、2019年の末だった。「それ以降、頭の中には常に本作がありました。ただ、『SW』をつくれる! と思うと、変にテンパっちゃって、何をどう描けばいいのかわからなくなったんです。それで妻に相談したら “こういうことじゃないの?” って言いながら、浪人笠をかぶったドロイドを描いてくれました。その絵のおかげで、いつも通りの自分を取り戻せて、筆が進むようになりました」(岡崎氏)。自他共に認める『SW』ファンの岡崎氏は、ローニン、R5-D56、落ちトルーパーなどのキャラクターを皮切りに、カサセーバー、カゴ・カーゴ、トーノ茶屋など、多彩なデザインを提案していった。「水﨑さんも、監督の水野(貴信)さんも、僕の提案のほとんどを盛り込んでくれたので、恵まれていましたね。“『SW』で遊ぼうぜ!” みたいな感じの、すごく楽しいムードでした」(岡崎氏)。
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本作の制作が正式決定したのは2020年4月で、水野氏やアニメーションSVの中島悠喜氏のディレクションの下、社内外合わせて約60名のスタッフによって全257カットがつくられた。レイアウトから完成までに要した期間は約10ヶ月におよんでいる。「完成映像を見ながら、“やり過ぎじゃないですか?” って思いました。デジタルリマスター前の、VHS版の黒澤映画をわざわざ再現してて、“ここまでするんだ” とびっくりしましたね」(岡崎氏)。本作では、1950〜60年代の黒澤映画らしい泥臭さ、レイアウト、風を使った演出などの再現にこだわる一方で、『EP4』時代の『SW』らしさにもこだわっている。さらに『エピソード1/ファントム・メナス』(1999/以降、『EP1』)などへのオマージュを込めた演出まで入っている。以降では、そのこだわりを紐解いていこう。
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神風動画
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『EP4』のDIY精神みたいなものも再現したかった
ルーカスフィルムからの提案を受け、岡崎氏と神風動画は『SW』を題材とした短編アニメーションの企画を2案提出し、『The Duel』の方が採用された。その過程で、岡崎氏は『SW』関連の古い玩具・フィギュア・本などをオークションサイトでドンドン購入していった。「すでにそれなりの数をもっていましたが、買うのを躊躇していたものもあったんです。でも “『SW』をつくるなら、やっぱり必要だ” と思い直して買い足しました」(岡崎氏)。
『EP4』の制作当時、作中に登場するミレニアム・ファルコンなどのメカはミニチュアを使ったSFXで表現されており、表面のディテールは既存のプラモデルの部品を貼り付けることで造形されていた。ちなみに、当時のアメリカではタミヤ、ハセガワ、バンダイなどの日本製プラモデルの評判が高く、『EP4』でも多用されている。「本作のキャラクターには、OLD KENNERやタカラ(現、タカラトミー)などから発売された『SW』の古い玩具のデザインを採り入れています。既存の玩具を組み合わせ、新しくて面白いものをつくった『EP4』のDIY精神みたいなものも再現したかったんです」(岡崎氏)。
さらに『七人の侍』(1954)、『用心棒』(1961)などの衣装・小道具・セットのデザインもミックスすることで、本作独自の斬新な世界観が構築された。なお、本作は基本的にモノクロで表現されているが、ライトセーバーや電灯には色が付いている。このような画づくりは、『天国と地獄』(1963)の煙突から桃色の煙が出るシーンを彷彿とさせる。
キャラクターのデザイン
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ライトセーバーのデザイン
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ストーリーボードとVコンテの作成
水野氏が合流したのは2020年の春頃で、キャラクターデザインと脚本はある程度仕上がっていた。「ライトセーバーのアクションが入るのは間違いなかったので、まず中島さんに声をかけ、アクションパートを担当してもらうことにしました」(水野氏)。その後、デザイナーの桟敷大祐氏と中島氏がストーリーボードを分担して描き、それを基に字コンテとVコンテがつくられた。
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落ちトルーパーとモブトルーパーの作成
本作のキャラクターデザインが本格始動した後、岡崎氏が最初に描いたのが落ちトルーパーだった。「描きたいものから描いていきました。6体の落ちトルーパーのモデルは、『七人の侍』の野武士たちです。全員バラバラの装備の寄せ集め集団で、中には素肌の上に胴や草摺(下半身の装備)だけを着けている野武士もいました。量産型ではない、個性豊かな群衆を描くのが、黒澤映画の魅力のひとつです。その良さを本作にも採り入れたいと思いました」(岡崎氏)。
例えば、落ちトルーパーAの装備は、ヘルメットはストームトルーパー、ゴーグルはクローン・トルーパー、胴はスノートルーパーのもので、まさに寄せ集めだ。そんな落ちトルーパーのことを、水野氏は「特に好きなんです」と語った。「量産型でないってことは、モデリングにもアニメーションにも工数がかかるんですが、“これは楽しそうだ。つくりたい、動かしたい” という気持ちが先立ちました」(水野氏)。村を制圧するトルーパーは6体では足りなかったため、追加のモブトルーパーをつくるフローも考案され、画面に彩りを添えた。
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タスケン・レイダーのデザインと演出
そんなトルーパーを相手に村を守ろうと奮闘する5人の用心棒は、タスケン・レイダー、グラン、ダグなど、『SW』でお馴染みのキャラクターがベースになっている。そのデザインや演出には『SW』ファンとしての岡崎氏のこだわりが詰まっており、神風動画はそれを最大限に活かすことに注力したという。「岡崎さんが喜ぶ映像をつくれば、全世界の『SW』ファンも絶対に喜んでくれると、水﨑が常々語っていました。あちこちのカットにネタを仕込んであるので、楽しんでいただけると思います」(水野氏)。
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どうやって黒澤的なアナログ感を出すかが、一番の課題だった
水野氏は、岡崎氏の手描きのタッチと、フィルムのアナログ感の再現にもこだわっており、LightWave(以降、LW)とAfter Effects(以降、AE)を駆使して独自のルックを開発した。「どうやって黒澤的なアナログ感を出すかが、一番の課題でした。『The Last Piece』(2009)という作品をつくって以降、工数を抑えつつ、CGに手描きの温かさを加えるための研究を続けてきました。岡崎さんや中島さんとご一緒した『SOUND & FURY』のMV『Remember To Breathe』(2019)はその一環でしたし、本作のルックもその進化形として開発しました」(水野氏)。
ローニンの3Dモデル作成
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手描きのハッチング素材を使い、独自のルックを開発
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フィルムノイズの表現
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月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.279(2021年11月号)
特集:LEDウォール型バーチャルプロダクション
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年10月8日
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota