スター・ウォーズ:ビジョンズ『The Duel』メイキング[後篇]黒澤映画と『スター・ウォーズ』への尊敬と共に、全力で遊んだ
『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977/以降、『EP4』)のキャラクターや脚本が黒澤 明監督の『隠し砦の三悪人』(1958)を下敷きにしていることは、映画ファンの間では周知の逸話だ。約13分のCGアニメーションの中に、黒澤監督とジョージ・ルーカス監督への尊敬やユーモアを凝縮した『The Duel』。その舞台裏を、中核スタッフに語ってもらった。なお、本記事は前後篇に分けてお届けする。
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※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.279(2021年11月号)掲載の「黒澤映画と『スター・ウォーズ』への尊敬と共に、全力で遊んだ スター・ウォーズ ビジョンズ『The Duel』」を再編集したものです。
AT-ATの胴体を駕籠(かご)に見立てたカゴ・カーゴ
岡崎氏のこだわりはキャラクター以外のデザインにも発揮されている。AT-ATの胴体を駕籠(かご)に見立てたカゴ・カーゴはその好例だ。「打ち合わせの席で水﨑さんが “何か乗り物もほしいですね。時代劇だから、駕籠がいいんじゃないですか?” と提案してきたので、“AT-ATの胴体に棒を付けたら駕籠になりますね!” と返しました」(岡崎氏)。
カゴ・カーゴの作成
トーノ茶屋と人家のデザイン
さらに美術の方向性も、岡崎氏によるトーノ茶屋のデザイン画を基に詰められた。「黒澤映画のロケーションに、『SW』の要素をどの程度足せばいいのか、バランスの見極めに苦労しました。日本の昔の家や村を描ける人は多いですが、そこに『SW』感を足せる人は限られていたので、岡崎さんや桟敷さんなど、40代以上の『SW』ファンに頼ることが多かったですね」(水野氏)。
LightWave上で地形をデザインし、レイアウトや美術用の原図にも活用
脚本の完成後、桟敷氏と中島氏がストーリーボードを描くのと並行して、水野氏は地形のデザインも進めた。本作は約13分という短い尺の中に、様々なロケーションが登場する。「どういう地形であれば滞りなくストーリーが進行するか、Googleマップで日本各地を旅しながら考えました」(水野氏)。検討の結果、白川郷(岐阜県)の地形をLW上に再現し、ストーリーのながれに合わせた調整をかけることになった。「高台から白川郷を見下ろした感じが、トーノ茶屋から村を見下ろしたときのイメージに近かったんです。茶屋と村の中央広場の位置関係は、LW内のカメラで何度も確認しながら調整しました。そうして出来上がった地形データは、Vコンテ、レイアウト、美術用の設定や原図など、様々な用途で活用しています」(水野氏)。
白川郷の地形を、ストーリーのながれに合わせて調整
中央広場のショットのレイアウト
前述したように、本作はフィルムのアナログ感の再現にもこだわっているため、美術は全てアナログ作画で表現されている。「今回の美術は、アナログの塗りの上に、先行でデジタル化された原図の線を重ねてあります。筆のタッチが本作の世界観にマッチしていて、最初の美術が届いたときには現場が盛り上がりました。アナログ作画は、絵の具が乾くと紙が少し縮むらしいんですが、その縮みまで考慮して描かれているので、原図の線とのズレはほとんどありません」(水野氏)。
実写のような生々しさを優先したアニメーション
アニメーションのディレクションは水野氏と中島氏が分担しており、水野氏は日常芝居、中島氏はアクションを担当した。アニメーターは10人で、その中の3人が、モブ専任として村人とモブトルーパーの動きを担当した。「モブは新人に担当してもらいましたが、ユニークで味のある動きを付けてくれました」(水野氏)。
なお、中島氏は約30ショットの制作も自ら担当しており、トーノ茶屋で一服するローニンのショット、少年村長を威嚇するトルーパーDのショットなど、日常芝居もいくつか手がけている。「トーノ茶屋のローニンのショットは、視線や身体の動かし方を最後の最後まで調整していました。本作では、アニメ的な誇張表現ではなく、実写のような生々しさや泥臭さを優先しており、バランスを取るのが難しかったです」(中島氏)。
トーノ茶屋で一服するローニンのショット
少年村長を威嚇するトルーパーDのショット
少年村長とトーノ茶屋の店主のショット
風の音、砂塵の巻き上がり方でストーリーを演出
アクションパートでも、ボスとローニンが斬り合う前のジリジリとしたにらみ合いのショットに尺を割くなどして、抑えた芝居を追求している。「黒澤映画は、ここぞというシーンでは音楽をながさず、役者に語らせず、風のながれや雨の音でストーリーを伝えます。本作でも、にらみ合いのシーンは風の音だけをながし、砂塵の巻き上がり方、旗のなびき方、着物の揺れ方などでストーリーを演出しました」(水野氏)。例えば、ボスが優位なうちはボスが風上に立ち、ローニンが優位になると風向きが変わるといった演出が施されているという。
ボスとローニンが中央広場でにらみ合うショット
ボスとローニンが川の上で斬り合うショット
本作の制作をふり返り、岡崎氏は「最高でした!」と満面の笑みで答えてくれた。「『SW』をつくれるだけでもすごいのに、僕の想像をはるかに超える内容に仕上げてもらえました。“ものをつくるって、こういうことだよな” と改めて思いましたね。全世界の視聴者にも、僕と同じように楽しんでもらえればと願っています。それから、本作の続編をつくりたいです。ローニンの行く末が気になるし、R5-D56の竹槍アクションが見たいです!!」(岡崎氏)。
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月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.279(2021年11月号)
特集:LEDウォール型バーチャルプロダクション
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年10月8日
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)