3DCGもYouTube動画もノートPCだけで制作可能、海外で活躍するCGモデラー前東氏が明かす制作環境や効率アップの秘訣とは?
人気の大作映画に参加するなど、海外で活躍する日本人CGクリエイターが増えている昨今。彼らのように海外で活動することを夢見る学生や若きCGクリエイターも少なくないだろう。しかし、いざ挑戦するあたって一体どうすればいいのか、あるいはどんなPCが必要になるのか、いろいろと気になることも多いはずだ。
そこで今回は、『ファンタスティックビーストとダンブルドアの秘密』(2022)や『ホークアイ』(2021)に携わるなど、実際に海外で活躍しているCGモデラーの前東勇次氏に登場いただき、これまでの経緯や現在の環境、CG制作のポイントなどを紹介。さらに、同氏が自主制作やYouTube用の動画制作などで活用しているマウスコンピューター製ノートPC「DAIV」の選定理由や、その使い勝手なども聞いた。
3年の実務を経て海外へ移住、ルームシェアの大部屋で活動中
CGWORLD(以下、CGW):最初に、CG制作に関連したこれまでの経歴を簡単に教えてください。
前東勇次氏(以下、前東):まず、18歳で九州デザイナー学院に入学して2年間CGを勉強し、卒業後はModelingCafeの福岡支社に就職。そこで、さまざまなCGのモデリングやテクスチャリングを手掛け、3年間ほど働きました。その後、2019年にカナダのバンクーバーに移住。半年ほどフリーランスで活動しながら就職活動も行い、2020年からトロントの映画製作会社MarzVFXでアセットアーティストとしてハリウッド映画やドラマの制作に携わりました。そして2021年に再びバンクーバーに戻り、現在はVFX制作会社Image Engineで働いている、というのが大まかな流れです。
CGW:YouTubeはいつ頃からスタートしたのでしょうか?
前東:元々、トロントへ引っ越す少し前ぐらいから「YouTubeをやろう」と考えていたので、トロントに来てからスタートさせました。ただ、そこからすぐにコロナ禍の影響で外出が難しくなったので、幸か不幸か、トロントにいた頃は家から一歩も出ずにYouTubeへ情熱をささげることが出来ました。おかげで、トロントにはあまり楽しい思い出がないです(笑)。
CGW:確かにそれは、何ともいえないタイミングでしたね。では、プライベートも含めて、現在はどういった生活リズムでしょうか。
前東:平日は9時から18時までが仕事で、現在は自宅からのリモートワークとなっています。また、仕事が終わった後はプライベートの時間となりますが、最近は友人からのやや強引な勧誘もあり、1日おきにジムへ行って筋トレをするなど、ボディメイクにハマっています。
一方で、ジムへ行かない日はYouTubeの収録をしたり、少しだけ仕事をしたりしている感じです。また、休日はYouTubeの作業時間をしっかり取れるチャンスではありますが、友人や恋人からのお誘いもありますので、そのあたりは臨機応変に対応するといったところでしょうか。そんな状況ですから、平日の空き時間と休日を使い、何とか週1でYouTubeの動画を1本上げられるように頑張っている感じです(汗)。
CGW:なかなか慌ただしい日々を送っていることがうかがえます。そういった状況にあって、作業環境はどういった感じなのでしょうか?
前東:仕事もYouTube関連の作業もすべて自室でやっています。ただ、カナダでは安く住む方法としてルームシェアが非常にポピュラーとなっており、自分も現在は広いマンションの1室をルームメイトと2人でシェアしている状況です。
ちなみに、ルームシェアができる賃貸の情報はネット上で簡単に見つけられますし、ルームメイトの募集情報もFacebookのMarketplaceなどにあるので、ルームシェア自体はそれほど難しくはありません。ただ、部屋の状況やルームメイトの性格などは実際に住んでみないとわからない部分もあるので、上手くいくかは意外と運次第な面もあったりなかったり・・・。幸い、自分がいま住んでいるところは部屋もルームメイトも良好なので、とても助かっています。
前東勇次 氏
ModelingCafeの福岡支社で背景モデラーとしての実績を積み、2019年にカナダへ移住。現在は、カナダのVFX制作会社Image Engineでハードサーフェスモデラーとして活動する。また、自身のYouTubeチャンネル「HigaCGチャンネル」を開設し、CG制作のチュートリアルなどを公開している。
YouTube「HigaCGチャンネル」
Twitter:@TsUg3275
さまざまな作業で意識するのは「大から小へ」という流れ
CGW:次に、YouTubeチャンネルの動画制作について教えてください。
前東:行程として、まずは「何を伝えたいか」というテーマを決めます。そこから、そのテーマを解説するために「どんなソフトや素材を使うべきか」「どういった手順で説明するべきか」などを考え、構成が出来上がったら動画撮影に移ります。ただし、自分は台本を作るのが苦手なので、撮影は基本的にぶっつけ本番。そのため、上手くしゃべれなかったり順番を変えたくなったりした場合は、再撮することになります。撮影が終わったら編集作業や字幕・音声の追加などを行い、最後にアップロードするまでが全体の行程となります。なお、制作時間はコンテンツによって異なりますが、最低でも10時間はかかっている印象ですね。
CGW:撮影から編集までのすべて自分でやっているのはすごいと思いますが、ネタの選定ポイントは何でしょうか?
前東:自分のYouTubeチャンネルは、基本的に「0からCGを学習する人」向けになっているので、「学生が必要としている知識や、いち早く取り入れると得になるようなソフトから取り上げるべき」という意識は最初から持っています。だから、例えばソフトであれば、MayaやSubstance Painterをメインでやるというのは、最初から決めていました。
ただ、スタート当初は絶対にチャンネルの登録者数が伸びないので、まずは自分のメリットになることを優先。実務で登場する機会が少ないMarvelous Designerをあえて取り上げ、自分が勉強していくうえでの“メモ代わり”としてYouTubeを活用しました。そしてその後、チャンネルの登録者数が増えてきたら「もっとも需要が高いMayaを取り上げる」という流れにしました。
CGW:忙しいなかでYouTubeチャンネルを続けていくことは大変なことだと思います。継続するためのモチベーションは何ですか?
前東:1つは、やはり視聴者から寄せられる「コメント」です。これを見ると「ちゃんと見てくれている」や「楽しみにしている人がいる」といったことを意識できる点は大きいです。
それともう1つ、ダイレクトメッセージ(DM)もそうですね。例えば、先日「CGWORLD JAM ONLINE 2022」に参加させていただきましたが、そこで共演した若手のCGクリエイターから、イベント終了後にとても情熱的なDMをいただきました。正直、YouTubeチャンネルは大変で金銭的にも稼げているとは言い難いですが、そういったコメントやDMをもらったら「これは止められないな」と感じてしまいます。それぐらい直接的なモチベーションになっていますね。
CGW:ファンからのコメントやメッセージが、大きな活力になっているわけですね。では、CG制作の効率を上げるためにやっていることなどはありますか?
前東:これは特別なテクニックなどではなく“考え方”なのですが、「大きいものから小さいものへ」という流れを意識しています。例えばこれは、モデリングであれば「まずは大きいシルエットから作っていき、そこから小さいシルエットやディテールを詰めていく」といった感じです。モデリングに限らずテクスチャリングの作業もそうですし、YouTubeチャンネルの解説や企画の立案なども含めて、これは“全てに当てはまる”と自分は思って意識しています。
日本の学生は想像するよりもハイレベル、海外への挑戦に臆することはない!
CGW:現在はマウスコンピューター製のノートPC「DAIV」を愛用しているとのことですが、そのモデルを選んだ経緯は?
前東:そもそも自分はPCに関する知識がほとんどないので、カナダへ持っていくPCも「何を買えばいいのか」とかなり悩んでいました。そこで、ModelingCafeの福岡支社にいたPCに詳しいスタッフに相談したところ、さまざまなメーカーのPCを比較検討し、性能と価格のバランスが自分にピッタリなモデルを選んでくれました。そのモデルこそが、マウスコンピューターのノートPC「DAIV」だったわけです。
CGW:高性能なCore i7のCPUや32GBのメモリ、さらにはSSDやGPUまでを搭載し、セールながらも16万円というリーズナブルな価格。かなりコストパフォーマンスに優れていますよね。
前東:引っ越しや海外での生活を考えると、価格が安いに越したことはありません。ただ、それでいてCGクリエイターが必要とする性能をしっかり備えている点はとても驚きでした。他メーカーと比べても、この価格でこの性能は備えたモデルはさすがになかっただけに、このPCを選んでくれたスタッフには本当に感謝です。
CGW:デスクトップPCではなく、あえてノートPCを選んだ理由は?
前東:自分の理想として、カナダには「スーツケースとリュックサックのみで引っ越したい」という思いがありました。なぜなら、引っ越し業者に頼むと費用がかさみますし、大荷物を送ると海外ではちゃんと届かないケースもあり得るからです。さらに言えば、これまでのバンクーバーやトロントへの引っ越しでも同じスタイルで済ませてきましたが、それが実現できたのも、ひとえに“ノートPCだったから”というのは間違いありません。
また、身の回りがモノであふれてしまうのも、個人的に好みではありません。そのため、デスクトップPCに引けを取らない性能を備えているのであれば、コンパクトで持ち運びも可能なノートPCの方が「メリットは大きい」と感じたわけです。
CGW:まさに“機動性”を重視したわけですね。では、自主制作やYouTube用の動画制作などを踏まえたうえで、性能や使い勝手はどうでしょうか。
前東:3DCGの制作ではMayaやSubstance Painterを、YouTube用の動画編集などではPremiere ProやAfter Effectsを使用していますが、性能面でとくに大きな不満はなく、普通に使えている印象です。また、レンダリングにはArnoldを使っていますが、ノートPCなので処理スピードはさすがに高速とは言いきれない部分もあります。ただ、負荷のかかるレンダリングは寝ている間に処理させればいいので、実用面での問題はなく困ったこともありません。
そのほか、Substance Painterで表示解像度を4Kに上げたりするとかなりの負荷がかかりますが、自分の場合はそこまで細かいディテールを見ながら制作することはないので、この点もあまり気になっていません。あと、サイズの大きいテクスチャーを書き出すときも負荷はかかりますが、モデリングなどに関しては何千万ポリゴンの背景CGを作るぐらいのデータ量にならないとカク付くことはないです。
これに加えて、Premiere Proでも例えば2時間の動画ファイルをそのまま編集すると数秒のラグが発生するケースもあります。しかしこれも、動画サイズを30分などに分割して作業すれば問題ないので、要は知恵と工夫次第だと思いますね。
CGW:PCにはあまり詳しくないとのことでしたが、これまでの経験から、初心者がPCを選ぶ際に最低限押さえるべきポイントは何だと思いますか?
前東:一番必要だと感じているのは「メモリ容量」です。自分も今回のノートPCを購入してわかったのですが、CG制作ではさまざまなソフトを使うので、メモリ容量は多いに越したことはないでしょう。32GBでも厳しいと感じるケースがあるだけに、16GBだともっと厳しくなるはず。それだけに「最低でも32GBあれば安心」という印象ですね。
あと、CPUももちろん高性能な方が良いでしょうし、SSDもあるとストレスが減るので有効です。優先度をつけるなら、メモリ→CPU→SSDといった感じですね。
CGW:最後に、CGを学びたいと思っている人、あるいはいままさに学んでいる人へのメッセージをお願いします。
前東:CGクリエイターとして海外で働くことに対して“夢のまた夢”みたいに思っている人がいるかもしれませんが、実際に来てみると「それほどでもないかな」と実感しています。皆さんが思っている以上に日本の学生のレベルは高いですし、カナダではむしろ「日本の学生以下のレベルで働いているケースもざらにある」からです。
そもそも、日本の学生はモデリングからテクスチャリング、ライティング、画づくりまで、全てを1人でこなして作品を制作しますし、すごい人であればアニメーションまで手掛けるほどです。しかし、海外で実際に働いてわかったのですが、外国人は“モデリングだけしかできない”という人もたくさんいます。だから、全てをやることが当たり前になっている日本人のクオリティは“かなり高い”ということも知ってほしいですね。
そういった意味では、もし海外で働きたいと思っているのであれば、臆することはまったくありません。一歩を踏み出す勇気さえあれば、意外と手の届くところに可能性はあるので、CG制作を楽しみながらそこを目指してください。
※なお、マウスコンピューター製品の海外でのご利用は保証対象外となっております。各国での電圧や電源対応についてはお客様ご自身でお調べのうえ、自己責任での使用をお願いいたします。
検証したノートPC「DAIV」の機材構成とポイント
カナダへ旅立つ前の2019年春に前東氏が購入したノートPC「DAIV」は、15.6型のフルHD液晶ディスプレイを搭載するノートPC。デスクトップ向けのインテルCPU「インテル Core i7-9700 プロセッサー」を採用したモデルで、高性能ではないもののノートPC向けのエントリークラスGPU「GeForce MX250」も備えるなど、クリエイターを意識した構成が魅力だ。さらに、メモリは32GBと大容量でストレージもSSD+HDDのデュアル構成となっており、総合的に見ても高いスペックを兼ね備えている。
しかも、そこまでのスペックを備えていながら、(前東氏いわくセールだったとはいえ)16万円という価格はかなりリーズナブル。コストパフォーマンスの面でも非常に優秀といえる。
ノートPC「DAIV」
- 価格
約16万円(税込)
- CPU
インテル Core i7-9700 プロセッサー(8コア / 8スレッド / 3.00GHz / TB時最大4.70GHz / 12MBキャッシュ)
- GPU
GeForce MX250
- メモリ
32GB
- ストレージ
512GB SSD+2TB HDD
- OS
Windows 10 Home 64bit
- ディスプレイ
15.6型フルHD液晶
- 重量
2.3kg
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6833-1041(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6833-1010(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)