デジタル造形を駆使して、これまでにないクリエイティブな制作にチャレンジしている中西宏彰氏。イマジネーションを具現化する制作活動には、どのようなスペックのPCが求められるのか。新たなクリーチャーを生み出す工程やこだわりを聞くとともに、マウスコンピューターのクリエイター向けPC「DAIV Z7」を検証してもらい、率直な印象を語ってもらった。
人気ゲームを手掛けるもモノづくりのために独立
CGWORLD(以下、CGW):初めに、これまでのキャリアについて簡単に教えてください。
中西宏彰氏(以下、中西):子どもの頃から仮面ライダーをはじめとした特撮モノが大好きで、将来的に「そういった方面でのデザインに携わりたい」と考えて大阪芸術大学のキャラクター造形学科に入学しました。ただ、自分にとって大きかったのは、大学で「特殊メイク研究会」というサークルに入ったこと。特殊造形や特殊メイク、着ぐるみを造ったりするサークルだったのですが、ここで粘土造形に初めて触れたことが、クリーチャーデザインを志すきっかけとなりました。
CGW:特殊メイク研究会との出会いが、まさに人生の転機だったとわけですね。
中西:ここで粘土造形を始めていなかったら「いまの自分はない」と言い切れるぐらい、大きな影響がありました。さらに、そこからサークル活動の一環として、ガレージキット(※大量生産のプラモデルとは異なる少数生産の手作り模型)の一大イベント「ワンダーフェスティバル」に参加することになり、オリジナル作品としてのガレージキットを制作するようになりました。多くの人に自分の作品を見てもらえることが意外と快感で、その感覚がいまもモチベーションの1つになっています。
CGW:大学卒業後はゲーム会社のカプコンに入社するわけですが、どういった経緯があったのでしょうか。
中西:自分のスキルなどを踏まえて、就職活動の候補の1つに「ゲーム会社」を考えました。ただ、ゲーム会社に行きたいのであれば「何らかのDCCツールに触れておくべきだ」と感じていたのですが、そんなときに当時のサークルの先輩から「デジタル造形も面白いぞ」と勧められたのが「ZBrush」でした。それをきっかけに、大学3年の秋ごろからZBrushをやり始めたのですが、それが功を奏したのか、翌年の春にカプコンから内定をもらえたという感じです。
CGW:カプコンではどんな立場で、どんな作品に関わったのでしょうか。
中西:業種としては、CGアーティストとしてキャラクターなどのモデルを制作するとともに、外注したモデルの品質管理などにも携わっていました。また作品としては、入社1年目の早い段階で大人気シリーズの新作『デビル メイ クライ 5』に参加。当時のリーダーが自分の能力をある程度認めてくれていたので、いきなり主人公ダンテが魔人化した際のモデリングを担当させてもらえたりしました。ただ、これについてはさすがにかなり苦戦したのを覚えています(汗)。もっとも、デビル メイ クライ(DMC)シリーズは中学生の頃から大好きなタイトルで、入社当初から「DMCでクリーチャーデザインをやりたい」と言っていただけに、1年目でその夢が叶ったという点では、とても運が良かったと言えるでしょう。
DMC5の後は、サポート的に『深世界』や『バイオハザード RE:3』といったタイトルの背景アセット制作を手掛けたりしました。また、独立する直前までは、現在開発中の最新作『ドラゴンズドグマ 2』に参加していました。
CGW:人気タイトルの重要パートや責任ある立場を担ってきたわけですね。そういったなかで、独立に至った理由は何なのでしょうか?
中西:ゲーム会社では制作以外の業務も意外に多く、例えば1年で換算すると、自分が実際に何かを制作する期間は3~4ヵ月程度しかありませんでした。そのような状況にあって、自分としては「モノづくりにもっと専念したい」という思いが徐々に強くなっていましたし、ストレスも少なからず感じていました。そんなとき、海外のフィギュアメーカー「Queen Studios」から原型制作の依頼が来たのは、大きな転機でした。それが後押しとなり、フリーランスとして独立したという流れになります。
CGW:いろいろな要因はあったと思いますが、自分のやりたいことを選択できている点はうらやましく思います。では、現在の主な活動は?
中西:いま紹介したQueen Studiosをはじめとするフィギュアメーカーからのクライアントワークを手掛けるほか、ワンダーフェスティバルなどのイベントでオリジナル作品を販売したりしています。さらに、最近では「GOLEM」という作家グループでも活動しており、今年の6月から7月にかけて東京で「GOLEM展」と銘打った展示会も開催しました。
グロさと美しさの両立や骨格の自然さがこだわり
CGW:フリーランスとして活動していくなかで、クライアントワークと自身の作家活動にはどのような違いがありますか?
中西:クライアントワークでは版権モノを手掛けるケースが多いので、元デザインの“絶対に外せない要素”を維持しつつ、いかにして「自分のテイストやアレンジを落とし込むか」がポイントだと思います。例えば、Queen Studiosの商品として今後の発売が予定されている『Queen Studios 1/4 BloodStorm Batman』の原型デザインを担当したのですが、最初に出した自分のデザインはバットマンの元デザインからかなり変更し過ぎていたため、許可が下りませんでした。ただ、これについては自分が以前に制作した『ORCO』という作品に近いデザインにして欲しいというオーダーもあったので、多少の制約はありつつもかなり自由にやらせてもらえたと感じています。
結局のところ、クライアントワークは自分のアレンジの落としどころが肝になってきます。そのため、時には版元からのフィードバックに納得できないケースもあったりしますね。とくに、自分的にキーポイントだったアレンジに修正が入ってくると、自分の作品を否定されたような気持ちになることも・・・。版権モノなので仕方ありませんが、どうしても自分は「オリジナリティを出したい」や「どこかで爪痕を残したい」という感情が湧いてしまう点を考えると、版権モノの原型師にはちょっと向いていないのかもしれませんね(笑)。
CGW:「自分を出したい」という欲求は大きな原動力になりますから、むしろ消すべきではないと思います。その意味では、オリジナル作品がその欲求の発露になるのかもしれませんね。では、作品づくりのこだわりなどにはどういったことがありますか?
中西:造形面では、人工的ではない“自然にできた形の美しさ”がとても好きです。例えば、生物や臓器などの形状が挙げられるでしょうか。ただ、気分が悪くなるほどのグロテスクさは好みではないので、作風として「グロテスクさとスタイリッシュさ(あるいはキレイさ)の両立」にはかなりこだわっています。
CGW:そういった作風は、何かから影響を受けたのでしょうか?
中西:子どもの頃、父親の影響で模型雑誌をよく見ていたのですが、その雑誌に載っていた竹谷隆之さんの「S.I.C.」シリーズの影響は非常に大きいと思います。このシリーズは、竹谷さんが仮面ライダーなどを独自にアレンジしたフィギュアシリーズなのですが、従来の“いかにもスーツ”というデザインではなく、生物の生々しさを感じさせるアレンジが自分的に「とても格好いい」と感じました。S.I.C.シリーズはいまも注目していますが、クリーチャー造形などに興味を持つきっかけでもあったので、自分の原点はそこにあると思いますね。
CGW:そのほかにも、何かこだわりなどはありますか?
中西:「骨格のイメージ」にも何気にこだわっていますね。これは、実際に骨が入っている雰囲気というか、物理的な可動域の話。例えば、身体の一部にトゲのようなデザインを入れたい場合、関節の動きを考慮すると「このデザインでは明らかに無理があるだろう」というような事態は避けるように気を使っています。もっとも、作品を見る人や購入する人はそういった点をあまり気にしないと思うので、自己満足的な側面は強いのかもしれませんが、毎回悩んでしまいますね。
3億ポリゴンの処理も快適にこなすDAIV Z7
CGW:さまざまなこだわりを持って作品づくりに取り組んでいることがよくわかりました。では、実際の制作フローを教えてください。
中西:利用するDCCツールはほぼZBrushのみ。クライアントワークだと版元などからの要望を踏まえて初期デザイン案を描いたりしますが、これについては下絵の段階から3Dでやっています。2Dの絵を描くよりも、3Dでラフモデルを作ってそれをレンダリングしてPhotoshopでレタッチする方が早いので、そういったフローで進めています。さらに、このラフの段階でシルエットや入れ込みたい要素を決めていき、その後に細かいディテールを詰めていきます。これは自分の作品づくりでも同様です。
CGW:1体あたりの制作期間は?
中西:だいたい3ヶ月ぐらいでしょうか。自分は実際に作業しながらディテールなどを試行錯誤していくスタイルなので、時間はかかる方だと思います。ただ、初期段階でアイデアがほぼ固まっていた自主制作の作品では、2週間程度で完成したケースもありました。
CGW:細かいディテールにこだわると、ZBrushのポリゴン数が増えそうですね。
中西:確かに、装飾が多いわけではないので、表面のディテールでポリゴン数が増えている印象です。作品によって異なりますが、おおむね数億レベルでしょうか。最大の作品だと約3億ポリゴンですね。
CGW:そういったボリューム感だと、ZBrushで時間がかかる処理もあると思います。今回、マウスコンピューターのDAIV Z7を検証してもらいましたが、いま使っている現行機と比べてみた印象は?
中西:非常に良かったです。そもそも、現行機でのZBrushの作業は全体的に重く、カク付いたりブラシの反応でラグが発生したりしていました。そのため、例えば1つの大きいパーツを複数に分割して対応することもしばしば。だから、本当に面倒でなかなかのストレスでした。
一方、同じ作業でもDAIV Z7はあらゆる作業がとても快適でした。特にCPUはコア数が増えて世代も大幅に進化しており、処理速度が圧倒的に向上。その実力をいかんなく発揮してくれたのかなと感じます。あまりのレスポンスの違いに、6年前に購入した現行機の非力さを痛感するとともに、「いますぐにでもDAIV Z7が欲しい!」と実感しました。
CGW:そのほかに、何か気に入った点などはありましたか?
中西:取っ手やキャスターが備わっており、楽に移動できる点はとても便利だと感じました。総合的に優れたスペックと機能性を兼ね備えているので、何を買えばいいか迷っている人は、これを選んでおけば間違いないと思います。自分としてもぜひ購入したいですし、PCに詳しくない人にも安心してお勧めできるモデルですね。
検証で用いたDAIV Z7と中西氏の現行機のポイント
DAIV Z7は、最新のインテル第12世代CPU「インテル Core i7-12700F プロセッサー」を採用し、水冷CPUクーラーも搭載するクリエイター向けのデスクトップPC。GPUはエントリークラスの「GeForce RTX 3060」、メモリは32GB、ストレージはNVMe接続512GB SSD+2TB HDDのデュアル構成を搭載し、CPU以外でも必要十分な性能をしっかり備える。さらに、無線LANやBluetooth、Thunderbolt 4拡張カードも装備するなど、機能性にも優れているモデルだ。
中西氏の現行機は、2016年に購入したデスクトップPC。インテル第6世代CPUでは上位の「インテル Core i7-6700T プロセッサー」やGPU「AMD Radeon R9 m470」を採用するなど、当時としてはコスパに優れたモデルとなる。メモリを32GBにするなどアップグレードされている点もあるが、現行モデルと比較するとさすがに力不足は否めない。
DAIV Z7[Windows 11]
- 価格
279,800円(税込)
- CPU
インテル Core i7-12700F プロセッサー(12コア【Pコア 8、Eコア 4】 / 20スレッド / Pコア 2.10GHz、Eコア 1.60GHz / TB時最大4.90GHz【Pコア 4.80GHz、Eコア 3.60GHz】 / 25MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 3060
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NVMe接続512GB SSD+2TB HDD
- OS
Windows 11 Home 64bit
- 無線
IEEE 802.11ax/ac/a/b/g/n + Bluetooth 5内蔵
- 電源
700W【80PLUS BRONZE】
中西氏の現行機
- 価格
約14万円(税込)
- CPU
インテル Core i7-6700T プロセッサー(4コア / 8スレッド / 2.80GHz / TB時最大3.60GHz / 8MBキャッシュ)
- GPU
AMD Radeon R9 M470
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
2TB HDD
検証:高負荷作業の処理時間
負荷が高いZBrushの作業として中西氏が挙げたのは「プロジェクトオール」や「ブーリアン」。現行機では、処理に30分以上かかることがあったほか、ときには止まってしまうケースもあったため、「かなりストレスになっていました」と振り返る。しかし、DAIV Z7では1分とかからずあっという間に終了したそうだ。
さらに、制作した3Dモデルを3Dプリンターで出力するためには、「ChiTuBox」を使って元データをスライスデータに変換する必要があるのだが、この処理も現行機では3~4分程度かかっていたという。しかし、DAIV Z7であれば数十秒で完了。あらゆる作業で「これまでの処理待ち時間は何だったのか・・・」と、中西氏は驚かされるばかりだった。
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)
PHOTO_大沼洋平
INTERVIEW_池田大樹(CGWORLD)