国内において長らく続く3DCGの人材不足の影響により、ゲーム開発体制のグローバル化が加速している。
2016年には、バンダイナムコグループのビジュアル特化の開発スタジオとしてバンダイナムコスタジオマレーシアが設立。現地のアーティストを中心に140名まで規模が拡大し、タイトル開発における同スタジオの存在感が日に日に増している。
このたび、案件増加に伴い、日本国内で制作経験を有する3DCGアーティストの積極採用もスタートした。そこで同スタジオに「なぜ今、マレーシアが熱いのか?」、「期待されるスキルや現地の生活はどんなものなのか?」インタビューを行った。なお、トランスレーターを多数擁しているため、入社時点では英語が苦手でも問題ないとのことだ。「海外で働いてみたいが英語力に自信がない」CGアーティストは、この機会を見逃さないでほしい。
▶バンダイナムコグループの“安定”した基盤の上で、 成長市場のダイナミズムが経験できる稀有な環境
CGWORLD(以下、CGW):2016年に設立されたバンダイナムコスタジオマレーシアですが、グローバル拠点の候補としてマレーシアという場所を選んだ理由を教えてください。
内藤洋介氏(COO)(以下、内藤):マレーシアでは全てのビジネスを英語で完結できるので、欧米各国がアジアに拠点を置く際に、選ばれやすい国です。そのため英語圏の会社や資本が集中しますので、マレーシアは東南アジアの中でもシンガポールに次いでマーケットが急速に拡大しています。
また、近隣国の中ではアーティストの数が多いのがマレーシアの特徴です。私が知る限り、映像制作を行う企業は以前からマレーシアに数多く存在し、もとから3DCG技術の担い手は一定数いた印象ですが、近年ではゲームを志す若者も増えてきました。
CGW:アーティストが多い理由は文化的な背景があるのでしょうか。周辺国との差はどこにありますか?
内藤:実は、マレーシアにはMayaやSubstance Painterなどを教えるアートスクールが多いんです。周辺国の中でシンガポールが最もテクノロジーに明るい人材が集まる国だとするなら、最近はマレーシアが二番手に追い上げています。タイやフィリピンからマレーシアに学びに出て、そのままマレーシアに残る方も少なくありません。人材面のメリットだけではなく、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でもCG産業のマーケットが非常に大きいのも特徴です。
CGW:これらの背景を踏まえて、改めてマレーシアスタジオの設立経緯を教えてください。
内藤:東南アジアの拠点としては、2013年にバンダイナムコシンガポールを設立しました。プランナーやプログラマー、デザイナーなどが在籍するフルゲーム対応の拠点となっています。マレーシアはキャラクターやエンバイロメント、アニメーションなど3Dアセットを制作するビジュアル特化のスタジオとして、シンガポールの3年後に設立しました。ゲーム作品は、今や日本国内だけでなくグローバルマーケットを意識して開発しなければいけません。その意味では、海外拠点で開発を行うこと自体は当然ですね。人材を日本国内だけで集めるのが困難になりつつある背景も踏まえて、開発圏の拡大は必須でした。
CGW:たしかに、マーケット自体もグローバルを意識するのであれば、日本国外で開発を行うこと自体には必然性があります。「アーティストが多い」という人材面のメリットと合わせて、マレーシアに決定したということですね。改めて、現在のバンダイナムコマレーシアの規模を教えてください。
内藤:全体では140名ほどで、開発メンバーは約120名です。背景チーム、キャラクターチームがそれぞれ約30名、2Dデザイン専門のコンセプトアートチームが約10名、アニメーションを専門とするチームが約25名となっています。特徴的なのは、いわゆるPM(プロジェクトマネージャー)が通訳メンバーも含めて20名ほど在籍していることです。
CGW:全体の比率からして、PM層は厚く感じますね。
内藤:マレーシアで行う仕事は、日本国内の案件が9割以上を占めています。プロジェクトは大小まちまちですが、バンダイナムコ本社からの発注も多いので、どうしてもプロジェクト数自体は細分化して多くなります。都度翻訳をしながら、120名近いメンバーの手が止まらないようにマネジメントを行うのはなかなか大変ですが、ここが止まると会社全体の動きが止まってしまいます。だからこそ、PMは厚めに人材を配置しています。
CGW:現地のアーティストはどういった特性を持っていますか?
内藤:個性豊かなメンバーが集っていますが、全員に共通するのは親日であることとバンダイナムコのIPを愛してくれていることです。これはバンダイナムコの看板、ブランドが持つ良い側面ですね。国内のゲームに詳しい方も多いです。CGの技術という意味では、今はまだ組織固めをしている最中と言えます。ゲーム開発は「モデリングやアニメーションだけできれば良い」というわけではなく、仕様から情報を読み取る必要がありますし、ハード的な制約の中で作りきらなければいけません。
ただ、本社と比較すると映像制作技術はアドバンテージがありますね。実際、こちらでは既にフルCGのアニメーション制作に取り組んでいます。
CGW:3Dアセットにせよ映像作品にせよ、基本的にはマレーシア現地の方が制作の中心を担っているのでしょうか。
内藤:そうですね。今のところ120名のうち日本人は3名で、ほとんどのメンバーが現地の方です。ここから日本人比率を上げていこうと考えていて、特にリーダーとして活躍いただけるアーティストにぜひ参加していただきたいと考えています。マレーシアのメンバーは平均年齢が20代後半と非常に若くてやる気があるので、上手くまとめあげられる人材がいると更に組織化が進むと考えています。
CGW:その意味では、今回求める人材像はリーダー職経験者やマネジメント経験者でしょうか。
内藤:その通りです。ただし、直接的なマネジメントの経験がなくても、例えば日本国内のゲーム開発現場でプログラマーやプランナーと一緒に話しながら物事を進めた経験をお持ちの方をはじめ、チームとしてのものづくりをしっかり前に進めたことがある方であれば問題ありません。
CGW:最後に、バンダイナムコマレーシアでしか得られない経験を教えてください。
内藤:バンダイナムコは日本国内でも有数のゲーム会社です。会社規模も大きく、安定しています。その上で、シンガポールやマレーシアをはじめとする海外拠点に挑戦をしています。バンダイナムコマレーシアは、まさに「安心」と「挑戦」のバランスが非常に取りやすい現場です。
バンダイナムコという看板を背負って、安定した基盤を持った上で海外での開発に挑戦できるという経験は非常にユニークだと思います。現地のメンバーも、若手を中心に熱意のある方が集まっています。皆さんが国内で培った開発経験を全力でぶつけられるフィールドが広がっていると思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。
▶国内でのアニメーション制作経験を引っ提げ、マレーシアへ。 スタジオの色を出す、短編CGアニメーションに挑戦中
CGW:自己紹介をお願いします。
松倉千夏(Lead Animator)(以下、松倉):リードアニメーター、プロジェクトリードの松倉です。アニメーターとしてはインゲームのキャラクターアニメーションを担当しており、プロジェクトリードとしてはシネマティックムービー制作のチームを率いて、ワークフローやパイプライン構築から実制作までを行っています。
CGW:バンダイナムコマレーシアで働くに至った経緯を教えてください。
松倉:アニメーターとしてのキャリアは15年ほどで、マレーシアに来てからは3年8ヶ月ほどになります。学校を卒業後、遊技機メーカーを経て、ゼネラリストとしてアニメや映像制作を行っていました。前職では海外クリエイターの同僚も多く、母国を出て働く彼らと一緒に働く中で、自然に「自分も海外に出て腕を磨きたい」という想いが募りました。その後、転職活動の際に「グローバルに進出している・海外拠点を持っている」という観点からバンダイナムコを志望しました。入社後、「マレーシアスタジオに来ないか?」とお誘いいただいたので、このチャンスを逃すまいと決断し、ジョインすることにしました。
CGW:そもそも、海外で働きたいというモチベーションはどこから来るのでしょうか?
松倉:私自身は日本のアニメを見て育ち、日本の会社でCG制作を学びました。一方、各国のクリエイターは文化が異なりますので、アニメーションのスタイルが日本とは大きく違うのです。自分のスタイルに海外のスタイルをエッセンスとして加えたい、そのため一度日本を出て挑戦したいなと考えました。
CGW:「海外のスタイル」との違いというのは、具体的にはどういったことでしょうか?
松倉:一言で言えばデザインの違いでしょうか。マレーシアだと、イスラム教の文化圏から持ってきたようなキャラクターデザインなども少なくないですし、演技やジェスチャーも文化に根付いたものです。多民族国家ということもあり、文化や宗教などのバックグラウンドも多様です。「アメリカならオーバーリアクション、日本なら動きが少ない」など、そういったレベルの違いから、文化的な差異による機微に到るまで、アニメーションのスタイルは全く異なりますね。
CGW:海外進出は大きな挑戦だと思いますが、不安などはありましたか。
松倉:私は英語が苦手でした。現地に行く前にTOEICを受けてみたのですが、400点くらいでしたね。ただ、マレーシアも英語が第二言語なので、「上手く伝えられない」という感覚を現地の方も分かってくれます。頑張って喋れば分かってくれるし、汲み取ろうと努力をしてくれるので、言葉の部分では概ね伝わっています。不動産の紹介や銀行口座開設の際の同行など、バンダイナムコのサポートも手厚いですし、現地では不安なく仕事ができています。
CGW:海外と言えど広いですが、マレーシアを拠点として選んだ理由があれば教えてください。
松倉:マレーシアは先進国に転身する見込みが高いですし、アジアのマーケット自体も拡大・成長が強く見込まれています。そもそも、日本のゲーム業界自体、海外をマーケットにしないとペイするのが難しい状況が続いています。バンダイナムコが掲げる「日本のノウハウを携えて、海外で挑戦する」というプランは成功するイメージがありましたし、好機と思って手を挙げましたね。
CGW:マレーシアで成し遂げたいと考えているビジョンがあれば教えてください。
松倉:外から見た私たちのイメージは「バンダイナムコの子会社のひとつ」だと思います。今、私自身はシネマティックのリードとしてオリジナルの映像コンテンツを制作しています。受託ではなく私たち独自の作品として、フルCGの短編アニメーション作品を5、6人のチームで制作しています。こうした作品を作り続けることで、いずれはマレーシアメンバーのオリジナリティや、自分たちだからこそ出せるスタイルをブランド化したいと考えています。
CGW:ビジュアル特化のスタジオとして設立された経緯もありますので、そこはまさに悲願ですね。ちなみに、現地での暮らしはどうですか?日本との違いを強く感じるところがあれば教えてください。
松倉:マレーシアの方はすごく人懐っこい印象というか、皆さん仲良しです。日本では仕事帰りにプロジェクトごとに飲みに行ったり、あるいはそのまま帰ったりという感じでしたが、こちらでは毎週スポーツをしたり小旅行をしたりと、アーティスト同士がカジュアルな関係性で遊んでいますね。
あとは、同じ家賃でも住める家のグレードは大きく異なりますし、食品なども日本に較べて安価で購入できますので、良い暮らしがしたい方にも向いているのではないかなと思います。
CGW:最後に、一緒に働いてみたいアーティスト像や、マレーシアでの仕事に向いている人を教えてください。
松倉:「海外で働いてみたいけど、英語が苦手」という方にはおすすめです。マレーシアの方は英語が伝わらない、喋れない側の心理を分かってくれていますので、コミュニケーション面では楽ですね。マレーシアは日本の案件も多いので、日本人かつ国内での開発経験がある私たちだからこそ伝えられる要素もあるのではないでしょうか。
具体的に言えば「シズル感」のような言葉は、言葉を訳しただけでは伝わりませんので、言葉に含まれたニュアンスの部分を、リファレンスを用意したり、身振り手振りで情報を伝えたりしています。英語の出来不出来を問わず、日本国内で培った知見やノウハウをしっかりと現地アーティストに伝えることができる方なら、リーダーとして大いに活躍ができると思います。
▶POINT 住環境
▶POINT 日本食も充実
▶現地で働く若手アーティストから見た「バンダイナムコ」とは?
CGW:ではここからは現地で働くアーティストに、マレーシアスタジオのオフィスの様子や仕事のスタイルなどを教えていただきます。まずは自己紹介をお願いします。
Gary foo(ゲイリー・フー、Senior Character Artist)(以下、Gary):キャラクターチームのシニアアーティスト Gary fooです。プロジェクトの中では、DCCツールを用いてキャラクターアセットを作成するのが主な業務になります。
Say Von(セイ・ボン、Junior Environment Artist)(以下、Say Von):エンバイロメントチームのジュニアアーティスト Say Vonです。2022年1月に入社しました。今は背景アーティストとして、プロップなどの小物を中心に制作しています。
CGW:入社の経緯を教えてください。
Sey Von:以前からバンダイナムコのタイトルが好きでした。特に『CODE VEIN』はかなり長い時間やり込みました。自分の大好きな日本のゲームに関わりたいと思って入社を決めました。
Gary:親戚にも日本人がいるし、私の育ってきた環境は日本のカルチャーで溢れていました。和食レストランもたくさんありますし、盆踊りだってあります。私自身もアンパンマンを観て、ファイナルファンタジーで遊んで育ちました。バンダイナムコのIPだと、最近では『スカーレットネクサス』がお気に入りですね。
CGW:Garyさんはシニアアーティストとのことですが、前職もゲーム業界だったのでしょうか。
Gary:以前は映画業界に8年間在籍していました。当時は残業も多く、スケジュールがタイトな仕事でした。ゲーム業界はスケジュールもシンプルな場合が多いですし、バンダイナムコはPMがしっかり管理をしていますので、1つ1つのアセットにしっかり時間をかけることができています。仕事をする上で、健康に良い職場だとは思いますね。また、ゲーム業界だと、制作に際して自分の色やスタイルを出していくことも好意的に受け止めていただけるので、そこも嬉しいポイントです。
CGW:マレーシアにはアートスクールが多いと聞いていますが、2人とも出身はアートスクールですか?
Sey Von:そうですね。私たち2人ともThe One Academyというアートスクール出身です。私の周りにもアニメーターやエフェクト専門のアーティストなど、いわゆるデジタルアーティストは非常に多いです。
Gary:ゲーム業界を目指す学生も多いですね。もちろん、学校を出てからもそれなりのトレーニングは必要になりますが、MayaやSubstance Painterなど実践的なツールを学ぶこともできるので、基礎力が高い方も多いと思います。
CGW:若いデジタルアーティストが育っている環境は素晴らしいですね。実際にバンダイナムコで働いてみて、率直な感想はいかがですか。
Gary:バンダイナムコでは同じプロジェクトを3年ほど続けていますが、もうしばらくこれを続けてもいいな、と思うくらいには楽しいです。映画業界と違うのは、創作活動において自由の効く部分が多いところ。ソフトウェアの使い方でもなんでも、アウトプットさえ良ければ比較的自由に作らせていただけるのはありがたいです。
Sey Von:私はまだジュニアアーティストですが、最初の頃は1対1でしっかりゲーム開発のワークフローを教えていただきました。担当のリードアーティストが本当に辛抱強く教えてくれる人でしたので、すごく助かりました。スタッフの雰囲気もすごく良いですし、みんな仲良しです。オフィスも開放的ですし、立地も便利なので良いですよ。
CGW:ありがとうございます。最後に、お二人の目標を教えてください。
Gary:まずは今手掛けているプロジェクトがリリースされることを目標にしています。3年間ずっと制作を続けていますので、是非皆さまにもお手にとってもらえたらと思います。
Sey Von:業界でしっかり仕事ができるように実力を付けていきたいです。いずれは「これが私の作品なんだ」と心から言えるようなコンテンツを生み出したいと思っています。
▶POINT オススメのローカルフード&カフェごはん
▶求人情報
舞台はマレーシア!何か新しいことが起こりそう…そんな仕事ができる!
アジアでも急成長中のマレーシア。ゲーム業界も例外ではなく、昨今マレーシアにはゲーム開発のスタジオが続々と増えています。そんな中、バンダイナムコスタジオマレーシアは2016年に設立。日本が好き、日本に興味があるスタッフたちが、日々情熱をもってゲーム開発をしています。
海外に出てみたい、人とのコミュニケーションが好き、自分の手でゲーム作りを引っ張っていきたい、自分の才能で挑戦したい、そんな積極性のある方をお待ちしています。
マレーシアのゲーム業界はまだまだこれから。みなさんの才能やアイデアで一緒にスタジオ作りをしていきましょう!
募集職種
①リード背景アーティスト
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TEXT_神山大輝
INTERVIEW&EDIT_池田大樹(CGWORLD)