TVドラマをメインに、地上波およびインターネットにおける放送コンテンツのポスプロ、プリプロ、配信等の業務を手がける株式会社ブル。そのブルがここ最近、本格的にポストプロダクションシステムの機材刷新を敢行している。
そこでメインを張る機材として複数台導入されているのが、オペレーションにおいてもフィニッシングにおいても圧倒的なスピードを誇る、BOXX Technologiesの「BOXX APEXX T4L」だ。すでに現場で実績を積み重ねているそのシステムの現状と、その魅力を聞いていこう。
<1>映像技術のスペシャリストが選ぶ BOXX Technologiesのマシン
株式会社ブルは、TVドラマを中心に音声収録技術に定評があり、ビデオ編集・MA等のポストプロダクション業務に加えて今ではインターネット放送の配信システム等も手がける、放送技術のスペシャリスト集団だ。
プロデューサーや監督、演出の要望に応える優秀な映像・音声の技術者人材と高度な専門機材の両方を集積した、放送コンテンツの制作を支える縁の下の力持ち的な存在である。
直近の実績には、音声収録やMAなどの音声技術でTBSドラマ『王様に捧ぐ薬指』、カンテレドラマ『罠の戦争』、TBSドラマ『100万回言えばよかった』等、また映像・音声含めオフライン/オンライン編集、グレーディング、MA等全てを担当したものとしては、テレビ朝日ドラマ『unknown』、テレビ朝日ドラマ『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』がある。
そのブルが、来たるべき4K60pでの高負荷な映像編集業務(通常、ドラマ素材は30pが多い)をストレスなくこなすために選定したシステムが、BOXX Technologiesの「BOXX APEXX T4L」を中心に据えた映像編集システムである。
基本的にAvid Media Composerをメインの編集ソフトウェアとしつつ、DaVinci Resolveとのハイブリッドで運用。すでにブルには4台(+別構成1台)が導入されており、既に現場で様々な実績を積んでいる。
ポスプロ業界においては、編集システムとしてMacを主体とするところが多いという話だが、ブルの場合は映像データのインジェスト/アウトジェスト(サーバーへの読み込み/書き出し)にMac Proも扱うものの、制作業務はWindowsマシンが主体とのこと。
これは、主な取り扱いコンテンツとなるTVドラマ業界の傾向によるものだという。しかし、ブルがその中でも“BOXXブランド”のマシンを選定した理由とは、一体何だろうか?
「内部(マザーボード)の写真を見て、“これだな”と思ったんですよ」。そう言って「BOXX APEXX T4L」の導入についてふり返るのは、ブルのシステム技術課でポストプロダクションシステムの機材を選定、および保守・管理する岡田俊也氏だ。
もともとMV等のエディターも務めていた岡田氏は、いまは機材のスペシャリストとして、バックヤードで若手の現場制作者を支えている。
4年半ほど前にブルに入社し、既存システムの運用に当たっていたところ、時代のニーズと求められるスピード感への対応が急務となり、イチからシステム企画を担当して「BOXX APEXX T4L」を中心とするオンライン/オフライン編集環境を構築することとなった。
「自分も自作でPCを組んだりしますからね。筐体の中を見たら、ちゃんと考えられたものかどうかはわかる。それに、どうせ入れるなら飛び抜けたモノの方がいい。あそこはすごいのが入ってるぞ! というインパクトも必要。仕様やスペック上問題ないことは確認しつつも、最後は直感も大きいですね(笑)」(岡田氏)。
<2>スペックから紐解くポスプロ用BOXXシステムの凄さ
ブルに複数台導入されている「BOXX APEXX T4L」は、基本スペックとしてCPUにAMD Threadripper PRO 5975WX(3.6GHz、32コア/64スレッド)を搭載し、メインメモリはスロット8つを全て埋めた256GB(DDR4-3200 ECC)構成、そしてグラフィックスとしてNVIDIA RTX A6000 48GB(GDDR6 ECC)を採用した、超ハイスペックモデルとなっている。
ブル BOXXマシン構成
既存マシン構成
そしてポスプロならではといえるのが、ストレージ構成だろう。PCIe Gen4 NVMe接続のM.2 SSDが3台、SATA SSDが1台の計4台構成となっているが、それぞれ、
- NVMe1 1TB
OS起動/アプリケーション領域
- NVMe2 2TB
ローカル作業用領域
- NVMe3 1TB
各アプリケーションのキャッシュ用
- SATA SSD 960GB
NVMe1 1TBのバックアップ用
という完全な分散処理仕様となっており、あらゆるオペレーション処理が最速で行えるよう最適化されている。そして、その上でバックアップも万全に取られる、というしくみだ。
PCIe Gen4 x16スロットによる拡張も、ポスプロならではだ。
ブルではネットワークストレージサーバとしてFacilis HUB共有ストレージ(※1)が導入されており、その接続インターフェイスとして32Gb fibreカードと25Gb Etherカードが装着され、加えてビデオInput/Output用のPCIeカードも追加されている。
※1:参考記事
ブル様 Facilis HUB導入事例(伊藤忠ケーブルシステム)
itochu-cable-systems.jp/case/bull-japan.html
BOXXに採用されているマザーボードは、これらのPCIe拡張スロットが全て制限なく最高速のx16で動作するというのも特筆すべきポイントであり、安心して機能拡張できるという。
「実際に使ってみても、体感として一発でわかるくらい、あらゆることの速度が上がった」と、岡田氏。
「そのスピードアップの体感は、オペレーションにしてもフィニッシングにしてもそう。編集、レンダリング、書き出し、インジェスト、トランスコード、データコピー、その全てが速くなった。
作業者にゆとりができますよね。これまでの機材だったら、レンダリングをかけたら何時間も何もできないのが普通だった。BOXXマシンに切り替えたら、それが極端な話1/10の時間で終わったという話も出てきた。ここまでくると、やってる人たちの顔色が変わってきます(笑)」。
例えば、あるドラマ50分のHD完成データ書き出し(レンダリング)が、BOXXの購入前後で、実測値において30分から7分まで短縮された、ということもあったという。
<3>マシンスペックの向上によりDaVinci Resolveが主力ソフト化
さらに、こうした様々なオペレーション上の性能向上によって、思いがけず進展したワークフロー刷新も印象深かった、と岡田氏は語っている。それは、BOXXの導入によって、それまでほぼカラーグレーディングにしか使われていなかったDaVinci Resolveが、映像編集にも積極的に使われ出したことだ。
「うちでは、それまでDaVinciは多少スペックの劣る機材に入っていて、軽く実験的に使われる程度の扱いだったんです。主力はやはりAvidかRIO(Grass Valley)だよね、と。いま思えば、機材の性能の問題も大きかったんでしょうね。皆、使い勝手としてDaVinciは厳しいね、という印象だった。
それがあるとき、RIOの機材トラブルもあってBOXXにDaVinciを入れて若手が使い出したところ、すごく良い! と180度印象が変わって。それで触発されるように皆が使い出したんですよ」(岡田氏)。
結果として、BOXXが導入されたことにより、思いがけず編集システムの主力までも最新のしくみに移行が進むという好循環が生まれ始めた。すでにBOXXシステム上ではDaVinciが主力になりつつあり、今後確実に切り替わっていくだろうとのこと。
「同じソフトウェアを使うにしても、それが入っている機材によって評価が変わるので、やはりマシンスペックって大事なんだな、と実感しましたね」(岡田氏)。
何世代か前の機材とはいえ、それまでの編集システムもCPUにメニーコアのIntel Xeonを搭載していたりとそれなりのスペックのハイエンドシステムである。それと比べて体感で数倍速く感じ、編集ソフトの評価すら変えてしまうのだから、BOXX導入による性能向上は計り知れないものがあった、と言えるだろう。
<4>決して安くはない投資、しかしそれがもたらす効果は絶大
これまでの例から見ても、ブルにとってBOXX導入によりもたらされたメリットは、間違いなく大きいものだったに違いない。加えて、対費用効果という観点からみると、それはどうなるだろうか。
「ブルとしても、近いうちに4K60pで素材がバンバン来る状態を受け入れて、オフラインでもマルチで走らせるという重たい案件が来ることがわかっていた。それをクレームなくこなす必要があって、絶対投資はしなきゃいけない段階だったんですね。
当然、この投資が高くないわけがないが、経営陣の理解もあり、とりあえず業界で一番をとれるスペックを並べてみようと。社長に至っては、筐体の見た目も“かっこいいな! これはいままでにないな!” と気に入っていましたよ。そうしたマシンスペック+αを考えても、十分に納得がいく投資。でなければ、1台目を導入した後、矢継ぎ早に4台5台と導入しませんしね」と、岡田氏。
「比べるものが違うかもしれませんが、テープの時代のオンライン編集機を知っていれば、いくら高いといってもまだ安いんじゃないでしょうか。性能もできることの幅も段違いですしね。一方で今の時代はできることが増えた分、昔より確実にやり直しは増えていますが(笑)」。
それに……と岡田氏は続ける。「ドラマの現場というのは、基本的にスケジュールはかつかつでタイトだし、突然あるカットに問題が発生して修正や合成が行われたり、対応のためのCG追加などの緊急案件も発生しがち。
それでいて書き出しは初回用、再放送用、配信用、など多いときは1コンテンツで数種類を書き出す必要があったり……と、とにかくせわしないのが現実です。
応えるためには、最後に作業して書き出すときに圧倒的な馬力の1台が必要になる。これさえあれば今夜の放送に間に合う! というもの。それが手に入ったのだから、十分な見返りと言えるでしょう」。
<5>「仕事はこういうモノでやらねばならない」触ればわかる“普通のPC”との違い
今回導入したシステムの特に良いところは、普通のPCとは“圧倒的に違う”ことだと岡田氏は語っている。
「いままで使っていたシステムや自分のPCと比べて、仕事で使うPCがそれに毛が生えたようなスペックだと、そんなもんか、みたいな印象で身が入らないと思うんですよ。その点、うちでは新人がBOXXを使って研修をし始めたころ、これは速い! とすごく驚いて、ちょっとした動作にも感動していました。
仕事はこういうものでやるんだと。重い処理をかけたら待つもの、レンダリングは時間がかかるもの、そういう認識をも吹き飛ばしてくれる。それを若手に体感してもらえたのは大きいですね」。
そうした待ち時間の縮小は、当然ながら若手の技術力アップにも役立つ。無為な時間を過ごすより、質を高めるトライもできる。圧倒的な処理速度を誇るBOXXが導入されたからこそ、それを活かして若手もベテランも刺激しあいながら、新しい知見の獲得や技術の向上につなげてほしいと岡田氏は考えている。
「そのためにも、システムを部屋ごとに固定するのではなく自由に取り回せるスイッチングシステム(※2)の導入もしています。BOXXでも4K60pをマルチに処理すれば多少は待つことも出てくるでしょう。どうしても発生する待ち時間も、このシステムで別の端末に切り替えて有意に使うことはできるので、活かしてほしいですね」
※2 IHSE KVMシステム:キーボードとディスプレイ、マウスだけを独立させ、スイッチングにより利用端末を切り替えて呼び出せるシステム。
参考記事:ブル様 IHSE導入事例(伊藤忠ケーブルシステム)
itochu-cable-systems.jp/case/bull-japan2.html
「何にしても、こうやってあらゆるところで改善をしていけるのは、まず第一に1台のBOXXを入れてみてそれが素晴らしい成果を上げてくれたからです」と岡田氏はまとめる。
「だから自分としては、BOXX様様くらいに考えていますよ(笑)」。
お問い合わせ先
●BOXX製品のお問い合わせ
BOXX Technologies 日本正規販売代理店
株式会社ジーデップ・アドバンス
●Facilis、IHSE製品のお問い合わせ
伊藤忠ケーブルシステム株式会社
クロスメディアソリューション本部
TEL:03-6277-1854
itochu-cable-systems.jp/inquiry
TEXT_髙木貞武 / Sadamu Takagi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)