映画やゲームにとどまらず、都市計画や大型施設のコンセプト立案からコンセプトアートまでを提供するアーティスト集団、INEI。同社を率いる富安健一郎氏は、長らく板型ペンタブレットを使ってきたが、液晶ペンタブレットへの移行を検討しているという。そこで、今回はワコムの液晶ペンタブレットのフラッグシップモデル「Wacom Cintiq Pro 27」を使ってもらい、その使い心地を聞いた。富安氏の液晶ペンタブレットへの評価はいかに?
まるでキャンバスに絵を描いているような没入感
――富安さんは、普段はどのようなツールで作品づくりをされているのでしょうか?
富安健一郎氏(以下、富安):Photoshopを使って描いています。大学生のときにデジタルを使い始めたので、かれこれ25年以上使っていますね。最近は、3DCGソフトのBlenderもよく使います。
富安健一郎
株式会社INEI
代表/コンセプトアーティスト
ineistudio.com
――ペンタブレットは、ずっと板型ペンタブレットをお使いなんですよね?
富安:はい。デジタルで絵を描き始めたときからずっとWacom Intuos Proシリーズを使っています。絵を描きながらマウスもよく使うので、ペンで描いてからマウスに持ち変えるときの移動距離が小さくてすむので、ずっとこのスタイルです。
――いままで液晶ペンタブレットを使ったことはなかったのでしょうか?
富安:過去に2、3回くらいありました。液晶にダイレクトに描くというのは、紙やキャンバスに描くようなものですから、慣れるのに時間はいらないと感じたのですが、ただ僕にはしっくりこなかった。その理由は、主には4つです。「Photoshopのパネル操作をするときの手の移動距離」、「普段使っているモニタと液晶ペンタブレットの色のズレ」、「液晶のガラスの厚みによるペン先との間の視差」、「描くときに置いた手がじんわりと熱くなる液晶の熱」。こういったことは、小さなことだけど、そこでひっかかると、絵を描くことに集中できなくなる。これらがネックになって、液晶ペンタブレットには移行してこなかったんです。
――液晶ペンタブレットをまた試してみたくなった理由はなんですか?
富安:僕は、定期的に自分の環境を変えたくなるんです。絵を描くという行為が、シンプルだからだと思います。ちょうどリフレッシュしたい、というタイミングだった。あとは、まわりの信頼できるアーティスト仲間から、「最近の液晶ペンタブレットは良いよ。液晶の色も満足できるレベルだよ」と聞いたんです。以前液晶ペンタブレットを触ったのが5年くらい前だったので、そこから時間も空いてるしまた試してみたいな、と思いました。
絵を描く楽しさを実感できる大型の液晶サイズと新型ペン
――ワコムの液晶ペンタブレットの最新機種「Wacom Cintiq Pro 27」を使った第一印象はいかがでしたか?
富安:サイズが27インチと大きいので、以前気になっていた手の移動距離の問題はあるのですが、迫力を感じながら描けるのは良いですね。また、背面にグリップがあり手をまわして握るのですが、抱え込むような姿勢で描くことができるのが良い。昔、キャンバスをこう抱え込んで描いていたなあと思い出しました。狭ベゼルとあいまって、没入感を感じられますね。あと、本体の左右と上部に全部で4つのネジ穴があって、ペントレイやWebカメラなども装着できます。僕は液晶上部に拡張テーブル(別売り)を使ってキーボードを置きました。自分好みにアレンジできるカスタマイズ性も気に入りました。
――液晶の色の再現性やガラス面の視差、熱の問題はいかがでしたか?
富安:普段Macを使っていて、それが色の確認のベースになっています。まったく同じ、というわけではありませんが、十分使えるという印象です。ガラス面の視差も以前感じたようなガラスの厚みが気になることはありませんでした。液晶の熱もだいぶ解消されてますね。
――Wacom Cintiq Pro 27には、新開発の「Wacom Pro Pen 3」が同梱されていますが、ペンの描き心地は普段お使いのものに比べていかがでしたか?
富安:僕は、普段は太いグリップのペンを使っているのですが、今回グリップを外して細いペンを使ってみました。ペン先がよく見えて描きやすい。細いペンは鉛筆で書いている感覚ですね。描いていてとても気持ち良かったです。また、ペン先の芯のブレが少なくなったのも良いですね。
――今回使ってみて、Wacom Cintiq Pro27は、どういった人にオススメしたいですか?
富安:僕みたいに過去に液晶ペンタブレットを触って、違和感のあった人に使ってみてほしいです。正直なところ、描き心地は以前から満足していたので、細かいところのひとつひとつが洗練された印象です。絵を描く道具ですから、ちょっとしたことが気になってしまうと集中できない。そういったアーティストのストレスをできる限り減らしたいというワコムさんの強い思いを感じる製品です。
――富安さんは液晶ペンタブレットに移行されるのでしょうか?
富安:そうですね。Wacom Cintiq Pro 27であれば、移行してもいいなと思いました。今回使ってみて、何より大きな画面に描くのは楽しいということを改めて実感しました。楽しくて、絵を描く時間が増えましたよ(笑)。小さな領域に拡大・縮小をしながら描くこともしますが、大きく描くことで作品のスケール感も変わってくるのはまちがいないです。みんなそうだと思いますが、紙やキャンバスに絵を描くことが、作品を生み出す原体験なんですよね。液晶ペンタブレットは、その感覚で描ける。この製品を使って今年の冬に予定している個展の作品を描きたいですね。
POINT 1:抱え込むようなフォームで描ける背面のグリップ型ExpressKey
ディスプレイ背面にあるショートカットを操作するグリップ型ExpressKeyが気に入ったという富安氏。グリップを握って抱え込むようなフォームになるので、キャンバスに描いているような感覚になれるという。握った状態でショートカットを発動できるのは直感的で、絵を描く際の没入感をさらにサポートしてくれる。なお、富安氏が普段設定しているショートカットは、ブラシのサイズ変更、スポイトツール、手のひらツールだという。
POINT 2:鉛筆で描いているような感覚新しい「Wacom Pro Pen 3」
デザインが新しくなった「Wacom Pro Pen 3」。特に富安氏が評価したのが、従来のペン(Wacom Pro Pen 2)に比べ、細くなったペン先。液晶との接地面が見やすくなり、紙に鉛筆で描いているような見え方だという。ペン先が硬くなった印象という富安氏だが、これは構造改良で芯の遊びがより小さくなったことが影響している。ペンはユーザーの好みが分かれるが、Wacom Pro Pen 3ではペングリップの太さやサイドスイッチの数、ペンの重心などもパーツを入れ替えてカスタマイズできる。
「Wacom Cintiq Pro 27」
価格:481,800円(税込) ※ワコムストア価格
www.wacom.com/ja-jp/products/wacom-cintiq-pro-27
- 外形寸法(縦×横)
379×638mm
- 質量
7.2kg
- 表示サイズ
26.9型
- アスペクト比
16:9
- 最大表示解像度
4K(3,840×2,160)
- リフレッシュレート
120Hz
- 応答速度
10ms
- 最大表示色
10億7,000万色
- 色域
DCI-P3カバー率:98%、Adobe RGBカバー率:99%
- 筆圧
レベル8,192レベル
- ディスプレイの表面仕上げ
フルフラットの強化アンチグレアエッチングガラス
お問い合わせ
株式会社ワコム
tablet.wacom.co.jp/biz-design
TEXT_阿部勝孝 / Masataka Abe(CGWORLD)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota