「作画とCGのハイブリッドアニメ」Production I.G 最新作『ターミネーター0』メイキング ─ 高負荷な制作環境で示されるクリエイター向けPC「Powered by ASUS」の実力
『攻殻機動隊』シリーズ、『PSYCHO-PASS サイコパス』、『ハイキュー‼』など卓越したアニメーション制作技術で数々のアニメ作品を制作してきたProduction I.G。今回は、2024年8月29日(木)よりNetflixにて世界独占配信を開始した最新作『ターミネーター0』(以下、本作)の制作過程に迫る。また本作に使用された、「Powered by ASUS」というASUSのProArt製品で構成されるTSUKUMOが提供するBTOパソコンの性能についても伺った。
毎話約100カットをCGで制作。CGボリュームの多い作品
——自己紹介をお願いします。
松本 勝氏(以下、松本):CGディレクターの松本です。『ターミネーター0』『怪獣8号』ではCGディレクターを務めました。本作ではディレクションだけでなく、モデル制作やカット制作も行っています。
中村智樹氏(以下、中村):CGチームマネージャーの中村です。『ターミネーター0』『怪獣8号』ではCGプロデューサーを務め、そのほかにも制作進行や素材管理などの業務を幅広く行っています。
塩崎自夢氏(以下、塩崎):システム管理エンジニアの塩崎です。PCなどハードウェアを調達するほか、プラグインの手配など管理運用をメインに行っています。また、モニターのプロファイル調整など制作環境の構築も業務範囲です。
——CGチームの人数規模と、本作で使用したDCCツールについて教えてください。
中村:本作が始まった頃は10名程度のチームでした。当初から松本がディレクターとして立ち、外部委託を行いながらプロジェクトを進めていましたが、クオリティコントロールのやりやすさ、コストの観点から内製化を進め、現在はCGチーム全体で40名を超える規模となっています。
制作においては作画、仕上、背景、CG、撮影と主に5つのチームに分かれています。CGチーム内ではモデリング、アニメーション、VFXの領域に分かれており、それぞれアサインされたデザイナーが必要に応じて各領域をまたぎながら作業を進めていました。
DCCツールは3ds Maxで、レンダラーはPencil+ 4とRedshiftを使用しています。ほか一部のモデリングや、雨垂れなどのエフェクトにはBlenderを使用しました。
——本作はCGによるカットが非常に多いと聞きましたが、どのようなワークフローで制作を進めたのでしょうか。
中村:もう半端ではない数のCGを作りましたね(笑)。1話あたり400カットのうち、3Dレイアウトは毎話250カット程度、3Dカットは毎話100カット程度と、他作品と比べてもCGのボリュームが多い作品でした。
基本的に人物は作画、メカと三次元的なカメラワークを伴うカットの背景はCGで制作していました。ただ、ココロというモヤをまとった人型キャラはCGで表現されておりますし、ごくわずかなカットしか登場しないメカは作画になっていたり、人物でもモブなどはCGで描画していたりと、シーンによって使い分けはあります。
普段は作画レイアウトを受け取ったあとにCGを後付けしていくフローが多いですが、今回は最初から絵コンテを3DCGで制作することもあり、レイアウトを含めてCGチーム側からの提案も多かった印象がありましたね。
モデリング工程では、最初におおまかな造形が分かるラフモデルを制作後、全体の造形とリグが入ったアニメーションモデルを制作します。その後、ルックデブが終わった状態のレンダリングモデルに仕上げていきます。
アニメーション工程は、カメラワークをつけて全体的な動きを見るレイアウト作業に始まり、キャラクターやメカのモーションを作成、最後は背景に応じてライティングを施し、レンダリング・コンポジットを行ないます。いずれの工程も監督や演出のチェックを経て進行しました。
三次元的なカメラワークを実現するためハイディティールなCG背景の制作に注力
——本作の中で特に注力したシーンを教えてください。
中村:CG背景で力を入れたのは1話冒頭のサイロです。「3Dでカメラワークをつけたい」という理由で、美術から頂いたアート資料をもとにモデリングを行いました。手前の足場に隠れて見えていない奥側のデザインや、モデリングを行うにあたってディティールが足りない部分は追加でデザインの発注を行いました。
松本:基本的にはすべて3Dレイアウトで、サイロの中に落ちていくターミネーターも3Dレイアウトですね。ラフモデルによる骨組み時点からシーンとして成立するように意識して制作しており、撮影処理など後段の作業でカラーコントロールがしやすいよう、黒潰れや白飛びがないよう調整しながらレンダリングを行いました。
松本:ドクロの山のシーンもカメラワークの演出を入れた関係で3D背景になっています。骸骨は、ベースモデルを購入しZBrushで細部を作りこみました。シーン構築は3ds Maxで行っています。レンダリングにはRedshiftを使用しているためGPU負荷は高いですが、GPUのメモリにデータが乗り切ればスムーズなので、特にVRAMが重要なシーンだったと記憶しています。
松本:最後の戦いの舞台となるサーバールームは極めて負荷が高いシーンでした。基本的には美術ボードの再現を目指して制作した上で、監督の意向もありサーバーの光がビルの夜景のように見えるように制作しました。1台ずつハイモデルで用意されたサーバーラックが合計約18000オブジェクトほど配置されており、より精細なディティールとなっています。
松本:全てのサーバーがハイモデルである理由は、カット数(180)が多く、マット画との併用が困難だったからです。このため、標準レンダラーではレンダリングができない状態でした。対策として、10パターンのプロキシ化したデータをパズルのように組み合わせて描画しています。GPUベースのRedshiftでレンダリングを行いました。
——作品の性質からしてハイディティールなCGが多く、全体的にPC負荷が高いシーンが多いように見受けられます。この他にも高負荷なシーンはありましたか?
中村:1話の秋葉原の街を引きでみせるカットは重かったですね。カメラが寄っても使えるハイディティールな自動車と、モブの群衆がCGで描かれています。また、駅のホームの群衆も作画と描き分けがありますが、数も多く解像度も必要だったのでにレンダリングには時間が掛かっています。
松本:最終話のたくさんのマシーンがターミネーターと戦うシーンも、1体1体手作業で配置をしています。マシンスペックが無限であれば何も気にせず作っていけるのですが、現実的にはそうもいかず、今回はアニメーションをキャッシュとして処理するなど負荷軽減を行っています。
大量のハイモデルを3ds Maxで配置していく作業はCPU、プレビューやレンダリングはGPUを使うため、総合力の高いPCスペックが必要になっていました。
ProArtは信頼できるブランド。Production I.Gの機材選定の基準
——普段はどのような基準でPCを選定しているのでしょうか。
塩崎:CPUはIntel最新世代のCore i7、メモリは64GBを基準とし、GPUはGeForce RTX 4070など同世代の70シリーズは必須と考えています。プライマリのディスクは2TB NVMe SSDで、必要に応じてデータドライブを追加します。作業者が手元で行うモデリングやリギング、アニメーション作業に耐えうるスペックかつ、本番レンダリングは社内のレンダーサーバーに頼る想定のスペックですね。
松本:私自身の使用PCは、GPUを重視することからGeForce RTX 3080をデュアルで搭載しています。CPUもIntel Core i9 12900K、メモリ64GB(DDR5)という構成で、他の機種とは異なる性能となっています。
——パーツ選定に優先順位があれば教えてください。
松本:DCCツールはもちろん、After Effectsを含めAdobe系のソフトウェアもGPU依存にシフトしている感覚がありますので、GPU比重は上がっていると思います。ただ、After Effectsで言えばキャッシュを積載するメモリも重要なので、メモリ64GBもマストです。そして、各ツールはCPUでシミュレーションを行うため、CPU性能も求められます。結局は総合的なスペックが必要ですし、担当領域によっても必要な構成は変化します。
塩崎:選定する立場から言えば、電源仕様を確定させるためにGPUは最初に決めています。GPUとCPUは気軽に代えられないため、ここを先に決めないとCPUレーンの制約やマザーボードの選定に影響が出ます。人によってはRTX4090を導入していますが、スペックアップのためのパーツの差し替えを行うのも私の仕事です。全体的な刷新という意味では、3年から5年に1度の入れ替えが目安です。PCは減価償却の期間が定められているため、入れ替えたあともレンダリングサーバーとして回したり、先端的な開発を行わない部署のPCとして割り当てたりと、できる限り活用するようにしています。
——今回使用したWA7J-M242/ZBHカスタマイズモデルは、インテル® Core i9-14900K プロセッサー、PROART NVIDIA® GeForce RTX™ 4080 SUPER搭載と、標準PCに比べて性能が高い機種です。まずは使用感についてのご感想をお聞かせください。
WA7J-M242/ZBH カスタマイズモデル
- CPU
インテル® Core™ i9-14900K プロセッサー
- GPU
PROART NVIDIA® GeForce RTX™ 4080 SUPER
- メモリ
64GB (32GBx2枚) DDR5-5600
- ストレージ
1TB SSD (M.2規格 / NVMe Gen4接続)
- マザーボード
ASUS PROART Z790-CREATOR WIFI (ATX)
- OS
Windows 11 Home
松本:過不足なく作業ができていました。今回はサーバールームのシーンのレンダリングを行いました。レンダリングにはGPUレンダラーのRedshitを使っているので、ライティングなどの作業も素早く行うことができ、作業の引っかかりも全くありませんでした。印象的だったのはファンの静穏性で、レンダリング時も静かで他作業の集中力を乱されることがなかったのが良かったですね。CPUストレステストの結果も良好でしたが、「本当に回っているのかな?」と思うくらいにはクリエイター向けケースの恩恵を感じました。
——ProArt マザーボードについてはいかがでしょうか。
塩崎:マザーボードは将来的な拡張性に関わるため、実際に機材を選定するタイミングで重視して確認したいポイントになります。搭載するパーツの性能をフルに使えるため、PCIe 5.0スロット搭載である点は嬉しいですね。メモリスロット数と対応規格、あとは周波数のカバー域を見ていますが、ProArtのマザーボードはPCIe拡張ボードが充分な性能で使える点がメリットになることと、SDIボード拡張などで業務用モニタと編集機などを連携する使い方も可能になるかもしれません。
ーーその他、使用して気になったポイントはありますか?
塩崎:モニターが非常に使いやすかったです。sRGB100%、DisplayHDR 1400に対応し、1000nit(Peak1600nit)表示ができるため、HDR制作のリファレンスとして活用できると感じました。Thunderbolt 3に対応しており、他の入力形式との接続性が高いことも利点です。
私たちは作業者が用いるディスプレイの色調整を業務として行っていますが、細かい調整ができたり、プロファイルを複数持てたり、そのプロファイルごとにガンマ値を設定できたりすると選定しやすいです。ProArtのモニターは色調整やガンマ調整などの設計が柔軟に行えたため、非常に選びやすい機種だと感じました。
ーーPCやモニター含め、今回「Powered by ASUS」を使用してProArtブランドに対する印象を教えてください。
塩崎:個人使用はもちろん、いま弊社で使用しているPCよりグレードも高いため、困るシチュエーションが思い浮かばないです。このPCと、自分が出したい色のプロファイルを設定したProArtディスプレイを使えば、プロシーンでも耐えうる映像作品が作れるのではないかと感じます。
中村:PCの購入となるとやはりコスト面も気になるポイントです。コストのバランスという観点から見ても今回の使用した「Powered by ASUS」は魅力的だと感じました。安心してお任せできるブランドだと思います。
松本:モニターひとつ取っても種類はさまざまで、技術面に明るくない人は何を選べばいいか分かりません。ProArtが掲げる「クリエイター向け」というコンセプトは、これを買えば大丈夫という安心感に繋がります。間違えてリフレッシュレートが高いゲーミングモニターを買ってしまって、視野角が狭く色がちゃんと出ないということもないですし、これがなんのための製品なのかを示してもらえることは個人クリエイターにとっても嬉しいと思います。
Production I.Gの展望。新たなメンバーを募集中
ーー最後に、それぞれの今後の展望を教えてください。
塩崎:近年の制作では扱うデータ量が増大傾向にあるため、ネットワークの10G化を推進したいです。また、HDR制作についても、今ある作業環境を拡張するかたちで、高解像度の映像表現に耐え得る環境を研究したいと考えています。
松本:PCの性能向上やツールの発達によってワークフローは大きく変わります。Production I.Gは作画の会社ですから、作画に対してCGをどう組み合わせるべきか、より良い協業について、ワークフローの観点から模索を続けたいと思います。
中村:いまは作画チームが作品全体を回していますが、作画とCGのハイブリッドが一般的な現代においては、CGチーム自らが旗振り役としてワークフロー全体を管理するようなアニメ作りが可能になるのではないかと考えています。アニメ制作におけるCG活用は今後も広がり続けるため、これに対応するためにチーム規模の拡大を目指しています。
求人情報
【新卒採用】① CGデザイナー② アニメ撮影/コンポジッター/特効 ※本人のスキル適性を見て業務をアサインします。
【中途採用】③ CGジェネラリスト④ CGモデラー⑤ CGアニメーター⑥ テクニカルアーティスト⑦ アニメ撮影/コンポジッター/特効
TEXT_神山大輝
PHOTO_大沼洋平
INTERVIEW_阿部祐司(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)