クリエイターの権利を守る! 「著作権契約」について知ろう
クリエイターにとって、自分の作品を守るため、そして他者の権利を侵害しないために重要な「著作権」。本記事では、クリエイターと弁護士の対談を通して、著作権に関する契約締結の重要性と、クリエイターが普段感じている著作権に関する疑問を解決!
また、記事の後半では、昨年8月にリブランディングによりアップデートされたAdobe Acrobat Proの電子サイン機能を使った実践的な契約書作成から締結までの流れを紹介します。
小林・弓削田法律事務所 木村剛大氏
弁護士(日本・ニューヨーク州・ワシントンDC)。著作権関連を得意とする。アート・デザイン・エンターテインメント分野に強く、執筆、講演も数多く行っている。著書に「著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本」(ボーンデジタル)。
デイジー 代表取締役 稲垣匡人氏
20名前後のデジタルコンテンツを扱うCGプロダクションの代表。BtoBのクライアントワーク、3DCGを使った作品がメインだが、ゲームからアニメ、VFXや大手エレクトロニクスメーカーのプロトタイプなど扱う業種は多岐にわたる。並行して2014年頃から、オリジナルのデジタルアート作品の制作にも取り組んでいる。
38912 DIGITAL 三宅智之(本記事著者)
デジタルアートを中心とした「ものづくり」が好きな大学生。フリーランスのクリエイターとしても活躍中。主にVFX・3DCGを用いた映像制作・演出を得意とし、撮影・イラスト・デザイン・造形・空間演出なども行う。映像制作歴は15年で、最近は映像の仕事に加えて、CGWORLDのライターやカメラマンを務めるなど幅広く活動している。
クリエイターが知っておくべき!著作権契約とは?
Q:著作権契約は、なぜ必要なの?
CGWORLD(以下、CGW):そもそも著作権契約というのはなぜ必要なのですか?また、することでどういったメリットがありますか?
木村剛大氏(以下、木村):契約はまず、双方の認識を一致させるために必要です。ものづくりの現場だと、契約書なしに作業がスタートしてしまう場面もありますが、終了後に揉めて裁判になるケースも少なくありません。クライアント視点では「これくらい対価を支払ってるから」「想定よりヒットしたのでいろんなコンテンツで使いたい」と考えている一方で、クリエイターは「そこまでは想定して納品していない」「一度のみの利用のつもりだった」など認識がずれてしまうことがあります。契約で条件をきちんと決めていれば、認識のずれをなくすことができますし、万が一揉めたときでも、トラブルへの対処がスムーズにできるメリットがあります。
CGW:クリエイターであるお二人は、これまで著作権契約はどのようにされてきましたか?
稲垣匡人氏(以下、稲垣):クリエイティブ業界のなかでは、契約書が無いことも多々ある印象です。忙しいときは口約束にならざるを得ず、後から辻褄合わせを行うといったかたちになることも多いですね。
三宅智之氏(以下、三宅):企業さんとお仕事する際は、業務委託契約を結ぶことが多いです。契約周りで悩み事が合った場合は、メールなど文面に残る形で相談しています。
CGW:稲垣さんは普段案件を発注する際、外部のクリエイターさんとの契約の締結はどうしていますか?
稲垣:契約をする際は弊社に雛形の契約書があるので、それをベースに納得していただけたらハンコを押していただく、というかたちをとっています。その場合、クライアントさんが権利譲渡を求めるケースが多いため、こちらが発注する外部のクリエイターさんとの契約では原則権利は弊社側に帰属するようにしています。社員に対しても権利は会社に帰属するかたちにしていますが、代わりに両者ともなるべくクレジットを出すようにしています。今後は、NFTあたりを利用してうまく出来ないかと考えているところです。
CGW:お二人はクリエイターという立場から、普段著作権についてどのように考えていますか?
稲垣:著作物はクリエイターの命であり、著作権は重要だという認識があります。契約書に明確に記載されていない限りはクリエイターに帰属するものと認識しています。
三宅:仕事の場合は、契約の著作権の項目に従っていますが、曖昧な場合や既存素材を使いたい場合は都度相談しています。自主制作で素材を使う場合は、それが1次ソースなのか(著作権を持っている人が配布しているのか)と、サイトの規約を確認するようにしています。ただ、素材を探すよりつくったほうが早いことも多々あるので、つくれるものはつくるようにしています。
木村:フリー素材として公開されていても、実はサイト側が権利を持っていなかった、ということもあるので、フリー素材を利用する際のリスク意識は大事ですね。トラブルがあった場合はサイト側に求償することもできますが、特に海外のサイトなどに対してはコストもかかり、求償請求が実際には困難であることもあります。大きなプロジェクトなどでは特に気をつけたほうがよいですね。
CGW:三宅さんは、若いときからクリエイティブな活動をされていると思いますが、著作権を意識し始めたのはいつ頃ですか?
三宅:著作権を正確に意識し始めたのは中学に入ってからです。ただ、小さい頃からものづくりはしていたので、「つくった物を勝手に弄られたくない、勝手に使われたくない」といった著作権や著作者人格権に通ずる感覚は昔からあったと思います。中学生の頃、「誰かのつくったものを使って作品をつくるのは負けだ」と捻くれた考えを持ってた時期がありまして……(笑)。なるべく全部ゼロからつくろうと考えていました。とはいえ音楽など自分がどうしても制作できないものもあったので、そこは逆にどこまでなら良いのかすごく気にしていました。自分の作品の中に他人の権利を侵害したものがあるのが何より嫌だったので……。
Q:CGクリエイターが押さえておくべき著作権のポイントは?
CGW:では、CGクリエイターにとって、著作権契約において押さえておくべきポイントはどんなところですか?
木村:著作権契約では、著作権を譲渡するのか、クリエイターに著作権があり、あくまでその案件のための利用ライセンスなのかといった、著作権がどちらに帰属するのかが大きなポイントです。お金を払ったから権利が当然に譲渡されるわけではなく、基本はつくった人に著作権があります。
稲垣:契約書を交わさずに進めた場合、クライアント側からお金を払ったほうに権利があるよね、といった空気を感じることがありますが、本来はクリエイターに権利があるという認識で良いのでしょうか?
木村:そうですね。裁判例の傾向でも、著作権譲渡に関してはっきりとした合意がない場合はあくまで対価は著作物の利用の対価として扱われることが多いです。著作権法の原則のルールがつくり手帰属なので、何も取り決めがない場合は著作権の帰属という観点ではクリエイターが有利になります。ただ、契約書がなければ細かな事実関係からどういった合意があったのかを裁判所が認定していくことになるので、クリエイターが思っていたよりも広くクライアントの利用が認められることも十分ありえます。
また、映画の著作物、つまり、映像作品の場合には著作権の帰属について特殊な規定があり、映画の製作者に著作権が帰属します(著作権法29条)。「映画の製作者」は、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者とされていて(著作権法2条1項10号)、製作を企画し、資金を出して、法律上の権利、義務や経済的な収入、支出の主体になる者のことをいいます。
著作権法でいう「映画の著作物」は、劇場用映画だけではなくて、テレビCMやゲームなど映像による表現を広く含む概念なので注意が必要です。どの著作物にせよ、契約書で権利の帰属について明確にしておくことが大切です。
稲垣:なるほど。揉めないためには、契約書を毎度取り交わしたほうが良いのは理解できました。ですが現実的に難しい場合もあり……。それ以外にも方法はあるのでしょうか?
木村:ベストプラクティスとしては契約書を結ぶことですね。ただ、契約書までいかなくとも、見積書の下に利用の範囲や著作権の帰属について簡単にでも書いておくことをおすすめしています。そうすると、何に対する対価なのか、支払いの意味がはっきりしますし、トラブルがあった際の大事な証拠にもなります。
三宅:CGクリエイターという職種ならではの契約締結時に決めておいたほうが良いことはありますか?
木村:お話したように、クリエイターは対価に対してどこまでの利用をクライアントに認めているのかを決めておくことが大事です。特に著作権譲渡の項目がある場合は注意が必要ですね。また、成果物に最終的な成果物だけではなく、中間成果物なども含まれるのかも確認しておくとよいですね。万が一のときに備えて損害賠償の上限を対価の総額に限定するなどの責任制限も入れておくことが大事です。それから、そのプロジェクトについてクリエイターの実績やポートフォリオとして公開ができるという内容も契約に入れておくとよいと思います。私がクリエイター側で契約書を作成する場合はよく入れるのですが、クライアント側から断られることはあまりありません。
著作権に関するクリエイターの疑問を解消!
CGW:ここからは、クリエイターのおふたりに著作権契約および著作権の扱いについて、普段疑問に感じていることを木村先生に解決していただきます!
Q:契約書って誰がつくるの?
三宅:そもそも契約書というのは、発注側と受注側、どちらがつくるものなのでしょうか?
木村:契約書は、発注側、受注側のどちらが作るという決まりはありません。発注者である企業側で雛形を用意していることもあるし、受注者であるクリエイター側で用意することもあります。
三宅:もし企業側から契約書の話がなかった場合、クリエイターから契約書を取り交わしたいと伝えた方がいいのでしょうか?
木村:ベストな方法としてはそうですが、スケジュール感もありますし難しいこともあると思います。クリエイター側でも契約の雛形を予め用意しておくとよいかもしれません。ただ、ゼロからつくるのは大変なので、ウェブ上のテンプレートなどを参考にするのもよいと思います。
Q:最終納品物以外にも著作権は発生する?
三宅:業務委託契約で、「作成された成果物の著作権は〜」といった記載があった場合、この「成果物」にはどこまで含まれるのでしょうか。
木村:成果物がはっきりと特定されていない場合は、最終納品物と解釈されることが多いです。もし最終納品物以外も、成果物として取り扱うつもりであれば、予め契約書の中で「中間成果物も含む」など、特定するほうが安全ですね。なお、著作権は作品として完成していなくても創作的な表現であれば発生しますので、中間成果物も著作物であることに変わりはありません。
Q:著作権を譲渡した後も許可を求められたが、法律上も必要?
三宅:それから、以前著作権譲渡の契約で作成したCGモデルについて、「他のプロジェクトで流用していいか」とクライアントから聞かれたことがあったのですが、本来は向こうは許可なしで使ってもよいはずですよね……?
木村:そうですね。あくまで契約とは別の、礼儀としての連絡だと思います。著作権譲渡の契約であれば、本来権利者(ここではクライアント側)は他のプロジェクトでもCGモデルを自由に利用できます。
Q:双方が著作権をもつことは可能?
稲垣:著作権をクライアントとクリエイターの双方で保有することは可能なのでしょうか?
木村:理論的には可能ですが、おすすめはしません。著作権を共有すると、利用するために原則として全員の合意が必要なので(著作権法65条2項)、意見が一致しないと誰も使えない状況になりかねず、使い勝手は悪いです。
Q:二次創作はグレーゾーン?
三宅:契約とは話がずれてしまうのですが、二次創作における著作権について、SNSでたびたび議論がなされているのをよく見かけます。おおよそ二次創作はグレーゾーン、黙認、といった形で説明されることが多いと感じますが、これは正しい認識なのでしょうか?
木村:グレーゾーンという意味では正しいです。理論的には著作権侵害になるリスクもあるという言い方になりますが、実際には権利行使されないケースも多いです。二次創作の許諾を求められたらNOと言わざるを得ないとか、権利行使をどんどんしていく権利者もおり、スタンスは著作権者によって様々です。二次創作が宣伝になる側面もあり、黙認されていることも多いです。
三宅:クリエイターは、二次創作をしないほうが良いのでしょうか?
木村:しないほうが安全といえば安全ですが、本当にやりたい人はリスクがあってもやるので。事実上リスクを減らす対策としては、元の作品に対するリスペクトを示したり、特定の著作権者の作品だけを利用するのではなく、様々な著作権者の作品を利用することで事実上のリスクを分散したり、ウェブや広告には載せずに会場配布だけにしたりする、といった方法が考えられます。
稲垣:アートの世界では、ミッキーマウスやマクドナルドが資本主義の象徴のような形で批判の対象として使われることが多々ありますが、訴えられた事例をあまり聞いたことがありません。一方、商用的な分野ではかなり厳しいところが多いように感じているのですが、この境界はどこにあるのでしょうか?
木村:市場で競合するかは大事な視点です。一点もののアートは通常は競合しなくても、たとえばその作品をコップにプリントして売り始めたら市場で競合しますから、著作権者としても権利行使するほうに傾くでしょう。
稲垣:市場で競合しなくても、権利行使してくる権利者もやはりいるのでしょうか?
木村:本当にこれは権利者のスタンス次第ですね…。さほど大規模ではないアートプロジェクトで、市場で競合しなくても権利者から通知書が届くこともあります。
稲垣:パロディやオマージュとパクリの違いはどこにあるのでしょう?
木村:パロディやオマージュだからセーフということではなく個別の作品の内容によるので難しい話ですが「表現として」元作品と類似するかどうかが一つの判断基準です。「これは〇〇だ」といったように多くの人が元となった著作物を想起するから著作権侵害でアウトというわけではありません。あくまでオリジナリティのある「表現」部分が一致するかどうかです。オマージュで安全策を狙うなら、類似にならない形で元ネタが分かるように表現することですね……。
三宅:映像分野だと、背景のビルを作るときに、看板のロゴデザインをそのまま使うのか、パロディロゴにするのか、それとも全く異なるデザインにするのか、対応が分かれることが多いのですが、これはどう考えるのが良いのでしょうか?
木村:全く異なるデザインや、それっぽいロゴくらいが安全です。中途半端に変更すると著作権侵害、著作者人格権(同一性保持権)侵害の問題が出てきますので。そのまま使う場合も背景の一部に映り込む程度であれば基本問題ないですが(著作権法30条の2)、それよりトラブルになった際にすぐ修正できるかどうかを重視したほうがよいと思います。
Q:実際の街並みをスキャンして使用してもいい?
三宅:「クリエイターのための権利の本」ではスカイツリーについての項目がありましたが、実在の街並みや民家を公道から3Dスキャンして使ったり、スキャンデータを販売したりすることは可能なのでしょうか?
木村:公道からであれば、理論的にはスキャンも販売も可能です。建造物の外観(内部を除く)や、外に設置されている美術作品などは、著作権法46条により原則として自由に利用できます。ただし、建築をそのまま建築により複製することはできません。また、美術作品をポストカードに印刷して販売したりするなど、専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製したり、複製物を販売したりすることもできません。その他の著作物が写る場面でも、著作権法30条の2(付随対象著作物の利用)が適用できることが多いと思います。
三宅:「うちのビルが勝手に使われている」といったトラブルの事例はないのでしょうか?
木村:文句を言われることはあるかもしれませんが、法律上は問題ないケースが多いです。私道の敷地内での撮影は許可が必要なことがありますが、公道なら許可を取る必要はありません。ただし、公道からでも家の中や下着などが映ると、プライバシー権の侵害になるケースはあります。
三宅:人が写るときには肖像権が問題になると思いますが、判断基準はありますか?
木村:総合考慮型といって、いろいろな事情を考慮して、我慢すべき限度を超えてるか超えてないか、といった考え方になります。点数式で判断するためのガイドラインとして、デジタルアーカイブ学会により「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」が公開されているので、こちらは参考になると思います。
Q:パブリックドメインなどの著作権の切れた著作物に所有者がいる場合の扱いは?
稲垣:著作権の切れているパブリックドメインの作品に所有者がいた場合、所有者に問い合わせたほうがよいのでしょうか?
木村:写真を撮影して複製するなど著作権の範囲の行為をする場合、パブリックドメインの作品であれば、所有者から許可を得る必要はありません。ただ、所有者が原作品を保管していて、高精度でデジタル化するために原作品を貸してもらう必要があるようなときは、所有者に許可を取る必要がありますね。
稲垣:もし著作権切れの作品の中に、現在も著作権が続いている企業のシンボルマークやキャラクターが入っていた場合は、どのように考えるべきなのでしょうか?
木村:一部に小さく写り込んでいるような場合は、著作権的には問題ないですし(著作権法30条の2)、通常は商標としての使用にもあたらないと思われます。
Adobe Acrobat Proを使用した契約締結までの流れを解説!
CGW:近年、契約はデジタル上で行われることも増えてきたようですが、稲垣さん、三宅さんは電子サインを行ったことはありますか?
稲垣:大手企業とのやりとりでは最近8~9割が電子サイン化してきたので弊社も電子サイン化したいと考えており、大変興味があります。紙だと印刷や保管など何かと大変ですが、電子サインなら簡略化出来るうえに印紙が必要ないというメリットが大きいなという感覚です。
三宅:私の周りではまだ紙ベースのやりとりが多くて、電子サイン自体これまで数回程度しか経験がないです。とはいえ、興味はあります。
CGW:ではここからはアドビの昇塚さんに、Adobe Acrobat Proの電子サイン機能を使った契約締結の流れをご説明していただきたいと思います。
昇塚淑子氏(以下、昇塚):よろしくお願いします。まず、Acrobat Proは昨年8月にリブランディングを行い、電子サイン機能が強化されています。以前は電子サインの送信数に制限がありましたが、リブランディングに伴ってその制限がなくなり使い放題になりました。また、一括送信やウェブフォームを作る機能が新しく使えるようにもなりました。Adobe Creative Cloudコンプリートプランをご利用のお客様であればプランに含まれるAcrobat Proにてご利用いただけます。
昇塚淑子氏
アドビ株式会社
パートナーアライアンスマネージャー
昇塚:ここから、実際に契約書のテンプレートを使用してAcrobat Proを使用した契約書締結の流れを説明していきます。
今回使用した契約テンプレート:
文化庁「著作権契約書作成支援システム」で作成した「ビデオ(会社のイメージ映像、社員研修用の映像等)の作成」ひな形
pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template
※なお、注意事項として、「このシステムは、著作物の創作や演技・演奏等の実演を職業としない者とその利用を職業としない者の契約(一般人どうしの契約)を想定して開発されています。」とありますので、ビジネスで使用する際にはご自身の責任で使用しましょう。
昇塚:左上の[ツール]パネルから、[電子サインを依頼]をクリックし、[この文書に電子サインする受信者を追加]画面から署名者のメールアドレスを指定して、[署名場所を指定]ボタンをクリックしてください。
昇塚:画面の左側に文書に配置するフィールドの一覧が表示されますので、[署名]フィールドを選択してドラッグアンドドロップで文書上の署名欄に配置してください。署名フィールドの他にも、[テキストフィールド]や[チェックマーク]、[ドロップダウン]などさまざまなフィールドを追加できます。
昇塚:フィールドはプロパティで細かく制御も可能です。署名フィールドの配置が完了したら[送信]をクリックします。
昇塚:これで、双方のメールアドレスに署名依頼が届きます。さらに、署名を完了すると、最後のページに「いつ送信して、誰がいつサインした」という履歴情報のページが追加されます。これが法的な証拠性を担保する一つの材料となります。加えて、書類には変更ができないようにロックがかけられ、不正がないということをアドビが担保する証明書も付与されます。
稲垣:これは税務署などが来たときにも、公的な書類として使えるものなのでしょうか?
昇塚:はい。使えます。電子帳簿保存法の本格的な運用が始まると、電子で締結されたものは電子で保存しなければならないという制限がつきますが、そちらでも利用していただけます。
三宅:もしアドビさんがこのサービスをやめてしまった場合はどうなるのでしょうか。
昇塚:よく頂く質問ですね。Acrobat Proのライセンス契約をお客様がお持ちである限り保存することは保証していますが、契約が切れてしまうと保証の限りではないので、その際はダウンロードしていただく必要があります。
稲垣:PDFとしてダウンロードした場合でも、公的な書類として扱えるのでしょうか?
昇塚:はい、履歴も付いた状態で改竄防止されたPDFになりますので、マスターとして保管していただければ問題ないです。ただ、電子帳簿保存法では細かい保管方法なども規定されておりますので、別途確認していただければと思います。
稲垣:今後、電子ハンコに対応する予定はありますか?
昇塚:アドビとしてハンコの印影イメージの作成機能を提供する予定はないのですが、ご自身で印影のイメージファイルを用意していただいて、署名のときに付与することは可能です。
CGW:デジタル署名と電子サインというものがありましたが、何が違うのでしょう?
昇塚:デジタル署名というのは、認証局という正式な証明書発行機関が発行する電子証明書を用いて署名するもので、電子の世界では実印相当の効力があります。実印登録をするように、事前に身元が確認された上での署名になります。いっぽう電子サインのほうは、法的な効力はありますがメールアドレスで認証する簡易的なものです。契約内容の重さによって選んでいただければと思います。
稲垣:では電子サインのほうは、アドビさんの規格なのでしょうか?
昇塚:電子サイン自体は標準的なものですが、メールアドレスや電話など対応する認証方法が各社異なります。サービスプロバイダであるアドビが立ち合い、正しい署名者であることを認証した上で署名しましたという仕組みになっています。どちらも法的に有効で契約書でも使えるものですので、状況に応じて署名のレベルを使い分けることをおすすめします。
CGW:ありがとうございました。
著作権トラブル解決のバイブル! クリエイターのための権利の本
本記事にて解説いただいた木村弁護士監修の書籍。
プロ・アマを問わずクリエイターやコンテンツ制作に従事する方が知っておかなければならない権利や法律について、具体的に「やっていいこととやってはいけないこと」「トラブルになってしまった時の対処方法」を紹介しています!
TEXT_三宅智之 / Tomoyuki Miyake(@38912_DIGITAL)
ILLUSTRATION_中川裕介 / Yusuke Nakagawa(CGWORLD)
EDIT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)