『断崖のカルム』を開発中の埜々原氏がGIGABYTEのノートPC「AORUS 15」をインディーズゲーム開発の視点からレビュー!
美しい箱庭感が独特の魅力をもつ3D探索アドベンチャー『断崖のカルム』を開発中のコンセプトアーティスト・埜々原(ののはら)氏。イラストレーターやゲームクリエイターとして活動する同氏に、GIGABYTEから発売中のハイエンドなゲーミングノートPC「AORUS 15」を、普段のゲーム開発の工程を想定しながら、コンセプトアートを描く/ゲーム開発/ゲームのプレイの3つのポイントに注目して現在使用中のメイン機と比較検証してもらった。
コンセプトアートを描きつつゲームも開発、埜々原氏の求める開発環境とは
――まず自己紹介をお願いいたします。
埜々原:コンセプトアーティスト、イラストレーターの埜々原と申します。2021年から本業のコンセプトアートと並行して、ゲーム開発を開始しました。私自身はデザイナーの1人として作業を行いながら、企画・ディレクションも担当しています。
埜々原(ののはら)氏
コンセプトアーティスト、イラストレーター。ゲーム業界での背景デザインやロゴデザインの業務を経て、21年よりフリーランスとして活動。現在、有志メンバーと共に自主制作ゲーム『断崖のカルム』を開発中。
X(旧Twitter)@s_nonohara
――現在開発されているタイトル『断崖のカルム』についても教えてください。
埜々原:『断崖のカルム』は、3D探索アドベンチャーゲームです。自分はコンセプトアーティストなので、その強みを活かした特長的な世界を構築しています。その中で、没入感をもって楽しんでもらえたら……、と思いながら開発しています。現在はデザイナー2名を含む合計4人体制でして、使用機材としてはデザイナーの2人はWindowsPC、エンジニアはMacbookProを使用しています。ゲーム開発のツールとしてはでは、Unity、Blender、Photoshopなどがメインになっています。
――埜々原さんが普段開発用に使用しているPCスペックについて教えてください。
埜々原:僕がメインで使用しているPCは、CPUはAMD Ryzen 9 3950X(16コア32スレッド)、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060、メモリは64GBというモデルです。約2年前に購入したモデルなので、若干古くなってきたなという感じですね。
AORUS 15
- CPU
13th Gen Intel® Core™ i7-13700H Processor 5.0 GHz
- RAM
DDR5 16GB 4800MHz動作、2スロット使用(空きなし)、最大64GB(※今回の検証機は32GB)
- GPU
Intel® Iris®Xe Graphics NVIDIA® GeForce RTX™ 4060 Laptop GPU 8GB GDDR6
- ストレージ
1TB M.2 PCIe Gen4 SSD
埜々原氏メインPC(デスクトップ)
- CPU
AMD Ryzen 9 3950X 16-Core Processor 3.5 GHz(16コア32スレッド)
- RAM
64GB(DDR4)
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 3060
- ストレージ
NVMe M.2 SSD 500GB/HDD 2TB/HDD 3TB
――普段の作業をする中で、PCを選ぶ際に重視するポイントはどこでしょうか? また、その理由も教えていただければ。
埜々原:普段はコンセプトアーティストとして絵を描いているので、重要なのはその作業が“ちゃんとできる”ことですね。特にCPU、GPU、メモリの3つは全部大事です。
――と言いますと、具体的には?
埜々原:例えば、Photoshop作業はCPU依存が大きいので、ゲームのキービジュアルなど解像度が大きな画を描く際には、やはりCPUの速度がモノを言います。10,000×5,000ぐらいの解像度は普通で、20,000×8,000ピクセルといった案件もありました。それくらいになると、この既存のデスクトップ環境でも処理が追い付かずカクつくこともあります。またGPUのスペックは、UnityやBlenderを使ったゲーム制作において必要不可欠。『断崖のカルム』は3Dアドベンチャーなのでなおさらですね。あとは研究のために最新のゲームを触るのも大事なので、一定以上のGPUは必須です。メモリについては、Photoshopをなめらかに動作させるためには最低32GBは必要で、余裕をもたせて64GBを選択しました。
――コンセプトアートを描く/ゲーム開発/ゲームのテスト、という3つの基準で選んでいるんですね。
埜々原:そうですね。その全部をこなせないと仕事に関わりますので。
メインツールで実践検証! 持ち運べるノート型で、デスクトップ機にも勝る性能を発揮
――今回はノートPCの検証をお願いしたわけですが、普段はノート型は使用されていますか?
埜々原:ゲーム開発の作業は基本的にデスクトップPCで行なっていて、あえてノートPCを使うことはないのですが、ゲームイベントなどへの出展時には必要になりますね。現在、展示用にGeForce RTX 3060搭載の中古ノートPCを購入し、実機展示に使っています。それにイベントが数日間にも渡る場合、ホテルに戻ってからそのノートPCでバグ修正することもあるので、ノートPCであっても普段のスペックとあまり変わらないものが欲しいですね。
――ノートPCにもやはり性能は求めているわけですね。今回そういった高性能さへのニーズがある中で、ゲーミングノートPCである『AORUS 15』を検証していただきましたが、まずはUnityでの作業についてはいかがでしたか?
埜々原:結論からいうと、求めている以上の性能を発揮してくれました。最初はUnityでのマップのレイアウト作業をしてみたのですが、余裕で動きました。むしろ既存のメイン環境(デスクトップ)より速いくらいです。カクつきもしないし、サクサク動いていてノートなのにパワフルなPCだな、と。C#コード更新(変更内容をゲームの再生に反映する)の待ち時間も、メイン環境との差は1〜2秒の差でしかなく、何をするにもとにかく速かったです。
――いつもの環境と同じかそれ以上の速度感ということで、出先でもストレスなくゲームの修正ができそうですね。
埜々原:それは間違いないです。それにUnity上で直接ゲームを再生してプレイするのって、基本的に重い処理なんですよ。なのでそのときのFPSを比較してみたのですが、AORUS 15は基本45~55fps、最大60~70fpsほど出ていて、メイン機だと基本40~50fps、最大が60~80fpsという感じでした。若干ですが、既存のデスクトップ環境より速いくらいでした。
――それはGPUの世代が変わって、RTX 4xxx番台になった恩恵が出ていそうですね。
埜々原:モバイル仕様のGPUは速くないというイメージをもっていましたので、正直予想外の高性能で驚きました。加えて、重い処理のテストとして、ゲームマップへのライトのベイク(※①)と、Unityからのゲームのビルド処理(※②)もしてみました。これらのテストでも、AORUS 15のほうが概ね速かったですね。ほとんどの場合で、デスクトップのメイン環境より速かったのは正直驚きです……。
①:Unityでのマップのライトベイク速度比較
②:Unityからのビルド
――では、Blenderでの作業についてはいかがでしたか?
埜々原:そもそも『断崖のカルム』のキャラクターは、大体2,000~5,000ポリゴンの軽いモデルを主体としているので、モデリング作業は余裕です。重い処理としては、アンビエント・オクルージョンのベイクや影のベイクなどですね。BlenderにはGPU処理によるベイクとCPU処理によるベイクがあるのですが、AORUS 15はGPU処理を使えば、メイン機より倍くらい速かったんですよね(※③)。正直、驚きました……。CPU処理については、さすがにメイン機の方が速かったですが(※④)、GPUがあるのにわざわざCPUを使うことはありませんし、とにかくBlenderやUnityを使う分には、申し分ない性能だなという印象です。
③:GPUでのAOベイク処理
④:CPUでのAOベイク処理
――ゲームプレイは何かされてみましたか?
埜々原:研究用に最新ゲームをやってみるというのはよくあるので、今回あえて重めで最新の『Starfield』(Win/Xbox Series X、S)で遊んでみたのですが、余裕でプレイすることができました。画質設定が4段階くらいあるんですが、最高画質設定で30~40fpsくらい。少しフレームレート的に厳しい場面もありましたが、普通にプレイできましたね。研究用にゲームをする、という用途としては充分なスペックかなと思いました。
――その他に触ってみて検証したことはありますか?
埜々原:あとはテクスチャリングですね。Photoshopを使っていて想定できるシチュエーションとしては、iPadをつないで、液晶タブレットのように使うといった場面です。これも、Photoshopの動作は余裕でサクサク作業できました。また、ゲーム開発では、基本的にPhotoshop、Unity、Blender、この3つのソフトは常に立ち上げておき、テクスチャを描いてモデル書き出してゲーム再生して……、みたいに3つをぐるぐる回って作業をしています。それも今回実践的にやってみましたが、普通にこなせたのでかなりパワフルだなと感じました。
――その使い方は、メモリ的に結構大変かなという印象ですが、その辺りはどうでしたか?
埜々原:クリエイティブ用途で32GBだとギリギリ感があると思いますが、いろいろ立ち上げた状態でのメモリの占有状況としては30%弱程度でしたので、『断崖のカルム』くらいのビジュアルの重さのゲーム開発なら回るな、という感じでした。Chromeで40個タブを開いて調べ物をしたり、その上でさらにUnity、Blender、Photoshopを立ち上げても問題なかったので、自分自身がゲームを作るということに関してなら問題ない印象ですね。
――ありがとうございます。この作業で「AORUS 15」のスペックが活きた、といったエピソードはあるのでしょうか?
埜々原:ライトをテクスチャとして焼き付けるベイク作業は頻繁にやるので、処理に時間がかかると大変ですが、それがすごく速いのはありがたかったです。ゲームのビルドも、やらないと出てこないバグがあるので何十回と行います。それが34秒ほどで終わるのは非常に助かります。ちなみに、いま自分がイベントで使っているノートPCでビルドすると、1回5分ほど掛かるんです。それに比べれば、圧倒的に試行錯誤が速くなりますよね。
――GPUの進化はゲーム開発にとってかなりのメリットをもたらしていますね! そのほか、開発作業以外で気になったスペック上のポイントはありますか?
埜々原:AORUSって液晶画面がすごく綺麗ですよね。一般的なノートPCの画面って、解像度が1,920×1,080がほとんどだと思いますが、AORUS 15は2,560×1,440でひと回り解像度が高い。発色も綺麗で、ゲームがより良く感じてもらえると感じました。イベントのデモ展示なんかで活用するには、まさに適材かもしれませんね。
クリエイティブワークにも向く充分な性能、ゲーム開発の取っ掛かりから本格活用までがっつり使えるゲーミングノート!
――普段、制作環境としては、ノートPCは使用されていないということでした。今回、実際使ってみていかがでしたか?
埜々原:ノート型をメインに使っていなかった理由としては、デスクトップと比べてやはり性能は高くないだろう、特にグラフィックス的には快適に使えないだろう、という思い込みがあったんですよね。ところが、実際に使ってみるといまのメイン機よりも動作が軽快で、クリエイティブ用途に使っても快適、ということに非常に驚きました。この性能であれば、自宅で据え置きしておいて、かつたまに持ち出しもできる“メインマシン”としても、充分使える性能だと感じました。
――ノートPCに対する固定概念がいい方向に覆されましたね! そのほか、ストレージ容量は問題はありませんでしたか?
埜々原:Photoshopデータのような中間データを含まないプロジェクトファイルだけなら、1TBあれば開発のスタートからリリースまでもっていけるかなと思います。今回も検証用に『断崖のカルム』の開発データを入れてみましたが、占有容量は300GB弱くらいで、空き容量を考えても、そのまま開発を続けて、しばらくは問題なさそうです。M.2 PCle Gen4の空きスロットもあってSSD増設も可能なので、大きな問題はなさそうですね。
――「AORUS 15」は本来ゲーミングPCですのでキーボードが光りますが、そういった装飾的なことについてはどうですか?
埜々原:これまで光るといったことに対して考えたことはなかったんですが、改めて持ち出せるノートタイプである、というところに着眼してみると、ゲームイベントの会場は暗い照明になることが多いため、イベントのワクワク感が演出できて良いのではないでしょうか。確かにいま思えば、出展者さんで虹色に光るようなPCを持ち込んでいる方々は結構いましたね。良い意味でデモ機としてはゲーミングっぽさが出てプラスになりそうです。
――これに今までゲーミングPCを制作向けに使う、という考えはなかったと思いますが、今回の検証を経て、改めてゲーミングPCについての考えなどを聞かせていただけますか?
埜々原:ゲーミングPCとして買う、というよりは、3Dのゲームが動いて開発ができるようにPCを組んでいくと、結局ゲーミングPCと似たスペックに落ち着くことになる、ということだと思います。ただゲーミングPCならではだと感じた点で言うと、AORUSには「Gigabyte Control Center」という液晶の色味やキーボード設定なんかをカスタマイズできるアプリケーションがあって、それが結構便利でしたね。「クリエイターモード」「ターボモード」「ゲーミングモード」といったプリセットからすぐモード変更ができて、そこからさらに自分でカスタマイズ登録もできます。
――場面に応じて自分好みの細かな設定ができたりするのは嬉しいポイントですね。
埜々原:ここで設定できる項目がかなり多くて、キーボードのライトの強さや色も変更できたり、グラフィックスの出力をGPUから出す/CPU側から出すなどの設定や、ファンコントロールといった細かい部分のパフォーマンス設定まで調整できる。環境に合わせて「家で使うモード」「外出時のモード」といった自分なりにカスタマイズしてプリセット登録しておけば、かなり便利に使えそうに思えました。
――まとめとしては、「AORUS 15」はどんな場面で活用できそうでしょうか? またどんな人にオススメできますか?
埜々原:AORUS 15は、CPUもGPUも最新の環境に対応していて、どこかに特化というよりはバランスが良いのが特長と感じました。制作環境を1台にまとめてどこでも共通環境で使いたい人、メインは自宅だけど頻繁に持ち出して外でも作業したい人などには最適ではないでしょうか。それに、最新ゲームも動くだけのスペックもありますし、ゲームを楽しみたいとか、その先にこれからゲーム開発をやっていきたいという学生さんなんかにはいい選択肢になるはずですよね。
――ありがとうございました。最後に現在開発中の『断崖のカルム』について楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
埜々原:現状の開発状況はまだまだ20%くらいで、絶賛開発中です。イベントでのフィードバックを受けて、企画を練り直したり、シナリオの調整をしたり、ゲームのプレイをよりよくする調整を進めているところです。リリースに向けて頑張って制作していますので、ぜひお待ちいただけたらと思います! 応援よろしくお願いします!
断崖に暮らす人々を描くアドベンチャーゲーム『断崖のカルム』
『断崖のカルム』インタビュー記事:
<連載>日本のインディーゲーム開発者の現場から
第2回:「建築萌え」の埜々原氏が描く『断崖のカルム』。独特の世界観構築にUnity、Blenderを活用
お問い合わせ先
日本ギガバイト株式会社
www.gigabyte.com/jp
製品詳細はこちら
www.gigabyte.com/jp/Laptop/AORUS-15--2023/sp#sp
TEXT_Takahide Yamase (との)、Sadamu Takagi
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_柳田晴香 / Haruka Yanagida、海老原朱里 / Akari Ebihara