2023年10月6日~7日、お題発表から応募締め切りまで23時間、タイムアタックCGコンテストの「思い出CGグランプリ」を「CGWORLD JAM ONLINE 2023」にて開催。ModelingCafe松本龍一氏の『ドルフィンライド』が最優秀賞を獲得した。今回はその松本氏に、限られた時間内での制作プロセスや効率化のポイントなどを聞くとともに、景品として贈呈されたマウスコンピューターのノートPC「DAIV S4-I7G60CB-B」の魅力についても語ってもらった。
モチーフはメキシコで体験したイルカとの思い出
CGWORLD(以下、CGW):改めて、「思い出CGグランプリ」での優勝おめでとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
松本龍一氏(以下、松本):現在はモデリングに特化したCG会社のModelingCafeに所属しており、今年で10年目。数ヵ月前までの4~5年間はバーチャルヒューマンのプロジェクトを中心に携わってきましたが、現在はキャラクターモデリングチームを統括するスーパーバイザーを務めています。手がけた作品としては、少し前ですが映画『キングダム 運命の炎』の制作に参加し、群衆のモブシーンで騎兵の顔のCGなどを担当しました。
CGW:優勝作品『ドルフィンライド』は複数の審査員から高い評価をいただきました。今回の「思い出CGグランプリ」に参加しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
松本:自分は一つの作品に対してモチベーションをあまり長く維持できない方なので、時間をかけてじっくりとCGを制作するよりかは、短期間でササっと作り上げる方が性に合っていると以前から思っていました。だから、そういった点が今回のコンテストにマッチしていると感じて応募しました。
CGW:今回のコンテストでは、「楽器、乗り物、文房具、おもちゃ、家電、お菓子」という6つのお題から1つを選択し、“思い出”をテーマにそれをCGで表現。さらに、その背後にある思い出やエピソードも投稿するというものでした。松本さんはドルフィンライドをモチーフに選ばれましたが、どのような経緯でこれを選ばれたのでしょうか。
松本:元々自分は帰国子女で、小学校の1年生から6年生までをアメリカのイリノイ州シカゴで過ごしていました。当時、両親はいろいろな場所へ旅行に連れて行ってくれたのですが、その時の思い出の1つにあるのがメキシコのリゾート地であるカンクン。そこでイルカと触れ合えるアクティビティに参加し、そのメインイベントとして楽しんだのが、イルカの背びれをつかんで一緒に泳ぐ「ドルフィンライド」でした。イルカは子ども相手でもかなりのスピードで泳ぐので振り落とされないように必死でしたが、普段ではなかなか体験できない魅力的な思い出でした。
松本:ただ、このドルフィンライドの思い出をすぐに思い付いたのかといえばそんなことはなく、最初はメキシコということさえもおぼろげな感じでした。ただ、今回のコンテストへ参加するにあたり、自分としては時間をかけて見た目にこだわるよりも“アイデアにこだわった方が良いのではないか”と考えていたので、昔の写真をひたすら見まくって熟考したんです。すると、このドルフィンライドの記憶を鮮明に思い出したので、これをモチーフに採用したというわけです。
CGW:では、お題から“お菓子”を選んだ理由は?
松本:じつをいうと、アイデアとして先に決めたのは“お菓子”の方なんです。というのも、最初は安易に「子どものころの思い出=ハロウィン」を思い浮かべたため、近所の家々を訪問してもらったお菓子を何らかのモチーフにしようと考えたからです。しかし、それだけでは「アイデアとして弱い」と感じたので、そこからドルフィンライドにシフトしつつ、昔よく通っていたキャンディーショップの記憶も織り交ぜながら“お菓子”を組み合わせたという流れがありました。
制作時間は実質6時間!? 募集開始から締め切りまでのタイムスケジュール
CGW:今回の作品制作に関して、使用したDCCツールを教えてください。
松本:MayaとZBrush、レンダラーはArnoldを使いました。ZBrushはイルカやコーラに利用しました。ちなみに、レゴブロック形状のラムネだけはMayaでポリゴンをモデリングしました。
CGW:今回は制作時間がわずか23時間と非常に短かったわけですが、タイムスケジュールはどんな感じでしたか。
松本:まず、お題が発表されたのが14時でしたが、当日は平日の金曜日だったので、夜の7時半ぐらいまでは普通に仕事をしていました。ただ、そこからもいろいろあったので、帰宅してようやく制作に取り掛かれたのは夜10時ごろでした。
そこから、先ほどお話しした経緯のように、最初はハロウィンのお菓子をモチーフにして何となくモデルを作り始めました。しかし、アイデアがちょっと面白くなさ過ぎてモチベーションが下がってしまったので、いったん寝ることにしました(笑)。それが深夜の2時ぐらいですね。
松本:そこから3時間ほど寝て、起きたのが朝の5時ごろ。「アイデアが面白くない」という点がずっと引っ掛かっていたので、思い切って「アイデアを練り直そう」と決めて昔の写真を見直しました。さらに、「ここが一番の肝だ!」と感じていたので、それから2時間ぐらいは思案し、ようやく作品に対するプランニングが完了したという感じです。
ここまで来て、いよいよ実制作がスタートしました。幸い、コーラのグミのモデルは寝る前にハロウィンのモチーフとして多少は作ってあったのでそれを使用することにし、まずは主役のイルカのグミのモデルを作成しました。さらに、構図のイメージは何となく決まっていたので、それを踏まえてイルカとコーラのグミを配置して足りない要素を確認。キャンディーショップでよく購入していたレゴブロック形状のラムネのモデルを新たに制作し、それもシーンに加えたころには昼の12時ごろになっていました。
松本:ここで、念のため締め切り時間を確認したのですが、お題の発表が14時だったので提出締め切りもてっきり翌日の14時だと思い込んでいたら、まさかの13時とわかってかなり焦りました。残り1時間ではライティングや配置などの練り込みを行う時間がほとんどとれず、何とかレンダリングまでこぎつけたときには残り10分程度。その後は無事提出できたので、本当に滑り込みセーフという感じのスケジュールでした。
CGW:となると、実際に手を動かしていた時間はおよそ6〜7時間・・・。かなりタイトだったと思いますが、もしもう少し時間があったとしたら、どのあたりにもっと時間をかけたかったですか?
松本:ライティングにはもう少し手をかけたかったですね。というのも、最初の構想ではコースティクスを入れる予定があったからです。それで光の“ゆらめき”や“きらめき”を表現し、海の中を泳いでいるような雰囲気をもう少し出したかったのですが、全体的な構図のバランス調整まで含めるととても時間が足りませんでした。
今後はHoudiniを習得してさらなる効率化をはかりたい
CGW:今回、作業面で何か時短になるようなテクニックなどは使いましたか?
松本:例えば、今回のコンテストは推奨の画像解像度が「左右、上下それぞれ3000pix以上」だったのですが、これだとかなり高解像度なので、レンダリングにはそれなりの時間を要するだろうと思いました。そこで、解像度を推奨よりも少し下げるとともにデノイザーも使用。これで、完成前のレンダリング時間を約4分に短縮することができました。もちろん、これをやるとディティールが簡素になり品質が落ちるので実際の業務では使えませんが、趣味でやっているCG制作では普段から使っていた手法なので、かなり役立ちました。
CGW:そのほかに、作業を効率化するような手法などは考えましたか?
松本:まだ使いこなせる状態ではなかったので今回は活用できませんでしたが、Houdiniを使えば、いまよりもいろいろと効率化できるのではないかと考えています。
例えば、これまでに自分が作ってきたアセットを財産とし、その後の制作に活用できるような環境を構築できれば、結果的にそれが作業の効率化にもつながるはずです。しかし、現状のMayaは単純な流用であれば可能ですが、既存のアセットにバリエーションを持たせたり改良を加えたりすることに対しては、なかなか難しい状況にあります。
一方でHoudiniは、USD(Universal Scene Description)を用いてシーン構築の作業を包括的に管理・運用できる「Solaris」という機能を搭載。USDに早くから対応して最適化されており、既存のアセットを財産として扱うベースツールとしては優れていますし、将来性も感じているところです。
CGW:他のDCCツールと比較して、Houdiniは扱いやすいと感じますか?
松本:実際に、モデルの頂点を動かす作業で検証したところ、動作がとても軽いと感じています。この作業する場合、頂点を大量に動かすと計算で処理が重くなるのですが、1000万の頂点を動かして処理完了までにかかった時間はMayaが約10秒、Blenderは10~15秒前後かかりました。これに対して、Houdiniは1秒とかからずほぼリアルタイムで動かせるくらいの違いがありましたから、かなり軽いことは間違いありませんね。
DAIV S4-I7G60CB-BならMayaもHoudiniも問題なく使える
CGW:今回の制作では、どのようなPCで作業しましたか。
松本:自宅にある自作のデスクトップPCを使いました。スペックは、CPUが「インテル Core i9-13900KF プロセッサー」、GPUが「GeForce RTX 4090」、メモリが128GBとなります。親の影響で中学生のころからPCは自作しているので、自宅のPCはすべてにこだわっている感じです。
CGW:非常にハイスペックなPCですね。今回、かなりスピーディに作業できたのは、機材面も大きなポイントに上げられそうです。そんなこだわりのハイスペックPCがあることを踏まえつつ、今回景品として贈呈されたマウスコンピューターのノートPC「DAIV S4-I7G60CB-B」の使い勝手はどうしてしたか?
松本:個人的に、「ノートPCを持ち歩き、外出先でもCG制作をこなす」というスタイルには以前から興味がありました。だから、ペン入力も可能な他社のタブレットPCなどを購入したことも何度かあるのですが、グラフィックカードが非搭載など、スペック不足が否めず、実利用で満足感を得ることはできませんでした。
松本:一方、「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載するDAIV S4-I7G60CB-Bはとてもパワフルで、そういったスペック不足は特に感じていません。MayaやHoudiniはしっかりと動きますし、GPUレンダリングにも対応可能。Substance 3D Painterのテクスチャもきちんと表示できますから、CG制作には何の問題もないと思います。
もちろん、自作のPCとは機能差があるものの、それでもサブPCとしては十分です。さらに、液晶ディスプレイの発色が良く違和感もなかったので、CGデザイナーも安心して使えると思いますよ。
松本氏に贈呈された「DAIV S4-I7G60CB-B」のポイント
DAIV S4-I7G60CB-Bは、14型のフルHD液晶ディスプレイを搭載するノートPC。優れた性能と省電力性を兼ね備えるインテルのモバイル向けCPU「インテル Core i7-13700H プロセッサー」と、ノートPC向けの最新GPU「GeForce RTX 4060 Laptop GPU」を搭載し、さまざまなCG制作に対応する。さらに、液晶にsRGB比100%の広色域パネルを採用することで、色の再現性や正確さを高めている。そのほか、メモリは32GB、ストレージはNVMe接続の1TB SSDを備える。
- 価格
229,900円(税込)
- CPU
インテル® Core™ i7-13700H プロセッサー
- GPU
GeForce RTX 4060 Laptop GPU
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
1TB SSD(NVMe Gen4×4)
- OS
OS:Windows 11 Home 64ビット
- 無線
無線:Wi-Fi 6E( 最大2.4Gbps )対応 IEEE 802.11 ax/ac/a/b/g/n準拠 + Bluetooth 5内蔵
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/
TEXT_近藤寿成(スプール)
EDIT_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)