Blenderのノード構成を公開!藤田将が一人で制作したSFアニメーション作品『MARIONETTE』がついに完成。「HP Z2 Tower G1i Workstation」の検証も
アニメ業界やMV制作で注目を集める3DCGアーティスト・藤田将氏が、脚本から実制作まで完全単独で手がけた自主制作作品『MARIONETTE』(2026年公開予定、全18分3秒)をついに完成させた。無数のロボットが暴走する高負荷なシーケンス、膨大な数のオブジェクト、複雑なジオメトリノード構成、高解像度レンダリング——その全てを一人でやり遂げただけでなく、制作に用いたノード構成を惜しみなく公開する姿勢は、3DCGアーティストに新たな可能性を示している。
今回、本作の重量級シーンデータを用いて、ワークステーション「HP Z2 Tower G1i Workstation」を検証。Windows 11 Pro、インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K、メモリ192GB、NVIDIA® GeForce RTX™ 5090を搭載する本ワークステーションが、プロの制作現場でどれほどのパフォーマンスを発揮するのか、詳細に紹介する。
藤田将氏(ふじた・しょう)
1999年生まれ、千葉県出身。東京電機大学卒業後、フリーランスの3DCGアーティストとして活動を開始し、現在はアニメーション背景のセルルックCG研究やMV制作など多岐にわたり活躍中。Blenderのノードシステムを駆使した「レンガ構造物ジェネレーター」「線路ジェネレーター」の開発者としても知られる。現在、脚本から実制作までを単独で手がけた18分の自主制作アニメーションを映画祭に出品中。
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「監督になりたい」藤田将氏の18分間の自主制作アニメ『MARIONETTE』
アニメの背景美術やアーティストのMV制作など、3DCGアーティストとして第一線で活躍する藤田将氏。彼が全精力を注ぎ先ごろ完成させたのが、全編18分3秒におよぶ自主制作アニメーション『MARIONETTE』だ。親交のあるプロデューサーとの対話をきっかけに、「監督になりたい」という自身の夢を形にするべく始動したこのプロジェクトは、単なるポートフォリオの枠を超え、映画祭への出品を見据えた本格的な映像作品として完成した。
本作のテーマは、タイトルが示唆する通り「操り人形」。しかし、そこに人間は登場しない。描かれるのは、人間が滅びた後もなお、プログラムされた通りに働き続けるロボットたちの姿である。
「タイトルには皮肉を込めました。ロボットが操り人形であると思わせておいて、実はそれをつくった僕ら人間こそが何かの操り人形だったんじゃないか、というブラックジョークです。人間がひとりも出てこない世界で、転んでもまだ働き続けるロボットたちを描くことで、逆説的に人間の在り方を問う、という構造です。映画祭のスクリーンでじっくりと見ながら、人間について考えてもらえるような作品を目指しました」(藤田氏)。
藤田氏の作家性は、その技術的なアプローチにも色濃く反映されている。Blenderのジオメトリノードやシェーダーノードを駆使したプロシージャルな表現は彼の真骨頂。作中の印象的なカットに、ロボットがガラスを突き破って落下していくシーンがある。このガラス内部に埋め込まれた電子回路の表現に、藤田氏の技術的こだわりが詰まっている。
「ガラスの中に電子回路が埋め込まれている表現は、シェーダーノードでつくりました。回路の特定の部分だけを抽出して発光させたり、透明度を調整することで、『透明だけど中に何かが詰まっている』という不気味な質感を表現したんです。自分の好きなSFのビジュアルと、技術的な実験を全て詰め込んだ、思い入れのあるカットです」(藤田氏)。
また、膨大な数のロボットが回廊を疾走するシーンでは、ジオメトリノードがフル活用されている。通常、群衆シミュレーションには物理演算を用いることが多いが、藤田氏はあえてシミュレーションを使わなかった。
「カーブに沿ってロボットが走る仕組みを、全てジオメトリノードで組んだんです。カーブを曲がる時にボディが傾くような処理も数式で制御しています。シミュレーションノードを使うとキャッシュのベイクが必要になり、途中からの再生が難しくなったりデータが重くなったりするんですが、この手法ならタイムラインのどこから再生しても破綻しません。修正も簡単で、結果的に大幅な工数削減になりました」(藤田氏)。
自身の技術を「隠すことなく公開して、パイオニアになりたい」と語る藤田氏。かつて高畑 勲監督らがアニメ黎明期に表現技法を開拓したように、彼は今、Blenderというツールにおける表現の可能性を切り拓こうとしている。
クリエイティブを底上げするワークステーション「HP Z2 Tower G1i Workstation」
藤田氏のようなハイエンドなCG制作において、PCのスペックは作品のクオリティそのものに直結する。今回、藤田氏が検証を行ったのは、HPの最新ワークステーション「HP Z2 Tower G1i Workstation」。ハイエンドの3DCG制作負荷にも十分対応可能なスペックを備えるモンスターマシンである。
①今回の検証機「HP Z2 Tower G1i Workstation」
HP Z2 Tower G1i Workstation(C1FC5PT#ABJ)
CPU:インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K
GPU:NVIDIA® GeForce RTX™ 5090
メモリ:192GB
SSD:2TB
OS:Windows 11 Pro
②藤田将氏 現在のメインPC
CPU:インテル® Core™ 7 265KF
GPU:NVIDIA® GeForce RTX™ 5080
メモリ:128GB
SSD: 2TB
藤田氏の現在のメインPCのスペックも十分に3DCGの制作負荷に応えるもの。しかしやはり、「HP Z2 Tower G1i Workstation」には及ばない。
・192GBのメモリ容量。大容量データでもプレビューが止まることがない
「今回一番感動したのは、192GBというメモリ容量です。現在のメインPCは最近新調したものなんですが、BTOのショップで探してもメモリは最大128GB止まりのことが多くて、それ以上の構成を見つけるのが難しかったです。After Effectsで4K解像度のプレビューや、何層にもレイヤーを重ねたコンポジット作業では、メモリ容量が“正義”。メモリが足りないとプレビューが止まってしまって、確認のためにいちいちエンコード(書き出し)をしなきゃいけなくて……。それが制作のテンポをかなり損なうんですよね」(藤田氏)。
実際に、検証機を使用したAfter Effectsでのプレビュー作業は極めて快適だったという。
「かなり重たいコンポジットデータを読み込んでみましたが、最初から最後まで一度も止まることなくプレビューできました。色味やエフェクトの微調整は、リアルタイムで確認できないと感覚的な作業ができません。エンコード待ちの“無駄な時間”を排除できるだけで、試行錯誤の回数を増やせる。つまり、作品のクオリティアップに直結するんです」(藤田氏)。
・コンパクトで洗練されたデザイン。プロのこだわりに応えた計算された設計
また、筐体の設計思想についても、プロならではの視点で評価する。HP Z2 Tower G1i Workstation は、ハイエンドパーツを搭載しながらも驚くほど筐体がコンパクトだ。藤田氏のメインPCと比較しても、体積比でおよそ2分の1程度に収まっている。
「仕事道具としてPCを置く以上、スペース効率は無視できません。このコンパクトな筐体にRTX 5090と192GBのメモリが詰まっているなんて、驚異的です。内部へのアクセスもツールレスで、サイドパネルがラッチひとつで開くメンテナンスがしやすい点も素晴らしい。あと個人的に気に入っているのが、光らないところ(笑)。作業に集中したい時、視界の端でPCが点滅しているのは僕の場合ノイズになりますから。シックで質実剛健なブラックの筐体は、プロの道具として信頼がおけますね」(藤田氏)。
静音性についても、高負荷時のファンの回転音は最小限に抑えられ、レンダリングとブラウジング、動画視聴を同時に行っても熱暴走の不安を感じることはなかったという。排熱設計とエアフローが計算し尽くされたメーカー製ワークステーションの強みがそこにある。
プロのクリエイターはなぜ「メーカー製ワークステーション」を選ぶべきなのか?
今回、実際に『MARIONETTE』の制作データを使って、レンダリング時間のベンチマークテストを実施した。速度差がわかりやすいよう、比較対象は、②現在のメインPCと、③藤田氏が自主制作当時に使用していたPCの2台を用意。検証シーンは、前述の「大量のロボットが走る」高負荷なカットだ。
③藤田将氏 自主制作作業当時のメインPC
CPU:インテル® Core™ i9-12700
GPU:NVIDIA® GeForce RTX™ 3080
メモリ:96 GB
SSD:1TB
・100カットで16時間の短縮。圧倒的なレンダリング速度
結果は歴然としていた。③制作当時のPCが1カットのレンダリングに25分17秒を要していたのに対し、②現在のメインPC(RTX 5080)は16分38秒。そして検証機である①HP Z2 Tower G1i Workstation(RTX 5090)は15分34秒を記録した。
①検証機:15分34秒
②現在のメインPC:16分38秒
③自主制作作業当時のメインPC:25分17秒
「制作当時の環境と比べると、1カットあたり約10分も短縮できたことになります。これが数百カットも続くアニメーション制作においてどれほど絶大な差になるか……。計算するまでもないですね(笑)。レンダリング時間は単なる待ち時間じゃなくて、クリエイターの精神的な負担でもあります。『失敗したらまた30分待つのか』と思うと、修正を躊躇してしまいますよね。でも、速いマシンがあれば『もう1回試そう』と思える。PCのスペックは、映像のクオリティの“天井”を決める要素そのものです」(藤田氏)。
・メーカー製だからこその安心感「箱から出してそのまま最高スペックで安定して動く。」
また、藤田氏は自身の苦い経験から、BTOパソコンや自作PCのリスクと、メーカー製ワークステーションの信頼性についても言及した。かつてRTX 4080搭載のPCを使用していた際、メモリ不足を感じて自分で増設を試みたところ、相性問題などが原因でPCを故障させてしまったことがあるという。
「あの時は本当に焦りました。メモリを自分で買ってきてマザーボードに挿したんですが、その後から挙動がおかしくなって、最終的に壊れてしまったんです。BTOだと標準構成からのカスタマイズは自己責任の範疇になりがちですし、パーツ同士の相性保証も難しい。その点、HPのようなメーカー製ワークステーションは、プロが検証し尽くした構成で、最初から192GBのような大容量メモリが搭載されています。箱から出してそのまま、最高スペックで安定して動く。この“安心感”はお金に代えられません」(藤田氏)。
プロのクリエイターにとって、PCのダウンタイムは致命的だ。トラブルシューティングに時間を割くよりも、制作に没頭したい。そのためには、サポート体制が万全で、ハードウェアの信頼性が担保されたワークステーションを選ぶことが、結果として最もコストパフォーマンスの高い投資になると藤田氏は語る。
「僕はPCを2台、3台と増やして並べて、レンダリング用と作業用に分けています。これがダウンタイムのリスクヘッジになっていて、クライアントからの信用にも繋がっています。中途半端なスペックのマシンを無理に拡張して使うより、最初から完成されたワークステーションを何台か導入するのが、長く安定して仕事をするための正解だと思います」(藤田氏)。
機材への投資は“未来”への投資——アニメーション監督・藤田将の次なる野望
「やりたいことができた時に、機材がないから諦める。それが一番嫌なんです」。藤田氏は、自身の機材選びの哲学についてそう断言する。それはPCに限った話ではない。かつて「良い写真を撮りたい」と思った時には、まず高価なカメラとそれを持ち運ぶための丈夫なバックパックを購入した。また、絵を描く頻度は低かったが、最高級の液晶タブレットを導入した。
「スキルが身についてから買うのではなく、まず環境を整えてしまう。そうすれば、やりたいと思った瞬間にすぐ始められますし、道具がボトルネックになって成長が止まることもないですから。Blenderを学ぶ全ての人に伝えたいのは、『PCスペックを理由に表現を妥協しないでほしい』ということです。パーティクルの数も、テクスチャの解像度も、PCが強ければ強いほどリッチにできる。自分の想像力をフルに発揮するために、自己投資は惜しむべきではないと思います」(藤田氏)。
また、藤田氏の制作環境において欠かせないのがネットワークHDD、NASの存在だ。現在、10TB以上のNASを導入し、プロジェクトデータやアセットライブラリを一元管理している。
「PCを複数台使っていると、データの移動やリンク切れが最大のストレスになります。NASを導入してからは、どのPCからでも同じアセットにアクセスできますし、レンダリングはサブPCに任せて、メインPCで別の作業をするといった並行作業もスムーズになりました。データのバックアップという意味でも、NASはPCと同じくらい重要な投資です」(藤田氏)。
自主制作『MARIONETTE』を完成させ、技術的にも環境的にも万全の状態を整えた藤田氏。次なる目標はアニメーション監督だ。「これまではひとりでつくることにこだわってきましたが、今後はチームでの制作にも挑戦したいです。僕は背景やメカニカルな表現、画づくりには自信がありますが、キャラクター造形や脚本といった分野では、もっと才能のある人と組みたい。アニメスタジオの現場の方々と物理的に顔を合わせて仕事をしたり、キャラクターデザイナーやライターの方とチームを組んで、僕が監督としてコンテを描き、新しい作品を生み出していきたいですね」(藤田氏)。
機材への投資を惜しまない藤田氏が、次にどのような作品世界を見せてくれるのか。その視線の先には、まだ見ぬ傑作の輪郭が輝いている。
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充
EDIT_中川裕介(CGWORLD)