独自の質感と鮮烈な色彩感覚で注目を集めるクリエイティブユニット・NIO。彼らの制作スタイルは、企画段階から3DCGを駆使して「初動で圧倒する」というアグレッシブなものだ。
11月23日(日)に文京学院大学本郷キャンパスで開催された「CGWORLD 2025 CREATIVE CONFERENCE」に登壇した彼らは、Vaundy『replica』MVなどのメイキングを通じ、思考回数を最大化するための独自ワークフローを公開。さらに、その高速な試行錯誤を支えるマウスコンピューター「DAIV FX-I7G80」とインテル® Core™ Ultra プロセッサーの実力について、クリエイター目線で語り尽くした。
CGWORLD 2025 CREATIVE CONFERENCE
開催日:2025年11月23日(日)
場所:文京学院大学本郷キャンパス
参加費:無料(事前登録制)
対象:CG制作に関わる業界の方、業界を目指す学生、その他CG業界に興味がある方
cgworld.jp/special/cgwcc2025
プロフィール
NIO
映像・アートディレクターとして活動する、KANA NIO氏とTAKUTO NIO氏の夫婦クリエイティブユニット。手触り感や質量感を伴うインパクトのあるビジュアル表現を得意とする。KANA氏がZBrushによるモデリングやテクスチャリングなどのアート制作とディレクション周りを、TAKUTO氏がCinema 4Dを用いたシーン構築やコンポジット、ディレクションを担当する独自の分業体制を採る。主な実績にVaundy『replica』MV、ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』OP、Hump Back『ツアー』MVなど。
「1人では天才になれない、だから2人で“1.5人分”になる」NIO独自の制作スタイル
本セッションの冒頭、登壇したKANA NIO氏(以下、KANA氏)とTAKUTO NIO氏(以下、TAKUTO氏)は、まず「NIO」というユニットが形成された経緯と、そのユニークな制作体制について語った。
KANA氏は慶應大学を卒業後、音楽レーベルでの勤務を経て渡英。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで準修士を取得し、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせた異色の経歴をもつ。一方のTAKUTO氏は、映像制作会社で撮影、編集、アニメーションの撮影処理など多岐にわたる業務を経験し、ディレクターとしてのキャリアを積んでいた。
転機となったのは5年前。グラフィックデザインの仕事に限界を感じていたKANA氏が「3DCGをやりたい」と言い出したことだった。「TAKUTOに『ZBrushっていうのがあるよ』と教えられ、初めて触ったときに、イラストよりもスカルプトの方が思い通りにいく感覚がありました」(KANA氏)。
TAKUTO氏は当時をふり返り、「僕はモデリングが苦手ですぐ諦めてしまうタイプだったんですが、絵心のあるKANAはデジタルで粘土をこねるようにスイスイと上達していきました。苦手領域を補完し合える関係が築けたんです」と語る。
コロナ禍において、自宅でチュートリアルをこなし、互いにフィードバックし合う日々を送る中で、自然と「2人で1つの仕事をする」スタイルが確立された。スケジュール管理から制作実務までパズルのように補完し合うことで、家内制手工業風なプロダクションが完成したのだという。
「2人で協力することで、一般的なクリエイターの“1.5人分”くらいのパフォーマンスを出せるんじゃないかって。2人で1人のように活動することで、『なんかすごいクリエイターが1人出てきたな』と思わせようと画策しました」(KANA氏)。
彼らの制作フローは“らせん状”だ。一般的な制作では、字コンテ、絵コンテ、Vコンテと工程が進むごとに担当者が変わったり、1人で完結させたりするが、NIOの場合はちがう。TAKUTO氏が字コンテを書き、それを受けてKANA氏が絵コンテを描く。
その過程でTAKUTO氏がVコンをつくり、そこから見えてきた課題を再びKANA氏に戻す。「主観と客観のパス回しを高速で行い、常に空気に触れた状態でクオリティを加速させていくことができます」(KANA氏)。
このスタイルを確立したことで、クオリティの向上はもちろん、“人間らしい豊かな生活”も送れるようになったと2人は笑う。クレジットを「NIO」に統一したのも、この不可分な制作体制を象徴している。
「初動で圧倒する」ための3DCGワークフローと作品メイキング紹介
次に具体的な作品を例に挙げ、NIO流のビジュアル制作ワークフローが紹介された。彼らが最も重視しているのは「初動」だ。
「3DCGは実写とちがって、言葉や字コンテだけでは共通のイメージをもちにくいものです。空の色ひとつとっても全員ちがうものを想像してしまう。だからこそ、私たちは企画書の段階で具体的な“画”を入れることに全力を注ぎます」(TAKUTO氏)。
Vaundy『replica』MV
Vaundyの楽曲『replica』のMV制作において、彼らは驚くべきアプローチをとった。Vaundy本人へのプレゼン用企画書に、すでにつくり込んだ3Dキャラクターのイメージ画像を挿入したのだ。
「Vaundyさんの小説を映像化するというオーダーに対し、企画書の段階でキャラクターの3DCGイメージを入れました。最終的なアウトプットとはデザインが異なりますが、『NIOはこういう3Dキャラを入れたいんだな』ということが一目で伝わります。こうしたことで信頼と主導権を得ることができ、その後のスタッフとの意思疎通がスムーズになりました」(TAKUTO氏)。
キャラクターデザインについては、実写のスタイリストと協業。3Dキャラクターの衣装を、実写のMVや広告で活躍するスタイリストに実際にスタイリングしてもらい、その写真をベースにモデリングを行っている。「リアルな服のシワや縫い目、素材感を参考にしつつ、3Dにする上で不具合が出るひもなどは省略し、デフォルメしながらモデリングしました」(TAKUTO氏)。
KANA氏はSubstance 3D Painterでの作業画面を披露。「スマートマテリアルも使っていますが、ステッチなどは手描きで入れています。『現実では、縫い目の下って少し盛り上がるよね』といったディテールを手で描き込むことで、リアリティと温かみを出しました」と解説する。
地質学者という設定だが、秀才で繊細な印象を持たせるため、あえて泥汚れなどは控えめにしつつ、赤味や手の質感などでフィールドワークの痕跡を残すなど、細部へのこだわりがキャラクターに命を吹き込んでいる。
ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』OP
ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』のオープニング映像では、主人公の「ちさと」と「まひろ」を象徴する「コントローラー銃」が登場する。このユニークなアイテムのデザインプロセスにおいて、NIOは生成AIのMidjourneyを活用した。
「『コントローラの形をした銃』というアイデアはあったんですが、それが本当に可愛いのか確信がもてなくて。それを解消するためにMidjourneyを使いました」(TAKUTO氏)。
生成AIに様々なバリエーションを出させることで、「可愛いものができそうだ」という確信を得た後、KANA氏がラフを作成。ちさと用には将棋の駒や香水、まひろ用にはパンダやYouTubeの再生マークなど、各キャラクターを象徴するモチーフを詰め込んだ。
ここでもKANA氏のテクスチャワークが光る。「まひろなら、長く使うコントローラにも平気で油性マジックで落書きするだろうな、ちさとなら、シールを貼って手で擦れて剥がれてくるだろうな、といった“生活感”や“愛着”をテクスチャに込めました」(KANA氏)。
また、このプロジェクトは納期が非常にタイトだったため、TAKUTO氏はCinema 4DとRedshiftの機能を活用した時短テクニックを活用。「コンポジットをする時間がなかったので、Redshiftのポストエフェクト(Bloom/Flare)を使って、レンダリング時に発光表現まで完成させました。そのままMP4で書き出してPremiere Proのタイムラインに乗せて納品するという、かなり野蛮なやり方ですが(笑)、見映えがするならそれで良いと割り切りました」(TAKUTO氏)。
Nulbarich「Lucky」ライブ背景映像
Nulbarichのライブ背景映像制作では、さらに時間が限られていたため、「ラフを描かずにいきなり3Dで街をつくる」という制作フローになった。「質量感のある街並みだけど、キラキラしたワクワク感、そして夕焼けの切なさといった“懐の深さ”を表現しました」(KANA氏)。
KANA氏が制作した大量のビルやオブジェクトの素材を、TAKUTO氏がCinema 4D上で組み上げ、配置していく。
2人の連携を支えているのがDropboxによるファイル共有だ。「KANAが隣でテクスチャを修正して上書き保存すれば、僕のCinema 4D上でも即座に反映されます。バージョン管理機能もあるので、サーバを立てるよりも手軽で安心です。思考回数を増やすためには、手を動かす回数も増やさなければならない。そのための環境づくりも重要です」(TAKUTO氏)。
クリエイターの“わがまま”に応えるマシンパワー、インテル® Core™ Ultra プロセッサー搭載の「DAIV」
セッションの後半では、NIOの制作を支えるハードウェアについて、マウスコンピューターの長谷川祐太氏と、インテルの矢内洋祐氏を交えたトークが行われた。今回NIOが検証に使用したのは、マウスコンピューターのクリエイター向けPCブランド「DAIV」のフラグシップモデル「DAIV FX-I7G80」だ。
「DAIV」シリーズは、「クリエイターによる、クリエイターのためのパソコン」をコンセプトに掲げる。長谷川氏は「国内生産による品質の高さ、24時間365日の電話サポート、そして最大128GBのメモリ搭載など、プロの要望に応えるカスタマイズ性の高さが特徴です」と語る。
今回使用されたモデルは、筐体デザインにもこだわりが詰まっている。大型のケースはハイエンドなグラフィックスカードの搭載を可能にしつつ、優れたエアフローによる静音性を実現。「上部のインターフェイス部分はスライド式になっていて、使わない時は閉じておけるなど、細かい使い勝手にも配慮しています」(長谷川氏)。
以前からDAIVを使用しているというTAKUTO氏は、「筐体下部にキャスターが付いているのが本当に好きなんです。レイアウト変更や掃除の時に動かしやすくて。あと、BTOで128GBのメモリを積めるPCはなかなかない。僕はPremiere Pro、After Effects、Cinema 4Dを同時に立ち上げて作業するので、メモリは絶対に必要なんです」と、ユーザー目線でその魅力を語った。
本機に搭載されているのは、インテルの最新CPU「インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K」。矢内氏はその特徴を「強力なPコア(Performance-core)と、省電力なEコア(Efficient-core)のハイブリッド構造」と説明する。「今回のEコアは、前世代よりも高速で省電力。重たいレンダリング処理とバックグラウンド処理を効率よく分担し、クリエイティブワークを止めません」(矢内氏)。
実際に制作で使用したKANA氏は、その恩恵を肌で感じたという。「ZBrushでダイナメッシュ(ハイポリゴンのリメッシュ処理)機能を使って作業を行う際、待ち時間が劇的に短縮されました。ここで待たされたり落ちたりすると集中力が切れてしまうので、本当にありがたいです。Substance 3D Painterでのベイク処理も以前の環境より断然速く、しかも静かでした」(KANA氏)。
TAKUTO氏も「今使っているPCと比べても今回の検証機は体感で速さを感じました。CPUの世代が新しくなることで、GPUの性能も最大限引き出せていると感じます。」
矢内氏はさらに、インテルCPUが提供する接続性(Connectivity)についても言及。「Thunderboltによる高速データ転送や、高速なWi-Fi、Bluetoothの標準搭載など、PC単体としての足回りの良さもインテルの強みです。NIOさんのようなDropboxを活用したワークフローでは、ネットワーク速度も重要になりますから」とアピールした。
最後に、会場からの「Redshiftのレンダリングが爆速でしたが、何かコツがあるのですか?」という質問に対し、TAKUTO氏は「設定はほぼいじらず、オートサンプリングでやっています。つまり、PCのスペックという“暴力”で解決しています(笑)」と回答。会場の笑いを誘いつつ、なごやかなムードでセッションは締めくくられた。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)