「PULSE Powered by AMD」が2026年6月13日(土)に開催された。本イベントは、日本AMD×ボーンデジタル(CGWORLD)主催により、アニメーション・モーショングラフィックス・VRChat・立体造形など、異なるジャンルで活躍するクリエイターを招き、制作スタイルや制作環境に関する知見を共有するトークセッションイベント。
登壇するクリエイターには、事前に一台ずつAMDのRyzenとRadeonを搭載したPCが検証機として貸し出されており、セッション本番では検証機を用いた実演が行われた他、会場内には検証機を貸し出した各BTOメーカーによる機材展示も実施された。
本記事では、各セッションに先立って行われた主催・AMDによる自社/製品紹介と、イベント内で開催された4つのセッションについての模様をお届けする。
PULSE Powered by AMD
6月13日(土) 13:00-17:30(開場12:30) AfterParty 19:00まで
参加費:無料(事前登録制)
開催場所:TUNNEL TOKYO(東京・大崎) ※完全オフラインイベント
OPENING_主催・AMDによる会社・製品紹介
本イベントでは、アニメーション監督の星子旋風脚氏がMCを担当。各セッションで登壇者との掛け合いを交えながら進行を務めた。AMDの佐藤美明氏がオープニングトークとして同社の沿革や製品の概要を紹介し、幕を開けた。
SESSION_01_うごメモ世代がクリエイティブチームを持つまで
最初のセッションでスピーカーを務めたのは、クリエイティブスタジオ・nimを率いるNate氏。2Dベースのモーショングラフィックスからシネマティックな3DCGまで、MVやPV、イベント映像を幅広く手がける作家だ。
Nate
ディレクター + CGデザイナー + モーションデザイナー
クリエイティブスタジオ「nim」代表。16才の頃から2D、3DCGによるモーショングラフィックスを軸に、ジャンルやスタイルを問わないアプローチでプロモーションビデオ、MV、ライブ演出映像などを中心に制作。動きから生まれる気持ち良さ、視覚からの快感を大切に、映像でしか表現できないものをデザインする。
登壇セッション「うごメモ世代がクリエイティブチームを持つまで」
そんな彼からは、クリエイティブディレクターでありながらテクニカルアーティストや制作進行も兼ねるという特異な立場から「つくった後に何が残るのか」という大きなテーマで講演が展開された。
Nate氏の原点はニンテンドーDSiで配信された『うごくメモ帳』、通称・うごメモだという。キーフレームの機能も十分にないツールで一枚一枚の画を少しずつずらしながらパラパラ漫画の要領でアニメーションをつくっていくという経験が、モーションの気持ちよさや違和感と向き合うことの感覚を育てたと振り返る。その後、Nate氏はAviUtl、After Effectsと制作環境を移していくが、そこで衝撃を受けたというのがエクスプレッションだ。
エクスプレッションは、レイヤープロパティの単一の値を評価する JavaScript コードの小片をプロジェクトのアニメーションプロパティに組み込むことができるAfter Effectsの機能だ。見た目を直接つくるのではなく、その裏側にある構造やルールを組み上げるこの考え方から、Nate氏は完成品だけでなくそこに至る手順に美しさを見出す「プロセスの美学」、とりわけプロシージャル/ノンデストラクティブなつくり方の「探索」と「運用」の面白さに惹かれていったという。
後半は、個人作家からチーム制作へと移った経験が語られた。
Nate氏が意識するのは、細部まで具体的な指示を与えることはせず各領域の担当者の判断が入る余白を残すこと。チーム制作とは「作業量を増やすこと」ではなく「作品を見る目を増やすこと」だとNate氏は語る。AIによってつくれることの価値が下がっても、作品を見て違和感に気づけることの価値はさらに伸びていると分析し、クリエイターが制作に傾けてきた時間は成果物だけでなく「次の違和感に気づく目」として残る、として講演を結んだ。
Nate氏検証PC TSUKUMO Radeon AI PROモデル QA9A-V255/XBH カスタマイズモデル
TSUKUMO Radeon AI PROモデル QA9A-V255/XBH カスタマイズモデル
- CPU
AMD Ryzen™ 9 9950X3D2 Dual Edition
- GPU
AMD Radeon™ AI PRO R9700 / 32GB
- メモリ
64GB (32GB x2枚) DDR5-5600
- SSD
KIOXIA EXCERIA PLUS G4 1TB(NVMe Gen5接続)
SESSION_02_空間デザインのワークフロー大公開
第2セッションのスピーカーは、主にVRChatでワールド制作などを手掛けるクリエイター・Lura氏。VRでの空間デザインを中心にホテルやリゾートプールといったワールド、自動販売機などのプロップや配布アセットを制作するほか、時には企業からの依頼を受けて公式ワールドまで手掛けるクリエイターだ。本セッションでは、Lura氏が日々取り組む空間デザインのワークフロー全体が、実演を交えて紹介された。
Lura
3DCGアーティスト。武蔵野美術大学卒業後、ゲーム業界でリアルタイム3DCG制作に携わりながら、VRChatでの仮想空間制作を開始。現在はフリーランスとして、Unityを用いたVR空間、イベント会場、建築アセットなどを制作し、仮想空間で人が快適に過ごせる体験づくりを追求している。
登壇セッション「空間デザインにおけるプロトタイプ制作」
制作を実演することとなったのは、「夏」「縁側」「夜景」「風鈴」といった日本の夏の諸要素をキーワードにした和風リノベ住宅風のワールド。Lura氏はまず、BlenderやMayaなどのDCCツールだけでラフを組むと、どうしても作りやすい形状に発想が引っ張られてしまう課題を指摘。そこで同氏が導入を勧めるのが、VR上で扱う没入型3D制作ツール・Gravity Sketchだ。VRコントローラーは高精度な6軸のポインティングデバイスであり、思考とアウトプットを直結させた圧倒的なスピードでラフを構築できるとLura氏は語る。
実演では、HMDを装着した同氏がキューブを複製しながら建物のシルエットを瞬く間に組み上げ、スケール感を確認しながら、岩や植物などのアセットを直感的に配置していく様子が披露された。
つくったモデルはobj形式で書き出し、Blenderで調整、Unityへ取り込んでVRChatで確認するのがLura氏のフロー。ポイントは、早い段階で最終に近い雰囲気を確かめることだという。月齢が反映されるスカイボックスや無料配布の雲シェーダー・Towel Cloud、仮のアンビエントサウンドなどを序盤から入れ込み、スケールや山の高さを変えるスライダーを仕込んでVRChat上から体感のスケール感を判断していく。高速なUV展開にはキューブ投影ができるジオメトリノードを用いたり、DreamUVのHotspotツールを活用してAIにアドオン制作を任せる効率化も紹介された。
ツールで思考と出力のスピードを上げること、早い段階で全体の雰囲気を確認すること、一発で仕上げるより素早く改善のループを積み重ねること、という3点こそが制作のカギであるとLura氏は語り、講演が結ばれた。
Lura氏検証PC マウスコンピューター DAIV KM-A7A7X
DAIV KM-A7A7X
- CPU
AMD Ryzen™ 7 9700X
- GPU
AMD Radeon™ RX 9070 XT
- メモリ
32GB (16GB×2 / デュアルチャネル)
- SSD
2TB (NVMe Gen4×4)
AMD INFORMATION SESSION_コスパとハイエンドの両方をカバーするAMD
第2、第3セッションの間では、主催であるAMDの佐藤美明氏より、同社と製品についての紹介が行われた。
1969年にアメリカで半導体設計企業として創業された同社は、半導体メーカーとしては随一の歴史を持つ。そのチップは、PCにとどまらずサーバーやデータセンター、ゲーム機、さらには自動車など、身近な製品の数多くに搭載されているという。また、世界のスーパーコンピューターのランキングでも上位は同社チップ搭載機が占めており、高い性能と優れた電力効率を両立している点が同社製品の強みとして示された。
続いて、クリエイター向けの製品群が紹介された。主力のCPU・AMD Ryzen™シリーズは、高性能コアのみで構成することで高速処理と安定性を両立しており、レンダリングやエンコードなどCPUを回し続ける作業に適するという。
バランス重視のAMD Ryzen™ 7 9700X、16コア32スレッドでハイエンドを担うAMD Ryzen™ 9 9950X3D、そしてワークステーション向けのモンスターCPU・AMD Ryzen™ Threadripper™シリーズと、用途別のラインナップが解説された。GPUについてもコストパフォーマンスに優れるAMD Radeon™ RX 9000シリーズや、32GBのVRAMを積んだAMD Radeon™ AI PRO R9700が紹介され、第一線のプロの制作環境を支えていることを来場者にアピールした。
SESSION_03_スケッチ──カオスから秩序を掘り出す
第3セッションのスピーカーは、コンセプトアーティストのEntei Ryu(エンテイリュウ)氏。
Entei Ryu
イラストレーター/造形作家/コンセプトアーティスト
著書に『エンテイ・リュウ アートワークス キメラ』(パイ インターナショナル)、『MERCURY Entei Ryu造形作品集』(玄光社)、共著に『造形作品集 DRAGON』(ボーンデジタル)など。
登壇セッション「CG制作を貫くスケッチ力」
今年の午年にちなんで制作された和、ユニコーン、スカル、メカといった要素をモチーフとした造形作品をZBrushで造形して3Dプリントするまでの様子を録画から披露すると共に、Entei Ryu氏が一貫して大切にしてきたスケッチというテーマを軸に講演が行われた。
コンセプトアーティストでありながら造形も手掛ける同氏は、その立場から「ツールがどんどん使いやすく進化していく時代だからこそ、ベーシックなスキル=スケッチがかえって重要になる」と強調。Entei Ryu氏にとってZBrushでの造形もスケッチと全く同じことだといい、アセットを作る意識ではなく、大きなシルエットと何を見せたいかという情報量のコントロールを身に着けるべきであると説いた。同氏によれば、AIによりディティールを増やすことが簡単になっていくいま、クリエイターに求められるのは足し算ではなく引き算であるという。
また、出力スケールを先に想定してディテールのレベルを決める習慣や、造形途中で悩んだ際はスクリーンショットに赤を入れて構図を直すこと、アナトミーに迷った際は写真や解剖図でスタディを重ねること、しばしば新宿御苑などに出かけ写生を行うことなど、Entei Ryu氏の制作スタイルや習慣が紹介された。
Entei Ryu氏は制作を、①デザイン/スケッチ、②大きな形を作るラフ造形、③ディテール仕上げ、の段階に分け、勝負どころは②で形を綺麗に整理できるかであり、③のディテールはAIにも任せられる領域だと位置づける。同氏は「スケッチはカオスから秩序を掘り出すもの」という言葉と共に講演を締めくくった。
Entei Ryu氏検証PC Lepton Motion Pro II B850A カスタマイズモデル
Lepton Motion Pro II B850A カスタマイズモデル
- CPU
AMD Ryzen™ 7 9700X
- GPU
AMD Radeon™ RX 9070 XT 16GB
- メモリ
64GB DDR5-5600 32GB×2枚
- SSD
M.2 PCI-E Gen5 1TB
SESSION_04_Blenderで作る作画×CG──シェーディングとレタッチワーク
本イベント最後のセッションを務めたのは、長編アニメーション作品『メイクアガール』などを手がけるアニメ監督の安田現象氏。株式会社ゼノトゥーンの一部署にして自らの名を冠する安田現象スタジオを拠点にアニメ制作に取り組む安田現象氏の経験と立場から、アニメらしいルックを生むためのシェーディングとレタッチワークについて、実演を交えて解説した。
安田現象
株式会社ゼノトゥーン所属。第29回CGアニメコンテスト(2020年)で入賞した自主制作アニメ『メイクラブ』をベースとしたプロジェクト作品・劇場長編アニメ『メイクアガール』を監督として制作。
登壇セッション「アニメ風3DCGのススメ」
シェーディングの核となるのはAfter Effectsをシェーダーとして使うという考え方だ。Blender側で行うのはあくまでAEで仕上げるための素材を用意する行為と割り切り、カラー素材・ライン素材・影素材を書き出していく。影素材は放射シェーダーにシェーダーRGBとカラーランプを組み合わせて陰影の境界を制御、顔は陰影を入れず白く、首元は黒く塗り、透明のオブジェクトは貫通させて任意の場所に影を落とす——といったセルルックならではの下処理が紹介された。
続くレタッチワークでは、書き出した素材をAEで組み合わせ、影色を作って作画に相当するガイドを用意する流れが示された。安田現象氏が繰り返し強調したのは、必ずリファレンスを探すこと、そして3Dの嫌なところを消すという発想だ。角度で揺れてしまうハイライト、均一すぎる影、3D感が出がちな手・髪・服のシワなどを、レタッチや手描きで馴染ませていく。
「良いものをつくろうとするより、良くないものから遠ざかる方がわかりやすい」と同氏は語る。AEのマスクやシェイプ、Blenderのシェイプキー、テクスチャーペイントによる強制影などを状況に応じて使い分け、必要なら3Dの枠から外れてでも調整することでクオリティを上げていくという、CGアニメの現場で培われた実践的な知見が惜しみなく共有された。
安田現象氏検証PC ユニットコム iiyama PC SENSE-F1B6-LCR99Z-TGX
関連記事:劇場アニメ制作を支える"試行回数"と"ルックデヴ" ―― 安田現象監督が語る、AMD Ryzen™ 9搭載クリエイターパソコン「SENSE∞」がもたらす恩恵
ユニットコム iiyama PC SENSE-F1B6-LCR99Z-TGX
- CPU
AMD Ryzen™ 9 9950X3D
- GPU
AMD Radeon™ RX 9070 XT
- メモリ
DDR5 32GB
- SSD
M.2 1TB
AMD製品搭載の最新PC展示も
各セッションではMCの星子旋風脚氏が登壇者の制作環境や検証機の使用感について質問を投げかけ、実演だけでは見えにくい制作現場でのコメントを引き出していたほか、会場内では検証機を提供したSycomやマウスコンピューター、TSUKUMO、ユニットコムが実機を展示。
クリエイター仕様だけあり、いずれも50万円台という価格帯ではあったが、CGクリエイターが不自由なく使用できるスペックのAMD製品搭載PCを前に、来場者の中には買い換えを検討する者も見受けられた。
以上を以てPULSE Powered by AMDは盛況のうちに幕を閉じ、セッション後にはアフターパーティーも開かれ、AMDグッズが当たるプレゼント抽選会や、登壇者と来場者が直接交流する場となった。
TEXT_稲庭 淳
PHOTO_弘田 充
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)