"思考"を"作品"に変える――PERIMETRON・神戸雄平のCinema 4D実践テクニック MONO NO AWARE『スノードーム』Official Visualizer メイキング【イベントレポート】
2025年5月の「MAXON PARTY '25春」で好評を博したセッション、「神戸雄平入門講座【クリエイティブ思考編】」。この続編となるイベント「【“思考”はどうやって“作品”になるのか】MONO NO AWARE – スノードーム (Official Visualizer) メイキングからひも解く – 神戸雄平 制作思考講座【クリエイティブ構築編】」が3月に開催された。MONO NO AWARE『スノードーム』のOfficial Visualizerを題材に、アイデアの着想から完成に至るまでのプロセスを、神戸雄平氏が実践的に紐解いている。
本稿では、イベント後半のCinema 4Dを中心とする実践的な制作プロセス解説部分にフォーカス。プリミティブなオブジェクトから空気感をつくり出すライティング、複数の外部ツールを軽快に連携させる柔軟なモデリング手法など、神戸氏ならではの“思考をかたちにする”リアルな制作フローをお届けする。聞き手は前回に引き続き、Khakiの伊藤太一氏が務めた。
プロフィール
神戸雄平
DigitalArtist
PERIMETRON所属。メンバーのOSRINと意気投合し、2017年のStudio CoastにおけるDaiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)のライブ演出から参画、2018年春に正式加入。現在、3DCGクリエイターおよびビジュアルエディターとして、チームのクリエイティブを支えている。
https://www.instagram.com/mesoism/
https://x.com/mesoism_
伊藤太一
株式会社カーキ
CG Artist / Motion Designer
独学で3DCGを習得し、学生時代からジェネラリストとしてプロモーション系の映像制作を幅広く経験。Khaki参加後は、ミュージックビデオやCMなど多彩な映像作品に携わる。フォトリアル表現やモーショングラフィックスを得意とし、エフェクト制作からコンポジットまでを一貫して手がけている。
https://khaki.tokyo/
https://khaki.tokyo/artists/1001/
スノードームの空間を定義する「音の反響」のような光の演出
伊藤太一氏(以下、伊藤):それではイベント後半戦、制作過程の解説をお願いします。
神戸雄平氏(以下、神戸):今回はプロジェクトデータを全て持ってきました。まずは冒頭のスノードームのシーンから見ていきましょう。
神戸:実は、このシーンではあまり変わったことはしていません。配置しているオブジェクト自体は、立方体やピラミッドといったプリミティブなものが中心で、少しパスを描いて回転させ、円柱のような形をつくったりと、本当に簡単なものです。CDのジャケットというベースのビジュアルがあったので、映像化するにあたって新しくゼロからモデリングした要素は、後ほど解説するバンドのシーンくらいですね。
伊藤:ライティングはどういったアプローチで組んでいるのでしょうか?
神戸:3点ライティングなどの基礎知識ももちろん重要ですが、私は体系的に勉強したわけではないので、感覚的につくっていくことが多いです。たいていの場合、まずはベースとしてHDRIマップを読み込み、環境の光を設定します。この画像ベースのライティングを行うことで、単純にライトを打つだけでは出せない複雑な光の感じや、部屋の環境感を引き出すことができます。
神戸:最初にこれを置いた段階でかなり良い雰囲気になったのですが、サビの盛り上がりの部分で出すには少し暗すぎました。そこで、左からもライトを差すように配置しています。また、今回はスノードームというガラスの球体の中の出来事なので、ガラス感を表現する必要があります。ガラスの存在は、そこに何かが反射していることで初めて認識できるので、その“匂わせ”としてライトを当てています。
神戸:さらに、スポットライトに「Gobo(ライトの前に置いて影の模様をつくる遮光板)」を入れる手法を今回も多用しています。これを行うことで、一気に部屋の空気感が出るんです。音楽で、リバーブやディレイをかけて空間的な広がりを表現するのと同じように、映像自体にも光を使って空間の情報を付与しています。今回はスノードームの中という設定ですが、カラッとした屋外の空の下ではなく、誰かの手のひらの上にあるような環境を感じさせたかったんです。
伊藤:音との連動や、カット割りの工夫についてはいかがですか?
神戸:今回は、オブジェクトやアニメーションなど使える素材が非常に少なかったので、アングルや何を被写体にするかというレイアウトを徹底的に調整しました。その中で効果的に使ったのが、ピント送りです。
神戸:同カット内でピントを奥から手前へと送り、フォーカスする対象を変えていくのですが、そのぬるっとした画面の変化を、楽曲の音の切り替わりに合わせています。カットを細かく割ったり、キャラクターが激しくアニメーションしたりするような映像ではないので、このような画面内でのフォーカス変化を音にはめていくのが非常に気持ち良く機能しました。
Cinema 4D上で完結させる被写界深度と美しいボケ味
伊藤:背景のボケ、被写界深度についてですが、これはコンポジットの段階で後から追加することも多いと思います。今回、Cinema 4Dのレンダリングの段階でボケを入れている理由は何でしょうか?
神戸:シンプルに「こっちの方が綺麗だから」ですね。もちろん、大規模な案件などでは「後からボケ具合を調整できるように、CG上ではボケをつけずに出力してほしい」とオーダーされることが多いです。でも、個人的に後から乗せるコンポジットのボケがあまり好きではなくて、可能な場合はCG上でつけてしまうことが多いです。
神戸:今回は焦点距離を110mmに設定しています。スノードームは小さなものですから、ミニチュアをマクロレンズで撮影しているようなスケール感を出したい。そのため、焦点距離を高く設定し、たくさんボケるような画づくりにしています。
伊藤:木の質感など、テクスチャリングはどのように行いましたか?
神戸:木のマテリアルはほぼ2種類しか使っていません。色数をガチャガチャと増やしてポップにするアプローチもありますが、今回の楽曲のトーンには合いません。色数を絞り、茶色のトーンちがいで合わせることで落ち着きが出ますし、後から舞うキラキラのパーティクルも際立ちます。
神戸:テクスチャ自体は「Greyscalegorilla」のアセットマテリアルをほぼベタ貼りしています。UV展開も綺麗にはやっていなくて、立方体や平面にそのままポンポンと割り当てている状態です。整合性の取れた正しい木のテクスチャをつくることよりも、今回の映像では作品全体のトーンに合うことの方が重要だったので、あえてつくり込まずにで進めました。
唯一テクスチャをつくり込んだのは、ロゴが入っている小さな積み木ブロックのようなオブジェクトです。これにはSubstance 3D Painterを使いましたが、ベースの木材の上に汚れ(ダート)やひび割れ(クラック)のマスクをサッと重ねて、良い感じにエイジングさせてミニチュア特有の質感を出しています。
伊藤:Cinema 4D標準の機能も活用されていますね。
神戸:はい、新搭載のバックドロップ機能には非常にテンションが上がりました。実写の撮影スタジオにある白ホリゾント(白ホリ)のように、背景を滑らかに湾曲させることで、光が柔らかく被写体に回り込み、とても綺麗な画がつくれるようになります。以前は自分でスプラインを描いてモデリングして仮のスタジオ環境をつくっていましたが、これが標準機能として細かくパラメータ設定できるようになったのは素晴らしいですね。
ZBrushをはじめとした外部ツールの活用
伊藤:バンドメンバーのキャラクターはどのようにモデリングしたのでしょうか?
神戸:キャラクターのアニメーションにはCascadeurを活用しました。Cinema 4D上のベースフィギュアを使っても良いのですが、Cascadeurには便利なリグが最初から組まれている素体があって、ポーズを取らせるのも非常に簡単で。時間も限られていたので、ここでポーズをつくってデータをZBrushへ持っていきました。
神戸:ZBrushでダイナメッシュを使ってエクスポートしたポリゴンを結合・再構築していきます。そこから必要な部分、例えば服になる部分をマスクで選択して、Extractで押し出して、新しいポリゴンをつくって服の形状に整えていく、という。顔については、アーティスト本人に似せすぎず、かといって全く似ていないわけでもない、「おみやげ屋さんにある木彫り人形」くらいの絶妙なクオリティを目指してモデリングしました。
伊藤:バンドメンバーが持っているギターなどの楽器はどうつくられたのですか? アセットを購入したりはしなかったのでしょうか。
神戸:アセットサイトには確かに素晴らしいギターのモデルがたくさんありますが、どれもディテールが細かくリアルで、しかも高価(笑)。でも私が今回欲しかったのは、プラスチックのおもちゃのような「ちょうど良いチープさのあるミニチュアのギター」でした。
そこで今回、Illustratorでギターのベクターデータをつくって、Cinema 4Dに読み込んでExtrudeをかけてボディをつくりました。弦や小さいパーツは思い切って省略して、エッジに少しだけ大きめのベベルをかけると、目的のミニチュア感やチープさを一瞬で出せました。ピックアップの数や位置だけは、本人が使っている楽器に合わせて調整しています。
伊藤:バンドの演奏アニメーションとカメラワークについてはいかがですか。
神戸:アニメーションはアシスタントのCGアーティストにお願いしました。リアルに生々しく演奏するのではなく、ポーズを取らせた素体に無理やりリグを入れてもらい、パラパラとしたコマ落ち感のある可愛らしい動きにしてもらっています。
最後の長回しのシーンでは、スプラインとターゲットを組み合わせたカメラリグを組み、綺麗なレール移動のカメラワークをつくりました。少ない素材の中でも、正面から回り込む瞬間にライトのキーフレームを打って明るさをピークに持っていったりと、光の演出で感情を揺さぶる工夫をしています。
神戸:その後はコンポジット工程です。After Effectsと、Magic Bullet LooksやOptical Glow、Dehancerなどのプラグインを使っています。この工程では、CGのレンダリング素材に対してフィルム特有のハレーションや色収差、にじみなどを重ね合わせることで、“うまみ”のあるルックに仕上げています。
Q&Aの模様もお届け!
Q.映像制作において、クライアントから自分のこだわりとはちがう修正指示が来た場合、どのように折り合いをつけてバランスを取っていますか?
神戸:距離感にもよりますね。どうしても譲れない部分があればもちろん説得を試みます。ただ、私も大人なので(笑)、基本的には折衷案を探って提案します。自分がベストだと思うかたちではなくても、「許容できるライン」の中で相手の意見を汲み取った案を出す。プロの現場はその繰り返しですね。
Q.自分は学生ですが、作品をつくる際、好きな映像のリファレンスに寄りすぎてしまい、「見たことがある映像だ」と言われて落ち込んでいます。自分らしさやオリジナリティを出すにはどうしたら良いか、アドバイスをいただきたいです。
神戸:誰もが「こういう映像をつくりたい」という憧れからスタートしますから、真似をすること自体は決して悪いことではありません。スキルは真似の積み重ねで磨かれていきます。ただ、そこからどうやって“自分色”に染めていくかは、つくり続けないと見えてこないものです。
例えば、リファレンスをベースにしつつも「自分ならもう少しだけ明るさを変えよう」「この色を足してみよう」といった、ごく小さなちがいの積み重ねが、最終的にオリジナリティへと繋がっていくのだと思います。「この映像が良い」と思う感性自体がすでにあなたのオリジナリティですから、周りの声はあまり気にしなくて良いですよ。
自分の実力と理想とのギャップに落ち込むことは、プロである私や伊藤さんでもずっと抱えている悩みです。それでも不安を抱えながら、一歩ずつ、つくり続けるしか道はないんだと思います。頑張ってください。
Q.今回使用したようなエフェクトや技術的アプローチは、日頃から能動的にリサーチされているのでしょうか? また、アセットを利用する際のお気に入りサイトがあれば教えてください。
神戸:リサーチについては両方ですね。日頃から「良いな」と思った映像表現や感覚を自分の中にストックしておくことと、今回たまたま試したプラグインが予想以上にハマったという偶発的な出会いの両方があります。
アセットに関しては皆さんが知っている王道のサイトばかりで、モデリングデータなら「CGTrader」や「TurboSquid」、マテリアルなら今回も多用した「Greyscalegorilla」を重宝しています。
昔は自分でモデリングできないものが多かったので、購入したアセットの素材を自分流に調理して表現する手法を採っていました。そうやって、自分が“美味い“と思うものをかたちにするために、手持ちの技術と便利な機能を巧みに組み合わせて、自分のやりたい世界観に強引に持っていく。それが今回の作品の最大の肝だったのかもしれません。
伊藤:神戸さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
TEXT&EDIT__kagaya(ハリんち)