ZBrush、Cinema 4D、Redshiftなどクリエイターから熱い支持を得るMaxon社製品に限定したオンラインイベント「MAXON PARTY '25春」が5月28日(水)に開催された。ここでは、同イベントの人気セッションのひとつ、「神戸雄平入門講座【クリエイティブ思考編】」の様子をレポートする。スピーカーはPERIMETRON・神戸雄平氏と、カーキの伊藤太一氏。どちらもCinema 4Dのヘビーユーザーだ。
Information
MAXON PARTY '25 Xmas 開催!
海外アーティスト集結!
世界基準の発想とスキルに出会うスペシャルイベント
■日時
12月18日(木)14:00~19:00
■参加費
無料(事前登録制)
■主催
CGWORLD
プロフィール
神戸雄平 (mesoism) 氏
PERIMETRON
Digital Artist / 3dcg visual shit
伊藤太一氏
カーキ
CG Artist / Motion Designer
神戸雄平氏(以下、神戸) :クリエイティブレーベル・PERIMETRONに所属している神戸です。ミュージックビデオや音楽のアートワーク、アーティストのライブ演出映像などを中心に活動しています
伊藤太一氏(以下、伊藤) :聞き手を務めます、カーキの伊藤です。Cinema 4DとRedshiftをメインツールに、コマーシャル系の映像制作を中心に、CGディレクターやCGアーティストをしています。
神戸:今日は、僕がどう作品をつくってきて、今どういう制作活動をしているのかを、過去の事例やプロジェクトを見ながら順に説明していこうと思っています。
King Gnu『Flash』MV&雑誌『EYESCREAM』連載「ニューナウ米文学」挿絵
神戸:僕は今年で35歳で、CGを始めたのは28歳からと遅めですが、最初にCGに触れてからずっとCinema 4Dを使っています。一番最初につくったCGはKing Gnuの『Flash!!!』MVで使われたインサート映像です。
神戸:このMVは、実写の映像にいろんなアーティストがつくった作品映像をインサートしているという構成で、PERIMETRONとしてCGでのインサート映像制作を僕が担当することになって、そこで初めてCinema 4Dをインストールして、2週間ほどでつくったのがこの映像です。
改めて見ると「マジで気持ち悪いものをつくってんな」と思いますが(笑)、一方で「これをよく本編に入れてくれたな」とか「ここから始まったみたいな」といった思い入れもあります。
当時はテレビ番組の編集、After Effectsでインフォマーシャルの映像やモーショングラフィックスをつくる仕事をしていて、唯一、雑誌『EYESCREAM』の企画でCGのお仕事をもらっていました。それが「ニューナウ米文学」という連載企画で、米文学の翻訳者と僕と、PERIMETRONの佐々木集が組んで、毎回翻訳者の方から送られてくるタイトル文字をお題にして、中身を知らないまま勝手にCGで挿絵のビジュアルをつくるというものです。
伊藤:すごく面白いです。
神戸:まだCinema 4Dを触る前で、After EffectsのElement 3Dでつくりました。その後、先に紹介した『Flash』でCinema 4Dを使い始めたんです。
伊藤:Cinema 4Dを使い始めた理由は、After Effectsからのながれ(Cinema 4D Liteが付属し、両ツール間の連携もスムーズだから)ですか?
神戸:そうですね。それに当時はまだBlenderが今ほどは普及していなかったですし、Mayaや3ds Maxはそもそも難しそうで高いということで、Cinema 4Dを選びました。
伊藤:そういう理由の人、けっこういますね。
神戸:最初に買ったのはR19のブロードキャスト版(放送業界向け機能付きのライセンス)で、買い切りでした。そこからは連載にもCinema 4Dを使い始めて、挿絵のビジュアルを合計10数回つくりました。
神戸:最初はやっぱりCGらしく、フォトリアルなもの、ディテールが細かいものを意識しましたが、いろいろなアートワークをつくっていく中で、毎回同じ手法でつくっていても楽しくなくなっちゃうと思い始めて、いろんなスタイルに挑戦することをテーマに取り組んでいました。
神戸:僕としては、キャリア初期にこれをやってたことが、今、ひとつのスタイルに縛られずにCGを制作できてる理由になってるんじゃないのかな、と思ってます。礎みたいな。あとはやっぱりBeeple(Cinema 4Dユーザーのデジタルアーティスト。2021年のオークションで当時世界最高額のNFTを販売したことでも有名)への憧れがあります。Beepleのセッションを何度も見たり、レイアウトの組み方、コンポジットのやり方なんかを覚えて真似したり、Beepleが使っているツールをインストールしてみたり。
伊藤:視聴者さんから質問が来ています。「連載の作品では、全てのオブジェクトを自身で制作したのでしょうか。アセットも使いましたか?」。
神戸:もちろんアセットも使っています。まだCinema 4Dを触りはじめて1ヶ月も経っていない頃ですから、プリミティブを組み合わせてつくれるもの以外はフリーのアセットを探しました。
伊藤:別の方から質問が。「レンダリングはRedshiftですか」。
神戸:連載の挿絵はRedshiftのものもあれば、そうじゃないものもあります。
神戸:この連載では特に『デイヴィッド・シャーマン、神の末息子』のグラフィックがすごい気に入ってるんです。アウトラインを後から出してコンポジットしてみたり、この作品をきっかけにして、2Dと3Dの融合みたいなことにチャレンジするようになったので。
伊藤:アウトラインはどうやって出しましたか?
神戸:Octaneでレンダリングした画像に、Cinema 4D標準(当時)の「Sketch and Toon」で出したアウトラインを合成しています。
millennium parade『Bon Dance』MV~紅白歌合戦バックドロップ映像
神戸:次の作品はmillennium parade『Bon Dance』MVで、フルCGの作品に挑戦させてもらいました。いろんな妖怪のパターンをつくってみたり、キャラクターをつくってみたり。
神戸:ただ、めちゃめちゃ大変だったんですよ。ライティングやマテリアルはフォトリアルベースでつくっていたんですが、いまいち上がってきたルックが気に入らなくて。だから最初は、上がってきたルックの画像からCGっぽいディテールを消すプリセットをPhotoshopで組んで、それを1コマずつ適用してシーケンスとして組んでみたりもしました。結局はそれでも上手くいかず、オンラインのコンポジットで解決しました。
神戸:この作品で思ったのは、「フォトリアルのゴールが“実物とちがわないものに行き着くこと”なんだとしたら、僕はそこには太刀打ちできないかも」ということ。改めて、自分がどういうものが好きでこの仕事を始めたんだっけと考え始めて、フォトリアルはしんどいなと思っちゃいました。「ポリゴン数はある程度高く」とか「クロスシミュレーションはしっかりやる」みたいなことです。
伊藤:このクロスシミュレーションはMarvelous Designerですか?
神戸:そうです。Marvelous DesignerでつくってRedshiftでレンダリングしました。実はMVの後で、Ginza Sony Park(当時)で『Bon Dance』の展示をやる機会をいただいたんです。この作品、百鬼夜行が夜中の渋谷に現れるというのがざっくりしたストーリーなんですけど、その妖怪たちを百鬼夜行絵巻のようなポスターにして展示しようということで、グラフィックをつくりました。
神戸:最初はHDRIでライティングして、フォトリアルでレンダリングしたんですよね。
神戸:背景もフォトリアルでレンダリングしてコンポジットしてみたんですが、結局気に食わなかった。そこでいろいろやってみたところ、コンポジット用にマルチパスで書き出したスペキュラとリフレクションのAOVを組み合わせて、しきい値をいじったのが良かったんです。「これは好きだな!」と思って、そのままポスターの完成ルックになりました。
だから、マルチパスのレンダリング画像にはかなり夢があるなと、そこを起点にいろんなことをやり始めたんですよ。正攻法ではないですが、実はおいしい。
伊藤:自分に合った手法を探しながら試したんですね。
神戸:そうそう。次の作品は、millennium paradeが紅白歌合戦に出場した時の、バックドロップの映像です。
神戸:逆さまの町を進んだら、今度は映像が反転して色も変わってと。過去にPERIMETRONでつくったアセットも再利用。“PERIMETRONエコシステムを採用”してます(笑)。
神戸:この時は、レンダリングパスのデプスだけを使う手法を思い付いて、それ以来デプスにハマってるんですよね。最近はこういうグラフィックもつくったんですよ。デプスパスの画像にPhotoshopでグラデーションマップを適用して色をつくっていくという。
Tempalayの『人造インゲン』ライブのバックドロップ映像
神戸:次の作品は、Tempalayの『人造インゲン』のライブ演出のバックドロップ映像で、ここでもいろんなルックにチャレンジさせてもらいました。最初はフォトリアルで「CGでちゃんとつくるぞ俺は!」みたいに進めていたんですが、やっぱり大変だし、そもそもTempalayというアーティストにフォトリアルはハマんないかもと思って。
神戸:そこでガラッと変えて、僕なりのThe Chemical Brothersをやってみました。スペキュラパスだけを使って、Sketch and Toonでアウトラインを出してコンポジットしてます。
神戸:今度は、人工知能のロボットが自我を取り戻すかどうかの瀬戸際で苦しんでるみたいなイメージでつくった映像です。
神戸:Cinema 4Dユーザーにはお馴染みのGreyscalegorilla(同ツールのトレーニングやアセットなどを提供するMAXONのパートナー企業)のチュートリアルにこういうタッチの作例があって。すごいですよね、Sketch and Toonでレンダリングするだけでもうこれが出てくるという。「これはとんでもなく自分好みだな」と。それと、ポリゴンには細かくディスプレイスメントを加えていて、ノイズのアニメーションを適用してるので、勝手に線が揺れて動いてくれるんです。
https://greyscalegorilla.com/
伊藤:質問が来ています。「テクスチャ制作のメインツールはSubstance 3D Painterでしょうか」。
神戸:キャラクターものや衣装、『Bon Dance』のグラフィックとか、テクスチャがしっかり必要な部分はSubstance 3D Painterでつくってます。伊藤さんはテクスチャは“しっかり”つくりますか?
伊藤:“しっかり”やる必要がある場合は(笑)。確かに、Cinema 4Dユーザーって、UV展開までしない人が多い印象ですよね。他のツールだとやっぱり手の込んだことをやるならまずUV展開からですから。
神戸:僕もグラフィックぐらいなら全然UV開かずに、アセットストアからマテリアルを持ってきてポコポコはめちゃいます(笑)。
伊藤:はい、わかりますわかります(笑)。
millennium parade『Veil』のグラフィックとMV映像
伊藤:「『Veil』のプロジェクトファイルが見たい」というコメントが来ています。
神戸:millennium parade『Veil』は、まずグラフィックから紹介します。これも標準レンダラ+Sketch and Toonです。
伊藤:「顔に入った縦のラインはボロノイですか?」という質問が。
神戸:いえ、ラインだけです。ボロノイは入れていないですね。このノートPCは画面解像度が低いのでラインが太くなっていますが、「pinkhead」の文字もスプラインでスケッチしたものです。
神戸:MVに登場する、人物の上を舞うラインは、ビジュアルアーティストの比嘉了(ひが・さとる)さんにつくってもらったものです。制作中は隣に映像ディレクターのOSRINが座って、カメラワークをひとつひとつ決めながらつくるという面白いつくり方でした。紆余曲折あったMVで、初期のステージ案もいろいろ。
伊藤:この作品は何からインスピレーションを受けましたか?
神戸:これは映像作家のクリス・カニンガムですね。ビョークのMVとか、ダークでゴシックだけど美しい。そういう雰囲気を目指しました。
Redshiftと向き合ったShureコラボスニーカー映像
神戸:Cinema 4Dを触っていくうちに「自分にはフォトリアルだけじゃないかも」って思うようになっていったんですが、フォトリアルに近いものをやめたわけではなくて。MaxonのサブスクにRedshiftが入ったタイミングで、Redshiftにもう一回向き合おうという気持ちになって、この映像に取り組みました。
神戸:これはPotcast番組「奇奇怪怪」がマイクメーカーのShure(シュア)とのコラボスニーカーをつくったキャンペーン映像で、全編Cinema 4Dでつくりました。Redshiftはやっぱり、格好良いルックがすぐ出るんですよね。だから今は、Redshiftが楽しい時期です。
神戸:こういうケーブル、どうやってつくってますか?
伊藤:動くものなら「トレーサ」ですか。
神戸:やっぱりそうなんだ! 僕も最近気付いたんです(笑)。ヌルをつくってトレーサに入れて、円形と一緒にスイープをかけたら、ヌルを動かすだけで簡単に変形できる。
それと今回、こういうフォトリアルっぽい質感のものをつくろうと思った時に、自分としてすごく成長したなと思ったのが、あまり無駄なライトを置かなくなったことです。
伊藤:わかります。
神戸:このプロジェクトではHDRIのRSドームライト2つと、輪郭を出すためのリムライト(RSエリアライト)1つ、合計3つだけ置いてます。
ライブイベント「Margt ISLAND」映像~『King Gnu Live at TOKYO DOME』のオープニング映像
神戸:次の作品は、よく一緒に仕事をしているクリエイティブユニット・Margt(マーゴ)が2023年に開催したライブイベント「Margt ISLAND」での仕事です。イベントではアーティストと映像作家がタッグを組んでいて、僕も参加しました。
神戸:この映像では、リグを入れずにアニメーションさせることに挑戦しました。屈曲デフォーマの強度と角度だけで動きを付けて、最後に味付けとしてジグルを使ったら、気持ち悪くて良いなと(笑)。
伊藤:ジグル良いですね(笑)。
神戸:次は2022年末の『King Gnu Live at TOKYO DOME』のオープニング映像。全編Redshiftでレンダリングしました。
※Amazon Prime Videoで配信中
スポットライトにライトゴボ(GOBO、ライトに装着して模様や文字を投影するためのテンプレート)を付けて、トーンを出すというのを最近よくやっています。ここで、カラーにシアンを入れて夜っぽい空気感にするという。
伊藤:最近だとMaxon カプセルライブラリにライトゴボのテクスチャとかプリセットも追加されてますよね。
https://www.maxon.net/ja/capsules
神戸:プリセット、死ぬほど使ってます。マテリアルがどれも優秀で、特に「Toy Platsic Soft」シリーズはかなり好みの質感です。透け感というかSSS(サブサーフェススキャタリング)感の塩梅がすごく心地よくて。よく使ってます。ファブリックやセラミックの質感も好きです。
Q&Aタイム
伊藤:「各工程でどのソフトを使っているのかが知りたいです」という質問が来ました。
神戸:キャラクターアニメーションをつくるなら、最初はiPadでスケッチを描いてZBrushでスカルプトしてキャラクターをつくって、Cinema 4Dでリギングして、Substance 3D Painterでテクスチャを描いてモデルに貼ってレンダリング、というながれが多いですね。案件によってはUnreal EngineやTouchDesignerなんかを使うこともあったりしますが、結局はCinema 4Dに持ってきて出力するのが基本です。
伊藤:続いて、「今から映像業界に入る層は、何を磨いておけば良いか知りたいです」という質問です。
神戸:僕はスーツを着てサラリーマン、営業をやっていて、向いてないから技術職的なものに転職したかった。でも専門学校を出たわけでもなく未経験なので、内定をくれたのがファッション系の出版社と前職のテレビの制作会社だけでした。そしてテレビのほうを選んだ。ただそれだけなんです。だから、何を磨けば良いのかはいまいちわかんないです。でも……。
伊藤:好きなら、できる…?
神戸:そうですね。好きだということは大事だと思いますね。あとは、強いて言うなら、映像を分析的に見ることで、カメラワークとかライティングとか、「これどうなってんだろう」と考えながら見るところから予備知識が増えていくと思います。ただ、なんとなくで良いと思いますけどね。
伊藤:「お勧めのチュートリアルサイトや学習方法を教えてください」という質問です。
神戸:伊藤さんは何で勉強しましたか? 伊藤さんも独学タイプですよね。
伊藤:チュートリアルを見るよりは、最初はやっぱりソフトを片っ端から触りながら「この機能なんだろう」と、ソフトをおもちゃにして遊んでいく感じでしたね。そうやっているうちに、気付いたら使えるようになっていたと。
神戸:やっぱりそうですよね。あと、僕がめっちゃ見るのはMaxonの公式情報です。そこにセミナーとかアーティストの事例紹介が上がってくるんですが、あれがめっちゃ役に立ちます。
そこで知って感動したのが「破砕」です。適当につくったオブジェクトに破砕を入れて、MoGraphの「ランダム」でエフェクタのランダムモードを「ノイズ」にして、「アニメーション速さ」を調整すると、ちょっとだけランダムに動いてくれる。ライブの演出映像とかで1枚でドーンと出したオブジェクトに、ちょっとだけ動いててほしい時によく使ってます。
伊藤:1個だけちょっとずらしたいなんてときも、下の階層にいけば調整できるから便利ですよね。
神戸:こういうのはアーティストがセミナーとかでポロッとしゃべって初めて出てくるような小ワザで、生きてるテク、血の通ってるテクだと思うんですよね。だからMaxonが上げてくれるセミナーとかは見ちゃいます。
伊藤:「神戸さんの使用マシンのスペックを教えてください」と質問が来ています。
神戸:細かいスペックはわからないですが、やっぱり大事なのはGPUだと思います。僕は、GeForce RTX 4080を使っています。
伊藤:僕は最近まで3090でしたが、1ヶ月前ぐらいにやっと5090に乗り換えて、Redshiftがめちゃくちゃ高速になりました。続いて、「上達のことを考えると、アセットの使用に抵抗を感じるのですが」という質問があります。
神戸:僕は自由にしたら良いと思います。結局は楽しんでやるのが一番ですよ。
伊藤:セッションはここで終わりです。僕は日々、Cinema 4Dのユーザーを増やしていきたいなと思っていて、今回の講演はその一助になったのではないでしょうか。ありがとうございました。
神戸:今回、かなり幅のあるスタイルの作品を見てもらったと思います。結局、自分は「俺はこういうのをつくるぞ!」みたいな野心や使命感に燃えているわけでは全然なくて、「Cinema 4Dはおもちゃ」なんです。だからずっと、自分でつくったものでアガりたくてやってる。ただそれだけなんですよね。
僕は宮崎駿もデヴィッド・フィンチャーもクリストファー・ノーランも大好きだけど、「僕のスタイルはこれです」と言えるものはまだ見つかってません。いろんなスタイルを横断して、いつかその中に自分のつくるもののチャームポイントが見つかったら良いなと思ってるんです。
皆さんもCinema 4Dを楽しんでください。
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TEXT__kagaya(ハリんち)