4K・8K映像の普及や3DCG&VFX制作の高度化に伴い、制作現場で扱うデータは日増しに大容量化。制作の現場では、大容量データを高速に取り回すことができるストレージ環境が常に求められている。今回、ASUSTOR社のオールフラッシュNAS「FLASHSTOR 12 Pro Gen2」の検証を、CG/VFXスタジオのDEFTに依頼。10G/20Gbpsネットワークでの転送速度や8K動画制作での使用感など、現場ならではの実際的な検証を通じて、高速NASの可能性を探っていく。
「1カットで4.5TB」大容量データを扱うCG・VFX制作のストレージ事情
――まずは、DEFTの制作環境について伺います。
株式会社DEFT代表取締役。CG・VFX業界で約25年のキャリアをもち、2023年にDEFTを創業。TVCM、ミュージックビデオ、遊技機、映画など、幅広いジャンルのCG・VFX制作に携わる。クリエイティブワークに加え、社内の制作インフラやネットワーク環境の構築にも自ら取り組み、少人数でも大容量データを効率的に扱える制作環境を追求している。
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@HajimeKoyasu
子安 肇氏(以下、子安):当社では、1台のNASに対して最大5名程度が同時にアクセスするんですが、作業内容によって必要な転送速度が異なるので、10Gbpsと20Gbps、2つのネットワーク環境を使い分けています。
例えばモデリング。データの保存や読み込みのタイミングでストレージに負荷がかかりますが、常時大量のデータを読み書きするわけではありません。ですから、モデラーのワークステーションは基本的に10Gbps接続にしてあります。
一方、エフェクトやコンポジットでは、大量の連番ファイルやシミュレーションキャッシュを扱いますから、こちらには20Gbps接続を割り当てています。
――最近はデータ容量の増加を実感しますか?
子安:4K制作が増えて、レンダリングにも時間がかかり、データも大きくなっています。以前、約10km四方の街をCGで制作する案件がありましたが、1カットのデータだけで4.5TBぐらいになりました。3ds Maxのシーンファイル自体は10~20GB程度でも、キャッシュなどを含めると、そこまで膨らむんです。当然、保存や読み込みに時間がかかりますから、そうした待ち時間を極力減らすために制作インフラを整備するのも仕事のうちです。
――現在のストレージ構成は?
子安:主にQNAPのHDDベース(キャッシュはSSD)のNASを使用しています。40TBのNASを主力として、16TBのNASや、過去の資料を保存するための旧型NASも。用途に応じて使い分けています。
現在の環境に大きな不満はありませんが、今回の「FLASHSTOR 12 Pro Gen2」はSSDだけのNAS。どの程度の速度を発揮するのか非常に興味がありました。今後の機材選定にも役立つと思ったので検証をお引き受けしたというわけです。
小型・軽量でセットアップも容易 FLASHSTOR 12 Pro Gen2の第一印象
――「FLASHSTOR 12 Pro Gen2」、第一印象は?
子安:まず驚いたのは、本体の小ささと軽さ。届いた箱自体が小さかったので、中身はどれほど小さいのだろうと思っていたのですが、取り出してみると、ほぼA4サイズでした。厚さも約4.8cmしかありません。
▲月刊『CGWORLD』と、検証機の外箱の比較(左)。箱から取り出した実機はさらにコンパクトなサイズ感で、寸法は48.3 (H) x 308.26 (W) x 193 (D) mm(右)
子安:小規模なプロダクションでは、設置スペースが限られることも多いので、このサイズは大きなメリットです。従来のHDDを搭載したNASは、どうしてもそれなりの場所を取りますが、これなら複数台導入しても取り回しが良さそうです。
デザインも良い意味でNASっぽくなくて、ゲーム機のような外観。SSDならではのシンプルな設計だと感じました。
――ハードウェア構成については?
▲検証機の前面にはUSB 3.2 Gen 2 x 1が搭載(左)。背面(右)には下記のポートが搭載されている。 ・10 Gigabit Ethernet x 2 ・USB 3.2 Gen 2 x 2 (Type-A) ・USB4 x 2 (Type-C)
子安:M.2 SSDを12基搭載できる点が特徴ですね。10ギガビットLANポートも2基備えているため、SMBマルチチャネルによる20Gbps接続を試せます。今回の検証機には1TBのSSDが4基搭載されていたので、1基のドライブ故障に対応できるRAID 5(複数のドライブにデータと冗長性確保のための情報を分散する仕組み)を構成しました。製品にはAMD Ryzen Embedded V3C14、DDR5メモリ16GB、USB4ポート2基なども搭載されています。
――セットアップは簡単でしたか。
子安:非常に簡単でした。ASUSTORの製品を使うのは初めてでしたが、NASのセットアップという意味では、ほとんど迷わず進められました。起動後は「ASUSTOR Control Center(ACC)」を使うと、ネットワーク上のNASを自動検出してくれます。対象機器を選択して「開く」でブラウザが起動し、管理画面にアクセスできます。
子安:そこからRAIDの設定やネットワークサービスの管理、SMBマルチチャネルの有効化などを行えます。画面もわかりやすかったです。
――導入コストについてはいかがでしょう。
子安:そこは気になるところです。当社が運用している40TBクラスのQNAP環境は、導入時に100万円弱のコストがかかりました。同程度の容量をオールフラッシュNASで構築した場合、どのくらいの金額になるでしょう。本体だけでなく、搭載するSSDの容量やグレードによって総額が大きく変わります。高速性や設置性に価値があっても、最終的には予算とのバランスになると思います。
20Gbps接続で読み込み約2,177MB/s、書き込み約2,353MB/sを記録
――今回の検証環境について教えてください。
子安:当社は同じビルの2階と7階にオフィスがあり、約60mのLAN配線で接続しています。ケーブルはCat6Aで、各フロアに10Gbps対応のマネージドスイッチを設置しています。
フロア間は10Gbpsの回線2本をLACPで束ねて、合計20Gbpsの帯域を確保しています。一方、ワークステーションとNASの接続にはSMBマルチチャネルを使用しています。
――ふたつの技術を組み合わせているのですね。
子安:はい。LACPは複数の物理回線を束ねる技術で、当社ではスイッチ間の通信に使っています。ただ、2本を束ねたからといって、必ずしも1つのデータ転送が20Gbpsになるわけではありません。
SMBマルチチャネルは、複数のネットワーク接続を利用してデータを転送する仕組みです。対応するワークステーションとNASをそれぞれ10GbpsのLANポート2基で接続して、1本の場合よりも高速な転送を狙います。
今回はLACPとSMBマルチチャネルを組み合わせて、VLANによるネットワークの振り分けも設定したうえで検証しました。
――まず、10Gbps接続の結果はいかがでしたか。
子安:CrystalDiskMarkで計測したところ、シーケンシャル読み込みが約1,166MB/s、書き込みが約1,174MB/sでした。10Gbpsは理論上1,250MB/sですが、実際には通信のオーバーヘッドがあります。そのため、今回の数値は実効速度としてほぼ上限に近いものでしょう。
さらに、約10GBの実データをNASからワークステーションのSSDへコピーしたところ、約1GB/sで安定して転送できました。逆方向のコピーでも同程度の速度だということですね。
――続いて、20Gbps環境では?
子安:SMBマルチチャネルを有効にして計測すると、読み込みが約2,177MB/s、書き込みが約2,353MB/sになりました。10Gbps接続のほぼ2倍です。20Gbpsの理論値は2,500MB/sなので、とても良い結果でした。しかも、書き込み速度はASUSTOR公式サイトにある参考値を上回っていて驚きました(笑)。
――実ファイルのコピーでも効果はありましたか。
子安:はい。NASからワークステーションへのコピーでは約2.17GB/s、逆方向では約1.3GB/s。ベンチマークとは数値が異なりますが、大容量データのやり取りが非常に快適ですね。
参考までに、当社のQNAP環境でもCrystalDiskMarkを計測しており、読み込みが約2,083MB/s、書き込みが約2,323MB/sという数値が得られています。ただし、こちらはHDDベースのNASにSSDキャッシュを組み合わせた構成です。まずSSDにデータを受け取り、その後HDDへ書き込む仕組みなので、計測結果にはキャッシュの効果が含まれている可能性があります。単純に両製品の性能を比較できるわけではありません。
今回のFLASHSTOR 12 Pro Gen2では、SSDのみのRAID 5構成で高い転送速度を確認できたことに価値があります。
NAS上の8K ProRes 4444素材をDaVinci Resolveで快適に再生
――今回、映像素材でも検証いただいたそうですね。
子安:容量が大きく、検証結果を公開しやすいオリジナル素材をということで、大阪で撮影したタイムラプス素材、約23GBで検証しました。CG/VFX制作では4Kがかなり一般的になってきましたし、8K素材を扱う機会もあります。大容量の動画をNASから直接読み込んで、どの程度快適に再生できるか確認したかったんです。
――8K映像はどの程度の転送速度が必要ですか?
子安:8KのApple ProRes 4444では、条件によって約5,280Mbpsというビットレートになります。これを安定して再生するには、少なくともそのデータを読み込めるだけの帯域が必要です。
今回は約23GBの8K ProRes 4444動画をDaVinci Resolveで扱い、NAS上の素材を再生してみました。解像度は8K UHDではなく、フル8Kです。結果として、普通にスムーズに再生できました。これは非常にありがたいですね。素材をいちいちローカルストレージにコピーせず、共有ストレージ上で扱えるんですから。
――After Effectsのコンポジットでも恩恵がありますか?
子安:あると思います。当社ではAfter Effectsによるコンポジットも行いますが、合成作業では複数の素材を同時に読み込むことが多いですから。
先ほどの8K動画は単一の映像ファイルでしたが、実際のコンポジットでは4Kや8Kの動画、連番画像などが何層にも重なります。それぞれの素材を読み込む必要があるので、ストレージの速度は速ければ速いほど良い。
シミュレーションキャッシュについても同様で、ローカルドライブだけでなく、複数人がアクセスできる共有ストレージでどれだけ高速に扱えるかが重要です。
――素材の取り込みについてはいかがでしたか?
子安:外部ストレージをFLASHSTOR 12 Pro Gen2に接続し、PCから操作してデータをコピーしてみました。今回使用したカードリーダーは、10GbpsのUSB 3.2 Gen 2対応なので、この規格上の帯域にも制約されます。
実際の映像制作では、撮影素材を取り込み、編集し、レンダリング結果を書き出すまで、何度も大量のデータにアクセスします。こうした一連の工程で高速な共有ストレージを使えれば、作業の待ち時間をかなり削減できるはずです。
高速キャッシュからリモート共有まで。CG/VFX制作を支えるオールフラッシュNAS
――データ転送以外の機能も検証していただきました。
子安:まずは「ASUSTOR EZ Sync」。これはNASとPCの間でファイルを同期できる機能で、外出先からデータにアクセスする用途にも使えます。まずNAS側の「EZ Sync Manager」で同期フォルダを作成し、Macに「ASUSTOR EZ Sync」をインストールしました。クラウドIDやアカウント情報を設定し、Mac側とNAS側の同期するフォルダを指定するだけです。
子安:同期機能は写真や動画などのカテゴリからの選択や、拡張子による細かな指定にも対応しており、「.max」や「.ma」といった3Dデータも同期可能です。もし、同期させたくないファイル形式があればフィルター設定で除外できます。
――スマートフォン用のアプリ「AiData」も触っていただいたのですよね。
子安:はい。Macから同期したファイルをiPhoneで確認でき、iPhone側からNASへファイルをアップロードすることもできました。撮影現場のVFXスーパーバイザーが写真を撮り、その場でNASへアップロードして、オフィスにいるアシスタントやスタッフがすぐに確認する。あるいは、外出先から社内資料にアクセスする。そういった用途が考えられます。
――FLASHSTOR 12 Pro Gen2は、どのようなスタジオに向いているでしょうか。
子安:まず、シミュレーションを多用するスタジオですね。VDBなどの大容量キャッシュを保存する専用NASとして使うのも良さそうです。それから、8Kなどの高解像度映像を扱う制作現場や、After Effectsのコンポジット素材が多い環境にも向いていると思います。
3DCGでは、テクスチャの読み込みにも効果が期待できます。例えば室内のシーンでも、机や壁、小物などに使用するテクスチャが500枚、1,000枚という規模になることがあります。今回、個別に数値検証したわけではありませんが、そうした大量の小さなファイルを読み込む処理でも、SSDのメリットがありそうです。
――SSDの耐久性についてはどう考えますか。
子安:HDDのような可動部がないので、振動や衝撃に対する強さには期待しています。ただ、SSDにも書き換え寿命があります。特にシミュレーションキャッシュは書き込みや削除を頻繁に繰り返すため、SSDの耐久性は重要です。NAS向けやワークステーション向けなど、用途に適したSSDを選ぶ必要があると思います。
当社では制作データを3〜5年間保存することもあります。高速な作業領域と長期保存用のストレージを分けるなど、用途に応じた運用が現実的でしょうね。RAIDを組んでいても、別途バックアップは必要です。
――本製品のコンパクトさを活かした使い方はありますか。
子安:撮影現場へ持ち込む使い方も面白いと思います。これだけ小さくて軽ければ、カメラバッグにも入れられそうです。例えば撮影した素材を現場でNASに保存して、会社に持ち帰ったらLANに接続し、そのままスタッフ全員がアクセスできるようにする。大容量素材のコピーには1日、2日とかかるケースもあるので、その手間を減らせれば便利ですよね。
ただ、FLASHSTOR 12 Pro Gen2はPCやMacとのUSB4直接接続に対応していないため、現場での取り込み方法は工夫が必要です。将来的には、そうした接続が可能なモデルにも期待したいです。
――最後に、今回の検証を振り返っていかがでしたか。
子安:最大の魅力は、やはりこのサイズで高い転送速度を実現できたことです。セットアップも簡単ですし、設置場所を取らないというメリットもあります。
一方で、40TBなどの大容量をSSDだけで構成する場合、導入コストは慎重に考える必要があります。すべてのデータをオールフラッシュNASに置くのではなく、頻繁に読み書きする制作データやシミュレーションキャッシュを高速なSSD NASに置き、長期保存は別のNASに任せるという使い分けも良いでしょう。
当社が目指しているのは、少人数でも大規模なデータを扱い、シミュレーションやコンポジットの作業をできるだけストレスなく進められる環境です。今回、実際に20Gbps環境で高い速度を確認できたことで、そうした制作環境を構築する上で、FLASHSTOR 12 Pro Gen2は有力な選択肢のひとつだと感じました。
――制作環境の強化が期待できそうです。細かな検証、ありがとうございました!
お問い合わせ
株式会社アユート(ASUSTOR正規代理店)
www.aiuto-jp.co.jp
TEXT__kagaya(ハリんち)
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充