逢沢大介原作のTVアニメ『陰の実力者になりたくて!』と連動した、完全新作の3DアニメーションRPG『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』(以下、『カゲマス』)をAimingがリリースした。2022年11月時点で早くも100万ダウンロードを達成した。
開発したのは2021年に発足したAimingの第二事業部。2017年リリースしたマルチプラットフォームのMMORPG『CARAVAN STORIES』の開発チームを母体とし、3Dグラフィックス開発ノウハウやワークフローを元に、人気IPとコラボレーションしたプロジェクトを多数進行させている。
本稿ではカゲマスの開発事例を通じて、「Team Caravan」ことAiming 第二事業部を紹介しよう。新卒・中途、出身業界を問わず幅広くデザイナーを募集中の彼らが求める人物像についても紹介する。3DCGツールの経験すら問わないという非常に、間口の広い募集となっているので、チェックしてもらいたい。
CARAVAN STORIESの開発エンジンとワークフローを引き継いだ、Aiming 第二事業部
――自己紹介をお願いいたします。
板井:アート部マネージャーの板井です。『幻塔戦記グリフォン』『CARAVAN STORIES』などでエフェクトリーダーを担当し、カゲマスでもエフェクト制作・サポートとして関わっています。
久保:第二事業部副事業部長の久保と申します。現在はデザイナーの統括やマネジメントとプロジェクトのディレクターを兼任しております。本日はよろしくお願いいたします。
小林:UIセクションマネージャーの小林です。前職ではオンラインゲーム開発に従事しておりました。Aimingでは『無職転生 ~ゲームになっても本気だす~』や『スマホでゴルフ! ぐるぐるイーグル』のアートディレクターなどを務めたのち、カゲマスや『CARAVAN STORIES』など複数のタイトルに関わってきました。
補陀:モーションセクションのマネージャーの補陀と申します。前職は遊技機やコンシューマータイトル、アーケードタイトルを中心に開発していましたが、Aimingでは『ゲシュタルト・オーディン』や『キャラスト魔法学園』などを始めとするタイトルにモーションデザイナーとして関わっています。
――まずはAimingの第二事業部について、制作体制や特徴を教えてください。
久保:第二事業部はCARAVAN STORIESの開発チームが母体となった組織で、「Team Caravan 」という名前で組織編成をしています。企画職なども含め、全体では217名が在籍しており、うち117名がデザイナーとなります。主にIP関連タイトルを中心に開発しております。
■開発チームに管理専門職がジョイン。 開発者が開発に専念できる組織編成に
久保:CARAVAN STORIESを制作していた時期は、マネージャー職は全員プレイングマネージャーだったんです。人によっては苦手な管理業務が負担になって、本来打ち込みたいクリエイティブな業務に集中できず、非効率な状況もありました。そこでクリエイティブに関わらない「管理専門職」を同じ事業部にジョインしてもらい、開発者が開発だけに注力できるような組織編成を行いました。
――CARAVAN STORIESを母体にしたというのは、どういった理由なのでしょうか。
板井:CARAVAN STORIESはAimingが2017年にマルチプラットフォーム向けにリリースした本格的な3DグラフィックスのMMORPGです。広大なフィールドや手描きイラスト風のルック、そしてダイナミクスによるアニメーションを導入したチャレンジングなタイトルだったので、このプロジェクトで育った人材は非常に多いんです。
■CARAVAN STORIES メイキング記事
Aiming『Project Caravan』広大なフィールド&数多のキャラクターを、手描きイラスト風の3Dで表現
板井:新しくプロジェクトを始める過程で先のプロジェクトを通じて経験を積んで者たちをリーダーとして、組織再編が行われました。
久保:技術的な面でも、カゲマスはCARAVAN STORIESのエンジンを引き継いで制作されています。カスタムしたエンジンリソースを部署内で継承することで、効率的なワークフローを実現しています。CARAVAN STORIESの開発の2年半ほどかかりましたが、カゲマスの開発は1年半ほどでローンチまでこぎつけることができました。
アニメの視聴体験をゲームにそのまま落とし込むためのアートワーク
――ここからは、カゲマスのメイキングについて詳しくお伺いします。まずは全体のコンセプトについて教えてください。
久保:開発の大きなテーマとして、先行放映されたアニメの視聴体験をいかにゲームの体験に落とし込むか、魅力的なキャラクター達をいかに身近に感じてもらうかといったことを念頭に、制作を進めました。
アニメのスタイルを踏襲しながらも、ゲームとして楽しさに昇華するために様々な工夫を凝らしています。
■ユーザーの日常に入り込むためUIデザインは「格好いい」から「明るい」に一新
小林:UIについてはカゲマスは開発初期にデザイン面で大きな方針転換がありました。
原作やアニメはコメディ要素もありつつ、全体としてはダークな世界観が特徴です。公式Webサイトやアニメなども、例えば黒色に赤いラインが入るような「格好いい系」のデザインコンセプトになっており、当初はゲームもこの方向性を目指して開発が進んでいました。
久保:でも、ユーザーにキャラクターを身近に感じてもらうことを考えたら、できれば毎日ログインしてもらいたいですよね。そう考えると、ダークな雰囲気で全体を統一してしまうと、ユーザーの日常の一部にはなりづらいのではないかと。
そこでデザインを明るい雰囲気に振ることで、ユーザーに気軽にログインしてもらい、キャラクターとの距離感を縮めたいと考えました。
小林:デザインに関わるメンバーや企画職の方も含めて議論した結果、「黒は使わないようにしよう!」というくらい大胆な方針転換が行われましたね。
――UIの方針転換は開発初期とのことですが、開発スケジュールに影響はなかったのでしょうか?
久保:カゲマスはCARAVAN STORIESのワークフローと同様、全体のマイルストーンに対して「どの段階でなにを決めるか」が明確に決まっていました。流れで量産に入るのではなく、仕様やコンセプトなどを完全に決めきってから量産に入ります。
逆にそこまでであれば、魅力的なユーザー体験につながるのであれば、大胆な変更もギリギリまでは行なえます。UIの方針転換は量産の直前でしたので、ギリギリ間に合ったという印象でしたね。でも本当に変えてよかったと思います。
小林:このあたりは今まで弊社で開発してきたUIを移植したのが活きていますね。unity標準機能のuGUIを用いた開発を重ねていたので、早期に開発環境を構築することができました。デザインを差し替えるだけでも全体のゲームの雰囲気を見ることができますし、やはりゲームは実際に動かさないと感触がつかめないですから。
「CARAVAN STORIESの、あの仕様と同じで行きたい!」という一言で、UIもエンジニアも実装を始められるような感覚ですね。
■開発期間はわずか1年半。スピーディーに開発を進める秘訣は?
――共通のUIシステムを利用する他になにか、プロジェクトをスピーディーに進める秘訣はあるんでしょうか?
補陀:そうですね。事業部の方針として「成果物ベース」で意思決定を行うという文化が大きいかもしれません。アートチームは開発するタイトルは最初にどういったゲームか伝えるための「コンセプト動画」を作ってます。
例えばこちらはバトルシーンの演出なんですが、ある程度キャラモデルやアニメーションが出来上がった段階で、Unityのタイムラインを使用して、UIなどの素材を組み合わせてアニメーションを作ります。こういったデモ動画を用意することでエンジニアさんも迷わず開発を進めることができます。
補陀:量産体制に入る前にバトル演出の検討用に作ったものですが、デモをチーム内で共有することで、結果としてキャラ配置などのイメージも固まったり、宣伝チームにも前もってイメージ共有できたのは、プロジェクト全体を円滑に推進していく上では役にたったと思います。
■アニメ表現に寄せるためにエフェクトは敢えて一世代前の表現を採用
――開発のスピード感はCaravanで培った技術やワークフローの継承、コミュニケーションの積み上げから実現できていることがよくわかりました。先行放映されているアニメの追体験をゲームで表現することがプロジェクトの肝だと伺いましたが、放映は2022年10月で、テイストを合わせるにしてもかなりスケジュールが厳しかったのではないでしょうか?
板井:そうですね、アニメ放送と同時並行的で開発を進めていたこともあって、アニメを視聴してから「あ、この演出少し違うかも」という理由で作り直すなども多々ありました。ただ、アニメーションを担当したNexusさんが非常に協力的で、完成手前の動画コンテも共有してくれていましたので、雰囲気をみながら同時に作っていくことができました。ただ、エフェクトは後半なので、結構たいへんでしたが(笑)
――アニメ的なエフェクトのゲームへの落とし込みはどのように行なったのでしょうか?
板井:エフェクト制作については当初、ディストーションを用いたテクスチャの歪み表現やブルーム等のポストエフェクトを多用した表現でテイストを模索していました。ただ、多用しすぎると「アニメ的なテイスト」からかけ離れていく印象でした。なので、最終的には手書きのテクスチャ・コマアニメ表現等を使用したある種のオールドスタイルな作り方で雰囲気を作っていきました。
また、その過程で色々なパターンを試しました。剣閃エフェクトについては、それぞれがキャラクター性の表現を行うためにバリエーションを数多く作成しています。例えば、クレアというキャラクターの剣閃は円形ではなくシャープな軌跡を描くよう調整しています。表現を模索するフェーズは長い時間を掛けて行いましたが、エフェクト担当だけでなくキャラクター担当なども含めて全体で相談しながら決めていった形になりました。
■原作者完全監修のオリジナルストーリーを制作
――原作によらない、ゲームオリジナルの設定のカット演出もあったようですね。
小林:はい、例えばこのシーンはアニメにはないためモンスターやキャラクター・舞台背景など新規で制作しましたし、絵コンテからアニメーションの演出を作りました。アニメや原作とのイメージが相違ない様に、原作者の監修も高い頻度で行いました。
■原作にはない、新武器の提案も
小林:ゲームオリジナルの設定についてお話すると、原作では全員が剣士ですが、ゲーム性の幅を広げるためにも、アート表現としてのメリハリをつけるためにも、オリジナル武器を私達で作らせていただけないかと相談したこともありました。剣以外の武器はアニメにもサンプルがないので、設定から戦い方も含めてすべて弊社側で設計しました。
補陀:我々の提案をうけて原作者が「過去は独自の武器を持っていたのに、現在は全員が剣を持っている理由」といったゲーム内容を補完するようなシナリオを書いていただきました。ゲームの世界と原作小説が相互に影響を与えながら、作品世界が膨らんでいくような感覚です。これは非常に刺激的ですよね。
――キャラクターモデル制作やアニメーションについてのこだわりについてもお聞かせください。
久保:キャラクター面で言うと、以前の開発タイトルから大きく変わったのはフェイシャルです。アニメ原作に近づけるという要素に加え、「より可愛く見せる」というところに注力しました。キャラクターごとの表情集を作成し、感情ごとにそれぞれしっかりと監修を頂いています。
補陀:モーションを可愛く見せるために必要な要素はポージングと目線、表情です。キャラクターモデルは正面のデザイン画に寄せて作られるため、パースを取った際に目線が外を向くことも多いです。モーション側で目線を内向きにして焦点を合わせたり、カメラつきの演出であれば口の位置をカメラに合わせて調整したり、新しい技術でなにかを解決というよりは、ひとつひとつを丁寧に作業をした形ですね。
小林:苦戦したときは2D班に表情を見せたり、原画を描いてもらったりもしましたね。職種の垣根を超えて相談ができる環境なので、アートチーム全体でコミュニケーションが活発でした。
――アートチームというと、2022年8月には台北市にある台湾支店台北スタジオに続く、台中市に新スタジオ「台中スタジオ」を設立されています。台湾の方ともコミュニケーションは活発でしょうか。
久保:もちろん、このプロジェクトも序盤から参加しています。台湾支社が特に強いのは2Dアートワークで、カゲマスにおいてもベンチマークとなる、最初のアレクシア・ミドガルのキャラクターイラストを描いています。コロナ禍で行き来が難しい現状もありますが、週に1回以上はテレビ通話で意識共有を図っています。
アートチームからの提案でゲームシステムが変わっていく
原作ではヒロイン一人ひとりにファンがいる
――アートワークのコンセプトや制作手法をお伺いしましたが、ゲームならではの演出面で工夫はありますか。
補陀:本作にはホーム画面に設定したキャラクターと会話を楽しむ演出があります。もともとはキャラクターがホームに立っていて、タップすると喋るといった実装になっていましたが、これだとありきたりでキャラクターとの関わり合いが薄いという意見が出ました。そこでどういったホーム画面にするかの社内コンペが行われ改めて自分が提案したホーム演出案を提案しが採用されました。
ゲームをプレイしていただくと分かるのですが、ログインした時のキャラクターの出迎えや、ベンチ、階段など場所ごとの会話イベントなど、ホーム画面は他のタイトルに比べても非常に凝った作りになって
久保:キャラクターをタップすることでトークという交流演出に入り、親密度に応じてシチュエーションが変化します。こうした演出を取り入れることで、ユーザーがゲームを日常の中に取り入れやすくなったと感じています。アートからの提案がゲーム性に組み込まれて、結果的にゲームの目玉としてフィーチャーされるような形になった事例です。
――アート側からの提案がゲームシステムに組み込まれていくというのは、内製ならではの強みのように感じます。これはどの段階での提案だったのでしょうか。
補陀:自分が提案したホーム演出案は、最初はもっとシンプルな、工数を抑えた演出プランではあったのですが、提案を聞いたプランナーたちがすごく盛り上がってくれて。
当初、通常時はキャラクターが歩いているだけで、特定の操作をしたら特別な演出が入るような仕組みを提案していたんです。ただ、原作ではヒロイン一人ひとりにファンがいるため、しっかり魅力を見せるべきという判断から、キャラごとに様々なシチュエーション展開を用意して、ユーザーのお気に入りのヒロインとより親密度を深めていけるようなゲーム性を取り入れる方針に切り替わりました
――これも第二事業部ならではの、職種ごとの距離の近さから生まれたコラボレーションと言えるかも知れませんね。
■デザイナーからの提案でバトルシステムが変更
補陀:もうひとつ、アートからの提案でゲームシステムが変わった事例として「ストライクコンボ」があります。当初、バトルは編成を組んだのち、ユーザーは見ているだけという仕様でしたが、私や板井からいろいろ提案した結果、板井の案に決まったんですね。
板井:コンボを積み重なるといったところでロジカルに処理しすぎると演出面が弱いですし、カットインやカメラのアングルを含めて「ユーザーがボタンを押したくなる」仕組みが必要だと感じていました。また、ホーム画面同様、画面が単調になるのは良くないと感じたため、もっと見た目の変化が感じられるような演出を提案しました。
あくまで私は演出側のみで、結果的にはみんなの発想がいろいろ入った形で、「ユーザーがコンボの順番を任意に選択できる戦略性」を持たせる方向となりました。
補陀:最初は空中コンボのように敵が浮き上がる演出や、少しクローズアップするくらいの小さな演出のみが入っていました。なにもしなくてもバトルが進んでしまうということで、コンボ選択によってゲームへ介入できる要素を作りました。なお、バトルもホーム演出も、基本的にはUnityのTimeLine機能で制御しています。
組織拡大に向けてデザイナーを募集中
CGツール未経験者も大歓迎!30名規模の大募集。
――お話を伺って第二事業部のアートチームの自発性や、「みんなでワイワイ作ろうぜ」って雰囲気が強く感じられました。これから新たにプロジェクトがスタートしていくそうですね。どれくらいの規模の人員拡張を目指しているのでしょうか?
久保:事業部全体では100名ほど増員し、300名規模でと考えています。そのうちデザイナーは30名程でしょうか。募集対象の間口は広く考えています。
――それは大規模募集ですね!「間口は広い」とのことですが、ゲーム業界以外の出身者でも応募可能なものでしょうか?
久保:全く問題ないですよ! 新卒でも歓迎ですし、CGの経験がなくても、絵が好きであれば応募していただきたいと思います。CGやってない美大の方とかも全然入ってきてますので。映像畑の3Dやってる人、別業界から一念発起でゲーム業界に行く人とか、本当に様々な背景の方が来ています。
板井:前職の営業経験が活きちゃったりとか、そういうのもあったりして。直接的でないスキルが、実は活かされることもある。
■数字で見るAiming
――:使用経験が必須のCGツールはあるんでしょうか?
久保:ありませんね。ツールの利用経験も不問にしているくらいですし。絵が好きだったり、デッサン力があった方を重要視しています。3DCGツールは入社後に習得していただきます。
――:それはかなり間口広いですね。ちなみに参加プロジェクトはどのように決まるのでしょうか? 希望はどのくらい通りますか?
小林:完全に希望通りになるかは状況次第ですが、これからなにをするかは早い段階で共有しています。UIデザイナーの場合は、まずは興味があるプロジェクトのチャットに入れてもらって、そこで話を聞いたり、意見を言ったりするくらいからスタートする場合もあります。正式に配属されているプロジェクトとは別に、自由に意見を言い合える感覚です。
補陀:第二事業部では3か月に一度、
――ちなみに、皆さん自身がデザイン力向上のために心がけていることなどはありますか?
久保:Aimingの文化として、社内勉強会が活発なのが特徴だと思います。我々もデザイン勉強会や、デッサンなどを行う会などを設けています。たまに企画職の方もいらっしゃいますので、そこから共通言語が生まれたりもしますね。
補陀:企画や他の職種の方も含め、いろいろなワークショップをやりたいね、という話題は非常に多いです。ここ最近はコロナ禍もあって数が減少していましたが、これからどんどん復活させていきたいという気持ちがあります。デザイン向上という意味では、アニメでもゲームでも、選り好みをせずに無作為にいろいろ観てインプットを増やすなどが効果的ではないかな、と思います。
――最後に、求人についてお伺いします。どのような人材と仕事をして行きたいか、お考えをお聞かせください。
小林:先ほどからお話に上がっているように、意見を自由に言い合う文化があるため、積極的に発言してくれる方だと嬉しいですね。提案しやすい空気感ではあると思いますので、一緒に話し合える方とお仕事ができると良いな、と思っています。
板井:提案力に加えて、こだわりだと思います。提案にスキルが伴えば素晴らしいですが、まずは提案するという前への踏み込みの姿勢を見せていただけるだけでも嬉しいと思っています。とはいえ技術は必要ですが、自分が伝えるべきものが自分で分かっていれば、逆算で必要なスキルが見えてくるはずです。新しい技術習得や、場合によっては他業種の知見を吸収することも含めてポジティブに考えられる方が向いていると思います。
TEXT_神山大輝(NINE GATES STUDIO)
PHOTO_弘田 充
EDIT_池田大樹 (CGWORLD)