6/16(火)、「バックオフィス×AI活用の最前線を体感」をテーマにしたリアルイベント「freee 統合ワールド2026」が開催された。
本記事では、映像・アニメーション業界の持続可能な経営基盤構築に焦点を当てたセッション「Autodesk Flow PT × freee ― 映像・アニメーション業界の制作基盤を、新しい時代へ」の様子をレポートする。
佐野 誠 氏
フリー株式会社 映像制作業界DX推進責任者
15年以上にわたり制作業界各社のシステム構築に携わり、現場が制作に集中できる環境づくりを提唱している。
井上 将人氏
株式会社ボーンデジタル ソフト事業部 テクニカルサポート
ITプログラマーとしての経歴を経て3DCGを学び、制作現場での実務に従事した経験を持つ。2021年より現職にて、Flow PTの導入支援やテクニカルサポートを担う。
制作現場の「クリエイティブファースト」が生むジレンマに挑む
フリーの佐野誠氏は、冒頭で映像制作業界が直面している課題を紹介。アニメ産業レポート2025によれば、アニメ1話(30分)あたりの制作費はこの10年で約2倍以上に膨れ上がっており、人件費の高騰や深刻な人材不足が経営を圧迫しているという。このような状況下では、作品ごとの正確な原価把握が不可欠となっているが、制作現場は常にクリエイティブファーストであり、現場スタッフに管理業務の負担をかけたくないというジレンマがバックオフィスのDXを遅らせる要因と佐野氏は分析している。
その課題を解決するべく、freeeからローンチされたのが「freee for 制作」だ。「進捗や稼働データがタイムリーに経営情報と紐づかないため、プロジェクトが終わるまで採算が分からなかったり、新規案件の見積りを勘に頼らざるを得ない状況が続いてきました。そこで、現場のクリエイティビティを止めることなく、フロントの業務から経営管理までを直結させるプロジェクト「freee for 制作」を6月11日に始動させました」(佐野氏)
このプロジェクトは、アニメ、CG・映像、CM、番組、Webなど、多岐にわたる制作現場を対象とし、現場での工程管理がそのまま会計データへ変換されるスムーズな経営管理環境の実現を目指している。
制作現場のデファクトスタンダード「Flow PT」の強み
ボーンデジタルの井上氏からは、世界中の制作スタジオで採用されているプロジェクト管理・レビューツール「Autodesk Flow Production Tracking(以下、Flow PT)」の役割が解説された。Flow PTは旧称「ShotGrid」または「Shotgun」として知られ、映像、CG、アニメ制作、ゲーム開発における進捗管理のスタンダードとなっているツールである。
井上氏は、従来のExcelやスプレッドシートによる管理では「最新データがどれか分からなくなる」「フィードバックがメールやチャットに埋もれてしまう」といった課題があったと指摘する。Flow PTを導入することで、以下の3つの強みによってこれらの問題が解決される。
現場スタッフにとってFlow PTは、業務を回すために入力せざるを得ない不可欠なツールであり、日々の進捗はこの中に集約されている。
「ちょうどいい」工数管理で、データ経営への橋渡しを
一方で、経営側が必要とするのは、現場の動きをコスト(人件費)として捉えることである。佐野氏は、制作業界向けに最適化された「freee工数管理」の特徴を
「シンプルかつ必要な機能が揃ったちょうどいいツール」であると説明。
「制作業界の方々にとっては、実は工数入力という言葉自体に強い抵抗感があることが多いです。忙しい現場にさらなる入力負荷を強いることは、クリエイティブを阻害することになりかねません。だからこそ、freee工数管理は、多機能すぎないちょうどいいバランスにこだわっています」(佐野氏)
クリエイティブ業界において工数入力という概念自体が抵抗感を持たれやすいことを踏まえ、freeeは以下の点にこだわって開発された。
API連携がもたらす二重入力からの解放
本セッションの核心となるのが、Flow PTとfreee工数管理のAPI連携である。この連携は、実際に両ツールを5年以上活用してきた「現場の生の声」を反映して製品化された。
これまで、制作現場では管理ツールと勤怠・工数システムの双方に同じ内容を手入力する二重入力が常態化しており、クリエイターにとって大きな負担となっていた。今回のAPI連携により、このフローは大幅に簡略化される。
現場で日々生まれているデータが、何の加工もなくそのまま経営管理データに変換される。この仕組みにより、現場に新たな負担を強いることなく、経営側は工程ごとの採算や生産性をリアルタイムで可視化できるようになる。蓄積されたデータは、実績に裏打ちされた正確な見積り作成にも繋がる。
業界特化の課題解決と今後の展望
佐野氏は、今回のFlow PT連携を「第1弾」と位置づけ、今後さらに「freee for 制作」のカバー範囲を広げていく構想を明かした。
1つめに挙げたのは、3DCG以外の多様な領域の特化。紙やアナログな工程が残る2Dアニメ制作や、ロケハン・機材管理が複雑な実写映像制作に特化したツールの開発をユーザー企業と共に進めている。2Dアニメではカットごとの複雑な外注管理を、実写制作ではデジタル化が遅れている交通費・カード精算のDXを支援する。
2つめは、現在も多くの制作現場でExcelによって属人的に管理されている「実行予算書」のデジタル化だ。現在もExcelで管理されることが多い「実行予算書」をデジタル化し、フロントの予算策定からバックオフィスの実績管理までを一気通貫でつなげる世界を目指している。
3つめの構想は、AIと次世代テクノロジーの活用。蓄積されたデジタルデータを最大限に活用するため、AIやMCP(Model Context Protocol)を用いたカスタムオーダー型の支援の強化だ。 蓄積されたデータを活用し、AIやMCP(Model Context Protocol)を用いて、個別の企業ごとに最適な業務フローをゼロからの開発不要で構築するというもの。 「データがデジタル化されれば、AIを活用して個社に最適な経営プラットフォームの提供を行えるようになっていくと考えています」(佐野氏)
Q&A
質疑応答パートにて、実写映像制作への適用について問われると、佐野氏は「既に実写の番組制作やロケを伴う現場でも取り組みが始まっている」とし、経費精算やカード決済のデジタル化から着手し、徐々に工数管理や販売管理へと繋げていく柔軟なステップを提案した。
また、すべてのスタッフにfreeeとFlow PTの両方のアカウントが必要かという問いに対して、井上氏は「メインの制作に関わる長期メンバーはFlow PT連携を行い、短期のヘルプスタッフや管理部門のスタッフはfreee側で直接入力する、といった共存が可能である」と回答。
freee勤怠管理の導入が必須かという点については、佐野氏が「freee工数管理単独での導入も可能である」と明言した。まずは経営判断に必要な実績データを集めることから始め、組織の成熟度に合わせて範囲を広げていける設計となっている。
クリエイターの未来を支える基盤として
本セッションを通じて一貫して語られたのは、「クリエイターが制作に100%集中できる環境をつくることが、結果として持続可能な経営と高品質な作品づくりにつながる」という考え方である。
佐野氏は最後に、「各業界、各社の課題に真摯に向き合い、カスタムオーダー形式も想定した支援を実施していきたい」と締めくくった。
TEXT&EDIT_Mutsuko Mochida/持田 睦子
PHOTO_Mitsuru Hirota/弘田 充