KADOKAWA・サミー・ウルトラスーパーピクチャーズからの出資を受け、2018年に設立した、アニメーション制作会社ENGI。『GAMERA -Rebirth-』、『「艦これ」いつかあの海で』、『Unnamed Memory』など、3DCGアニメーションから2Dアニメーション・遊技機等、幅広く映像制作を手がけている。
今回はそんなENGIにインタビュー。スタジオ立ち上げと、『GAMERA -Rebirth-』の制作を通してENGIがどのようにして最適なワークフローを構築していったのかご紹介するとともに、同社が導入しているマウスコンピューターのデスクトップPC「DAIV」シリーズの導入経緯や使用感についても語ってもらった。
幅広いジャンルのアニメーション作品を手掛けてきたENGIとは
CGWORLD(以下、CGW):まずは皆様のプロフィールを簡単に教えてください。
帆苅 哲氏(以下、帆苅):テクニカルチームでスーパーバイザーをしている帆苅です。
堀 正太郎氏(以下、堀):アニメーションチームでスーパーバイザーをしています、堀です。
中村葉月氏(以下、中村):背景チームでリーダーをしています、中村です。
CGW:ENGIはこれまで、様々な作品を手掛けられてきたと聞いていますが、作品に対する関わり方について教えてください。
帆苅:ENGI-3DCG部はアニメ作品の企画段階から、いわゆるポスプロ段階に至るまで制作全般に携わるプロダクションを目指しています。KADOKAWA様のアニメ作品やサミー様の作品まで、様々なジャンルで制作してきました。ゲームに関しても、イベントシーンの制作などを行なっています。
現状では他の会社さんからの依頼を受けて作品に携わっているというかたちですが、いずれは弊社のオリジナル企画でのアニメ作品も制作していきたいと考えています。アニメーション制作部、3DCG部、デジタルコンテンツ開発部、遊技機部と四つの部門があり、それぞれが連携しながら作品作りに取り組んでいます。
CGW:ENGIの社員数や職種ごとの内訳を教えてください。
帆苅:全体で140人、3DCG部は50人弱です。
CGW:3DCGスタッフが現在使用しているツールについて教えてください。
中村:Mayaをメインに使用して、テクスチャはSubstance Painterを使っています。2D案件ではClip Studioを使用しますが、最終的な納品にはPhotoshopを使用することが多いです。
堀:リギングチームもアニメーションチームも基本的にはDCCツールとしてMayaを使っていますが、クライアントによっては3ds MaxやBlenderも使います。また、案件によっては撮影チームに渡すための仮コンポを作成するのにAfter Effectsを利用する事もあります。
帆苅:私は、パイプラインの責任者として、他のチームが使う3Dツールについて理解しておかなければならないので、他のチームが触る必要があるツールは全て使っています。あとはマネジメントツールとしてshotgridを、データベース作成にPostgreSQLを使っています。Houdiniも現状はあまり使えていないのですが、いずれは活用できればいいなと思っています。
CGW:ENGIは2018年に設立された会社だそうですが、この6年間でどんな変化がありましたか?
中村:フルCGアニメ『GAMERA -Rebirth-』(以下、ガメラ)の制作から始まり、チームが徐々に形成されいったような印象です。最近では背景チームが、YOASOBIのMV『Biri-Biri』 の背景制作を協力させて頂くなど、チームごとにそれぞれの案件を進める機会も増えてきました。
帆苅:私が入社した当時の3DCG部は、まだ15人ほどでした。最初の元請け作品としてガメラをやるためにチームを整えないといけないということで人を集め始めて、どんどん規模が拡大していきました。ガメラでは3600ショットを弊社内でレンダリングしなくてはいけなかったのでとても大変でした。
『GAMERA -Rebirth-』の重いレンダリング処理に「DAIV」が大活躍
CGW:ガメラの制作でもレンダリングが大変だったということでしたが、レンダリングマシンは何を重視して選定するのか、その基準について教えてください。
帆苅:そもそもですが、シーンの特性によって最適なレンダラーは変化します。メモリが沢山必要なシーンならこのマシン、CPUのコア数が多い方がいいならこのマシン、といったようにシーンごとに使い分けています。最適なレンダラー、マシン選択は、チーム全体の制作効率のアップに大きく寄与すると考えているので、マシンを導入する際は特に注意して判断します。
ガメラはArnoldでレンダリングしていたんですが、ArnoldはCPUのコア数が違うとレンダリング速度がかなり違ってきます。人に対するマネジメントも、その人の適性に合わせて仕事を割り振ると思います。同様にレンダラーにも向き不向きがあるので、そこをしっかりと見極めて、適切なマシンに任せることが重要だと思います。
CGW:それはシーンによってレンダラーに必要とされるスペックが違うということでしょうか?
帆苅:おっしゃる通りです。例えばキャラ数が多いシーンだと大量のテクスチャを読み込まなければなりませんし、ガメラはAlembicベースでレンダリングしていたのですが、Alembicがそもそも重くて大量にメモリを使うので、それに合わせてメモリ容量の大きいマシンを使っていました。
CGW:ガメラの制作時は何台くらいのレンダリング用マシンが使われていたのでしょうか?
帆苅:レンダーファームとして40台を使用していました。それに加えて、作業終わりに空いたクリエイターPC40台をレンダリングに使用することもあったので、計80台を使用しました。
CGW:大型案件であるガメラは無事に完成したわけですが、次にENGIとしてどんな表現にチャレンジしたいと考えていますか?
帆苅:作画アニメの中での3DCGの活用を追及していくと同時に、3DCGが得意とするアニメ映像とは?を追求した映像作品を作っていきたいです。
堀:フル3DCGでやる作品であればフル3DCGでしかできないような表現をしたいですね。単に作画のような表現を3Dで制作するのではなく手で描けない表現であるとか、3DDCGだからこそできるような表現に挑戦していきたいです。
CGW:近年で最も難しかった案件は何でしょうか?
堀:やはりガメラですね。現在の部署ができる前から始まっていた案件で、チームの育成、拡大を行いながら作品を完成させないといけないという状況でした。大変な状況ではありましたが、周囲のスタッフが制作を通して急激に成長していくのを見ているのが楽しかったですし、自分としてもすごく勉強になりました。チームリーダーとして何かを強制したわけではないのですが、チームメンバーが自主的に「どうしたら作品が良くなるんだろう?」と考え、学びながら制作にあたってくれたおかげで、作品の完成とチームの形成が実現できました。
帆苅:具体的には、レンダーディスパッチャーの処理を応用して、エラーチェックを1000ファイル一括で打ち込むとか、3600ショットを全部回すなんてことをやっていました。レンダリングジョブ以外で50000ジョブあったんですが、そのうち45000ジョブくらいは私がプログラムで処理したものでした。このように色んなツールを駆使したり、スタッフの知識を共有したりして、効率化しながら進めていきました。
CGW:知識の共有というのはどのように行われていたのでしょうか?
帆苅:基本的には、Notionを使ってまとめています。マニュアルは、完成度ごとに「シェアノート」、「wiki」、「マニュアル」と分けて呼んでいます。まずはメモ書き程度の「シェアノート」を各自作成・共有、リーダーが内容を確認し承認すると「wiki」としてページが共有されます。そのwikiを体系的にまとめ整理されたものが「マニュアル」といったイメージです。
CGW:スタッフの学びも仕組み化し、効率的に行なっているのですね。これまでを振り返って今後どんなことを行なっていきたいですか?
帆苅:どこまでワークフローや制作環境を最適化しても、「何故か今レンダリングできない!」といった突発的なトラブルはどんな案件に携わっていても発生するものです。このような場合、その問題の原因を特定することに最も時間と労力を使います。どの案件の話で、該当シーンのデータはどこを参照すれば良いのか、そのデータをどんなPCで扱っているのか?.....と原因を追及していく過程は、システムやPCの知識がないと解決まで時間がかかってしまうことが多いです。
なので、私は若いスタッフを中心に「パソコンとは何か?」といった基本原則を教えるようにしています。私は、この原則を学べばCGクリエイターがシステムの不具合や、PCの問題解決に費やす時間を減らすことができると考えています。
カスタマイズ性の高いハイエンドPCの一括購入が可能、クリエイターの使用シチュエーションに沿ったデザインがおすすめポイント
CGW:続いて、制作環境についてお伺いしたいと思います。ENGIの3DCG部ではマウスコンピューターのDAIVシリーズを導入しているそうですが、良かった点を教えてください。
帆苅:弊社はレンダリングに関してはArnoldを使っているのですが、先ほども申し上げた通り、Arnoldのレンダリング速度はCPUのコア数によって大きく左右されます。その点「DAIV-DGX750H2-SH5」はi9-7900X 10コアを搭載しているので、ミドルスペックのPCと比べて圧倒的なレンダリング速度を発揮してくれました。様々な長所がありますが、決め手となったのはCPU性能の高さですね。
CGW:「DAIV」が活躍した制作場面について、もう少し具体的に教えてください。
帆苅:例えば『GAMERA -Rebirth-』1話でギャオスが飛んでいるシーンはAlembicが多くて大量のメモリを必要としますし、ギャオスのような怪獣はディスプレイスメントを多用しているので、データが非常に重いんです。また、5話のスペースシャトルのシーンなど、光の反射が多いシーンを扱う時は計算量が大幅に増えるので、やはりCPUの性能がカギになります。
さらに、6話の浜辺で戦車が沢山出てくるシーンのデータも非常に重く、ショット作成には高いスペックが要求されました。このような、処理に高いスペックが要求されるような場面はDAIVが大いに活躍してくれました。
他のマシンで前述した比較的重いシーンを処理しようと試みたことがあったのですが、読み込んでいる間にネットワークが圧迫されてしまい、それ以外のマシンが数日間ずっと待つしかないという結果になりました。この結果を受けて、重いシーンはDAIVのようなハイスペックマシンだけに絞って処理するという運用になったんです。またガメラ以外でも『夜は猫といっしょ』のクロス新宿ビジョン用の広告映像などは解像度を大きく出さなければいけなかったので、その制作時にもやはりDAIVが役立ってくれました。
CGW:なるほど、様々なシーンでDAIVの高スペックが役立ったというわけですね。他にもマウスコンピューターで作業用PCを購入するメリットがあればお聞かせください。
帆苅:弊社では、作業用のPCは概ねこれくらいのスペックという標準の要件があって、その要件を満たしたPCを会社として一括で買っています。マウスコンピューターは手頃な価格で条件を満たす構成のPCを一括で揃えることが可能だった上に、こういう構成にしたいといったようなカスタマイズの要望にも柔軟に対応してもらえたという点が良かったです。
CGW:ではDAIV-DGX750H2-SH5の他にもマウスコンピューターのクリエイターPCを導入されているということでしょうか?
帆苅:最新モデルのDAIV FX-I7G70をはじめ、他のモデルも含めると延べ100台近くを購入しています。
CGW:一括で同一構成のPCを購入する理由は何なのでしょうか?
帆苅:同一構成のPCを使用することで、エラーやトラブルが発生した際の原因の特定が容易になることが大きな理由です。スタッフによってハードウェア構成が違うと、問題が起きた場合にPC側の問題か、ソフト側の問題かなど原因の特定までに時間がかかってしまいます。構成が同じであれば、比較検証すべき項目が大幅に減るので、問題発生時の原因の特定が容易になります。
以前、特定のMayaのツールがクラッシュするようになったという報告があり、原因を調べることがありました。新しく入ったスタッフが使っていた11世代以降のIntel CPUのopen sslの仕様が変わったことが原因でした。この問題が発生した時にも、スタッフが使用しているPCの構成の種類が多くなるほど、比較検証する項目が多くなるため原因特定までに時間がかかるなと感じました。
CGW:単にスペックが高いだけでなく、同じ構成のマシンを一括で揃えられるという点も魅力だったんですね。では続いて、スペック面以外でのDAIVの印象について教えてください。
堀:デザインも格好良くて気に入っています。シンプルで無駄のないデザインでオフィスにも馴染みます。
帆苅:ローラーや持ち手が付いているのも、とてもいいなと感じています。例えばホコリの掃除をしたい時とか、PCの位置をちょっと調整したい時って結構あるんですよ。クリエイターが気になるポイントをしっかり押さえたデザインだと思います。
CGW:マウスコンピューターでPCを購入する魅力の一つとして手厚いアフターサポートがあげられることが多いのですが、その点はいかがでしょうか?
帆苅:ありがたいことに、そもそも今まで一度も故障がないんですよね(笑)。もちろんちょっとした問題であれば私やシステム担当の人員で対応しているということもありますが、基本的に故障が少ない印象です。
CGW:万が一の場合も、24時間365日対応の電話サポートがありますし、さらにリアルタイムで電話窓口の状況や修理作業にかかる期間が分かるのは作品作りにとって大きな利点ですね。特に組織間を跨いで大勢で制作に取り組むような案件を多く抱える貴社にとっては、安心感のあるサポート体制になっているのではないでしょうか。
ENGIが導入した「DAIV-DGX750H2-SH5」のポイント
DAIV-DGX750H2-SH5(※現在は販売終了)は、CPU「インテル® Core™ i9-7900X X シリーズ・プロセッサー」と、高性能グラフィックス「GeForce® GTX 1080 Ti」を標準搭載している。また、ハイパフォーマンス PC に相応しく、冷却性や外付けデバイスの拡張性、付属する周辺機器も考慮し、M.2 形状の SSD の冷却性を向上させるシールドの搭載や、様々な外付けデバイスに対応可能なように USB 3.1 ポートなどの複数の I/O ポートを内蔵している。
DAIV-DGX750H2-SH5
- CPU
インテル® Core™ i9-7900X プロセッサー ( 10コア / 3.30GHz / 13.75MBキャッシュ / HT対応 )
- GPU
NVIDIA GeForce® GTX 1080 Ti( 11GB )
- メモリ
64GB (16GB×4)
- ストレージ
480GB M.2NVMe + 480GB SSD + 3TB HDD/DVD スーパーマルチ
- OS
Windows 10 Pro 64ビット
DAIV FX-I7G70
- CPU
インテル® Core™ i9-13900KF プロセッサー ( 24コア / 8 P-cores / 16 E-cores / 32スレッド / TB時最大5.8GHz / 36MB )
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 4070 / 12GB
- メモリ
64GB メモリ (32GB×2)
- ストレージ
1TB M.2 NVMe SSD + 4TB HDD
- OS
Windows 10 Pro 64ビット ダウングレードプリインストール
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_オムライス 駆
INTERVIEW_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)
EDIT_中川裕介/ Yusuke Nakagawa(CGWORLD)