[対談]桐山孝司 氏(東京藝術大学大学院映像研究科長)× 吉田 健 氏(ピコナ代表取締役社長) 革新し続ける藝大の3DCG教育と研究。それを支援する制作環境とは?
東京藝術大学(以下、藝大)は2005年に横浜校地を開設し、大学院映像研究科を設置した。以降、修士課程(映画専攻、メディア映像専攻、アニメーション専攻)と博士後期課程(映像メディア学専攻)を順次設置し、2019年からはゲームコースも始動させた。その舵取りを担う桐山孝司氏と、アニメーション専攻の第二期修了生だった吉田 健氏が、藝大の3DCG教育と研究の現状や、その制作環境について語り合った。
桐山孝司 氏(東京藝術大学大学院映像研究科長、大学院映像研究科メディア映像専攻教授)
1991年、東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻博士課程修了、工学博士。東京大学人工物工学研究センター(助教授)、スタンフォード大学設計研究センター(フルブライト客員研究員)、独立行政法人科学技術振興機構(さきがけ研究員) 、東京大学大学院情報学環(特任助教授)を経て現職。
fm.geidai.ac.jp
吉田 健 氏(ピコナ代表取締役社長)
2004年、コナミを退社。2005年、UCLA Extension 映像プロデューサーカリキュラム修了。2006年、デジタルハリウッド(スクール)卒業。2008年、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科修了。2009年、ピコナ設立。2011年、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。
picona.jp
ゲームコースが始動してから表現手法の幅が一気に広がった
―― 吉田さんは2011年にアニメーション専攻を修了しているそうですね。
桐山孝司氏(以下、桐山):産業界の最前線で活躍する修了生とお話しできてうれしく思います。
吉田 健氏(以下、吉田):在学中は岡本美津子先生(東京藝術大学副学長・アニメーション専攻教授)の研究室に所属していました。今はCGスタジオの社長として主にプロデュースや企画の仕事をやっているので、岡本先生から学んだことを現場で実践しているかたちです。
桐山:アニメーション専攻とメディア映像専攻では2019年4月からゲームコースを共同運営しており、岡本先生と私はその指導教員もしています。ゲームコースが始動してからは、作品制作に3DCGやインタラクティブ表現を取り入れる学生が増えており、表現手法の幅が一気に広がりました。
吉田:羨ましい限りですね! 私が在学していた頃のアニメーション専攻は、2Dの手描き表現が中心でした。
桐山:絵画科やデザイン科の学部生で、3DCGも触っていた人が進学してくるケースも増えました。美術学部だと3DCGやアニメーション表現は評価されにくいのですが、大学院映像研究科であれば存分にやれるからというのが主な理由のようです。
吉田:今の若い世代は物心がついたときからアニメやゲームの3DCG表現に親しんでいるから、表現手法のひとつとして違和感なく選択する人が増えているのでしょうね。
桐山:そうだと思います。ゲームコースでは産学協同の取り組みも積極的にやっていて、2019年度からはスクウェア・エニックスとLuminous Productionsのプロデューサーやクリエイター8人による、「芸術と情報」と題した全8回の講義を実施していただいています。さらにゲームフリークのアートディレクターによる「あそびとしてのデザイン」と題した特別講義も実施していただき、いずれも学生たちに好評です。ゲームコース以外の学生も数多く受講していましたね。スクウェア・エニックスの時田貴司さん(プロデューサー)を特別教授としてゲームコースのゼミにお招きして、修士1〜2年の各プロジェクトに対して、産業界での経験と知見に基づく助言をしていただいたりもしました。
吉田:それはすごい。もう1回藝大に入り直したいです(笑)
桐山:贅沢をさせてもらっていると思います。ゲームは産業界から発生した新しい分野なので、多くのノウハウが産業界の方に蓄積されています。「総合芸術」と呼ばれるだけあって、アートとテクノロジーの様々な要素が複雑に絡み合っている分野でもあるので、1人の教員だけで指導できるものではありません。アカデミックの場で、芸術の1分野としてゲームを指導するための教育体制を今も模索している最中です。
吉田:従来の映像は、高い専門性を基に縦軸のチームで組み立てていくつくり方が主流だったと思います。けれどゲームをはじめとする最近の3DCG表現では、多様な分野の知見や技術を横串で刺すようにつなげられる人が求められていると思います。そうすることで、より新しく、より面白い表現が可能になり、市場が活性化します。私自身、その役割が担えるプロデューサーを目指して、徐々に守備範囲を広げているところです。産業界の方を教員の1人として招くことは、アカデミックなアートと、エンターテインメント業界のゲームやアニメを横串で刺せる人の育成につながると思うので、ぜひ積極的にやっていただきたいと思います。
GEIDAI GAMES 03 東京藝術大学大学院映像研究科|ゲームコース展
独自の表現を研究してきた人の方が新しい作品を生み出すときの戦力になる
桐山:そう言っていただけると励みになります。修了生の中には任天堂、カプコン、NHK、東映アニメーション、ポリゴン・ピクチュアズなどに就職する人も出てきているんです。メディア映像専攻で任天堂に就職した学生は、デバイスを介して働きかけるとアニメーションが変化していくインタラクティブ作品をつくっていました。産業界の方々は、「3DCGツールやゲームエンジンの操作が上手い人を必ずしも求めているわけではありません。インタラクティブアートや独自のアニメーション表現を突き詰めて研究してきた人の方が、新しい作品や体験を生み出すときの戦力になり得ると思っています」と言ってくださいますね。
―― 既存の何かを再現する力ではなく、新しい何かを生み出す力が期待されているわけですね。
吉田:再現する仕事はMidjourneyなどの画像生成AIに奪われていくような気がしています。今後必要になるのは、そういうAIを使いこなせるディレクションやプロデュースの力ではないでしょうか。そもそも再現する仕事だけやっているのは面白くないと私は感じているのです。そうではなく、新しい表現をやりたいから、その手段として3DCGを選ぶという発想の人の方が、多種多様なものを意欲的に吸収できると思います。そういう人が当社に入ってくれたら嬉しいですね。
桐山:私の研究グループでも、AIを使って映像と音楽を同期させるシステムを2019年に発表しました。通常のライブアニメーションコンサートだと、事前につくられた映像に合わせて、演奏家が音楽の速度を調整します。私たちのシステムを使うと、AIが映像の速度を逐次調整してくれるので、演奏家は映像との同期を気にすることなく自由な演奏ができるのです。演奏家による表現の幅を狭めなくて良い点が、このシステムの大きなメリットだと思います。
吉田:映像のタイミングはAIがコントロールしてくれるわけですね。コンサートで映像を使いたいというニーズはすごく多いので、様々な活用が期待できるんじゃないですか? そんな用途でもAIの導入が始まっているのは驚きです。今後は全ての表現分野において、AIを使いこなす力が求められそうですね。ちなみに、このシステムは1台のPCで動作しているのでしょうか?
桐山:1台のPC上で実行していますが、AIによる音楽追従のアプリと、同期させた映像を送り出すアプリの2つが必要で、現状ではまだ1つのアプリに集約できていません。TouchDesignerというツールを使っているので、GPUやメモリの要求スペックは高いですね。吉田さんがピコナの業務で使っているPCのスペックはどのくらいですか?
吉田:CPUはインテル® Core™ i9 - 12900K プロセッサー、GPUはNVIDIA GeForce RTXの3000番台がベースです。メモリは32GB以上ですね。
―― デジタル上野の杜2022 アートプレゼンテーションワークショップで使用されたraytrek(レイトレック)のスペックと同等ですね。
桐山:そうですね。プロの現場で使われているPCと同等スペックのものを、ワークショップのためにサードウェーブが提供してくださったのです。PCのスペックは作業スピードに直結するので、ありがたかったです。学外へのPCの持ち出しも予想されたので、デスクトップに加えてノートも用意していただきました。
映像と音楽の同期システムを用いたヴィヴァルディ「四季」ライブアニメーションコンサート
デジタル上野の杜は現実の上野公園の延長線上にある世界
吉田:そのワークショップでは何をしたのですか?
桐山:藝大の大学院生を対象としたワークショップで、各々の立体作品をスマホやハンディ3Dスキャナでデジタル化し、そのデータをVRChatワールドにあるデジタル上野の杜(ワールド名:DigitalUenoPark_2022)に配置しました。デジタル上野の杜というのは上野公園とその中の施設のデジタルツインで、3Dスキャンによって得られた点群データが基になっています。文化・観光の拠点である上野公園をオンラインでも体験できるプラットフォームの実現を目指すプロジェクトの一環で制作しており、藝大建築科の金田研究室が東京都政策企画局の支援を受けて実現させました。
吉田:メディア映像専攻の学生と相性が良さそうなワークショップですね。
桐山:はい。ワークショップを通して、作品をデジタルアーカイブするための手法や、オンラインプラットフォームを利用した作品の公開・発信方法について学んでもらえたと思います。メディア映像専攻からは2人の修士が参加しました。ほかにも彫刻専攻、先端芸術表現専攻、 グローバルアートプラクティス専攻などから合計7人の修士と研究生が参加しています。さらにワークショップ講師として、藝大の教員3人に加え、ホロラボの藤原 龍さん(3D Visualization Specialist)にもご参加いただきました。ホロラボの方々には、デジタル上野の杜をつくる際の点群データのコンバート、点群シェーダ制作、ワールド制作などでもご支援いただきました。
吉田:2021年にNTTドコモと森ビルが、ヴィーナスフォートの景観とデジタルコンテンツを融合させたXR空間の実証実験をしたんです。現地にいる人にはAR体験、遠隔地の人にはVR体験を提供することで、両者にXR空間を共有してもらうという試みで、そのときに開発協力をしたのもホロラボでした。当社もコンテンツ内のキャラクターモデリングやアニメーション制作で協力させていただき、メタバースに代表されるオンライン空間が現実と地続きになる未来を確信しました。
桐山:それは私も感じています。ワークショップに参加した学生も、デジタル上野の杜は現実の上野公園の延長線上にある世界だと語っていました。一方でデジタル上野の杜は、現実の完全な再現を目指すのではなく、あえて点描のような点群シェーダで描画することで、新しさも感じられる空間にしているのです。
吉田:良いですね。空間にしろ、アバターにしろ、どうデザインするかで大きく評価が変わってくると思います。2022年の8月に、Ready Player Meというエストニア共和国のアバター企業が77億円の資金調達に成功したというニュースが発表されました。調達資金はメタバース用のアバターをつくるツールの開発に充てられるそうです。アバター制作はキャラクターデザインの延長線上にあると思うので、日本のエンターテインメント業界が培ってきたノウハウが活かせるはずです。当社も含め、遅れをとってはいけないという焦りを感じています。日本のアート教育を牽引してきた藝大が、上野公園のデジタルツインをつくったり、その活用方法について研究したりすることは、すごく意義があると思います。
デジタル上野の杜2022 アートプレゼンテーションワークショップ
ワークショップ参加者に提供されたraytrek
raytrek ZG-D5 第 12 世代インテル® Core™ プロセッサー搭載
OS ▶︎ Windows 11 Home 64ビット
CPU ▶︎ インテル® Core™ i9 - 12900K プロセッサー
GPU ▶︎ NVIDIA GeForce RTX 3080 10GB GDDR6X
ストレージ ▶︎ 1TB SSD(NVMe Gen4)
メモリ ▶︎ 32GB(16GB × 2)(DDR5-4800)
サイズ ▶︎ 207(幅)× 509(奥行)× 440(高さ)mm
raytrek R7-ZF 32GBモデル
ディスプレイ ▶︎ 17.3 インチ ノングレアWQHD(2560 × 1440)液晶/165Hz/sRGBカバー率約100%
OS ▶︎ Windows 11 Home 64ビット
CPU ▶︎ インテル® Core™ i9 - 12900H プロセッサー
GPU ▶︎ NVIDIA GeForce RTX 3070 Ti Laptop GPU
ストレージ ▶︎ 1TB SSD(NVMe Gen4)
メモリ ▶︎ 32GB(16GB × 2)(DDR5-4800)
サイズ ▶︎ 395(幅)× 262(奥行)× 25(高さ)mm
研究内容が年々多様化しており人によって必要とする環境がちがう
―― エストニア共和国のプリート・パルンさん(アニメーション作家)は、大学院映像研究科の山村浩二教授の招きでセミナーを行なっていましたね。
桐山:はい。パルンさんの仲介もあって、エストニア共和国と藝大は様々な交流を重ねてきました。Skypeを生んだ国だけあって、デジタル化が進んでいるし、政府の支援も手厚いですね。私たちの研究は設備に依存するものが多いので、企業の資金調達と同様に、研究費の獲得が大きな課題です。
吉田:私の在学当時は、デスクトップPCと板タブレットを備え付けたブースが各学生に与えられていました。今はどういう環境なのでしょうか?
桐山:今は予約制の作業スペースになっています。研究内容が年々多様化しており、人によって必要とする環境がちがうので、持ち運びできるノートPCの方が都合が良い場合もあるのです。例えば、ある学生はアトリエで作品の3Dスキャンをやり、別の学生は屋外でモーションキャプチャをやるといった具合です。
吉田:PCの要求スペックが高そうですね。
桐山:なるべく各学生のニーズに応えたいのですが、自分たちだけでは限界があるので、ワークショップでのraytrekのご提供には助けられました。引き続き、吉田さんのような修了生や、産業界の各社との連携を図りながら、藝大の制作環境を拡充させていきたいと考えています。
INFORMATION
2022年12月2日発売! raytrek最新モデル
raytrek 4CZZ 第 13 世代インテル® Core™ プロセッサー搭載
OS ▶︎ Windows 11 Home 64ビット
CPU ▶︎ インテル® Core™ i9 - 13900K プロセッサー
GPU ▶︎ NVIDIA GeForce RTX 4090 24GB GDDR6X
ストレージ ▶︎ 1TB SSD(NVMe Gen4)
メモリ ▶︎ 32GB(16GB × 2)(DDR5-4800)
サイズ ▶︎ 216(幅)×486(奥行)×493(高さ)mm
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TEL(法人):03-5294-2041(平日:9~18時)
TEL(個人):03-4332-9656(平日:9~21時/土日祝:10~18時)
第 13 世代インテル® Core™ i9 - 13900K プロセッサー
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TEXT_尾形美幸(CGWORLD)