非エンタメ分野でのビジュアライゼーションのニーズが高まる昨今、自動車・建築分野のように、高解像度かつ多品種のアセットをリアルタイムで描画する領域においては、年々「VRAM」のサイズが重要になってきている。そんな中で、32GBもの大容量VRAMを有しながらも、競合製品と比較しリーズナブルな価格帯を実現しているGPU「AMD Radeon PRO W6800」に注目が集まっている。
今回は、建築を主戦場として高品質なCGパース・VRデータの制作を行う職人集団CGworksのデザイナー2名が、AMD Radeon PRO W6800とAMD Ryzen 9 5900Xを搭載したTSUKUMOのBTO PC「WA9A-W214/XB」の検証にトライ。MayaやHoudiniを用いた、超重量級の建築データの操作感やレンダリングスピード、さらにはHoudiniによる流体シミュレーションにおけるパフォーマンスを評価してもらった。
建築デザインをベースにさまざまな表現にチャレンジするCGworks
ーまずはプロフィールをお願いします。
田村:CGworksの田村と申します。Cinema 4Dをメインで使用しており、2016年から2019年までは同ツールのサポート・トレーニング業務に従事していました。2019年以降はCGworksでVR開発やWebGL開発などを行なっています。CG制作業務と映像制作業務を兼任しつつ、全体的にテクニカル寄りの仕事をしております。
田村 誠氏
CGworks
デジタルアーティスト/CGスペシャリスト
大﨑:大﨑と申します。美術系の大学で建築を勉強しており、卒業後は建築系の設計事務所に入社しました。その後、CGパース制作の会社に転職し、インテリアなどのパース制作を行なっていました。現在はCGworksでVRにおける空間デザインなどをメインの業務として行なっています。
大﨑雄太氏
CGworks
3DCGアーティスト/バーチャル建築家
ーCGworksの業務内容について教えてください。
大﨑:インテリアや建築パースなど、建物の完成予想図をつくるような仕事になります。ただ、私たちのいる部署はバーチャル系の部署になりまして、実際に施工する建物ではなくバーチャル空間のショップなどの設計、パース制作が中心です。昨今はコロナ禍もあり、世の中的にリアル店舗の設計の仕事が少なくなっており、バーチャル空間における設計の案件が急増しています。例えば三越伊勢丹が2021年3月10日にローンチした仮想都市「REV WORLDS」内のバーチャルショップである「ReStyle」と「MAKE UP PARTY」のデザインは弊社が担当しました。
大﨑:また、最近の事例では洋服を3Dスキャンベースでモデリングするような事例もあります。個人でアパレルをやっていらっしゃるお客様で、コロナ禍もあってポップアップストアなど催事場に出店する機会も減ったことからバーチャル空間にお店を出すことを決めたようです。その洋服というのが完全な一点物でして、売ったら終わりなんです。ですから、ビンテージの古着などは1つ1つモデルをつくる必要がありました。
田村:実際の洋服よりもコストが高くなるのを避けるために、個別にモデリングを行うのではなくiPhoneのLiDARベースでスキャンを行い、これをもとに洋服の再現を行いました。案件規模にもよりますが、特定のツールだけしか使わないというわけではなく、臨機応変に対応をしております。
ー普段の業務で扱うPCのスペックを教えてください。
田村:スペックは全社員が一様というわけではありませんが、多くは一昨年頃に購入したIntel Core i7、GeForce RTX 2070マシンが多いと思います。メモリは64GBが下限ですね。私の場合は特にVR空間設計や映像制作などのGPU比重が大きい業務が多いので、現在はRTX 3080に換装しております。
290万ポリゴンのパースデータも快適に操作
ーー今回行なっていただいた検証について教えてください。
田村:MayaとHoudiniの2つのツールを使って検証しました。Mayaでは、Cinema 4Dで作成した業務用CGパースデータのレンダリング、Houdiniでは簡単な水の流体シミュレーションを行いました。
ーTSUKUMOのマシンはCPUにAMD Ryzen 9、GPUにRadeon™ PRO W6800という構成ですが、触ってみていかがでしたか?
田村:まず、当然のことながらPC動作自体はまったく問題ありませんでした。Radeonシリーズははじめて触るのですが、全体的に動作はスムーズでしたし総じてスペックは申し分ないと感じましたね。特筆すべきはGPUメモリのVRAM 32GBで、これは私が現在使っているRTX 3080の3倍以上です。この点だけでも、検証への期待感は大きかったですね。
- CPU
AMD Ryzen™ 9 5900X(12コア/24スレッド)
- GPU
AMD Radeon™ PRO W6800
- メモリ
64GB(DDR4-3200、32GB x 2)
- ストレージ
1TB SSD(NVMe Gen4)
ーー各ツールでの操作感について教えてください。
大﨑:Mayaの検証では頂点数が290万ポリゴン、テクスチャは最大4Kサイズのものを数百枚使用しており、全体では3GB程度と、建築パースとしては比較的重いデータを使用しました。
CGパース制作ではテクスチャ量も多いですし、オブジェクトを大量に配置しなければならない場合もあるので、その分データは重くなりがちです。そうすると当然ビューポートの描画がカクつきますので、該当の箇所以外のオブジェクトを非表示にして操作することもあります。今回の検証ではすべてのオブジェクトを表示させたままでも問題なく動作していたので驚きましたね。
ーーHoudiniではいかがでしたか?
田村:検証に使用したデータは100GBほどのものです。Houdiniはさまざまなキャッシュを事前計算しておく形になっていますので、AMD Ryzen CPUの高速性は非常に助かりましたね。ジオメトリの読み込みには多少時間を要しますが、表示された後の操作は快適に行うことができました。
Houdiniによる流体シミュレーションではCPU/GPUともにパフォ-マンスを発揮
ーそれではまず、Houdiniによるシミュレーション検証の詳細を教えてください。
田村:今回の検証では滝を模した流体シミュレーションを行いました。水の部分はボリュームでメッシュ化しており、周りの水滴はパーティクルになっています。HoudiniはSolaris内でUSDを構築してRadeon ProRenderを動作させる仕組みですので、ちょうどUSD自体が業界内でも注目されていることもあって、効率のよい仕事の進め方が模索できるのではないかと感じましたね。
ーレンダリングの速度についてはいかがでしたか。
田村:AMD Radeon PRO W6800を使ってのレンダリング時間はフルHD解像度、256サンプルで1フレームあたり約1分程度でしたので、スピードに関しては申し分ありませんでした。レンダリング中はGPUメモリが高水準で一定に使用されており、この辺りの設計はさすがだなと思いました。
ー今回の検証でTSUKUMOのマシンを使ってみていかがでしたか?
田村:Houdiniに関して言えば、シミュレーションはCPUベースになります。計算中はすべてのコアが100%で稼働していたので、シミュレーションスピードが速く、非常にスムーズに作業ができました。Houdiniはスレッド数が多ければ多いほど計算スピードがあがるので、こちらはAMD Ryzen 9 5900Xのマルチスレッドが活きていましたね。比較的CPU負荷の高い作業にも十分なスペックだと思います。
また、検証に使用したProRenderは基本的にはGPUレンダラという位置付けにはなりますが、CPUでもレンダリングできるのが強みだと考えています。マシンによってはGPUよりCPUが強力なケースもありますし、GPUでメモリが足りなくなった時はCPUで計算するなどの対応もできると思います。今回検証したTSUKUMOのマシンスペックであれば、どちらにも問題なく対応できるかと思います。もちろん、前提としてGPUレンダラということで書き出し速度は非常に高速でした。
MayaでのGPUレンダリングでスピーディな画づくりが可能に
ーMayaでの検証内容についても教えてください。
大﨑:今回はRadeon PRO搭載のマシンを使用するということで、AMD Radeon™ ProRenderというAMDが提供するレンダラをベースに2種類の検証を行いました。検証は、Cinema 4DでレンダリングしたファイルをFBX形式でMayaにインポートし、Radeon ProRenderでレンダリングを行うといった内容になります。Cinema 4D上でモデリングからレイアウトまでの作業を完結させて、シーン全体をFBXで書き出しています。その後、Mayaでライティングの設定とマテリアルの設定を行い、Radeon ProRenderでレンダリングを行いました。せっかくRadeon ProRenderを使うので、ライティングにはPhysical light node を、マテリアルにはRadeon ProRender Material Library をできるだけ使用し、あわせてクオリティも確認しています。
ーRadeon ProRenderでのレンダリング結果について、詳しく教えてください。
大崎:まず、GPU性能の差を確かめるために、普段使用しているPCでCinema 4D R21(Cinema 4D段階でのデータ総量は1.1GB)とV-Ray 3.7でもレンダリングを行いました。このときの所要時間は約6時間でした。続いてRadeon ProRenderでのレンダリングを行いましたが、総じて半分程度の時間でレンダリングが済んでいます。非常に高速であることが分かります。
GPUレンダリングで共通して課題となるのはデノイズです。ProRenderには4種類のDenoiserが用意されているので、全て試してみました。1つ目のBilateralは、エッジを保持しながら隣接するピクセルをブレンドするノイズ除去フィルターです。レンダリング時間は3時間18分で、目視できる目立ったノイズは見受けられませんでした。
大﨑:次はLWR(ローカル加重回帰)で検証しました。これはローカルピクセル係数を取得して、ピクセルの色を再構築する方式ですが、こちらもレンダリングは3:18とまったく変わっていません。パラメータは中間値にしてみましたが、クオリティもBilateralとほぼ同じでした。
大﨑:唯一レンダリング結果が違ったのはEAW(エッジ停止ウェーブレット)レンダリングでした。パラメータを最も大きくして検証しましたが、レンダリング時間は3:18と同一ながら、細部にノイズが目立ってしまいました。パラメータの調整でノイズの低減は可能ですが、どこをどういう数値にすれば良いのかは経験が必要になると思いましたね。
ーーもともとのV-Rayレンダリングが6時間掛かっていたところを見ると、かなりの高速化に繋がっているように思います。総合して、Radeon PRO W6800とRadeon ProRenderを使ったワークフローはどのように評価されますか?
大﨑:静止画に関しては申し分無いですね。GPUも非常に効率良く使われており、単純にレンダリング自体が高速でしたのでスピーディに画づくりが進められたのがよかったですね。
田村:Radeon ProRenderは他のレンダラと比べても設定項目が少ないため、非常に楽に品質を上げることができると思いました。使う側としてはただ良い画をつくりたいだけなので、シンプルにきれいな画が出せるという意味では好印象でした。
大﨑:また、Mayaのビューポート上での操作も快適に行えました。こちらもRadeon PRO W6800の恩恵を受けていますね。
ーRadeon ProRenderを使用して検証いただきましたが、Radeon ProRenderならではの表現などがあれば教えてください。
田村:Radeon ProRenderの特徴のひとつとして、トゥーンレンダリングに対応している点があります。シェーダ設定もシンプルで、かんたんに扱うことができました。輪郭線もパスとして出力することができ、被写界深度にも対応してくれているのはすごく使いやすいのではないでしょうか? スタンダードなUberシェーダとミックスすることもできましたので、突き詰めるとさらに興味深い表現ができるかもしれません。
大﨑:パースでも意外とイラストタッチのようなルックを求められたりします。トゥーンレンダリングと建築は一見すると遠い存在に思えますが、例えばまだ設計者が決まっていないコンペなどでは、夢のある派手な画づくりのほうが求められたりします。フォトリアルだけでなく、さまざまな表現が求められる分野なんですね。
CPUとGPU、「結局はどちらも使うし、選択肢があることが嬉しい」
ーAMD Radeon PRO W6800の検証は高速化と画づくりの面で利点があったかと思いますが、他のRadeonファミリーであるAMD Radeon PRO W6400についてのご感想もお聞かせください。
田村:W6400はVRAMが4GBなので、レンダラを用いた本格的な画づくりの場合はもう少しVRAMが欲しくなる可能性もありますが、ミドルクラスとしては十分な性能だと思います。軽めのデータや単一のアニメーションなどであれば問題なく使用できると思いますのでこれからCGを始められる方にはひとつの選択肢になり得ると思います。
ーー今回の検証を総合して、Radeon PRO W6800搭載マシンを使用するメリットはどのようなところでしょうか?
大﨑:まずはVRAMの容量が一番のメリットですね。VRAMが多いと、私たちのようにゲームエンジンを使用する仕事の際にも非常に恩恵が大きいです。今回はプリレンダの文脈で検証していましたが、リアルタイムCGを業務で扱う方にとっても、32GBのVRAMはインパクトがあるのではないかと思います。
また、プリレンダーの文脈でも、Radeon PRO W6800であれば「CPUレンダラのようにGPUレンダラを扱う」ということが出来るのは大きな利点だと感じました。GPUレンダラはVRAMに乗り切る範囲だけの画づくりしかできないので、これまではテクスチャサイズを小さくしたり枚数を抑えたり、できるだけシーンデータを小さくつくる必要がありました。でも、Radeon PRO W6800であれば、まったく気遣いせずにシーンを構築したとしても問題なくレンダリングが回るんです。これは驚きましたね。
田村:レンダラについてはCPUレンダリングとGPUレンダリング「結局はどちらも使うし、選択肢があることが嬉しい」という考えですね。例えば過去にV-Rayでレンダリングしていた案件を別のレンダラに切り替えたいと思っても、過去案件の修正はどうしてもその当時使ったレンダラに囚われる傾向にあります。レンダラの一本化ということ自体がそもそも難しい、という前提のうえ、業務だと、その時に空いているレンダリング台を使うという判断もありますので、どちらのレンダラでもパフォーマンスを発揮できる「WA9A-W214/XB」のメリットはとても大きいと思います。
ーーありがとうございました。
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TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
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