2021年、AOI TYO Holdingsグループのポストプロダクション、デジタル・ガーデンを中心に、撮影・機材のCRANKなどを擁するTTR、ハイエンドCGを得意とするルーデンス、撮影スタジオのメディア・ガーデンの4社が合併し、TREE Digital Studioが誕生した。各社はそれぞれの名前を部門名として残し、新たなスタートを切った。

親会社も大きく変わった。AOI Pro.とティー・ワイ・オーの経営統合によって2017年に誕生したAOI TYO Holdingsは、2024年にKANAMELへと社名を変更。さらに2026年4月には、日本テレビグループにも加わり、TREE Digital Studioは広告制作から放送までを含む一大企業群の一員となった。

こうした再編を経て、TREE Digital Studioには数多くのブランドが所属することになった。ただ、筆者自身、それぞれのブランドがどんな機能を持ち、どう連動しているのか、まだ十分に把握できていない。

そこで、本企画では2回のインタビューを通して、その全体像を整理してもらうことにした。

前編となる今回は、全社を統括する山田悠生氏にブランドの全体像とTREE VFXの考え方を、REALIZE事業部を率いる平嶋将成氏にリアルタイム分野を担う同事業部の取り組みを聞いた。

記事の目次

    TREE Digital Studioを構成する各ブランド

    ――まずは自己紹介をお願いします。

    ▲山田悠生氏 TREE Digital Studio 常務取締役

    山田悠生氏(以下、山田):TREE Digital Studioで常務取締役を務めている山田です。各部門を統括する立場にいますが、なかでも部門をまたいだ横のつながりをつくることを自分の大きな役割だと考えています。

    ――まずは、TREE Digital Studioを構成する各ブランドの特色や強みを教えていただけますか。

    山田:現在は、DIGITAL GARDEN、LUDENS、CRANK、Media Garden、REALIZE、Fuze、Global Service、Data Serviceといった部門があります。

    統合前の会社やブランドの名前は、そのまま部門名として残しました。それぞれの専門性をつなぎ、撮影からCG、編集までを一括で引き受けるサービスが「TREE VFX」です。TREE VFXについては後ほど詳しくお話ししますので、まずは各部門を順番にご紹介しますね。

    ■DIGITAL GARDEN事業部

    DIGITAL GARDENの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/dg/

    山田:核になっているのは、母体であるポストプロダクションのDIGITAL GARDENです。編集業務を担う部門で、CMの業態ではかなり大きなチーム編成です。部屋数やエディターの数も含めて、今でも国内トップクラスだと思います。手がける案件はCMが中心ですが、最近は後述のLUDENSとともに、『8番出口』や『爆弾』といった映画にも携わるなど、長尺の作品が増えてきています。
    もともとDIGITAL GARDENには、編集のほかにCG部門と、リアルタイムのコンテンツを手がける部門もありました。統合にあたって、CG部門はLUDENSに、リアルタイムのチームはREALIZEに移っています。どちらも後ほど詳しくご紹介します。

    • ©2025 映画「8番出口」製作委員会
    • ©呉勝浩/講談社  ©2025映画『爆弾』製作委員会

    ■LUDENS事業部

    LUDENSの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/ludens/

    山田:ハイエンドなCG制作を担うのがLUDENSです。業界内でもハイエンドの老舗CGプロダクションとしてその名前はかなり浸透しています。今でもそのブランドの期待感を持ってご相談をいただくことが多いですね。

    ただ、今のLUDENSは旧ルーデンスのメンバーだけではありません。2021年の統合で、3つのCGチーム(旧ルーデンス、デジタル・ガーデンのCG部門、ポストプロダクションのCG部門だったMAGIC)がひとつになり、LUDENSの名前を事業部名として残しました。いまでは40人を超える規模になっています。

    ■CRANK事業部

    CRANKの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/crank/

    山田:CRANKは撮影部門です。機材レンタルに加えて、カメラマンやDIT(Digital Imaging Technician)が所属しています。ほかではあまり扱っていない特殊なレンズや機材をそろえることで特色を出しています。

    カメラマンがいることで、機材を貸すだけでなく、撮影の提案もできます。「オールドレンズが欲しい」といった要望にも応え、DITもセットで対応します。長期案件なら、どのカメラを使うかも提案する。機材とともに提案できる人材の集団と捉えています。

    ■Media Garden事業部

    Media Gardenの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/mg/

    山田:Media Gardenは、撮影スタジオと照明機材を担う部門です。20年以上にわたって撮影の現場を支えてきたスタジオで、「より良い撮影環境」づくりにこだわってきました。スタジオ内は埃が舞わないよう徹底して磨き上げ、長時間の撮影でも快適に過ごせるよう、空調や温度・湿度も管理しています。天井高は18mあり、ライトの熱でセット内が暑くなりにくいつくりです。CMを中心に、グリーンバックの撮影にも対応しています。

    照明機材のレンタルでは、グループ会社の案件を中心に照明機材のトータルコーディネートを担っていて、現場の声を反映した機材の開発も行っています。

    ■REALIZE事業部

    REALIZEの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/tree-realize/

    山田:REALIZEは、もともとデジタル・ガーデンの中にあったリアルタイムチームです。インタラクティブコンテンツやVRなど、体験型のものをリアルタイムで扱う部門として独立していて、2025年にはそこにCodelightも加わりました。うちは映像やクリエイティブは得意ですが、インタラクティブコンテンツを形にする部分が弱かったんです。Codelightには博物館展示やサイネージなど、体験型コンテンツを実装する技術と実績があったので、そこを補ってもらうかたちになりました。

    ■Fuze事業部

    Fuzeの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/fuz

    山田:Fuzeは企画制作の部門で、映像コンテンツのプランニングから実制作までをワンストップで担っています。予算に合わせて制作体制を組み立てられるのが強みで、CMやサイネージ映像などを手がけています。企画の段階から入るので、DIGITAL GARDENやLUDENS、REALIZEなど社内の各部門をつなぐ役割も果たしています。

    ■Global Service部

    Global Serviceの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/global/

    山田:Global Serviceは、海外と連携した制作を支える部門です。英語に対応できるスタッフがコーディネートを担っていて、代表的なサービスがリモートグレーディングです。提携しているのは、アメリカのポストプロダクションのCompany 3。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』など、数多くのハリウッド作品のカラーグレーディングを手がけてきた会社です。うちのグレーディングルームとCompany 3のグレーディングルームを専用線でつないでいるので、日本にいながら、Company 3のトップカラリストの作業をほぼリアルタイムに、正確な色で確認しながら仕上げられます。

    TREE VFXのコンセプトは「1社で全部お任せできる安心感」

    ――歴史あるブランドを一つにまとめていくのは、相当大変だったのではないですか。

    山田:そうですね。統合直後は同じ会社になったのに、案件の相談は各部門に別々に来ていました。ひとつの案件に社内の複数の部門が関わっていても、お互いにそれを知らないことがあったんです。

    TREE VFXの事例紹介
    https://www.tdsi.co.jp/treevfx/

    たとえば、制作会社さんから編集の仕事がDIGITAL GARDENに入ったとします。編集スタッフが「撮影はどこでやったんですか?」と制作会社さんに聞くと、「CRANKです」と返ってくる。続けて「CGはどこが担当していますか? 素材はいつ上がりますか?」と聞くと、今度は「LUDENSです」と。そこで初めて「全部うちの会社じゃないか!」と気づく。そんな案件が多くある事に気付いたのがTREE VFX発足のきっかけでした。

    ――同じ会社の中なのに、制作会社さんを経由してやりとりしていたわけですね。

    山田:発注する側から見ても、どの部門が同じ会社なのかわかりにくかったと思います。撮影、CG、編集を別々の会社に頼むのと同じように、素材の受け渡しや監督の意向の確認のたびに間にやりとりが入り、そのぶん時間もかかっていました。

    撮影もCGも編集も社内にあるなら、部門同士が直接つながればいい。そう考えて、統合から1年ほど経ったころに立ち上げたのがTREE VFXです。このサービス名にしたのは、統合して新しくなった「TREE」の名前を広めたかったからです。もともと各事業部の名前が強い会社なので、TREEという名前も浸透させたいという思いが込められています。

    ――具体的には、発注する側にどんなメリットがあるのでしょうか。

    山田:撮影からCG、編集まで一括でお受けすれば、素材の受け渡しや部門間の連絡を社内で進められます。制作会社さんはスタジオの手配や撮影の準備など、ただでさえやることが多いので、その調整の負担を減らせるのが一番の利点です。
    社内であれば、「素材はここにアップしてもらえますか」とすぐに直接動けます。同じ期間・同じ予算でも、現場が実際に手を入れられる時間が長くなるので、そのぶんクオリティアップにつなげられます。

    ――どのような形でTREE VFXを案内しているのですか。

    山田:各部門のプロデューサーが意識して活動しています。例えば、どこかの部門に相談があった時に「CG会社や撮影スタジオは決まっていますか」など、他事業部でサポート可能な部分があるかを確認し、まだ決まっていない工程があれば、社内の部門が連携して対応できることをご案内しています。最初から「TREE VFXでお願いします」と言っていただけるケースも増えてきましたが、サービスとしての認知はまだこれからですね。

    ――社内の体制はどうなっているのでしょうか。

    山田:一度、プロデュース部門を一箇所にまとめたこともあったのですが、今は各部門にプロデューサーを置いています。横連携の案件については、全員が参加するチャットで「このパートはこの部門でお願いできますか」といった相談が日々飛び交っています。「この案件、まだ決まっていないみたいですよ」という情報が流れてきたら、つながりのあるプロデューサーが声をかけに行く、という動き方です。

    REALIZE事業部:映像から「体験」をつくる部門へ

    ――こうした部門同士の連携が、実際の案件でどのように生きているのか。ここからは、他の部門と組む機会の多いREALIZE事業部について、平嶋さんに伺います。

    平嶋将成氏(以下、平嶋):REALIZE事業部の責任者の平嶋です。今日はよろしくお願いいたします。REALIZEは、先ほどお話に出た体験型コンテンツを担う部門で、XRなどのコンテンツをリアルタイムCGで開発しています。 

    ▲平嶋将成氏 TREE Digital Studio REALIZE事業部 執行役員

    私自身は、もともとデジタル・ガーデンでCMのCGをつくっていました。10年ほど前から、「CMのためにつくったCGを、当時出始めていたOculus RiftなどのVRでも見てみたい」といった相談が来るようになったんです。車のCMを通じて車載画面の映像に関わったこともあり、プリレンダリングで培ってきた品質をリアルタイムでも実現できれば勝負できると考えました。そこで社内にリアルタイム系のチームをつくり、TREEになったタイミングで事業部として独立しました。 

    ――TREEになってから5年ほど経ちますが、REALIZEの役割に変化はありましたか。

    平嶋:TREEになったときは、本当にデパート的な戦略の会社だと思っていました。"技術の百貨店"でありながら、それぞれが専門店並みの品質を持っていて、映像制作に関してあらゆるパーツがそろっている。プロデュースの際に取りこぼしがない。その中でREALIZEは、16:9の映像フォーマットや既存のワークフローに収まらないもの、たとえばリアルタイムやバーチャルプロダクションといった領域を担う役割だと考えていました。

    それから5年経ち、役割は少しずつ変わってきています。増えているのが、商業施設やイベントなどの空間ディスプレイの仕事です。空間をつくる会社と、そこに流すコンテンツをつくる会社は別々なことが多いのですが、映像も空間の一部なので、その場でどう見えるか、どう成立するかまで考える必要があります。

    さらに最近は、体験そのものをつくることも求められるようになりました。そのため、企画の段階から入って「このコーナーはこうつくってはどうですか」と提案できるスタッフもそろえています。

    ――展示の世界では、ディスプレイ主導や施工主導の案件はあっても、全体を一貫して請け負えるところは少なかった。そこにREALIZEが入っていくケースが増えているわけですね。体験型コンテンツの需要の高まりには、万博の影響も大きいのでしょうか。

    平嶋:万博のときにかなり増えましたし、人数も増えました。エデュケーション系もだいぶ増えています。コロナ禍で一度落ち込んでバーチャルイベントが一気に増えましたが、そこからバーチャルはバーチャルとしつつも、リアルの大切さが見直されて、今どんどん戻ってきています。

    ――企画から入るとなると、映像制作とはまた違った力が求められそうですね。

    平嶋:そうですね。受託の案件でも、企画の段階から関わることが多くあります。体験コンテンツのディレクションは映像のディレクションとはまた違っていて、できる人はまだ多くありません。「技術はわかるけれど、そもそもどんな体験がいいのか」という段階から、私たちが提案することが多いですね。

    ――LUDENSやDIGITAL GARDENなど、他の事業部との連携はありますか。

    平嶋:非常にあります。私たちはどちらかというと体験設計側なので、その中で使うCGアニメーション映像はLUDENSにお願いする。編集が必要になればDIGITAL GARDENへ。具体的な事例をいくつか紹介します。

    ■福岡県志免町 旧志免鉱業所竪坑櫓のVRコンテンツ

    平嶋:最近ですと、福岡県志免町の案件があります。Webサイトの制作から、VRコンテンツ、そして体験用のハードウェアのデザイン設計までを手がけました。こちらは、我々自身が入札に参加して受注し、制作進行まで全部社内で完結させた案件になります。

    今現在、地方の文化資産をデジタルで復元するニーズが非常に高まっています。公開後の反響も大きくて、福岡のモールでお披露目イベントをして、日本テレビのニュース番組に取り上げていただいてからは、市役所に「これで遊びたい」という子どもたちが殺到していたそうです。

    ――体験に使う機器まで手がけているのですね。

    平嶋:Webサイト、VRコンテンツ、体験に使う造作物まで、一括でプロデュースできるのが強みです。ハードウェアそのものの製造は協力会社さんにお願いしていますが、「こういうものをつくりたい」という設計から対応できます。体験型コンテンツでは、センサーをどう取り付け、どのような造作にすれば体験できるかも、私たちから提案しています。
     

    ▲福岡県志免町「旧志免鉱業所竪坑櫓」VRコンテンツ

    ■ポカリスエット『365日、学校の片隅で。』の自動撮影システム

     ――CRANKとの連携事例もあると伺いました。

    平嶋:大塚製薬さんのポカリスエットのSNS企画『365日、学校の片隅で。』です。2つの高校にポカリスエットの自販機とカメラを設置して、演出なしのリアルな高校生たちの日常を、365日記録していくという企画です。

    REALIZEが担当したのは、その撮影システムの開発です。自販機の前に人が現れると顔認証で録画を自動で開始し、離れたら終了して、そのデータをすぐにアップロードする「自動撮影・自動アップロードシステム」をつくりました。

    ――高校生の自然な姿を、無人のカメラで撮り続けるわけですね。画づくりはどのように行ったのでしょうか。

    平嶋:どこをどの画角で撮るか、カメラをどう設定するかは、CRANKと一緒に詰めています。ただ、学校に長期間置いておく必要があるので、可搬性の都合で監視カメラを使っていて、どうしても画質やディレクターの狙い通りの画にならない。

    そこで弊社のエンジニアが「こういうパラメータがあります」「こういう変化が出せます」と分析して、CRANKのカメラマンと「ここはもう少しアンバーに」といった調整をずっと重ねながら、監視カメラでできる限りの画をつくりました。

    ――CRANKとREALIZE、両方がなかったらできない企画ですね。

    平嶋:そうですね。カメラマンだけだとこういう提案はできませんし、画にこだわりのないエンジニアにお願いすると画質的に成立しない。双方の力が必要な企画でした。

    隣の部門に、全く異なる分野のプロがいる

    ――部門をまたいだ異動はありますか。

    山田:ありますね。希望して異動する人もいます。CGデザイナーからエディターへ、というケースは結構ありますし、エディターからオンライン編集に進んで、今はVFXスーパーバイザーをやっている人もいます。そうなると今度はCGも見なければいけなくなるのですが。

    CGをつくっていると、バーチャルなカメラの絞りやシャッタースピードを調整しますよね。意味を知りたいと思ったとき、ある程度まではネットでも調べられます。でも、隣のビルに本物のシネマカメラがあり、そこに同期がいる。気軽に頼めば、すぐに一緒に試してもらえる。こうした環境も、部門が揃っている強みだと思います。

    ――撮影、CG、リアルタイムの会社を1社ずつ探して回らなくても、TREEに入れば必要なものがそろっている。まさに「技術の百貨店」ですね。

    山田:社内のスタッフから見ても、クライアントから見ても、まさにそういうイメージだと思います。

    どの部門にご相談いただいても、TREE全体でお応えしたい

    ――最後に、TREE全体として今後の展望を教えてください。

    山田:「カメラを借りたい」「編集をお願いしたい」といった、各ブランド(部門)への個別のご相談は、これからも変わらずあると思います。そのうえで、お客さまに「そういえば、撮影もCGもまとめてTREEに頼めるんだった」と思い出していただける機会を、もっと増やしていきたいんです。

    本来は、どの部門に相談していただいてもいいんです。DIGITAL GARDENの営業にCGの相談が来てもいいし、その逆でもいい。そのために社内では、各部門が何をしていて何ができるのかをきちんと共有する。そして外に向けては、「どこに相談していただいても、必ずTREEで仕上げられます」と打ち出していきたいと思っています。

    ――極端に言えば、CGのLUDENSに撮影スタジオの相談をしてもいい、ということですね。

    山田:そうです。LUDENSに「スタジオは空いていますか」と聞いていただいても構いません。そういう会社にしていきたいですね。昔からのお客さまも多いので、今でも「LUDENSさんにお願いしたい」というお電話をいただくことがあります。そんなときも、わざわざ社名の説明はせずに、「TREEの山田です」とそのままお受けしています(笑)。

     後編では、LUDENS事業部とKANAMELグループの視点から、この"横のつながり"が映画制作やグループ戦略にどう生きているのかを聞いていく。

    TEXT_CGWORLD編集部
    PHOTO_弘田 充