オリジナル作品を世に送り出すことは、クリエイターにとって夢であり、使命とも言える。海外でも注目を集める鬼才イラストレーター・TERU氏が5年の歳月を費やし構築し続けてきたオリジナルワーク『REDTAIL』の全貌が明らかとなる作品集『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS』が発売された。
デジタルアーティストにもファンが多いTERU氏への発売記念インタビューが実現したので、ここにお届けする。
サイバーパンクやSFは、日本でもさらに盛り上がるポテンシャルがある
圧倒的な画力と、強烈な”赤”がインパクト抜群のグラフィックが魅力である、イラストレーターTERU氏のオリジナルプロジェクト『REDTAIL』。
ジャンルとしては「サイバーパンク×人外×怪異」と銘打っており、『AKIRA』『攻殻機動隊』『カウボーイビバップ』をはじめとする、TERU氏が影響を受けてきたサイバーパンク作品を独自にマッシュアップして導き出した世界観だという。
大人気ゲーム実況者「兄者弟者」(2BRO.)のメインビジュアル、ロゴデザイン、ED映像などアート全般を手がけていることでも知られるTERU氏だが、この度、5年の歳月を費やし構築し続けてきた『REDTAIL』の世界観を、イラスト、スケッチ、漫画、小説など多彩な表現を駆使して完全構築した作品集『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS 』が発売となった。
『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS』
— TERU (@teru_by_m) December 1, 2024
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——TERU氏は、『REDTAIL』に込めた思いを次のように語る。
TERU:
あくまで私個人の感覚になるのですが、日本ではサイバーパンクというジャンルはまだ馴染みが薄く、近年はゲームやアニメで話題になったとは言えアンテナが敏感な一部のファンに支えられている印象です。
また本格SFに関しては庵野秀明監督たちの世代が直撃してきたジャンルという印象もあります。ロバート・A・ハインラインのSF小説がガンダムに影響を与えたように、優れたSFは常に後の大作に影響を与えてきました。
このような素晴らしいシナジーを一時代の流行りとするのではなく、サイバーパンクやSFはこれからさらに盛り上がり、メインストリームの定番ジャンルの一つという位置付けに並ぶポテンシャルはあると思っております。
そんな思いを持ちながら制作し続けることによって、クリエイティブ界隈がさらに豊かに成熟するための一翼を担えたら……。私にとってこのような理想を持つプロジェクトでもあります。大それた言い方をしましたが、シンプルに言えば『REDTAIL』とは私が影響を受けてきたこの感動をより多くの方々に共有したい、という想いそのものです。
——はたして、『REDTAIL』の壮大な世界観はどのように生まれたのだろうか?
TERU:
元々「いつかはオリジナルコンテンツを作りたいなあ~」と、思い続けていました。心の片隅には常にその気持ちがあったように記憶しています。
ただ、なかなか形にはできずに日々を過ごしていました。忙しさを理由にその気持ちをどこかに追いやっていたような気もします。
やがてそんな日々が徐々に耐え難くなり、自分の中にある気持ちを少しずつ捻り出すようにオリジナル作品をポツポツと描いては投稿することをはじめました。
そしてある日、何を想ったか肌の赤い鬼のような悪魔のような女性を描いたところ妙にビビッときたというか、「おお、これだ……!」みたいな何か特別な閃きを感じたのです。
赤い肌のキャラクターということで言えば、当時色々な作品や参考資料をインプットする中でマイク・ミニョーラの『ヘルボーイ』の影響を強く感じました。日々悶々と、時にはもがきながらも最初の手応えを渇望する中で偶然にもひとつの理想に辿り着いた瞬間だったのかもしれません。
TERU:
急に血が湧いたとでも言いましょうか。「この女性をもっと描きたい……!」という強い想いが生まれました。
それからというもの、この女性を頻繁に描くようになり、いつしか彼女に名前を付けたくなりました。その頃には彼女の設定として、地獄から来た悪魔……。ダンテの『神曲:地獄編』に登場する悪魔のマラコーダという想像が膨らんでいました。
そこでマラコーダの「マ」「コ」、さらに悪魔の子で「魔子」と名付けたのでした。そうなると想像がさらに膨らみ、周りを固める他のキャラクターたちの構想が次から次へと浮かんできました。
しかしまだどこか漫然とした感覚もありました。何かこう、この世界の軸が足りないな、と……。この不安定さはなんだろうか? もっと安定した足場がほしい。考えてたどり着いたのが、この世界の「タイトル」を決めよう! ということでした。
最初はまず魔子の由来である『マラコーダ』を思いつきました。映画とかでもよくある、主人公の名前をドーン! というような発想です。
しかし、これだと限定的というか単発作品ぽい印象が……。もっとこう、長期的に、そして色々なキャラクターを受け入れるだけの懐の深いタイトルがほしい……。となるともう少し抽象度を上げた方が良いかなと感じました。その方が様々な設定やストーリーの揺らぎに対応できると思ったのです。
そもそもマラコーダは「禍いの尾」「邪悪の尾」という意味があるようです。要は尻尾が重要な個性になるキャラクターなわけです。赤い肌に邪悪な尻尾……。 ハッ!
ここから『REDTAIL』が始まったというわけです。
——こうして、TERU氏のオリジナルプロジェクト『REDTAIL』が動き出した。それから5年の月日がながれて、この度、作品集『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS』が発売されることになったわけだが、書籍化はどのように決まったのだろうか?
TERU:
2023年7月に初個展『GOOD FOR HEALTH』を開催した際に、書籍化に関して2つの出版社さんからお声がけをいただきました。
大変嬉しかったのですが、その時の私はどちらか選ぶことができず、ならばわずかに先にお声がけいただけたというシンプルな理由で小学館集英社プロダクション様と制作することに決めました。
そこからは担当者様と何度も内容に関して打ち合わせを続けました。最初は画集として、それも強化骨格メインの画集の企画をご提案いただきました。
ただ、私の中にある、「単なる画集にしたくない」というわがままを真摯にかつ柔軟に受け止めていただき、最終的には画集ではなく設定資料、むしろ企画書として、バイブルとして制作することが決まりました。
——そんな作品集『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS』について、TERU氏の個人的な見どころを聞いた。
TERU:
まず大きな見どころのとしては「強化骨格」の存在感です。主人公の「魔子」出生の秘密にも関わります。
実験で生まれた強化骨格は1つではありません。試作品を含めて様々なバリエーションが存在します。
彼らは人類の未来であり、高みの存在であり、悲劇の怪物でもあり……。この世界観や物語を大きく動かす重要な要素のひとつです。実験の中で様々なタイプの存在が顕現することになります。それが人類の未来の希望の鍵なのか、おぞましき業なのか。
TERU:
そして、もうひとつが『怪異』の存在。実験や未知の技術を取り巻く環境に異界の存在が複雑に絡んでいます。
SFとしての未知との遭遇、古典としての怪物との対峙です。
常にSFには人類の未来のビジョンが、そして古典には学ぶべき戒めや人間の業が多分に含まれています。
そんな世界で各々が何かを求めて必死に生きる個性的なキャラクターたち。彼らはひと筋縄ではいきません。
新たなビジョンを提示しつつも、大切にし続けなくてはいけないものを問いかける、そんな世界観を感じていただけたら嬉しいです。
そのためには今後さらに具体的なシナリオを書き起こす段階に来たと言えます。ご期待ください。
——今回の作品集が、ひとつの節目となる『REDTAIL』。今後の展開も気になるところだ。
TERU:
『REDTAIL TERU ILLUSTRATION WORKS』には、今までSNS上でどう公開していいのかわからないまま、メモ用紙やGoogleドライブなどにコツコツと書き溜めていた設定やアイデアをふんだんに盛り込むことができました。
私の思い込みでSNSではどうしてもバッチリ決まったビジュアルを投稿してなんぼ、という感覚がありました。あくまで商業イラストレーターとしてのアイデンティティをベースにした考えです。なのでSNS上ではビジュアル以外の詳細設定に関してまったくと言っていいほど発信できずにいました。
ですが、いつかはテキストで書き溜めていた設定をどうにかして公表したいという気持ちも抱き続けていました……。
それがこのタイミングで書籍化することで見事に開花するきっかけとなったわけです。今回の書籍の内容はまさに『REDTAIL』の設定資料そのもの。まるですでに映画化されたかのような錯覚を覚えるほどです。
TERU:
ですが、これはあくまでビジュアルやボリュームの話です。実際の内容的には映画公開後に出版される設定資料というよりも、海外などで映像企画のプレゼンに用いる企画書、いわゆる業界用語で「バイブル」と呼ばれる資料を参考に構成しております。
なので、この作品集を持って映像化などのプレゼンができる内容になっております。私はせっかく作る初書籍は、1冊で完結する画集としてではなく、今後も色々な場面で活躍したり話題になるような内容にしたいという想いがありました。
その意味では、この書籍を持って色々な企画を提案し、その企画が上手く展開すれば原典であるこの書籍も再び盛り上がる……というような行ったり来たりできる状態にしたいというのが隠れた目標です。
——なお、本書を制作するにあたっては、イラストレーター はんぞ〜氏と、デジタルアーティスト nagafujiriku氏が一部のコンセプトアートや世界観ビジュアルアートの制作に協力しているとのこと。
TERU:
書籍化に際して、コツコツとテキストで書き溜めていたコンセプトをいざビジュアル化しようとした時に、「これはなかなかの大事だぞ……!」という危機感というか、やりたいことの壁の高さを感じました。
と言うのも私は本格的な背景を描くスキルが未熟だという自覚があるのです。でも自分の構想を形にするとなるとキャライラストだけでは補いきれない情報量がある……。
例えば今まで制作してきたキャラクター作品のみに絞って画集とすることは可能でしたが、今回は未発表のコンセプトも全て含めた設定資料集のような内容にしたいという思いが強く、もうそこから方向性をズラすことはいっさい考えられませんでした。初書籍ですし『REDTAIL』の世界が堪能できる気合い入れた最高の状態のものを出版したい……。
出版の校了日は決まっています。その中で今自分ができる最善の方法は……と考えた時に「餅は餅屋」だなと。
私と同じ方向性の好みやセンスを持ち、スキルも十二分なクリエイターは……と、熟考したどり着いたのがはんぞ~さんとnagafujirikuさんでした。
— TERU (@teru_by_m) December 30, 2024
今回の『REDTAIL』作品集では一部のコンセプトアートや世界観ビジュアルアートで はんぞ~さん(@hanzo1011)、nagafujirikuさん(@nagafujiriku)のお二人にご協力いただいております!サイバーパンクな世界観を共有できる大変心強いクリエイターです https://t.co/8Nn3Q8oD6V pic.twitter.com/IPcCNajZ07
TERU:
これは誰にでも頼めることではありません。この2人に断られたら……その先は考えていませんでした(笑)
とにかく自分の表現したい内容と情熱のみで内容を説明しお願いしたところ、お二方からご快諾をいただくことができました。心から感謝しております。
このことに関しては最初に一瞬の迷いはありました。「『TERU ILLUSTRATION WORKS』と銘打つのに、自分以外のクリエイターの力を借りていいのか?」と……。
しかしすぐに迷いは晴れました。
現代アートであったり、昔の西洋絵画の工房であったり、浮世絵であったり、映画やアニメしかり。とてつもないものを作ろうとした時には優秀な作家同士の連携が必要だよな、と。
幸い私にはディレクションの経験もありましたので、凄腕のお二方にイメージなどを詳細に伝えることができました。そしてお二方から上がってきた作品が、これまた素晴らしい。自分のディレクション能力とお二方のクリエイターとしてのセンスとスキルが見事にマッチした結果がそこにありました。最終的にお二方に許可をいただいた上で、ご担当いただいた作品をベースに私の方でキャラを加筆したり調整を入れて完成いたしました。
はんぞ~さんには手描きなど2Dをベースとしたコンセプトアートを。nagafujirikuさんには物語の舞台となる都市デザインのビジュアルを3Dで、それぞれご担当いただいております。
巻末のあとがきページにお二方のご担当ページも記載しておりますのでぜひご覧ください。
——最後に、今後の展望を聞いた。
TERU:
まずはここ1、2年の目標として、よりコンテンツの深みを増すために具体的にはコミカライズや実際にキャラクターを動かした30~60秒ほどの映像などを作ってみたいです。しっかりしたPVが作れたら最高ですね。
それによってさらにご好評をいただけたらゲーム化を目指して企画立案、クラファンの実施などにチャレンジしたいと思ってます。目標としては3年後くらいにゲーム化を目指した制作をスタートしたいと思っております。
そしてゲームが完成した暁には、様々なクリエイター様たちとコラボレーションができるような企画がいくつも立ち上がってくる状態が目標です。
『REDTAIL』は自分個人の枠に収めた1つの作品、ではなくて、最終的には多くの作家が参加できる広がりのあるコンテンツにできるのが理想ですね。このような理想を掲げているからこそ、上記の具体的な目標が決まったと言っても過言ではありません。
自分を救い、育ててくれたクリエイティブな世界に少しでも恩返ししたい、そしてみんながワイワイ楽しみながら創作性を発揮できる土台が作れたら最高だと思ってます。
例えば有名なアメコミのシステムとして1つのキャラクターをいろんな作家さんが漫画化するということもありますし、他にも東方やクトゥルフ神話など二次創作が活発で豊かなジャンルにも憧れがあります。
いずれの作品たちもクリエイティブな界隈に与えた影響が非常に大きく、そう言ったコンテンツの在り方がとても偉大でカッコいいですよね。本当に憧れます。
ただ、そのためにはまずREDTAILを一本立ちさせるところまで持っていかなくてはなりません。原作にまずしっかりした軸がないと、クリエイターさんたちもコラボや創作がしづらいと思うんです。ここは本当に、ひたすら前のめりにがんばるしかない、と思ってます。
TERU氏は、2月22日から3月9日まで原宿の『Gallery W』で本書の出版記念と銘打って個展を開催する。新作も展示予定とのことなので、『REDTAIL』の世界観が気になった読者諸氏はこちらも要チェックだ。
INTERVIEW & TEXT_NUMAKURA Arihito