奥空 心白と亜夜という2人の新たなアイドルを生み出し、ルックの異なる4ブランドのアイドルを競演させることが求められた『アイドルマスター スターリットシーズン』(以下、『スタマス』)。アイドルたちの個性的な輝きはどのような試行錯誤を経て表現されたのか? その制作プロセスを追った。
関連記事:『アイドルマスター スターリットシーズン』アイドル32人による競演。その舞台裏に潜入/表紙グラフィック篇
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.281(2022年1月号)掲載の特集『アイドルマスター スターリットシーズン』から一部抜粋、再編集したものです。
Information
『アイドルマスター スターリットシーズン』
発売元:バンダイナムコエンターテインメント
開発元:ILCA
ジャンル:アイドルプロジェクトプロデュースゲーム
対応機種:PlayStation®4、Steam®
発売日:2021年10月14日
希望小売価格:9,020円(税込)
starlit-season.idolmaster.jp
セルアニメ調という方向性を定めつつ3DCGならではの密度感も重視
本作のキャラクターデザインを担った何 思韵氏が最初に取り組んだ課題は、4ブランドのアイドルのルックを、同じステージに立っても違和感がない程度まで統一させることだった。「顔の形、目の形、髪の毛の表現などがブランドごとにちがう中で、できるだけ個々の特徴を取り入れ、塗りや配色で統一感を出すよう努めました。全体的な方向性としては、女の子のアイドルならではの、明るくやわらかい雰囲気を目指しています」(何氏)。
765PRO ALLSTARS(以下、765AS)と『ミリオンライブ!』のアイドルは比較的ルックの方向性が近いため、『シンデレラガールズ』と『シャイニーカラーズ』のアイドルのデザインが鍵になると水谷氏は考えていた。「特に線が多く頭身が高めの『シャイニーカラーズ』は難題だと思っていましたが、何さんは見事なバランスで仕上げてくれました」(水谷氏)。例えば、『シャイニーカラーズ』のアイドルは淡いトーンで描かれていたので、『スタマス』としての統一感を出すために全体的な彩度は上げつつ、深めの配色にすることで落ち着いた印象を維持している。
統一感を出す上で最も難しかったのが目の虹彩で、セルアニメ寄りの『ミリオンライブ!』から、薄塗りイラストの『シャイニーカラーズ』までを俯瞰し、アイドル全員にとって違和感のない落とし所が探られた。「途中で“セルアニメ調”という方向性が定まったものの、3DCGだから出せるリッチさも重視しました。ある程度の密度感はほしいけれど、情報量が多すぎるとアニメらしさから外れてしまう。結論を出すまで喧々諤々しましたね」(水谷氏)。
一番懸念されたのは、ルックを変えることにより、キャラクター性がちがって見えることだった。「虹彩が特徴的なアイドルはそれが大切な個性になっているので、あまり変えないようにしました。ルックを完全統一したわけではなく、個性を活かすようにしています」(安井氏)。私服や髪型についても、どこまで新しくするか議論が重ねられた。「765ASは私服や髪型も個性の一環として認知されているので変えませんでした。一方で新しい体験も提供したかったので、変更の塩梅が難しかったです」(水谷氏)。
[NEW IDOL 奥空 心白]白を着こなす月のようなアイドル
心白と亜夜は物語を牽引する役割も担うため、2人のビジュアルコンセプトは本作のテーマと深く結び付いている。「心白は月をモチーフにしています。月は太陽があって輝く存在です。同様にアイドルはファンがいないと輝きません。一方で、アイドルには自ら輝く太陽としての側面もあります。その両方の輝きをもっているから、アイドルは魅力的なのだと思います。心白と亜夜は、お互いがお互いにとっての太陽であり、月でもあるんです」(水谷氏)。心白の特徴のひとつで、プロジェクト内でムーンライト色と呼ばれている髪色も前述のコンセプトに紐付いている。
NEW IDOLの奥空 心白と亜夜の三面図
もうひとつの特徴である右目を隠す前髪は、“一見するとやわらかい雰囲気の落ち着いた子だけど、心に何かを秘めている” と感じさせるデザインにしてほしいという依頼を受けて、何氏がデザインした。「髪型の特徴付けは、久多良木さん(バンダイナムコエンターテインメント 久多良木 勇人氏/本作のプロデューサー)からのオーダーもふまえて検討しました。亜夜の髪型はツインテールなので、心白は顔の片側だけにアクセントを付けることで、対照性を際立たせてはどうかと提案しました」(水谷氏)。
髪で目を隠すキャラクターは内向的な性格であるケースが多いが、心白はミステリアスな雰囲気を内包しつつ、普段は明るい性格なので、さじ加減が難しかったという。「どこまで目を隠すか、前髪の毛束ごとに長さのちがうパターンをたくさん提案して、このデザインに落とし込みました」(何氏)。心白の私服は白が基調となっており、これも月を連想させる。「白い服は汚れが目立ちますが、それをちゃんと着こなせる人は、どこか自戒的で、キリッとしている印象になるんです。ちょっと脇を締めているデザインで、何かに縛られている感じを出したりもしています」(水谷氏)。
心白の二面性を意識した表情差分
心白の表情差分の一部。アイドル1人につき30~40パターンの表情がモデルチームによって作成された。心白の場合は二面性を意識して、平常時の明るい表情と、影のある表情との差を念頭に入れた調整が施されている。
キャスト(声優)の声、モーションアクターの芝居、シナリオの練り込みなどの影響も受け、心白は想像以上に深みのあるアイドルになったという。「多くの人が関わった結果、可愛くて素直な部分と、思慮深い部分がすごく不思議に混ざり合ったアイドルになりました。こうした二面性は矛盾しているかもしれませんが、キャラクターの魅力はそういうギャップにこそあると思います。そのギャップが、心白の味わいをより深めてくれたのだと思います」(水谷氏)。
冬を象徴する純白のドリームオブウィンター
関連記事:『アイドルマスター スターリットシーズン』アイドル32人による競演。その舞台裏に潜入/表紙グラフィック篇
©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
Information
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.281(2022年1月号)
特集:『アイドルマスター スターリットシーズン』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2021年12月10日
TEXT_日詰明嘉/HIZUME Akiyoshi、文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo
EDIT_尾形美幸(CGWORLD)/Miyuki Ogata、山田桃子/Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota