2022年6月23日(木)と24日(金)の2日間、AIを活用したDX推進をテーマとするオンラインイベント「NVIDIA AI DAYS 2022」が開催された。本記事ではコンテンツ制作で活用されるAIに言及した2つのセッションの内容を要約して紹介する。

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記事の目次

    イベント概要

    「NVIDIA AI DAYS 2022」
    主催:エヌビディア合同会社
    日程:
    Day 1:2022 年 6 月 23 日(木) 9:00~17:40
    Day 2:2022 年 6 月 24 日(金) 9:00~17:40
    参加費:無料(事前登録制)
    www.ai-days2022.com

    様々な用途に応じた画像加工AIを展開(ラディウス・ファイブ)

    6月23日(木)の「クリエイティブAI」と題した講演では、株式会社ラディウス・ファイブ代表取締役の漆原大介氏が、同社が展開するクリエイティブ業務を支援するAIについて発表した。

    はじめに漆原氏は、ラディウス・ファイブの事業概要を説明した。同社の事業は様々なクリエイティブタスクを解決するAIサービスを束ねたAIプラットフォーム「cre8tiveAI」を中核として、自社サービスとして提供するAIや他社にライセンス提供するAIも開発している。

    続いて漆原氏は、cre8tiveAIで提供するAIを紹介した。まず紹介されたのは、顔イラスト生成AI「彩ちゃん(さいちゃん)」だ。このAIは、ユーザーが画面から好みの顔イラストを選択すると、そのイラストに似た顔イラストを多数表示するというものである。彩ちゃんを発展させたサービスとして「彩ちゃん+」もある。同サービスでは、AIが生成した顔イラストと人間のイラストレーターが制作した胴体を合体した全身イラストが提供される。現在のAI技術では自然な全身イラストの生成が困難なので、AIと人間がコラボするしくみが採用された。

    次に紹介されたのは、画像を高解像度に変換するAI「Photo Refiner」である。同AIを使えば、手作業だと多大な工数を要する画像の高解像度化を10秒程度で実行できる。派生のサービスとして画像内の顔を特定してピンボケ除去をしながら高解像度化する「Face Refiner」、動画に対応した「Movie Refiner」がある。

    画像のスタイルをAIによって変換する「Enpainter」、静止画を奥行きのある動画に変換する「Moving Photo Maker」もある。さらにマンガの背景制作に活用できる「Line Drawer」、アニメの背景画を生成する「Anime Art Painter」、モノクロ写真をカラーに変換する「Mono Painter」、似顔絵を生成する「Portrait Drawer」が紹介された。

    ラディウス・ファイブの自社サービスとしては、漆原氏はまず「AnimeRefiner」を紹介した。このAIサービスはアニメを4Kあるいは8K対応画質に変換するもので、イオンシネマでの過去のアニメ作品を4Kリマスタリングした実績のほか、4Kリマスターゲーム内のムービーにも活用された。

    「AnimeRefiner」(アニメ高解像度化AI)【cre8tiveAI / クリエイティブAI】

    続いて、屋外広告や交通広告に利用できる特大画像を生成する自社AIサービス「OOH AI」も紹介された。同サービスを使えば、一辺の長さが数万ピクセル、1億画素以上の画像を生成できる。CMやバスラッピング、ポスター用の素材、デジタルサイネージなど様々な場面で利用されている。

    最後に漆原氏は、他社へのライセンスサービスについて発表した。そうしたサービスにはax株式会社と共同開発した写真やイラストを高画質化する「ailia AI Refiner」や凸版印刷株式会社と共同開発した「MetaClone」がある。後者のサービスは、顔写真を1枚アップロードして身長と体重を入力すると、フォトリアルな3Dアバターを生成するというものである。高品質なアバターを生成するための高画質化や着彩等の画像処理で技術を採用されている。

    【メタクローン・プロジェクト】フォトリアルな3D アバターが自動生成できる「メタクローン アバター」

    デジタルツインレーベルとリアルタイムエンジンで進化(サイバーエージェント)

    6月24日(金)の講演「サイバーエージェントが目指す『未来の当たり前』と『3DCG技術』」では、子会社でメタバース空間でのバーチャル店舗開発や販促支援を手がける株式会社CyberMetaverse Productions事業責任者の中野英祐氏、株式会社サイバーエージェントのエンジニアである久家隆宏氏と山塚博翔氏が、同社における最新デジタル技術を活用したクリエイティブコンテンツ制作を解説した。

    はじめに中野氏が、サイバーエージェントにおけるデジタルコンテンツ事業展開の歴史を語った。1998年に創業しメディア事業やインターネット広告事業を展開してきた同社は、2017年にフルCG事業に参入後、2021年には著名人のデジタルツインを広告などにキャスティングするDigital Twin Label、2022年にはメタバース空間における企業の販促活動を支援する、バーチャル店舗開発に特化した事業会社「株式会社CyberMetaverse Productions」を設立、メタバース内で店舗を運営するMetaverse shopを手がけるようになった。

    Metaverse shopでは商品やサービスのバーチャル体験が可能なほか、バーチャル接客やNFTアイテムの販売を行う。また、導線やコンテンツ消費時間等のデータに基づいた商品・店舗運営も実現する。

    続いて登壇した久家氏は、前出のDigital Twin Labelの概要とこのサービスに使われているAI技術について発表した。同サービスは、実在のタレントの代わりとなる、そのタレントのデジタル的生き写しであるデジタルツインを制作し、広告等にキャスティングの上、広告クリエイティブを制作・運用するというものだ。コロナ禍によって実際に人が集まって撮影し、広告を制作するのが難しい現状において、同サービスは最適なソリューションである。また、出演するのがデジタルツインなのでタレントの稼働を最小限に留められる上に、広告コンテンツの複製や改良が容易になるという利点がある。

    Digital Twin Labelを使えば多様な演出を素早く制作できる一方で、演出の切り替えに伴うアセットやアニメーション制作を手作業で行なっていては、素早い切り替えができなくなってしまう。こうした問題を解決するのが、AI技術による自動化だ。同サービスでは、タレントのデジタルツインアニメーションの制作にOmniverse Audio2Faceを活用していく予定だ。この技術は、音源に合った顔のアニメーションを自動生成するというものである。同技術を使えば、熟練のアニメーターでも再現が難しい、音源に合わせた表情の細かな変化も生成できる。

    久家氏はAudio2Faceに今後期待することとして歯や舌を含んだ完璧な顔のアニメーションの生成、他のDCCツールとの連携を挙げた上で、最終的な目標はFull bodyアニメーションの自動生成の実用化にある、とも語った。

    久家氏の後を引き継いだ山塚氏は、リアルタイムエンジンを用いた制作事例について発表した。そうした活用事例にはバーチャルイベント、映像制作、Web空間の3種類がある。

    サイバーエージェントが制作するバーチャルイベントは、カンファレンスや音楽ライブ等の既存のイベントに3DCG技術やXR技術をかけ合わせたものであり、このかけ合わせを行う設備が専用スタジオである。この専用スタジオにはグリーンバックが常設され、カメラトラッキング、後述するLEDウォール、モーションキャプチャが稼働可能となっている。

    山塚氏はバーチャルイベントの事例を3つほど紹介したが、そのなかのひとつXR Kaigi 2021では町田GIONスタジアムのスキャンデータをバーチャル空間に取り込んだ。

    Behind the scene XR Kaigi 2021基調講演 パブリックビューイング会場

    映像制作事例の紹介に際しては、LEDウォールの活用が解説された。この設備は、巨大なLEDディスプレイに背景画像を表示した上で、背景手前にいる出演者と合成するというものだ。出演者をトラッキングしているカメラと3DCG画像のあいだで視差が生じるようになっているので、出演者が背景に溶け込むようなことはない。

    以上のようなLEDウォールの活用事例が3つ紹介されたが、特筆すべきはWired Conference 2021である。10枚のCG背景が使われたこのリアルタイムイベントでは、電動車椅子がCG背景と連動する演出もあった。

    Behind the scene :WIRED CONFERENCE 2021 『FUTURE : re-generative 未来を再生せよ!』

    Web空間における活用事例として、以下のスライド画像が示された。この事例ではWebコンテンツ内でリアルタイムレンダリングされた動画を視聴できたり、WebGLを活用したりして今までにないWebコンテンツ体験の提供を実現した。

    以上に紹介した2つのセッションからわかるのは、コンテンツ制作のようなクリエイティブ業務においてAIの活用が広がっていることである。AIによる支援が普及することで、人間はよりクリエイティブなタスクに専念できるようになるだろう。

    TEXT_吉本幸記 / Kouki Yoshimoto
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada