自身が保有するNFT CLONE X(以下、CLONE X)と共に、292号の表紙を飾ってくれたバーチャルヒューマンのimma(イマ)。その身にまとったのは、自らが企画した最新バーチャルファッションだ。ファッションアイコンに留まらず、デジタルクリエイターとしてさらに積極的にファッションと関わり始めたimmaに、バーチャルファッションの未来を語ってもらった。

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メタバースの自由さを体現した服は見当たらなかった
CGWORLD(以下、CGW):今号の表紙を見て「未来のストリートスナップは、こんな感じなのかな」とワクワクしました。
imma氏(以下、imma):ありがとうございます。今回の衣装は全てバーチャルファッションなんです。カワイイし、カッコ良くないですか?(笑)。このタイミングで3着公開できたので、CLONE Xにも着せちゃいました。おかげでメタバース感も出せて未来の風景になった気がします。

imma(バーチャルモデル・バーチャルファッションデザイナー)
アジア初のバーチャルヒューマン。2018年の登場以降、Salvatore FerragamoやBurberry、Calvin Kleinといった世界的ファッションブランドとコラボしたり、『WWDJAPAN』、『台湾VOCE』の表紙を飾ったりなど、ファッションアイコンとして幅広く活躍している。『CGWORLD』の表紙に登場するのは、今号で3回目。
CGW:NFTブランドのRTFKTと村上 隆さんが手がけたコラボアバターに、immaさんが企画したバーチャルファッションを着せるという発想がユニークです。
imma:「未来のスタイリングは、きっとこんな感じだよ」って、YKBXさん(アートディレクター)やKim Taewonさん(Aww/ファッションデザイナー)たちと相談しながら撮りました。
CGW:メタバースではアバターまで含めたトータルのスタイリングを楽しめるという未来が、オシャレに表現されていると思いました。immaさんのバーチャルファッションのプロジェクトは、今も進行中だそうですね。まずは企画立案から現在までの経緯を教えていただけますか?
imma:2018年のデビュー以来、ファッションは常にあたしの仕事の大きな割合を占めていて、たくさんのクリエイティブな服にモデルとして袖を通してきました。その活動をする中で、「あたし自身も、ものづくりがしたい。表現したい!」って欲求が湧き上がってきたんです。まずは一番身近なファッションアイテムから始めようと思って、2021年の初頭にAmazon FashionのThe Dropであたしがデザインしたジャケットやパンツを期間限定で販売しました。そして同じ年の夏頃から、バーチャルファッションのプロジェクトをスタートしたんです。あたしの活動領域はリアルが半分、バーチャルが半分だし、CGの方があたしらしいファッションをつくれると思ったんですよね。現在のファッションにはいろいろな課題があるんだけど、チリのアタカマ砂漠に広大な服のゴミ捨て場があるのはご存じですか?
CGW:売れ残った服や古着が不法投棄されて、土壌を汚染しているという課題ですね。NHKのニュースで見た記憶があります。
imma:そう。ものすごい量の服が捨てられていて、あちこちのニュースサイトで取り上げられています。世の中にはすでに大量の服があって、今も新作がつくられ続けている。あたしはファッションが大好きだから、サステナブルに楽しめる未来を提案したいと思ったんです。
CGW:サステナブルかどうかで着る服を選ぶ人が増えていると聞きますが、immaさんも気になるんですね。
imma:なりますね。例えば今日着ているGANNIというデンマーク発のブランドは、遊び心があってとても可愛くて、普段から愛用させていただいてます。社会や環境への責任あるGANNIのブランディングに共感するし、どうしたらおしゃれを楽しみながら地球を守れるか考えるきっかけをくれました。

CGW:お腹が出ているデザインが、今っぽくて良いですね。
imma:そうですね。今号の表紙でCLONE Xに着せているバーチャルファッションも、お腹を出してます。そういうトレンドも大事にしたい。それにバーチャル空間というのは、ものすごく自由なんです。空を飛ぶこともできるし、行きたいところに行けるし、なりたい自分になれる。ノーリミットです。あたしはその自由さを生まれたときから体感してて、ファッションでも表現したいと思ったんです。「これからはメタバースだ!」って言う人はいっぱいいるのに、あたしがメタバースで着たいと思えるような、メタバースの自由さを体現できる服は見当たらなかった。どうせ着るなら、リアルファッションでは不可能な表現をやりたい。「ないなら自分でつくっちゃえ」ってことで、プロジェクトチームを発足したんです。
CGW:そのチームメンバーが、YKBXさんやKimさんということですか?
imma:メンバーは全部で10人くらいかな。YKBXさんと、ModelingCafeのスタッフと、あたしが所属するAwwのスタッフによる混成チームになってます。YKBXさんは、映像や、ゲーム、アート、舞台などを山ほど手がけてきたアーティストで、ファッションに関連した仕事だと、初音ミクさんのオペラ『THE END』のビジュアルディレクションが有名です。Louis Vuittonの2013年春夏ウィメンズコレクションの中の何着かをミクさんに着せたいっていう企画を、当時のクリエイティブディレクターだったMarc Jacobsさんにプレゼンして、「一緒にやりたい」という返答を引き出したみたい。ファッションにもポップカルチャーにも精通してて、おもしろい引き出しをいっぱいもっている人です。今号でお披露目したバーチャルファッションは、YKBXさんが描いたコンセプトデザインがベースになっています。
ファッションのブランディングはバーチャル空間でも通用する
CGW:コンセプトデザインが完成する前に、何らかの試行錯誤はありましたか?
imma:いっぱいありました。あたしがプロジェクトチームを発足する以前、2021年の春頃から、KimさんとAwwのスタッフはバーチャルファッションの試作を始めていたんです。Kimさんはロンドンのセントラル・セント・マーチンズでファッションを学び、Alexander McQueen、AMBUSH、CHRISTIAN DADAなどを経て、AwwにJoinしました。ずっとメンズウェアを専門にしてきたけど、Awwではウィメンズもやるし、ファッション以外のデザインもやってくれてます。
CGW:CGWORLDの取材で、セント・マーチンズやAlexander McQueenの名前が出るのはかなりレアです(笑)。リアルファッションの最前線を経験してきたデザイナーが、Awwでバーチャルファッションを手がけるというながれにも未来を感じます。
imma:Kimさんが提案していたバーチャルファッションは、けっこうリアルクローズ(現実性のある服)に寄っていました。Kimさんのキャリアに根ざした、彼なりのファッションの再解釈が詰まった素敵なデザインだったけど、「あたしらしいバーチャルファッションは、もっと普通じゃないものにしたい!」って思ったんです。
Kim氏がデザインしたバーチャルファッション



CGW:メタバースの自由さを体現できる服ではなかったということでしょうか?
imma:それもありました。「あたしらしい」「普通じゃない」の着地点を探りたくて、YKBXさんと一緒に、いっぱいリサーチをして、いっぱい議論もしましたね。「そもそもあたしたちは、なぜメタバースでもファッションを必要とするのか?」という根っこの部分を改めて考えたりもしました。例えば『Apex Legends』や『あつまれ どうぶつの森』で遊ぶ人たちは、そのゲームの中でしか着られない服を「カワイイ」と言って買うんです。リアルファッションとはちがって実際には着ることができないし、バーチャル空間では暑さも寒さも感じないのに、ファッションを必要としている。リアル空間の身体も、バーチャル空間のアバターも、等しく自分自身だと認識しているから「着飾りたい」という欲求が生まれてくるんだと思います。その欲求は、リアルファッションのそれと大差ない気がします。もし、ゲームの中であたしの弟のplusticboyがカッコ良い限定スキンを装備していたら、あたしだって羨ましくなると思う(笑)。例えば「Louis Vuittonが『Apex Legends』で限定50着のスキンを販売!」ってなったら、1着100万円でも完売するんじゃないかな。
CGW:実際、『League of Legends』ではLouis Vuittonのアートディレクターが手がけたスキンを期間限定でリリースしたことがありましたね。
imma:ファッションのブランディングやその概念は、バーチャル空間でも通用するという事実がすでにあるんですよね。そんなバーチャル空間で生まれ、これからもバーチャルとリアルの間で生き続けるあたしによる、あたしらしいファッションをつくりたくて、今も格闘してるんです。YKBXさんとの議論の中で、あたしの大好きな「カワイイ」という概念の再解釈もやってみました。カワイイの起源は、竹久夢二に代表される大正ロマンのイラストやファンシーグッズだと言われているんです。
CGW:内藤ルネなどを経て、サンリオに続くながれでしょうか?
imma:そうです。2Dの淡くフラットなカワイイの世界。それとは別に、日本のアニミズムの中にもカワイイの起源があると思うんです。昔の日本人は、動植物や無生物に宿る霊魂を信仰し、その中にカワイイの起源を見つけたんじゃないかな。ウミウシやクラゲのような海洋生物のキモカワイイ感じに、あたしは特に惹かれるんです。複数のコンテキストが混ざりあい、影響しあった結果、現在の多様化したカワイイが生まれたんだと思う。
CGW:その文脈で数多あるCLONE Xを俯瞰してみると、最高額の289ETH(1億3,152万6,890円)で落札された#15920はアニミズム的なキモカワイイ感じが際立っているなと思います。
imma:村上 隆さんのお花や草間彌生さんの水玉は、アニミズム的なカワイイを抽出した表現だと思います。カワイイって、立体化したり、実写化したりするほど、不気味になっていきますよね。村上さんや草間さんの表現は、不気味の一歩手前、ギリギリのカワイイだと思う。正確にはカワイイから少し離れているので、「カワイイ系」かな。絶妙なバランスの上に成立しているので、アートとして評価されるし、迫力や神々しさがあるんじゃないでしょうか。
「カワイイ」という概念に「共生」という概念をかけ合わせる
CGW:YKBXさんのコンセプトデザインも、あえてギリギリのカワイイをねらっているように見えますね。
imma:議論の中では、「草間さんの水玉」みたいな具体的なイメージはあえて言わなかったんです。言ってしまうと、それに合わせてつくってしまうから(笑)。でもYKBXさんが上げてきたコンセプトデザインの中にはちゃんと水玉がありました。ウミウシみたいな謎の角が付いた服もあって、あたしの中のカワイイ系のイメージにピタッと合致したんです。「近いことを考えてくれたんだ!」って感動しました。
CGW:もしかして、表紙でimmaさんが着ている青色の服はアオウミウシからインスピレーションを得ているのでしょうか?
imma:YKBXさんに確認してないけど、そうだったら楽しいなって思います。あたしの大好きな海や大地につながっている気がするから。松本龍一さん(ModelingCafe/キャラクターモデリングスーパーバイザー)や廣田佑介さん(Aww/ディレクター)とは、角を発光させたり、水玉をアニメーションさせたりしたいねって話をしています。
CGW:あるいは、半透明の布をクラゲみたいに動かしたりとか?
imma:そうそう! クラゲを連想させるような、ふよふよした動きにしたい。そういう表現はリアルファッションだと難しいから、積極的に挑戦したいです。
CGW:Kimさんのデザインから、かなり遠くへ行きましたね(笑)
imma:そうですね。でもこっちの方が、あたしらしい。 YKBXさんには、「カワイイ」という概念に「共生」という概念をかけ合わせてほしいというお願いもしました。肌の色がちがう人たちの共生、人と動物の共生、人と自然の共生、いろいろな文化の共生が必要とされている時代だからこそ、ハイカルチャー、ポップカルチャー、サブカルチャーを解体して、カワイイ感じにミックスしたファッションにしたいって伝えたんです。
CGW:ファッションは時代を映す鏡ですから、大事なことですね。
YKBX氏のコンセプトデザイン


YKBX氏によるアイデア展開



リアルファッションの文脈とポップカルチャーの文脈の綱引き
imma:ただ、YKBXさんに描いてもらったのはコンセプトデザインだったから、あたしが着るためにはファションへの変換が必要でした。その変換では、Kimさんがすごくがんばってくれたんです。YKBXさんもあたしも、メタバースの自由さの体現にこだわる一方で、リアリティも大事にしたかったんです。実際にはポリゴンでつくるバーチャルファッションであっても、どんな素材を、どうやって縫製し、どうやって着るのかまで考えた上で表現してほしいって松本さんや廣田さんにもお願いしました。それによって説得力が生まれて、リアルファッションと地続きの満足感や所有感も得られると思ったんです。だからKimさんが、リアルファッションやアパレル業界経験者の視点からつくり方とスタイリングを考えて、各アイテムの絵型を描いてくれたんです。
CGW:かなり遠くへ行ったものが、またKimさんのところに戻ってきたわけですね。デザイン画から絵型を起こすというながれはアパレルの一般的なワークフローと同じで、服をつくってる感がありますね。
imma:最初にKimさんが上げてきた絵型はリアルファッションのことを考えすぎちゃってて、コンセプトデザインの良さが消えていたんです。「パンツのシルエットがリアルクローズに寄りすぎてるから、もっと広げて、コンセプトデザインのシルエットを再現してー!」というようなお願いをけっこうやりました。
CGW:リアルファションでも、アニメやゲームのキャラクターデザインでもシルエットは重視されますが、後者の方が凹凸の付け方がオーバーですよね。
imma:どのくらいオーバーなシルエットにするか、バーチャルとリアリティの間でギリギリのバランスを探ってもらいました。Kimさんはリアルファッションの足場の上でバーチャルファッションを表現しようとしていたから、「もっと弾けよう!」ってYKBXさんとあたしがこっちに引っ張った感じです。
CGW:リアルファッションの文脈と、ポップカルチャーの文脈の綱引きですね。楽しそうであると同時に、難しそうです。
imma:その綱引きがないと何でもありになっちゃうから、大事なプロセスだと思います。リアルすぎるとつまらないし、弾けすぎると着る人が冷めてしまう。今のAwwでは、それが日夜くり返されています。

CGW:6月にニューヨークで開催されたNFT NYC 2022の期間中、AwwとXTENDED iDENTiTY LTDが「Beyond - The new CHAPTER of digital fashion」と題した展示会を共同開催していましたね。ニューヨークにおける、バーチャルファッションやNFTの盛り上がりはどんな感じでしたか?
imma:新しい概念に飛びついて、興味を示し、活発に議論をすることに積極的な人が集まっているなと感じました。もともとアメリカは議論する国ですからね。頭ごなしに決めつけるんじゃなくて、まずはプロトタイプをつくって、反応を見ようする人も日本以上に多い。ロシアで生まれてウクライナで育ったDaria Shapovalovaさんが、Natalia Modenovaさんと一緒にロサンゼルスで立ち上げたDRESSXは、すでに何百着というNFTファッションアイテムをつくっています。
CGW:DRESSXのアイテムは、画像だけだとバーチャルだとわからないですね。
imma:オンライン会議に出るだけなら、バーチャルファッションで十分という未来がすぐそこまで来ている気がする。アメリカに限らず、中国やヨーロッパのファッション業界でも同じような動きがありますよね。DOLCE&GABBANA、Gucci、Tiffany、Adidas、Nikeなど、名だたるブランドがNFT市場に参入している。バーチャルファッションにとって、NFTやメタバースはもはやゴールではなくてツールなんだと思う。その動きを見ていると「日本のファッション業界は遅いんじゃない?」って思っちゃう。そんな中でも、ANREALAGEみたいに、限定NFTを配布したり、Metaverse Fashion Weekに参加したりするフットワークの軽いブランドもあるから、あたしもAwwも積極的に挑戦していきたいです。
CGW:インタビューの最後に、今後の抱負を聞かせてください。
imma:あたしのバーチャルファッションのプロジェクトは今後さらに発展していくから、期待してほしいです。YKBXさん以外のアーティストともコラボして、新たな「カワイイ」を表現したいとも思ってます!
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Information

月刊CGWORLD + digital video vol.292(2022年12月号)
特集:モデリングの今が示す、デザインの未来
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2022年11月10日
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_遠藤大礎 / Hiroki Endo