自身が保有するNFT CLONE X(以下、CLONE X)と共に、292号の表紙を飾ってくれたバーチャルヒューマンのimma(イマ)。その身にまとったのは、自らが企画した最新バーチャルファッションだ。ファッションアイコンに留まらず、デジタルクリエイターとしてさらに積極的にファッションと関わり始めたimmaに、バーチャルファッションの未来を語ってもらった。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.292(2022年12月号)掲載の特集「モデリングの今が示す、デザインの未来」から一部抜粋、再編集したものです。
関連記事
メタバースの自由さを体現した服は見当たらなかった
CGWORLD(以下、CGW):今号の表紙を見て「未来のストリートスナップは、こんな感じなのかな」とワクワクしました。
imma氏(以下、imma):ありがとうございます。今回の衣装は全てバーチャルファッションなんです。カワイイし、カッコ良くないですか?(笑)。このタイミングで3着公開できたので、CLONE Xにも着せちゃいました。おかげでメタバース感も出せて未来の風景になった気がします。
imma(バーチャルモデル・バーチャルファッションデザイナー)
アジア初のバーチャルヒューマン。2018年の登場以降、Salvatore FerragamoやBurberry、Calvin Kleinといった世界的ファッションブランドとコラボしたり、『WWDJAPAN』、『台湾VOCE』の表紙を飾ったりなど、ファッションアイコンとして幅広く活躍している。『CGWORLD』の表紙に登場するのは、今号で3回目。
CGW:NFTブランドのRTFKTと村上 隆さんが手がけたコラボアバターに、immaさんが企画したバーチャルファッションを着せるという発想がユニークです。
imma:「未来のスタイリングは、きっとこんな感じだよ」って、YKBXさん(アートディレクター)やKim Taewonさん(Aww/ファッションデザイナー)たちと相談しながら撮りました。
CGW:メタバースではアバターまで含めたトータルのスタイリングを楽しめるという未来が、オシャレに表現されていると思いました。immaさんのバーチャルファッションのプロジェクトは、今も進行中だそうですね。まずは企画立案から現在までの経緯を教えていただけますか?
imma:2018年のデビュー以来、ファッションは常にあたしの仕事の大きな割合を占めていて、たくさんのクリエイティブな服にモデルとして袖を通してきました。その活動をする中で、「あたし自身も、ものづくりがしたい。表現したい!」って欲求が湧き上がってきたんです。まずは一番身近なファッションアイテムから始めようと思って、2021年の初頭にAmazon FashionのThe Dropであたしがデザインしたジャケットやパンツを期間限定で販売しました。そして同じ年の夏頃から、バーチャルファッションのプロジェクトをスタートしたんです。あたしの活動領域はリアルが半分、バーチャルが半分だし、CGの方があたしらしいファッションをつくれると思ったんですよね。現在のファッションにはいろいろな課題があるんだけど、チリのアタカマ砂漠に広大な服のゴミ捨て場があるのはご存じですか?
▲imma x Amazon The Drop | Full Concept Film - Tokyo Chaos
CGW:売れ残った服や古着が不法投棄されて、土壌を汚染しているという課題ですね。NHKのニュースで見た記憶があります。
imma:そう。ものすごい量の服が捨てられていて、あちこちのニュースサイトで取り上げられています。世の中にはすでに大量の服があって、今も新作がつくられ続けている。あたしはファッションが大好きだから、サステナブルに楽しめる未来を提案したいと思ったんです。
CGW:サステナブルかどうかで着る服を選ぶ人が増えていると聞きますが、immaさんも気になるんですね。
imma:なりますね。例えば今日着ているGANNIというデンマーク発のブランドは、遊び心があってとても可愛くて、普段から愛用させていただいてます。社会や環境への責任あるGANNIのブランディングに共感するし、どうしたらおしゃれを楽しみながら地球を守れるか考えるきっかけをくれました。
CGW:お腹が出ているデザインが、今っぽくて良いですね。
imma:そうですね。今号の表紙でCLONE Xに着せているバーチャルファッションも、お腹を出してます。そういうトレンドも大事にしたい。それにバーチャル空間というのは、ものすごく自由なんです。空を飛ぶこともできるし、行きたいところに行けるし、なりたい自分になれる。ノーリミットです。あたしはその自由さを生まれたときから体感してて、ファッションでも表現したいと思ったんです。「これからはメタバースだ!」って言う人はいっぱいいるのに、あたしがメタバースで着たいと思えるような、メタバースの自由さを体現できる服は見当たらなかった。どうせ着るなら、リアルファッションでは不可能な表現をやりたい。「ないなら自分でつくっちゃえ」ってことで、プロジェクトチームを発足したんです。
CGW:そのチームメンバーが、YKBXさんやKimさんということですか?
imma:メンバーは全部で10人くらいかな。YKBXさんと、ModelingCafeのスタッフと、あたしが所属するAwwのスタッフによる混成チームになってます。YKBXさんは、映像や、ゲーム、アート、舞台などを山ほど手がけてきたアーティストで、ファッションに関連した仕事だと、初音ミクさんのオペラ『THE END』のビジュアルディレクションが有名です。Louis Vuittonの2013年春夏ウィメンズコレクションの中の何着かをミクさんに着せたいっていう企画を、当時のクリエイティブディレクターだったMarc Jacobsさんにプレゼンして、「一緒にやりたい」という返答を引き出したみたい。ファッションにもポップカルチャーにも精通してて、おもしろい引き出しをいっぱいもっている人です。今号でお披露目したバーチャルファッションは、YKBXさんが描いたコンセプトデザインがベースになっています。
ファッションのブランディングはバーチャル空間でも通用する
CGW:コンセプトデザインが完成する前に、何らかの試行錯誤はありましたか?
imma:いっぱいありました。あたしがプロジェクトチームを発足する以前、2021年の春頃から、KimさんとAwwのスタッフはバーチャルファッションの試作を始めていたんです。Kimさんはロンドンのセントラル・セント・マーチンズでファッションを学び、Alexander McQueen、AMBUSH、CHRISTIAN DADAなどを経て、AwwにJoinしました。ずっとメンズウェアを専門にしてきたけど、Awwではウィメンズもやるし、ファッション以外のデザインもやってくれてます。
CGW:CGWORLDの取材で、セント・マーチンズやAlexander McQueenの名前が出るのはかなりレアです(笑)。リアルファッションの最前線を経験してきたデザイナーが、Awwでバーチャルファッションを手がけるというながれにも未来を感じます。
imma:Kimさんが提案していたバーチャルファッションは、けっこうリアルクローズ(現実性のある服)に寄っていました。Kimさんのキャリアに根ざした、彼なりのファッションの再解釈が詰まった素敵なデザインだったけど、「あたしらしいバーチャルファッションは、もっと普通じゃないものにしたい!」って思ったんです。
Kim氏がデザインしたバーチャルファッション