2022年12月9日、CGWORLDは、建築・土木・都市開発における3DCGの活用法を探るオンラインフォーラム「3D VISUALIZER FORUM」を初開催した。

住宅などの建築はもちろん、近年では、国土交通省による都市CGモデルのプロジェクトにも使われている3DCGの技術。約6時間にわたるフォーラムでは、3DCGの最新活用事例を、業界を牽引する企業陣をゲストに招き、4つのセッションにわけて紹介した。

本記事では、NVIDIA合同会社の田中秀明氏、Autodesk株式会社の加藤久喜氏、Adobe株式会社の熊田正道氏、株式会社コロッサスの澤田友明氏による「NVIDIA Omniverse最新事例紹介」をレポートする。

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    世界的に増える、建築分野でのOmniverse活用

    冒頭では、NVIDIAのエンタープライズマーケティング シニアマネージャー・田中氏から、Omniverseの開発背景や、建築分野で実現できることについてが語られた。

    NVIDIAは米国に本社があり、開発チームは欧州やアジア、中国、インドと世界中に分散している。そのため、さまざまな3DCGツールを扱うチーム同士がコラボレーションし、かつ近年需要が増えている都市空間などの複雑な3Dデータにも対応できるようなプラットフォームが必要だった。そこで開発されたのが、Omniverseだ。

    Omniverseは2019年にコンセプトが発表され、2021年末から製品版の販売がスタート。現在多彩な産業分野で、デジタルツインや産業メタバースにおけるプラットフォームとして活用されている。

    そのなかでも多いのが、建築分野での3Dビジュアライゼーションだという。主な使用目的は、初期設計段階のデザインレビューや、2次元のデザイン画と3DCGツールの接続だ。工場の製造ラインのデジタルツインにOmniverseを利用する例も、世界的に増えている。

    上記は、Omniverseの建築ビジュアライゼーションにおけるワークフローだ。中心にある「Omniverse Nucleus」で、すべてのデータを集約している。

    たとえば、異なる3DCGツールを使うデザイナーやビジュアライゼーションスペシャリストがOmniverse Nucleusに接続して共に作業し、プロジェクトリーダーは「Omniverse View」を使って全体の進捗を確認する。施主(クライアント)は、同じくVR/ARによるインタラクティブで没入感のある3Dデザインを簡単に閲覧・レビューできる——

    Omniverseを導入することで、このようなワークフローが可能になる。

    Omniverseには、ピクサーが開発した「USD」という3Dシーングラフ形式が使われている。Omniverse Nucleusと接続できるプラグイン(コネクター)は、現時点で123以上
    異なる3DCGツールをOmniverse Nucleusに接続して作成されたシーン(右)。ストリートや街灯は3ds Max、建物はRevit、木はMayaで作成された

    Omniverse Viewでは、特別な前処理なしに、設計最中のデザインをVR・ARで見ることができる。チーム間でVRヘッドセットを被ったまま、「ここの設計・色を変えてくれる?」などと遠隔でやり取りし、レンダリングのかかった状態で、リアルタイムで変更や確認をすることも可能だ。

    「Revit」×Omniverseで実現できること

    続いてAutodesk社の加藤氏より、同社が開発・提供するRevitとOmniverseを繋ぐ事例が紹介された。Autodesk社はRevitのほかにもMayaや3ds Maxといった人気3DCGツール、製造業向けのInventorFusion 360などを提供する。

    「Revitは、建物を3Dで表現するだけではなく、建てるまでのすべてのプロセスをデータの中に集約して利用されるため、3Dデータのほかに、図面や現場への指示などの情報も必要になります。Revitのみで施主様とコミュニケーションを取ることも可能ですが、Omniverseを使うことで、より観点に便利になるのではないか、と考えています」(加藤氏)。

    Revit内のタブからOmniverse Nucleusへ簡単にアクセスできる。その際、図面やカラーマッピングなどのデータもクリックひとつで読み込まれ、美しいビジュアルのデータを即座にサイドバイサイドで確認できる
    ライブ機能をオンにすると、Revit(右半分)の変更がOmniverse Create(左半分)に瞬時に反映されるようになる。施主と遠隔でコミュニケーションを取り、会話中に変更を加えることも可能だ。もちろん3Dに慣れていない施主の方には、2次元のデータで面積などと確認してもらうことも可能だ

    また、大規模なビルの設計、ビジュアライジングを想定するRevitに対して、InventorやFusion 360は、ビル等の建物に設置される空調機器や昇降機といった設備や店舗内装設計時に必要な室内装飾品など、複雑で細かな形状の製品によく用いられるツールだ。そのため、「扱うデータも非常に細かい」という。

    たとえば、Autodesk社の製品同士(Revit×InventorやFusion 360)でデータを取り込むことも可能だが、それぞれ使用用途が異なるために、デバイスが重くなるなどパフォーマンスが落ちる。その点Omniverseを使用すると、およそ45秒でInventorデータの取り込みが完了し、その後はInventorを起動することなく、1クリックでデジタルツインのデータにアクセスできる。

    今回のイベントのデモで使用されたPCは、「Lenovo ThinkStation P620(NVIDIA RTX A6000搭載)」。Omniverseのパフォーマンスが発揮できる機材だ、と加藤氏

    「Omniverseの導入で、リアルタイムレンダリングによるデザインレビューやコラボレーションが、従来よりもかなり改善されると考えています。今ある設計のやり方をほぼ変えることなく導入できる、というのも大きなポイントです」(加藤氏)。

    「Substance Painter」「Maya」×Omniverseで実現できること

    続いて、Omniverseのさらなる活用例とワークフローが、株式会社コロッサス レンダリングスペシャリスト シニアデザイナーの澤田氏より、Substance PainterとMayaに分けて語られた。

    Omniverse ConnectorがリリースされているSubstance Painterを含む、USDに対応するAdobe Substance 3D Collectionについて、Adobe社のSenior 3D Strategic Business Development Manager 熊田氏は、「建築ビジュアライゼーションの現場では、内装のファブリックや家具、外観のマテリアル作成などによくご活用いただいている」と紹介した。

    Substance Painterには、ファザードのディテールなど高品質なテクスチャがセットされており、建物全体やそれを取り囲む環境を、モデリングほぼなしで素早く作成できる

    まずは、Substance PainterとOmniverseを繋ぐための設定方法からだ。

    Omniverseのインストールが完了したら「Omniverseランチャー」を開く。次に(Substance Painterがインストールされている前提で)、Substance Painterのコネクターをインストール。

    Substance Painterを立ち上げ、右下部分からOmniverse Createを開く。「エクステンション」ウィンドウを開き「オートロード」をオンにすると、起動時に自動的にエクステンションが読み込まれるようになる。これで、すでにSubstance PainterをOmniverseで利用する環境が整った。

    Omniverseコネクターのプロパティから「メッシュをエクスポート」するとモデルデータが読み込まれる。このとき、ライブリンクを貼っていると自動的に読み込まれるが、貼っていない場合はUSDデータとして出力される

    反対に、OmniverseからSubstance Painterにデータを渡したい場合は、Omniverse Createでモデルを表示させ「インポートメッシュ」というコマンドを使うと、自動的にSubstance Painterに読み込まれるという。

    では、Mayaではどのように変わってくるのだろうか。

    「Mayaに限ったことですが、Omniverseコネクターに『ネイティブコネクター』と『レガシーコネクター』の2種類があります。今後はネイティブコネクターがメインになると伺っていますが、実はレガシーコネクターには、ライブリンク機能と、Arnoldレンダラのマテリアルを直接MDLマテリアルに変換する機能があるんですね。そのため現時点では、Arnoldで作業されている方は、レガシーコネクターのほうがメリットがあると思います」(澤田氏)。

    ネイティブコネクターで出力した場合。「基本的なMayaのレガシーシェーダーを使ってテクスチャマッピングしたような素材であれば、問題なくOmniverseに持っていくことが可能」(澤田氏)
    レガシーコネクターで出力した場合。「ネイティブコネクターはArnoldのマテリアル変換に対応していませんが、レガシーコネクターはそのまま変換できます」(澤田氏)

    Omniverse Createには数多くのマテリアルセットがあり、澤田氏は、「これを貼り付けるだけでも綺麗な絵になる。細かな質感の設定はOmniverse Createの中でやってよいと思う」と話す。さらにこの後、MayaやSubstance PainterからOmniverseへデータを実際に渡したときのムービーが紹介され、視聴者は、デザインの編集・変更がリアルタイムで反映されるシーンを目の当たりにした。

    澤田氏は、建築ビジュアライゼーションの今と昔についてこのように語った。

    「私は11年以上前からAutodeskさんの3ds Max、AdobeさんのPhotoshopを使って建築ビジュアライゼーションをしてきましたが、昔はチームで作業する際、誰がどういうツールを使っているのか? クライアント様のデータ形式はなんなのか? ということに頭を悩まされ、今思えば作品の“見栄え”に充てられる時間が少なかったんですね。

    近年はテクノロジーが向上し、Omniverseのようなツールで素早く、見栄えを重視したビジュアライゼーションが可能になりました。ムービーキャプチャー機能で、重いシーンも十数秒でアニメーションにすることができます」(澤田氏)。

    アニメーションのレンダリングにはムービーキャプチャー機能を使う。設定にもよるが、1フレーム1秒程度でレンダリングが行われる

    質疑応答では、Omniverseの導入費用について質問があり、NVIDIAの田中氏が回答した。

    「Omniverseには2種類のライセンスがあり、チームでご利用いただく『エンタープライズライセンス』は年間費用がかかりますが、クリエイター様や開発者様向けの『個人ライセンス』は無料でお使いいただけます。まずはこちらからお試しいただき、採用をご検討いただけるようであれば、ぜひエンタープライズライセンスをご利用ください」(田中氏)。

    TEXT_原由希奈
    EDIT_西原紀雅(CGWORLD) / Norimasa Nishihara、山田桃子 / Momoko Yamada