2023年3月4日(土)、Webメディア・ゲームメーカーズ株式会社ヒストリア)主催のイベント「ゲームメーカーズ スクランブル」が大崎ブライトコアホールにて開催された。

本記事では全10講演のセミナーの中からGame Design Lab 濱村 崇氏による「すぐに役立つ!ゲームデザイン」の模様をレポートする。

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    Information

    ゲームメーカーズスクランブル

    開催日程:2023年3月4日(土)
    開催時間:本編10:00-18:30/懇親会19:00-21:00
    会場:大崎ブライトコアホール
    参加費:無料(事前予約制)
    主催:ゲームメーカーズ(株式会社ヒストリア)
    gamemakers.jp/scramble2023

    どんなゲームにも存在する介入要素を分析

    「すぐに役立つ!ゲームデザイン」にはフリーランスのゲームデザイナー・濱村 崇氏が登壇。濱村氏は2022年春までHAL研究所に所属し、『星のカービィ 参上! ドロッチェ団』のディレクターをはじめ、「カービィ」シリーズに多数携わってきた。独立後はゲーム制作技術を伝えるGame Design Labを立ち上げ、SNSを通じてゲームデザインのノウハウを公開している。

    セミナーではGame Design Labのオリジナルキャラクター・ラボちゃんのイラストを交えながら、ゲーム開発初心者にわかりやすく、現役のプロも参考になるテクニックを伝授した。

    「すぐに役立つ!ゲームデザイン」Game Design Lab 濱村 崇

    第1章は「ゲームデザインってなに?」と題して、ゲーム開発にまつわる用語が解説された。ゲーム用語は非常に複雑で、それらの言葉の意味を正しく認識しておかなければ混乱することも多いからだ。

    とくにややこしいのがレベルデザインである。レベルデザインはゲームに出てくるマップの設計のことで、RPGであればフィールドやダンジョン、アクションゲームならステージなどを指す。ここでのレベルは空間を意味しており、レベルデザインを訳すと「空間設計」となる。

    レベルデザインの一例。『星のカービィ』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、『ポケットモンスター』、『Portal』が例として挙げられている

    しかし、日本ではレベル=強さと捉えて、レベルデザインを「難易度設計」の意味で使う会社も存在する。本来は誤用ではあるのだが、2010年頃からソーシャルゲーム会社を中心に使われるようになってきた。

    このようにゲーム業界では独自の「方言」が多いため、勝手に解釈をせず、開発前にきちんと用語の指す意味を確認した方がいいとの注意が促された。

    今回取り扱うゲームデザインは、ゲームを構成する仕様であるゲームシステムと、各種パラメーターやレベルデザインなどのデータテーブルの両方を合わせたものだ。ゲームを成立させるための全ての要素を内包しているという前提を共有した上で、本題の第2章「すぐに役立つゲームデザイン」に移った。

    まずは「ザコが大量に湧いてくるボス戦」をつくったものの、テストプレイで「ザコが邪魔!」と大不評だった事例を紹介した。その解決策として「ザコをなくす」という判断をしてしまいがちだが、濱村氏はそれは間違っていると断言する。

    今回のボス戦のコンセプトはザコが湧いてくることなので、そこを変えてしまうと根幹が崩れて、立て直しが効かなくなってしまう。当初のコンセプトと正反対の方向にゲーム性を変えることには慎重になるべきなのだ。それでは、ボス戦にどんな変化を加えれば面白くなるのだろうか。

    その答えにたどり着くには、どんなゲームにも必ず存在する「プレイヤーの介入要素」を解き明かさなければならない。濱村氏は「よくできたゲームデザインは、プレイヤーが介入するルールがきちんと設計されている」と語る。それを分析することで、ゲームをより魅力的にできるのだという。

    プレイヤーの介入要素は「介入前」「介入中」「介入後」の3つに分けられる。それぞれをプレイヤーの行動に置き換えると、介入前は「予定を立てる」、介入中は「実行する」、介入後は「結果を得る」と表現できる。

    つまりゲームは「予定を立てて、実行して、結果を得る」というサイクルの繰り返しによって成立しており、その原則はどんなジャンルであっても変わらない。

    『スーパーマリオブラザーズ』はジャンプボタンを押すことが実行(介入中)にあたる。どのタイミングでボタンを押すのか予定を立てて(介入前)、敵を踏むのに成功すれば別の地点に行けることが結果(介入後)になる

    ゲームのジャンルによって異なるのは「予定・実行・結果」というサイクルのスパンだけだ。アクションゲームでは秒単位の判断が求められるし、シミュレーションゲームでは長期の戦略を練る必要がある。

    ソーシャルゲームではプレイヤーが「これぐらいのペースで進めればイベント期間中にミッションを達成できる」とノルマを考えて遊ぶ点において、数日から数週間単位の長いスパンで設計されていると言えるだろう。

    『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では、プレイヤーが「予定、実行、結果」のサイクルを回すために、様々な場所にギミックがしかけられていた。上記のイラストは、「木を切り倒すと橋になって祠に行ける」というギミックを表している

    テストプレイでの「面白くない」という感想は、プレイヤーが「予定、実行、結果」のどの段階で不満を覚えているかによって、その不満の細かな内容が変わってくると濱村氏は語る。

    例えば介入前の予定を立てるときに問題がある場合は、「どうすればいいのかわからない」や「モチベーションが湧かない」といった発言が出てくる。介入中の実行だと「気持ち良くない」や「ボタンをきちんと押したのに反応しない」、介入後の結果を得るときだと「嬉しくない」や「達成感がない」などになる。

    プレイヤーの感想はさらに細分化できる。もし「どうすればいいのかわからない」のが、目的地の場所がわからないことに起因するなら、ミニマップを付けることで解決できる

    ゲーム開発者は「面白くない」と言われるとショックを受けてしまいがちだ。しかし、そういった感想は、つまらない原因がどこにあるのかを突き止め、ゲームに何が足りないのかを探る手助けになるのだ。

    「予定・実行・結果」がブラッシュアップの鍵

    では「ザコが大量に湧いてくるボス戦」のどこに問題があったのだろうか。テストプレイヤーの感想を詳しく聞いてみると「ザコがランダムに現れるせいで、ボスを倒すために立てた攻略の予定が邪魔されてしまう」ことにストレスを感じていたことがわかった。

    つまりプレイヤーが行う予定を立てる遊びが、ザコによって阻害されていたことが、「面白くない」という感想に繋がっていたのだ。そこで、ザコの出現タイミングがきちんとわかるようにするという解決策を探った。

    例えば、もしザコがスケルトンであれば、周囲に骨が転がっていて、その骨がジワジワと近付いて最後は合体して敵になるシステムを組めばよい。そうすることによってプレイヤーは視覚的にザコの出現タイミングを把握できるため、それを攻略の予定に組み込むことができる。

    もし攻略に失敗しても、ミスをした原因がわかるために理不尽さは感じず、何度でも遊びたくなるリトライ性に繋がっていく。

    ザコはボスにたどり着くまでの道中に出しておくとベターだ。そうすればプレイヤーはザコがどうすれば出現するのかの学習が済んだ状態でボス戦に挑むことができ、攻略の予定をより具体的に立てられる

    このようにゲームを構成する「予定、実行、結果」の3要素を知っておけば、ブラッシュアップのときに非常に役に立つ。

    濱村氏は「今回紹介したこと以外にもゲームデザインにはこのような技術がたくさんあります。ゲームはセンスやアイデアだけでなく、技術だけで面白くするところまで行けるものです。そういった技術を身に付けて、皆さんがつくったゲームで遊べる日を、僕も楽しみにしています」と来場者に向けてエールを送った。

    質疑応答の様子

    セミナーの後半には質疑応答のコーナーが設けられ、10名近くから質問が飛び交うほどの賑わいを見せた。

    「ゲームにはランダム性があって運が絡む要素もあります。その場合はプレイヤーは予定が立てられないと思うのですが、どのようなゲームデザインをすれば上手くいくのでしょうか?」との質問に対し、濱村氏は「運が絡むことをプレイヤーにきちんと伝えておけば大丈夫です」と回答した。

    例えば「スーパーロボット大戦」シリーズでは命中率などを具体的なパラメータとして数値で示しているため、攻撃をミスしたときもある程度は納得できる。このように運の要素であっても、プレイヤーの「予定」に組み込む方法があることが語られた。

    濱村氏はアクションやアドベンチャーなどのゲームジャンルを問わず、様々な質問に当意即妙に答えていった。どれも具体的でわかりやすいアドバイスだったこともあり、受講者からは「自分の考えを言語化するために実践していることはありますか?」という質問も投げかけられた。

    それに対し濱村氏は「モーニングページ」という習慣を3年ほど前から続けていることを明かした。毎朝起きたときに思っていることをA4ノート1ページ分に書き出して、頭の中を整理しているそうだ。その際にアイデアが閃くことも多々あり、個人差がある方法論だとしながらも「思考しているだけではなく、紙に書くことが重要ではないかと思っています」とオススメしていた。

    セッション後のTwitterでの投稿

    講演資料

    講演動画

    TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
    PHOTO_島田健次 / Kenji Shimada
    EDIT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)