一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)」が、3月11日(土)・12日(日)の2日間開催された。
東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)実行委員会主催の下「ACTF2023 in TAAF」と銘打ち、11日は制作プロダクションなどによる各社事例紹介の配信、12日はソフトベンダー・企業によるセミナー配信と、としま区民センターでのリアル出展を行なった。
本記事では3月12日配信のセミナーから「e-Conte Boardを活用した『リコリス・リコイル』足立監督の使用事例と今後の開発について」の模様をレポートする。
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Information
「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2023 in TAAF」
開催日:2023年3月11日(土)、12日(日)
場所:としま区民センター
参加料:無料
主催:東京アニメアワードフェスティバル実行委員会
共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
http://www.janica.jp/course/digital/actf2023inTAAF.html
オリジナルTVアニメーション『リコリス・リコイル』
Blu-ray&DVD発売中
各配信プラットフォームにて配信中
lycoris-recoil.com
ⒸSpider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11
『リコリス・リコイル』の絵コンテに活用された基本機能
iPad専用絵コンテ作成アプリ e-Conte Boardのセミナーには、2022年7月期に放映されたオリジナルTVアニメ『リコリス・リコイル』の足立慎吾監督と、開発者のSGA Works 進藤 恒氏が登壇。足立監督が描いた絵コンテの画像を交えながら、e-Conte Boardのメリットを伝えた。
e-Conte Boardは2020年2月にVer.1.0を公開。セミナー開催当日には最新のVer.1.4がリリースされた。まずは基本機能である3つの画面モードが紹介された。
1st viewは紙のコンテ用紙の作業感をそのままデジタルで再現したモードだ。足立監督は「縦長の切れ目のないコンテ用紙に描いているイメージですね。トイレットペーパーに描いている感じかな」と使用感についてコメント。そして最もオススメだというストップウォッチ機能に触れた。
e-Conte Boardには各コマごとにストップウォッチが用意されており、それぞれのカット尺を計測可能。それをくり返していけば、コンテを描き終わった頃には、1話分の総尺が自動で表示される。
紙で作業する場合はカットごとの尺を計算しなければならず、もしオーバーしていたり、足りなかった場合は調整しなければならなかった。
足立監督は「『どうにか定尺に入っていてくれ……神よ!』といった気持ちで電卓を打っていましたね」と面倒な作業から解放された喜びを語った。作業途中であっても、そこまでの尺が表示されるので、「Aパートはちょっと長めだな」といった確認ができるのもメリットだ。
2nd viewはレイヤーや写真のインポートがメイン。またe-Conte Boardは動画出力もできるため、コンテ撮を再生して演出や編集がどうなっているのか把握するのに役立つ。
3rd viewは描画領域を全画面に拡大したもの。細やかな調整や、コンテ撮を大画面で見たい場合に活用できる。
セミナーの後半では『リコリス・リコイル』11話のコンテ撮を公開。主人公の錦木千束&井ノ上たきなと真島のバトルシーンで、アニメーターにどのようなアクションなのかを伝えるのに役立ったそうだ。
描き味に関しては、e-Conte Boardはベクター形式のため「紙に鉛筆で描く感覚とは若干ちがうと思います」とコメント。例えば消しゴムを使うと1工程全てが消えてしまうので、部分的に消す場合は白で塗りつぶす必要がある。
ただ、アニメーター出身の足立監督としては「あまり絵を描けてしまうソフトだとキリがないんですよ。絵が上手いコンテが面白いコンテという訳ではないので、描画の部分での制限があった方がいいです」と自分に合ったツールだと話す。
そのほか画像の貼り付け機能があり、他のペイントツールで細部まで描いた絵や、ロケハンで撮影した写真なども利用可能。それらの画像を下敷きにして描けるため、特に写真レイアウトを活用する演出家には便利だろう。
さらにVer.1.4からは描画機能が強化。まずFlip機能を追加し、絵やレイヤーを自由に反転できるようになった。
ベータ版を先行利用していた足立監督は「画面の右側に描いてしまったけど途中で反対だと気付いたり、右向きの顔が描きづらかったりしたときも対応できます」と『リコリス・リコイル』の作業時にも多用していたことを明かす。レイヤー自体を自由に動かすこともでき、描画ツールの機能も充実している。
そして2023年下半期以降にリリース予定のVer2.0では、AppleのグラフィックスAPI・Metalに対応。前述の消しゴムがラスタ仕様となり使いやすくなるなど、様々な新機能の搭載に向けて、進藤氏は意気込みを述べた。
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)