昨年、3年ぶりに実地開催となった東京ゲームショウ2022。2021年に初登場したバーチャル会場も引き続き「TOKYO GAME SHOW VR 2022(以下、TGSVR2022)」として大幅にパワーアップし、来場者を楽しませた。

企画と設計について紹介した前編に続き、後編では、CG制作やサウンドの情報、そして本VRコンテンツの体験における要となる、アバターシステムをどのように制作していったか、話を聞くことができた。

記事の目次
    企画・設計編はこちらから>>

    Information

    TOKYO GAME SHOW VR 2022 -DANGEON- PLAY MOVIE

    「TOKYO GAME SHOW VR 2022」
    tgsvr.com
    ※既に会期終了しているため、会場へは現在アクセスできません。
    Twitter:@tgsvr_official

    【参加企業一覧】
    出展社一覧(五十音順):
    イマクリエイト / カバー / カプコン / 環境省 / CharacterBank / Gugenka / コーエーテクモゲームス / コジマプロダクション / KONAMI / サビオス / スクウェア・エニックス / セガ/アトラス / ディスクロニア: CA / VARK / バンダイナムコエンターテインメント / ポールトゥウィン / マジック:ザ・ギャザリング / Metaani
    プロモーション協賛社一覧(五十音順):
    ZONe エナジー / BOAT RACE振興会 / UCC
    アパレル協賛社一覧:
    ラルフ ローレン

    各企業のコンテンツの魅力を引き出すブース制作

    東京ゲームショウのバーチャル会場という性質上、メインとなるのは様々な出展社が提供するゲームIPコンテンツだ。それらをいかに今回のテーマである「ダンジョン」に組み込むか、その設計には工夫が凝らされた。

    <上段>左から、CTO 藤田裕介氏、CXO 番匠カンナ氏、サウンドプログラマー 越山智貴氏
    <下段>左から、エフェクトアーティスト 田村翔平氏(以上、ambr)、CGディレクター 徳田哲也氏(スタジオトライディア)、CGプロデューサー 今村理人氏(ディフューズ)

    例えばKONAMIのブースでは、『遊戯王クロスデュエル』に登場する代表的なモンスター、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンを召喚できるしかけを施している。

    ▲KONAMIブースの入口ゲート
    ▲『遊戯王クロスデュエル』のコーナーでは、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンを召喚することができる。演出の邪魔にならないよう、周囲の岩などの配置に気が配られている

    他にも、コーエーテクモゲームスのブースでは『ライザのアトリエ』シリーズに登場するライザの家をそのままVR空間に再現。

    ▲コーエーテクモゲームスの入口ゲート
    • ▲『ライザのアトリエ』シリーズのライザの家の外観
    • ▲家の内観

    そんな企業ブースのなかでも異彩を放っていたのが、飲料メーカー大手のサントリーによるエナジードリンク「ZONe ENERGY」のブースだ。

    このブースでは、「ユーザーがZONeの缶を手に持つと雷のようなエフェクトが発生する」といったしかけがあった。

    エフェクトは、ユーザー自身のアバターやNPCの周囲に発生し、発生したエフェクトが自分の視点でも他のユーザーの視点からも見えるように設定された。

    「イメージをすり合わせた上でモックを作成し、数週間で表現の流れを決めFIXしました」と、エフェクト制作を担当したambrのエフェクトアーティスト・田村翔平氏は語る。「長く見ていても飽きないことと、缶を持つユーザー、それを観るユーザーのどちらから見ても映えるように調整をくり返し行いました」(田村氏)。

    こういった各社のブースは、出展社からモデルやモーション、SEなどのデータ提供を受け、シェーダなどをTGSVR2022のVR空間に合わせて調整した上で活用している。

    大幅に進化したアバターシステム

    前編でも言及したように、TGSVR2022ではアバターシステムが強化されている。前回はTシャツのみだったが、今回は頭と身体と足のアイテムを変更可能にした。

    「今回はダンジョンを冒険するということで、前回よりユーザーが自分らしく感じられるように、そもそもの素体もキャラメイクできるようにしました。目の形や肌の色も変えられるため、組み合わせは相当あります」と、ディレクターを務めた番匠カンナ氏。

    「今年はアバター本体の色を変えられたり、装備品のアイデアを増やしたりしています」とambrのクライアントエンジニア兼サウンドプログラマー、越山智貴氏も続ける。

    ▲アバターのキャラメイク画面。肌色、髪型、髪色、目の形をカスタマイズできる

    実装には試行錯誤があった。メニュー上でのパーツの変更がシーンにいるアバターにすぐに反映されるか、アバターが動いたときに装備パーツがちゃんと追従するかなど、検証をくり返しながら1ヶ月ほどかけてシステムを構築し、アイテムを量産したという。

    「アバターの視点の高さを途中で変えたり、アバター自体のスケールを調整するなどかなり細かく検証しました」(越山氏)。

    そんなアバターの装備パーツで特に印象に残っているのは、やはり出展社のIPコンテンツに絡んだ装備だ。『遊戯王』シリーズのブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンのかぶりものは、身につけると他のユーザーからの見た目が変わるだけでなく、自分の視点からはドラゴンの歯が見える点も本当にかぶっている感覚を覚えるものだった。他にも『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』シリーズの主人公ソニックのかぶりものなども用意されていた。

    ▲ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴンのかぶりものを身につけたアバター

    こういった装備の拡充は、ファッション系の協賛社にも活用されており、アバターの初期装備にはラルフローレンのグッズが採用されていた。

    また、手にオブジェクトを把持できる機能を使って、サントリーのブースではエナジードリンクZONeの缶を手に持つことができた。

    ▲サントリーブースでZONeの缶を手に持っているアバター

    このようにアバターのカスタマイズの幅が広がったことで、VR空間内での自撮り写真をSNSでシェアするユーザーが増え、前回と比較しても圧倒的に投稿数が多かったという。

    「今回はSNS連携機能を使ってくれるユーザーが多かったです。面白いアバターアイテムや写真を撮影するクエストを用意することで、SNSでの露出を上げることは意識していました。ユーザーが自撮りしたい、シェアしたいと思う欲求に上手く結びつけられたと思います」(番匠氏)。

    体験を損なわない最適化の取り組み

    ここまで見てきたように、ダンジョンとしての空間や出展社ブースが作りこまれていたり、多数のアバターアイテムが用意されていたりと、前回以上に開発の物量が膨大だったことは想像に難くない。そんな物量をつくりきるために、限られた制作期間でどのような効率化が行われたのだろうか。

    「CGの開発面に関しては、効率化という点では前回とあまり変わりません。例えばライティングのパラメータなど、過去に試行錯誤したなかで効率化している部分はあります」(今村氏)。

    「工夫したのは、開発の中盤くらいから週に1回のペースで、必ずCGのデータをアプリに取り込んで実際に動かしてチェックしたことです。VRでの目線が地面に近すぎないかなど、ambr社内や今村さんのチームで検証することもワークフローに組み込んでいました」(ambr CTO 藤田裕介氏)。

    TGSVR2022の対応端末はMeta Quest 2(以下、Quest 2)などのVR HMDとPC(Windows)だ。PCと比較するとVRデバイスはどうしてもスペックに制約があるため、Quest 2でいかにクオリティを保ちながらフレームレートを60fpsに近づけるかが焦点となった。

    • ▲PC版のコア空間
    • ▲Quest 2版のコア空間。天井部の円環状のラインエフェクトや、中央に舞うカラフルなエフェクトがオミットされている

    解像度はPC用とQuest 2用の2種類用意した。

    どちらからアクセスしても「見えない」という体験をつくらないことを念頭に置き、テクスチャストリーミングによるテクスチャ解像度の自動設定や、半透明エフェクトへのLOD適用など、細かく最適化を施している。

    「全体の解像度を落とすとフォントのにじみが出てUIの視認性が落ちるといった問題もあり、苦心しました」(藤田氏)。

    • ▲キューブ型エフェクトにおけるLODの例。半透明のボックス内にパーティクルが舞っている
    • ▲Quest 2版では、遠景にあるキューブ内のパーティクルを非表示にしている(画像はわかりやすく近景で比較している)
    ▲実際のQuest 2版での表示

    また、グラフィックス面での大きなトピックとしてUniversal Render Pipeline(URP)の採用が挙げられる。前回はポストプロセスを使用できず、Quest版ではブルームなど発光表現ができなかった。

    「URPはリリースされてからかなり経っていて技術として成熟しており、光の表現をはじめとするルックの向上に対する期待から、今回採用することにしました」(藤田氏)。

    URP単体では他の問題が出ることも想定し、UnityとOpenXRのバージョンアップと並行して、URPへの移行を行なった。

    「結果として、Quest版でもブルームが使えるようになり、上層のクオーツエリアでのクリスタルのきらめきを、印象的な表現にすることができました。ライティング適用時の光の質感も、かなり柔らかくなったと感じています」(今村氏)。

    さらにSRPBatcherに対応することで描画処理のCPU負荷を減らし、ポストプロセス使用時のパフォーマンス低下を抑えられたとのこと。

    没入感を増幅させるサウンド設計

    VRは視覚の比重が大きいメディアに思われるが、ユーザーに没入感をもたらすには聴覚の情報も重要となる。「特にダンジョンを冒険するという体験においては、音による没入感の演出が果たす役割は大きかったです」(番匠氏)。

    今回のTGSVR2022では、サウンド面も大幅に強化された。「ゲーム音楽作曲家の冨田朋也さんに、サウンドディレクターとして入っていただきました。VR空間上で音をどう鳴らすかというサウンドシステム自体の見直しも行いました」(越山氏)。

    ゲームショウらしい賑やかな空間づくりとして、同じ空間内で動いているキャラクターの音、周囲のブースから聞こえる音、アバター自体がハッと気がつく音など、会場にいると様々な音が聴こえるように設計している。

    特に新しい要素として挙げられるのが、アバターに足がついたことによる歩行アニメーションの足音だ。

    ▲アバターの足音の例

    「足音はキャラクターアニメーションのループに沿って音を鳴らしています。地形にも判定を入れていて、橋や水辺など、歩く場所によって足音が変わるようにして、没入感を高めています」(越山氏)。

    ▲地形によって変わる足音の例

    そのほか、空間内に並べられたブラウン管テレビやコア空間で動くキューブにも音がついており、同時に鳴る音が多くなりすぎないよう、音源の数の上限を定め、そこから増えないように設定していったという。

    こうした様々なこだわりにより、新しいVR体験をつくりあげた「TGSVR2022」。今年もさらにパワーアップしての開催が予定されているという。

    TGSVR2023の開催にあたっては、「スマートフォン端末でも体験可能に」「会期を“+1週間”の11日間に延長」という変革をプラスし、新しいTGSの体験の創出と、より多くの方にTGSコンテンツの提供を可能にする空間が誕生するとのこと。詳細は公式サイトからも確認できる。

    ますます進化を続けるTGSVRに引き続き注目していきたい。

    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura