昨年、3年ぶりに実地開催となった東京ゲームショウ2022。2021年に初登場したバーチャル会場も引き続き「TOKYO GAME SHOW VR 2022(以下、TGSVR2022)」として大幅にパワーアップし、来場者を楽しませた。2021年に続いて開発を手がける制作チームに話を聞いた。

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    Information

    TOKYO GAME SHOW VR 2022 -DANGEON- PLAY MOVIE

    「TOKYO GAME SHOW VR 2022」
    tgsvr.com
    ※既に会期終了しているため、会場へは現在アクセスできません。
    Twitter:@tgsvr_official

    【参加企業一覧】
    出展社一覧(五十音順):
    イマクリエイト / カバー / カプコン / 環境省 / CharacterBank / Gugenka / コーエーテクモゲームス / コジマプロダクション / KONAMI / サビオス / スクウェア・エニックス / セガ/アトラス / ディスクロニア: CA / VARK / バンダイナムコエンターテインメント / ポールトゥウィン / マジック:ザ・ギャザリング / Metaani
    プロモーション協賛社一覧(五十音順):
    ZONe エナジー / BOAT RACE振興会 / UCC
    アパレル協賛社一覧:
    ラルフ ローレン

    「VRならではの展示イベント」に挑戦し続ける

    2020年の新型コロナウィルス流行以降、イベントの実地開催が難しい時期が続いた。そんな状況の代案として、各所でVRを利用したオンラインイベントが誕生した。日本最大のゲームイベントである東京ゲームショウ(以下、TGS)もそのひとつだ。

    TGSは2021年に実地開催をメディア・インフルエンサー向けに絞り、一般向けにはオンラインイベントとしてYouTubeなどの配信を核としつつ、バーチャル会場でイベントを体験できる「TGSVR2021」を初開催。

    TGSVR2021はバーチャル上で現実のイベントをただ互換するものではなく、ビデオゲームの要素を絡めたものに仕上げていた。結果、来場者数はのべ21万人を記録し、再来訪を希望するユーザーが98%以上に達するなど、大きな成功を収めた。

    関連記事:
    のべ来場者数は21万人を突破! TGS史上初のバーチャル開催「TOKYO GAME SHOW VR 2021」

    TOKYO GAME SHOW VR 2021 PLAY MOVIE

    このようにTGSVR2021は「VRによる、VRならではの展示イベント」として誕生し、2022年、さらに進化した「TGSVR2022」を実施。VR展示イベントの開発ノウハウを結集し、よりゲームショウをゲームとして楽しめるVRコンテンツとして進化させた。

    「ダンジョン」がゲームショウをゲームに変える

    「前回のTGSVR2021は大きな反響がありました。次回はパワーアップしたものをやろうというのは早いうちから決まっていました」。ディレクターを務めたambrの番匠カンナ氏は、TGSVR2022の開発がスムーズに決まったことを明かしてくれた。

    今回もTGSの主催であるCESAと、共催する電通がプロジェクトを主導。ambrが設計・制作する体制である。開発チームはambr社内と社外の人間を含め、TGSVR2021に参加したスタッフも多く、過去の開発経験を活かすかたちとなった。

    <上段>左から、CTO 藤田裕介氏、CXO 番匠カンナ氏、サウンドプログラマー 越山智貴氏
    <下段>左から、エフェクトアーティスト 田村翔平氏(以上、ambr)、CGディレクター 徳田哲也氏(スタジオトライディア)、CGプロデューサー 今村理人氏(ディフューズ)

    2度目のTGSVRの開発にあたっては、コンセプトでもある「ゲームショウがゲームになる」をより掘り下げることを目指した。「リアルとバーチャルの併催という状況で、バーチャルがどういう価値をもつかを考えて掲げたコンセプトです」(番匠氏)。

    さらにそこからユーザーのコア体験を設計するにあたって、「ゲームショウがゲームになる」という言葉の定義を追求。

    「ユーザーはオリジナルゲームを求めているわけではないので、やはり出展社のゲームIPコンテンツが揃っていることが重要です。今回はアバターカスタマイズやクエスト機能を強化し、よりゲームとして遊べる感覚を付与することで、ユーザーにとって価値を数倍に高める設計を意図しました」(番匠氏)。

    そこで老若男女誰でもすぐにゲームだとわかる舞台として着想したのが「ダンジョン」だった。

    「ゲームショウがゲームになる」コンセプトを実現するには、企業エリアとダンジョンがそれぞれ独立して並ぶようなかたちではなく、TGSVR2022のワールド全体をダンジョンとして構築する必要があった。ダンジョンの中に企業エリアがあり、ユーザーが冒険しているかのようにブースを訪れる体験を目的にした。

    ダンジョンのコンセプトを掘り下げていくうち、 “ゲームの地層”というキーワードも出てきた。

    「幕張メッセの地下に大穴があって、穴を下っていくとゲームの歴史が地層のようになっている、という設定です。ユーザーはそんなゲーム史の地層を奥まで進んでいくかたちです」(番匠氏)。

    そうしたゲーム史の地層が積み重なったダンジョンを探検するのが、ユーザーのアバターである。アバターシステムはTGSVR2021から引き継がれているが、先述したように今回はカスタマイズの幅を大きく広げている。

    TGSVR2021ではアバターのTシャツのみ変更可能で、TシャツはVR空間内でクエストの達成などを通して様々な種類を集めることができ、ユーザーが全種類コンプリートしたくなるようなしかけになっていた。TGSVR2022では、アイテムを着用できる部位を増加。頭と身体、足のアイテムを変更可能にした。

    • ▲TGSVR2022内でのアバター
    • ▲アバターのカスタマイズ画面

    さらにクエストについても、探索のモチベーションをより高めるため3Dコンテンツを充実させ、「○○を写真に収めよう」といった条件を増やしている。

    • ▲クエスト一覧
    • ▲クエスト達成画面。報酬としてアバターのカスタマイズアイテムなどがもらえる

    ユーザーが迷子にならず探検を楽しめるダンジョン設計

    TGSVR2022のワールド設計は、基本的には前回TGSVR2021の円形構造を踏襲している。

    VR空間ではユーザーが位置や方向の感覚を失いやすいため、円形の構造はVR空間でユーザーを迷わせないようにするには最適な構造でもある。

    ▲上層エリア(後述)の平面図

    しかし今回はコンセプトが「ダンジョン」だ。これはユーザーに単なるVR空間の鑑賞だけではなく、探索させる体験を目指している。すると「ダンジョンは迷いながら探索するものである」ため、「VR空間で迷わせない」構造と矛盾が生じてしまい、両者のバランスを上手くとる必要があった。

    そこで考案したのはダンジョンを上・中・下の3層構造にすることだ。

    「にぎやかで誰でも入れる場所が上層。中層は深みに探検するという動線をつくり、意図的に回り道を用意して下層に向けて長く歩かせるようにし、下層には冒険のゴールとしてインセンティブを得られるように設計しました」と、CGプロデューサーを務めたディフューズの今村理人氏は語る。

    そのため、横に移動して探索する水平方向のデザインに加え、大穴を下っていく縦方向のデザインも合わせ、モックを作りながら検討が進められた。

    ▲制作中のCGモック。中央に柱がそびえ、大穴から縦に連なる地層が覗ける

    上層はユーザーが最初に足を踏み入れるエリアで、第一印象を重視した。3つの特徴ある風景のエリアに様々な企業ブースが並ぶ。

    「上層は砂漠、水晶の洞窟、緑の森というテーマが異なる3エリアに分かれており、ストーリーとバラエティ性があるようにつくっています」(スタジオトライディア CGディレクター・徳田哲也氏)。

    • ▲砂漠をテーマとした上層のデザートエリア
    • ▲CGレイアウト
    • ▲緑の森をテーマとした上層のフォレストエリア
    • ▲CGレイアウト
    • ▲宝石の洞窟をテーマとした上層のクオーツエリア
    • ▲CGレイアウト

    中層から下層にかけては、探検を通してゲームの歴史の深さを感じられるように仕上がっている。

    「上層から中層、下層に向かうにつれ、ハイポリ、ローポリ、ピクセルと徐々に昔のゲーム表現に変わっていくような画づくりを行い、歴史の移り変わりを表現しました」(徳田氏)。

    ▲中層エリア。中央の縦穴から下層の様子を見ることができ、らせん状に下っていく構造になっている
    ▲下層エリア。ドットをイメージしたボクセルでエリアが構成されている

    なかでも見どころなのは、中層から下層にかけて、ゲーム誌「ファミ通」の歴史とともにゲームの歴史をふり返っていくコーナーだ。VR空間にファミ通の30年史の記事が展示され、さらに○×クイズの通路を設けて、正解するとアイテムがもらえるようになっている。

    ▲コーナー入口
    ▲下層に向かう道筋の途中に現れる○×クイズ
    ▲らせん状の道筋に並ぶ「ファミ通」表紙

    また、VR空間を探検するというユーザー体験の上で、空間全体の誘導は非常に重要な部分だが、かなり調整が加えられているようだ。

    実際に、「VR空間は歩いてみないとわからないことが多いんです。例えばブースの入口がアバターの足の陰で隠れていたら、見落としてしまう。『TGSVR2022』では、他の層への行き方がわからなくならないよう、なるべく視線を遮らず、どこからでも入口が見えるように調整しました」と今村氏は語る。

    • ▲「TGSVR2022」エントランスとなるコア空間。奥に3つのエリアへの入口が見える
    • ▲コア空間のCGレイアウト
    ▲中層の離れた位置からでもファミ通コーナーへの入口がしっかり見え、目標を見失わない

    このように企画から空間設計まで、前回の経験をさらに掘り下げてつくられたことがわかる「TGSVR2022」。後編ではCG制作とサウンド、そしてより拡張されたアバターシステムがいかにつくられたかを紹介していく。

    CG・サウンド編はこちらから>>

    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura