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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』Blu-ray&DVD
キングレコードより発売中

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』パッケージ版収録の新作短編映像『EVANGELION:3.0(-46h)』。本作の3DCGはBlenderをメインツールとし、当時カラーの協力の下で開発を進めていたPencil+ 4 Line for Blenderを活用している。

本稿ではPencil+ 4 Line for Blenderのリリースを記念し、カラーデジタル部のスタッフにその開発協力の道のりと、Blenderへの制作環境の移行について聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 299(2023年7月号)からの転載となります。

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    「Pencil+ 4 Line for Blender」 リリース記念! 開発協力・スタジオカラーデジタル部が語る、BlenderとPencil+で広がるアニメ制作の可能性

    新作短編映像の制作で実現したBlenderとPencil+のワークフロー

    『EVANGELION:3.0(-46h)』は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前日譚を描いた鶴巻和哉総監督による短編作品。ソフトリリースに際してファンサービスとして制作された作品だが、スクリーンでイベント上映も行われ、アスカの操縦する正規実用型2号機α 臨時暫定仕様とエヴァンゲリオン インフィニティ(仮称) による大迫力の格闘戦が大好評を博すなど、本編同様のハイクオリティに仕上がっている。

    シン・エヴァンゲリオン劇場版 EVANGELION:3.0+1.11 THRICE UPON A TIME
    新作特典映像:「EVANGELION:3.0(-46h)」、「Re build of EVANGELION:3.0+1.11」、「EVANGELION:3.0(-120min.)」収録
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    カラー デジタル部では従来、CGIパート制作のメインツールに3ds Maxを使用していたが、本作ではBlenderを採用。近年、アニメ・CG業界ではBlenderへの注目度が急速に高まり、研究団体も設立されているが、カラーは早い段階からBlenderに可能性を感じ、2019年の時点でBlender財団に開発資金を提供していた。

    同年にはセル調作品をつくる上で重要な、ライン描写に優れたレンダリングプラグイン「Pencil+」の開発元ピー・ソフトハウス(以下、PSOFT)に対してBlender版の開発を依頼。従来製品と同様の使い心地を目指して改良を重ねつつ、2022年時点の評価版を本作の制作に導入した。カラー デジタル部 部長の川島正規氏は「トライアルとして使用する上で、短編制作は絶好の機会でした」と語る。

    写真左から 髙部 翼氏(リードテクニカルアーティスト)、熊谷春助氏(リードテクニカルアーティスト)、鈴木貴志氏(テクニカルディレクター)、岩里昌則氏(CGIディレクター、アニメーター)、若月薪太郎氏(モデリングディレクター)、松井祐亮氏(CGIアニメーションディレクター) 以上、カラーデジタル部

    また、本作ではYAMATOWORKSが制作協力をしている。従来はメインツールが異なる両社だったが、本作ではBlenderとPencil+でツールを揃え、カラー社内の内製ツールを全て提供することで、よりスムーズな制作体制を組むことができた。

    Pencil+のBlender版の登場によりセルシェーディングの課題が解決した現在、Blenderを共通ツールとした会社間の協力がより行いやすくなっていきそうだ。それでは次項から詳しくみていこう。

    <1>Blender&Pencil+環境の整備

    Blenderでも変わらぬ使用感を目指して

    カラー デジタル部で3ds MaxからBlenderに移行するプロジェクトがスタートしたのは2019年。その際の目標は大きく2つあった。1つはこれまで3ds Maxで制作したアセットをそのままBlenderでも使えるようにすること。もう1つは3ds Maxで使用していたツールをBlenderでも用意して同じ使用感をキープすることだった。

    テクニカルチームでは、まずBlender自体に対する知識を蓄えつつレンダリングの検証を行い、様々なツールの開発に着手。なかでもセル調作品を今後も制作し続ける上でライン描画の問題は避けて通れないものだった。

    様々なBlenderのライン描画機能を試してはみたものの、やはり使い慣れたPencil+がラインの綺麗さや設定項目の多さで最も使いやすいという意見が多く、Blender版のPencil+の開発をPSOFTに依頼することになった。開発は『シン・エヴァ』制作後の2021年9月に本格始動。フィードバックを重ねた約半年後にできたβ版を使用して本作の制作にあたった。

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    制作中もテクニカルチームでは検証を重ねつつ、スムージングやライン合成ヘルパー、シーン色を一括で変えるマテリアルエディタなどの機能をリクエストし、3ds Maxと同様の使用感を目指した。「PSOFTさんが要望にしっかり応えてくださり、UIも3ds Maxと変わらないものが用意されてありがたかったです」(リードテクニカルアーティスト・髙部 翼氏)。

    ほかにも、アセット管理ツール「tag_manager」やボーン編集ツールなどの様々なツールを独自開発している。髙部氏は「Blenderでの開発はPythonを使用しているので参考文献が探しやすく、開発もしやすかったです」と語る。

    次作に向けて現在も開発を進めている最中だというテクニカルチーム。ひとまずここまでの感想を聞くと、「シェーダの開発からレンダリングまでの一連に携わり、素材のつくり方に苦労しつつも上手くまとめることができました」(リードテクニカルアーティスト・熊谷春助氏)、「3ds Maxのときからひき続きアセット管理ツールの制作を担当し、Blenderでも同じ挙動をつくれました」(髙部氏)と、それぞれに手応えを覚えた様子だ。

    Pencil+ 4 Line for Blenderの開発の過程

    Pencil+ 4 Line for Blenderの開発履歴は以下の通り。

    2019年の依頼から約半年にわたり報告を受け質疑応答を行い、『シン・エヴァ』の制作期間は中断するも、2021年9月に再開。以降はα版、β版と改良を重ねている。本作はβ版を使用して制作された。その間もバグフィックスやリクエストは続き、それらは本作完成後に発売された製品版にも活かされた。

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    α版、β版の検証

    Pencil+ 4 Line for Blenderの開発過程で動作検証を行なった際に洗い出された問題点の画像。これらはバグやBlenderの仕様に起因するものが含まれる。また、様々な条件下で3ds MaxとBlenderでレンダリング結果に差が出るかどうかの比較検証も行われた。

    • ▲α版で発生していた問題。ラインをアニメーションレンダリングするとカラー素材とズレが生じていた
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    • ▲同α版。カーブオブジェクトにラインを描画することができない
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    ▲β版で発生していた問題の検証画像。カーブオブジェクトに交差ラインの設定をすると、交差ではないラインが描画されていた
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    ▲同β版。Blenderでは使用していないデータはシーンを開き直すと削除されるが、フェイクユーザーモードにするとシーンを開き直してもデータは残る。ライン描画用のノードツリーはフェイクユーザーになっていなかったため、 シーンデータの再起動時にノードツリーが削除されてしまう。これはBlenderの仕様上の問題で不便なため改善してもらった
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    スムージンググループのライン描画

    Blenderではスムージングの際に角を残すには、「シャープ」と「クリース」の2項目を設定する必要がある。そのため、シャープの設定のみで滑らかなラインが出せるよう、PSOFTに要望を出し実現した。

    • ▲サブディビジョンがかかる前の編集状態。紫色のエッジ(上面と底面)は「シャープ」+「クリース」を使用、水色のエッジ(側面)は「シャープ」のみを使用
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    • ▲【左画像】にサブディビジョンをかけた状態。上面と底面は角が立っているが、側面のラインは角が立っていないのがわかる
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    Pencil+ 4 Bridge

    3ds MaxやMayaなど、他ソフトのPencil+ 4 Lineの設定を受け渡しできる機能。3ds Maxで以前に作成したアセットをBlenderで利用する際に重宝したという。

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    Pencil+ 4 ライン合成ヘルパー

    3ds Maxと同じく、画像のようにエンプティを置いたシーンを別シーンに合成すると、ラインノードツリーも合成される。

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    Pencil+マテリアルエディタ

    PSOFT制作のマテリアルエディタ。Blender内で使用されているトゥーンマテリアルを一覧できる。3ds MaxではPencil+専用マテリアルがあったが、Blenderではカラー社内で独自開発したマテリアルを使用している。

    • ▲ゾーンカラーグループタブ。カラーグループで色の共通化、ゾーン位置グループで影・ハイライト幅の共通化が可能
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    • ▲ゾーン位置グループタブ
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    • ▲3ds Max版のマテリアルエディタ(ゾーンカラーグループタブ)
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    • ▲同ゾーン位置グループタブ
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    • ▲3ds Max版のマテリアルエディタではシーン自体にグループが保存されており、マテリアルが内包されているが、マテリアルを別シーンに合成した際にグループ情報が外れてしまうため、再現するには別途グループ情報の出力と読み込みが必要だった
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    • ▲Blender版では、マテリアル自体にグループ名を記載し、共通の名前ごとにマテリアルエディタでグループとして表示するかたちにすることで、グループ情報からツリー的に所属マテリアルをたどれるように改良
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    オブジェクトツール

    ここからは、テクニカルチームが開発した内製ツールを紹介する。Blenderには3ds Maxと同様にモディファイアー(3ds Maxでは「モディファイヤ」と表記)と呼ばれるオブジェクトの変形機能があるが、3ds Maxではモディファイヤをインスタンス化することで複数オブジェクトに同じ変形を適用できる一方、Blenderにはその機能がない。

    そこで、内製のオブジェクト管理ツールにシーン内の使用モディファイアーをリスト化し表示・適用することができる機能を搭載した。

    ▲オブジェクトリストタブ。上部のタブで、左からオブジェクト・データ・モディファイアー・コレクション・カスタムプロパティ・スケール値・ドライバ・マテリアルの切り替えができる
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    • ▲モディファイアータブ。タイプごとにまとまったリストと、設定が一致しているもので分けられたリストを表示でき、対象モディファイアーのパネル開閉やビューでON/OFFの設定ができる。ここから新規モディファイアーの割り当てができ、標準機能ではサポートされていない複数オブジェクトへの同時割り当ても可能
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    • ▲コレクションタブ。コレクションのリスト表示に加え、標準機能ではサポートされていない「複数コレクション内オブジェクトの同時選択」もできる
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    アセット管理ツール「tag_manager」

    tag_managerは3ds Max用に作成したアセット管理ツールのBlender版だ。アセットのパブリッシュと読み込み、パーツやシーン色の差し替えなどが可能。さらに追加機能としてプロジェクトの選択・アセットのディレクトリ階層が「3階層or4階層」の2パターンでの運用ができる。

    ▲tag_managerのUI
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    ▲3ds Max版のtag_manager(パブリッシャー)
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    ▲同インポーター
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    ▲同アセットマネージャー
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    • ▲Blender版のアセットマネージャーでのアセット表示。画像は標準色
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    • ▲【左画像】のダメージテクスチャを表示したもの。本作では、通常の塗り分けは白黒マップにBlender内で色を割り当てているが、ダメージテクスチャは色付きで使用している
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    • ▲アセットマネージャーでのシーン色切り替えの一例。ツール実験用に作成したシーン色で本編では未使用。特定のマテリアルをラインセットに紐づけているためライン色も変更されている。シーン色については、3ds Maxではマテリアル自体を再割り当てして変更していたが、Blenderでは色指定表から色の数値をテキストで読み出し反映できる機能をPSOFTに依頼し実装された
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    • ▲【左画像】の状態のダメージテクスチャを表示したもの。シーン色切り替えの際にテクスチャも切り替えている
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    ボーンツール

    Blenderでは、ボーン(アーマチュア)の追加・単体のプロパティ編集は編集モード、コンストレイントなどリギングに必要なものを乗せるにはポーズモードと作業に応じてモードを切り替えなければならない。その不便を解消するため、ポーズモード中でもある程度編集モードと同じ挙動を行えるように開発されたのがこのボーンツールだ。

    • ▲ボーン編集ツール。上部のタブで、ボーン名一覧・回転モード・スケールモード・ロックモード・コンストレイント・カスタムプロパティ・ドライバ・ボーングループ・カスタムシェイプのリスト切り替えできる。共通パネルとして、ボーンレイヤーの表示/非表示・親子ツールや各種設定の編集などが組み込まれている
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    • ▲ボーングループタブ。ボーングループの色を確認できる対象骨リストで、選択している骨をグループへ割り当てることができる
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    選択セット

    3ds Maxの標準機能「選択セット」を踏襲したツールで、オブジェクトもしくはアーマチュア内の骨の登録が可能。追加機能として選択時のマニピュレータモードの指定とセットの外部保存を組み込んでいる。

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    アクションコピー機能

    Blenderでシーンをまたいでアクションを流用するにはアクションのアペンドを利用できるが、ポーズの書き出しやアクションの結合を行うことが困難だった。そこでアペンドによるアクション合成ではなく、キー情報のテキストベースでの書き出しと読み込みを実装することにより、部分的なアクションの合成や既存アクションへのキーのマージを可能にした。

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    レンダーアセット機能

    基本機能ではレンダリング可能な全てのビューレイヤーをレンダリングするが、この機能を使えばビューレイヤーごとにレンダラやマテリアル出力の切り替えを行いつつレンダリングできる。

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    <2>新作短編映像『EVANGELION:3.0(-46h)』

    カラーのノウハウと新たな制作環境の融合が生み出したハイクオリティ

    カラーにとってBlenderでの制作は初めての試みとなったが、CGIアニメーションディレクターの松井祐亮氏は「いつも通りの指示をして、いつも通りチェックできたので、ストレスはまったくありませんでした」とふり返る。

    本作に登場するエヴァ正規実用型2号機α 臨時暫定仕様とエヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)はどちらも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ制作時に3ds Maxで作成したモデルをベースとしている。

    それをBlenderにコンバートし、グリースペンシルやコンポジットノードなど、Blender特有の機能も活用しつつ本作のデザインに合わせてモデリングしていった。Blenderにはリアルタイムプレビュー機能があり、出力結果を見ながらどんどん作業ができるのが強みだ。

    「Blenderに足りない機能もまだたくさんありますが、もし、今から同時にBlenderと3ds Maxを使ってモデリングするとしたら、前者の方が早くできると思います」と、CGIモデリングディレクターの若月薪太郎氏は話す。

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    アニメーション作業で制作協力を依頼したYAMATOWORKSには先行してテスト用のモデルデータを渡し、BlenderとPencil+を習得する期間を設けた。当初は従来使用していたLightWave 3Dと操作感が異なることで、従来通りのスピード感で制作を進めるのが難しかったという。

    こうした課題は3ds Maxを使ってきたカラーの中にもあったそうだが、両社とも慣れていくにしたがってスムーズに使えるようになり、スケジュールに支障が出ることもなかったとのこと。

    『シン・エヴァ』ではアニメーションまで作成した上で、何十パターンものアングルを出してから、最適な見せ方を選ぶという実写的でリッチな手法を採っていたが、本作では鶴巻総監督が描いた絵コンテを基に作業する一般的なアニメのつくり方に則っている。

    だが、カットによっては『シン・エヴァ』と同様に複数アングルを提示することもあり、これまで培ったカラー デジタル部のノウハウが存分に活かされたリアリティある表現が生み出された。これはYAMATOWORKSにも一部が伝承され、格闘シーンでは絵コンテになかったアップのカットがいくつかインサートされており、バトルの迫力に華を添えている。

    前田氏と山下氏の合わせ技でできたモデル

    • ▲正規実用型2号機α臨時暫定仕様のモデル。従来のエヴァにはない細かい色分けは、モデリング作業の終盤に追加が決まったもの。形状のデザインは本作で絵コンテ案・イメージボードを担当した前田真宏氏、カラーリング案は山下いくと氏(主・メカニックデザイン)
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    • ▲エヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)。セル塗りされた【外装表面】と、その【骨】を別々にレンダリングした上で撮影上で合成している。これは『シン・エヴァ』時に作画素材に対して加えていたのと同じ撮影処理を利用するためだが、Blender標準のレンダーレイヤーを用いた方法ではなく、内製のレンダリングツールを用いて素材分けを行なった
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    • ▲外装表面
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    • ▲骨
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    Blender機能の活用

    正規実用型2号機αの頭部に巻かれている包帯は本作特有のデザイン。3ds Maxからコンバートしたベースモデルに対して、グリースペンシルでデザインのアタリを付け、それをガイドとしてモデリングしていった。Blenderの特徴としてシェーディングの結果をリアルタイムにプレビュー可能で、ラインのみの状態もすぐに確認することができるため、効率的に作業を進められたという。

    • ▲グリースペンシルを使用し(茶色の線)、包帯のデザインを修正している様子
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    • ▲ビューポートレンダリング機能を使用し、背景色をONにしアウトラインのみを表示した状態。このまま作業を続行することが可能
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    • ▲アウトラインOFFの状態
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    • ▲アウトラインONの状態
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    山下氏の色分けが活きたレンダリング素材

    正規実用型2号機αのレンダリング素材。3Dセル素材は、ノーマル色、1号影、2号影、ハイライトの4つのカラーゾーンごとに全身をその色で塗りつぶしたカラー素材、テクスチャによって色分けしている部分のマップ素材、マスク素材の3つずつを出力。これらを組み合わせることで、AE上のマスクワークで影やハイライトの形状を制御できるようにしている。

    ノーマル色素材

    • ▲カラー
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    • ▲マップ
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    1号影素材

    • ▲カラー
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    • ▲マップ
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    • ▲マスク
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    2号影素材

    • ▲カラー
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    • ▲マップ
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    • ▲マスク
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    ハイライト素材

    • ▲カラー
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    • ▲マップ
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    • ▲マスク
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    そのほかPencil+で出力したライン素材、落ち影用の素材に加え、撮影処理用の追加素材としてハイトマップ、目の透過光用のマスク素材、ケガレ表現のエフェクトをAE上で貼り込むためのUVマップ素材が使用された。

    従来のエヴァのモデルにおいて、色分けは原則としてポリゴンごとに行なっていたが、本作では、それを行うとエッジが増えすぎてリグ入れにも支障が出ると判断し、色分けはテクスチャを貼ることで対応した。その手法も当初本作では使用予定がなかったため、テクニカル班と相談しながら構築。

    若月氏は、「完成映像を見ると、今までの『エヴァ』と比べて太ももや手に寄った画面が多く、そうしたときに細かい色分けがされているとより巨大感や存在感が強く表れるので、山下さんのデザイン力を映像のなかで改めて感じました」と語る。テクスチャによる“汚し”は鶴巻和哉総監督も気に入っているという。なお、レンダラは落ち影のみCycles、それ以外は全てEeveeを使用している。

    • ▲落ち影
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    • ▲ライン
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    • ▲ハイトマップ
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    • ▲透過光マスク
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    • ▲UVマップ
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    ダメージテクスチャ素材
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    プロジェクトスタジオQ 謹製のリグ

    リグについては、Blenderの機能や市販リギングツールなどを試してみたところ、カラーでの従来の使い勝手を満たすものではなかったので、プロジェクトスタジオQに独自のリグ制作を依頼。キャラクター固有の曲げ伸ばしや誇張表現に対応したリグを入れることが可能になった。

    • ▲正規実用型2号機α臨時暫定仕様
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    • ▲エヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)
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    迫力のアクションカット

    正規実用型2号機α 臨時暫定仕様とエヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)の格闘シーン。『シン・エヴァ』でも見られなかった巨体同士のぶつかり合いを画面いっぱいに映し出す。「何かが迫ってきたり落ちてきそうになる“巨大感”を出すためにカメラのアングルや振り方を試行錯誤しました」(松井氏)。

    ▲絵コンテ
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    CG素材
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    以下、ライン表示。巨大感の演出に、ラインの強弱が大きな役割を果たしている。画面の手前は力強さを見せるために太く、奥の方は黒潰れしないように細く見せる必要がある。3ds Maxではレンダリング時に行なってきたこの調整作業を、BlenderではPencil+のラインノードの減衰設定機能で行なっている。カメラからの距離に応じた減衰や、線のストロークの入り抜きなど複数の設定があるが、本作では距離に応じた減衰のみを使用。アニメーション時にもチラつきが生じることなく安定していたという。

    本作はカラーグレーディングと音響調整を施した上で2週間限定で映画『シン・仮面ライダー』と同時上映された。これは同作の配給側からの提案だったが、それにGOサインが出たのは、本作を監修した庵野秀明氏がこうしたスクリーン映えする画面を評価したからこそのことだ。

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    着地モーション

    大きく跳躍する正規実用型2号機αに対して、カメラは追いかけるかのように高速で背後から胴体に沿って大きく映し出し、たちまち追い抜いて前方上空から着地体勢を捉える。極めて実写的で3Dカメラワークならではのカットだ。

    姿勢制御についてはモーションキャプチャは撮っていないが、アクターが腕を後ろに回して演技した動画を参考にアニメーションを付けている。片腕の状態で重心やバランスをとる動作を試行錯誤したとのこと。

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    正規実用型2号機αが着地した瞬間、カメラも上下に揺れ衝撃をリアルに感じさせる、鶴巻総監督こだわりのカット。片腕しかないボディの姿勢制御やバランスをとる仕草のアニメーションにもこだわり、迫力と実写的リアリティを両立した。

    またYAMATOWORKSのモデリングチームは設定画からこの崖を含む舞台全体を制作し、レイアウト用のデータとして活用した。短編作品で舞台が限られていることを利用した、緻密な制作スタイルが作品のリアリティを生んだと言える。

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    巨大感を感じさせるカメラワーク

    子供時代の北上ミドリがエヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)を見上げるショット。レイアウトやカメラワーク、ゆっくりと動くアニメーションによって、小さな子供から見た巨大な物体の恐ろしさや不気味さを表現している。

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    Blender以外を使用したカット

    赤いコアが徐々に地球を覆っていく様子を表したカット。ここでは例外的に3ds Maxのパーティクル機能が使われている。

    このほか、エヴァンゲリオン インフィニティ(仮称)が大量に地面から出てくるシーンでは、YAMATOWORKSがHoudiniを使用してパーティクルとしてそれを飛び上がらせている。Blenderの操作感は3ds Maxにかなり近づいているとはいえ、表現内容によっては現状ではまだ整っていない機能もあり、今後の改善が期待される。

    ▲3ds Maxでの作業画面
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    ▲仮コンポジット画面
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    ▲完成画面
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    Information

    PSOFT Pencil+ 4 Line for Blender

    OS:Windows 10、11
    ホストアプリケーション:Blender 3.0 以降
    必須のソフトウェア:Pencil+ 4 Render App
    www.psoft.co.jp/jp/product/pencil/blender

    PSOFT Pencil+ 4 Render App

    対応製品:Pencil+ 4 Line for Blender
    価格:63,800円(スタンドアロンライセンス)、95,700円(ネットワークライセンス)
    www.psoft.co.jp/jp/product/pencil/renderapp/

    CGWORLD 2023年7月号 vol.299

    特集:『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年6月9日
    価格:1,540 円(税込)

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_日詰明嘉 / Akioyshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada