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2023年4月18日(火)、「PSOFT Pencil+ 4 Line for Blender」のリリースを記念したテクニカルトーク番組が、株式会社カラー公式YouTubeにて同日、配信された。

登場したのはスタジオカラー・デジタル部から、鈴木貴志氏(テクニカルディレクター)、岩里昌則氏(CGIディレクター、アニメーター)、若月薪太郎氏(モデリングディレクター)。司会はディレクターの鬼塚大輔氏が務め、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』パッケージ版収録の特典映像『EVANGELION:3.0(-46h)』の制作事例とともに、待望のBlender版Pencil+ 4の機能や実際の使用感を解説した。

記事の目次

    Information

    【Pencil+ 4 Line for Blender】配布開始記念!スタジオカラーデジタル部テクニカルトーク

    シン・エヴァンゲリオン劇場版 EVANGELION:3.0+1.11 THRICE UPON A TIME

    新作特典映像:「EVANGELION:3.0(-46h)」、「Rebuild of EVANGELION:3.0+1.11」、「EVANGELION:3.0(-120min.)」収録
    【初回限定版】(Blu-ray+4K Ultra HD Blu-ray):10,780円
    【通常版】(Blu-ray/DVD):8,580円
    www.evangelion.co.jp/final_bd_dvd.html
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    スタジオカラーのBlender移行への道のり

    3Dオブジェクトに手描きのようなラインを描画する「PSOFT Pencil+ 4 Line for Blender」は、同日発売の「PSOFT Pencil+ 4 Render App」と併用することで、Blender上で多機能なライン描画を実現できるアドオンだ。

    PSOFT Pencil+ 4 Line for Blender | 機能紹介

    スタジオカラーはアニメ制作スタジオとしていち早くBlenderへの移行を進めており、2019年2月にはBlender版のPencil+開発調査を開発元ピー・ソフトハウスに依頼。約半年にわたり報告を受け質疑応答を行なった。なお、この間の2019年7月にはBlender財団に開発資金を提供することを発表している。

    その後『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァ』)本編の制作が始まったことで、開発はいったん中断したものの、2021年9月に正式に開発を依頼し、1年ほどかけてアルファ版、ベータ版と改良を重ね、2023年4月にリリースに至った。

    そして『シン・エヴァ』のパッケージ版に収録されている新作短篇映像『EVANGELION:3.0(-46h)』は、BlenderとPencil+ 4 Line for Blender(β版)を使用して制作されている。

    4月末に公開された『EVANGELION :3.0 (-46h) 』のメイキング映像

    まず過去データのコンバートについて若月氏が解説。

    スタジオカラー デジタル部では従来3ds Maxを使用しており、『シン・エヴァ』本編も3ds Maxで制作された。本編制作が完了し、『EVANGELION:3.0(-46h)』をBlenderで制作するにあたっては、過去のアセットをコンバートする必要があった。

    その際に使用したのが、Pencil+ 4 Lineの拡張アドオン「Pencil+ 4 Bridge for Blender」だ。これはBlenderと3ds Max、Maya、Unityの間でPencil+ 4 Lineの設定を受け渡しできるもの。

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    若月氏は、作中に登場する戦艦ミズーリ、空中戦艦ヴンダーを例に、3ds Maxで制作したモデル、3ds Maxのライン設定をPencil+ 4 Bridgeを使用してBlenderに移行したモデル、Blenderの初期設定でラインをレンダリングしたモデルの3つを示しながら解説。

    Blenderの初期設定モデルでラインに黒ずみがみられる以外は見分けがつかないほどで、3ds MaxからほぼそのままBlenderにコンバートすることができることがわかる。

    「マテリアルをもっていく手順としては、まず単純にFBX形式でモデルデータを書き出し、それをBlenderでインポートします。並行して3ds MaxからBridgeの機能を使ってJSON形式でラインの設定情報を書き出し、Blenderにインポートします」と、若月氏。コンバートに要した時間は10分程度だという。

    「ヴンダーは非常にマテリアルの数が多く、手作業でラインの設定を移植するのは、ほぼ不可能でした。Bridgeの機能は非常に助かりました」(若月氏)。マテリアル自体はカラーデジタル部内製のシェーダを使用。「Pencil+ 4 Line for Blender」にトゥーンシェーダは付属しないので注意が必要だ。

    ▲3ds Maxでレンダリングしたヴンダー
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    ▲Pencil+ 4 Bridge for Blenderでラインの設定を3ds Maxから移植し、コンバートしたもの
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    ▲ラインの設定を3ds Maxから移植せず、Blenderの初期設定でレンダリングしたもの。上記の2枚と比較して、脊椎などのラインに黒ずみがみられる
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    Blenderでのモデル作成」についてもエヴァ正規実用型2号機α 臨時暫定仕様を題材に若月氏が解説した。まずは本編の3ds Maxデータを先の手順でBlenderにコンバートし、新たな形状の部分をBlenderで追加作成した。

    ▲腹部の包帯の配置は、BlenderのGrease Pencilでアタリを取ってモデリングした。「3ds Maxのポリゴン編集モディファイヤがBlenderにはないので、柔軟性の面では難しかったところがあります」(若月氏)
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    Blenderは元々、リアルタイム表示が優れている特性があり、Pencil+にもリアルタイムでラインの出力結果をプレビュー上に表示できる機能が備わっている。Eeveeでのレンダリング画像と遜色ない出力結果をリアルタイムで確認することができるため、モデリング中も、レンダリング結果に近い見た目の状態で作業することができたという。

    ラインの調整もビューポート上で確認できて時間短縮に

    続いて、『EVANGELION:3.0(-46h)』での正規実用型2号機α 臨時暫定仕様とエヴァンゲリオンインフィニティ(仮称)とのバトル映像をアウトライン状態(影アリ)で見せつつ、岩里氏がショットについての解説を行なった。

    CGIディレクターとして最終チェックを行なったという岩里氏は、従来から3ds MaxでのPencil+に信頼を置いていたそうだが、Blender版でも「困ったことや調整を必要としたことはほとんどなく、同じクオリティラインを保てました」と驚きを隠さない。

    正規実用型2号機αの網目の部分などの細かいディテールもストレスを感じることなくレンダリングができたという。

    ▲正規実用型2号機αとエヴァンゲリオンインフィニティ(仮称)のバトルシーンのライン表示。エヴァンゲリオンインフィニティ(仮称)は骨と腱、外装を別レンダリングした上で半透明処理を撮影で入れている。Blender上でもVewLayer機能(レンダーレイヤー)とコンポジットノードを駆使すれば似たような表現は可能だと推測される
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    なお、Blenderにスイッチした感想を尋ねられた岩里氏は「慣れるまでが大変」と前置きしつつも、ViewLayerごとにレンダリングの有効/無効を設定しておき、コンポジットノードを組めば一度にまとめてレンダリングができるのが便利だと述べた。

    リアルタイム描画・ラインの減衰」についても解説を行なった。『シン・エヴァ』のときも、カメラからの距離によって線の太さを変え、奥に行くに従って細くすることで線に立体感を出す処理を3ds Max上で行なっていたが、それがBlenderでも可能だったという報告だ。

    Pencil+のラインノードの減衰設定項目で調整ができ、3ds Maxと同様に運用が可能。さらにBlenderの特性として、ビューポート上で結果を確認しつつ調整できることを挙げた。従来のレンダリングをしてからの確認と比べ、大幅に時間が短縮できるだけでなく、設定ミスを減らすこともできる機能だと、岩里氏・鬼塚氏は太鼓判を押す。

    Blenderはラインの設定がノードで管理されている。減衰設定を行うと、「減衰設定ノード」が追加され、他のラインセットに対して同じ設定を割り当てたいときにはノードを共有し、繋げるだけで共有できる。ひと目でわかるので、カットごとにアニメーターが線の設定を調整するときに便利だという。

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    3ds Maxでの使い勝手をBlender上で再現する内製ツールを多数開発

    最後のテーマではテクニカルディレクターの鈴木氏が、「3ds MaxからBlenderへの移行」をテーマに話を進めた。

    当初は『シン・エヴァ』のときに3ds Maxで使っていた設定やツールをBlenderで再現するところからスタートし、本作用にカスタマイズしていったという。鈴木氏は「本編制作というよりは下準備がいろいろ大変でした」と話す。

    現在、Blenderに必要な要素を尋ねられた若月氏は「3ds Maxにある機能や、内製で開発していた便利ツールが揃っていない状態ではあるので、その点で効率が悪い部分もあるにはありますが、実質Blenderに移行して1年ほど経って、総合的には、モデル作業をする上では今はBlenderの方が楽です」、「内製ツールも充実してきているので、時間が解決してくれるような気がします」と話す。

    鈴木氏はテクニカル側から「Blender財団がサポートしてくれる体制が整っているので、だいぶ助かっているところはあります」と、会社ぐるみでの体制が現場のサポートになっていることを話した。

    若月氏は「3ds MaxにあってBlenderにないモディファイアーもありますが、そういう部分もジオメトリノードの機能を使って再現したり、研究すればできたりするので、それでフォローできるとこもありますし、より柔軟にできる部分もあり、最近はだんだんと把握できていますので、便利に感じています」と将来性に魅力を感じている様子だ。

    協力会社にも内製ツールを全て提供し、ノウハウを蓄積していきたい

    最後は、視聴者からの質問に答える時間が用意された。

    今後、撮影もBlenderで行うかどうかについての質問に対しては、「Blender上でコンポジットノードを使ってできることが増えているので、Blender上で合成したりマスクを切ったりした素材を画像で出力して、After Effects上でやることが減らせている」と回答。

    有償で使用しているアドオンについては、リグ選択ツール「X-Pose Picker」、アニメーションツールセット「Animbox」を挙げた。

    ▲写真左から 鬼塚氏、若月氏、岩里氏、鈴木氏

    コスト面の質問については鬼塚氏が「価格的なメリットは非常にある」と答えた上で、現在は3ds Maxの1工程に対して、Blenderはその110~120%の時間的なコストという状況で、さらに近づけつつあると話す。

    社内ツールの管理も途中でありまだ慣れていない部分もあるが、それを差し引いてもコスト上のメリットがありそうだと考え、移行しているという説明を行なった。

    鬼塚氏は最後に、「業界的にBlenderに移行していきそうな流れかどうか?」という質問に答えた。

    「興味をもたれている会社さんは多いかなという印象ですね。他社とのやり取りについては、幸い弊社が企画を発案する会社ではあるので、『この仕様で』とお願いがしやすく、『Blenderで一緒にやりませんか』とお声がけをすると、対応してくださる会社さんが多いです」と話す。

    その際に、スタジオカラーでは社内で開発しているツールなどを全て提供した上で手伝ってもらうため、案件が終わったあとにはBlenderのノウハウが協力会社側にも貯まるかたちになるというメリットを挙げた。

    「Blenderのノウハウを一緒に貯めてもらえたらというスタンスでやっており、やっぱり皆さん(Blenderを)覚えたい思いがあるので、積極的にお手伝いいただけているという感じです。ぜひ(Pencil+ 4 Line for Blenderを)ご購入いただいて、一緒にお仕事できる会社が増えるといいなと思っています」と、締めくくった。

    製品情報

    PSOFT Pencil+ 4 Line for Blender

    OS:Windows 10、11
    ホストアプリケーション:Blender 3.0 以降
    CPU:x64 ベース プロセッサ
    必須のソフトウェア:Pencil+ 4 Render App
    ライセンス:Pencil+ 4 Line for Blender は、GNU General Public License に基づいてライセンスされた、自由でオープンソースなソフトウェアです。ライン描画を実行するためには、Pencil+ 4 Render App が必要です。
    www.psoft.co.jp/jp/product/pencil/blender/

    PSOFT Pencil+ 4 Render App

    対応製品:Pencil+ 4 Line for Blender
    OS:Windows 10、11
    CPU:x64 ベース プロセッサ
    価格:63,800円(スタンドアロンライセンス)、95,700円(ネットワークライセンス)
    www.psoft.co.jp/jp/product/pencil/renderapp/

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura