こんにちは。CGWORLD編集長でCGアニメーター&レイアウトアーティストの若杉 遼です!
東映アニメーションさんの『プリキュア』シリーズは、カナダのアニメーションスタジオのアーティストにも知られており、その作品制作にも影響を与えていると実感しています。本記事では、シリーズ20周年記念作品である『ひろがるスカイ!プリキュア』の後期エンディング(以下、ED)の物語を、前後編に分けてお届けします。
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
CGWORLD編集長/CGアニメーター、レイアウトアーティスト
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シリーズ20周年記念作品『ひろがるスカイ!プリキュア』後期エンディング制作の物語
INFORMATION
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『ひろがるスカイ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送された東映アニメーション制作のTVアニメで、『プリキュア』シリーズ通算20作目、20周年記念作品だ。前期・後期EDは山元隼一監督(アニメーション監督&アニメーション作家)が絵コンテ&演出、東映アニメーションが監修&キャラクターモデリング、コラットがアニメーション制作を担っている。
放送時期:2023年2月5日〜2024年1月28日
www.toei-anim.co.jp/tv/precure
©ABC-A・東映アニメーション
INTERVIEWEE
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絵コンテ&演出・山元隼一さん(FALCON-ONE) -
左から、CGプロデューサー・野島淳志さん、CGディレクター・高橋友彦さん、プロダクションマネージャー・岩田敦貴さん(以上、東映アニメーション)
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20周年記念作品の裏テーマを具現化した演出
若杉 遼(以下、若杉):後期EDには、勉強机やコスメショップの棚の上でプリキュアたちが踊るカットがありましたよね。ミニチュア感を意識した撮り方が面白いなと思いました。
野島淳志さん(以下、野島):『ひろがるスカイ!プリキュア』(以下、『ひろプリ』)のモチーフである「空」に加え、Pretty Holic(作中のコスメショップ)のコスメや文房具、スカイミラージュ(変身アイテム)やミラーパッドなどを盛り込んでほしいというオーダーを、最初に本作のプロデューサーからお伝えしました。加えてシリーズ20周年を記念して、歴代『プリキュア』のエンブレムも入れてほしいとお願いしたんです。そこから逆算して、演出を考えていただいたという経緯がありました。
山元隼一監督(以下、山元監督):「ミラーパッドの鏡面に、変身バンク映像をながしたい」というお話が最初期からあって、「プリキュアたちを机の上に乗るサイズまで小さくすれば、全身の振付も一緒に映せる」と思ったんです。そのカットを起点にして、ほかのカットの演出を決めました。本編とはちがったキャラクターと背景の見せ方ができたので、非日常感を出せたと思います。例えばキュアプリズムが自分の勉強机の上で踊る後期EDのカット12では、背景のミラーに『ふたりはプリキュア』、ペン立てに『ふたりはプリキュア Splash Star』のエンブレムを描き込んであります。それに気づいた昔からのファンの方が懐かしがってくれたり、家族やファン同士で会話がはずんだりすれば良いなと思ってつくりました。
野島:後半のカット20から、ラストカットにかけて登場するステージでは、中央に『ひろプリ』のエンブレムを描き、その外周を歴代『プリキュア』のエンブレムでグルッと囲んでいただきました。このステージはコラットさんが3Dで制作しています。
山元太陽さん(以下、山元):ステージのモデルは前期・後期EDで共通ですが、演出やライティングはガラッと変えているので、まったくちがう印象になっていると思います。
山元監督:特に後期EDは、すごく幻想的でキラキラした画に仕上げていただきました。『ひろプリ』の5人のプリキュアを象徴する5色の紙飛行機が空中に虹の滑走路を描いた後、ステージ外周のエンブレムから虹色のレーザーライトが照射され、最後に中央にある『ひろプリ』のエンブレムが発光し、虹色のパーティクルが空に昇っていくんです。歴代『プリキュア』のエネルギーが結集し、次の『プリキュア』へとつながる虹のアーチになるという思いを込めて演出しました。
若杉:「20年続いてきたバトンを次につなぐ」という裏テーマを具現化する演出ですね。
山元監督:子どもに対して大人が伝えたいテーマや哲学をしっかり描くアニメは、文化として続けていく必要があると思っています。少子化で子ども向けアニメの制作本数も減っている中で、『プリキュア』が果たす役割はすごく大きいと感じています。
ステージに設定された、カット20〜24のレーザーライトのリグ
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幻想的なレーザーライト演出のためのレンダリング素材
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Houdiniによるカット24〜35の虹エフェクトと、効率化のための工夫
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カットの環境色を反映した色や、専用のデュオトーンを使用
若杉:ステージは3Dとのことですが、空は2Dの美術ですか?
山元監督:そうです。美術が上がってきたら、コラットさんが逐次最新のシーンデータに追加してくれたので助かりました。
若杉:やっぱり美術も、演出やレイアウトに影響しますよね?
山元監督:はい。キャラクターの収まり具合が変わります。視線誘導にも影響するので、例えば「ここの雲を減らしていただけますか?」と美術さんに依頼して、視聴者の視線をキャラクターの顔へ誘導する調整をしたりしています。逆にコラットさんにお願いして、キャラクターの収まり方を変える場合もありました。
若杉:後期EDは、夕方から夜、夜から夜明けへとカットの色味が刻々と変わりますよね。各カットのキャラクターの色は、どのタイミングで決めたのでしょうか?
山下潤一さん(以下、山下):各カットのフィルムイメージを参照しながら仮の美術を制作し、その色味に合わせてNukeでキャラクターのベースコンポを組んで提案しました。本番用の美術が上がってきたら、それに合わせた再調整もしています。ステージは空以外は3Dだったので、先行して色を決めるフローにしましたね。キャラクターの基本色は本編の色彩設定さんが決めていますが、後期EDでは基本色を使っておらず、全て環境色を反映した色になっています。前期EDも、基本色を使ったのは一部のカットだけですね。
井上雄介さん:前期EDはベースコンポを組むタイミングが若干遅かったので、後期はレイアウトが終わった直後に着手しました。並行して野沢にはプライマリを始めてもらい、同時進行できるものはドンドン動かすようにしました。
Nukeのノード整理による効率化とカット1〜5のベースコンポ
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新美遥香さん:後期EDのカット16とカット17の絵コンテやフィルムイメージには、「アブノーマル色」「デュオトーン」と書かれていて、最初は「どうしよう。どうやってつくれば良いんだろう?」と思っていました(笑)
山元監督:キュアスカイとキュアプリズムを、青とピンクのデュオトーンで可愛くロマンチックに表現したかったんです。コラットさんとけっこうやり取りを重ねて色を決めていきました。
若杉:アニメのコンポジットでNukeを使うのは珍しいですよね?
山下:そうだと思います。当社ではクライアントさんからの指定がなければ、コンポジットではNukeを使います。ただし1割程度の割合で、素材制作にAfter Effects(以下、AE)も使いました。美術に馴染むコースティクスやレンズフレア、ゴーストの素材は、AEの方がつくりやすかったです。タイムラインをいじりたいときにもAEを使いました。
野島:当社でもNukeを使うケースはたまにありますが、アニメの撮影はAEを使う会社さんが多く、『プリキュア』シリーズでも基本的にはAEを使ってきました。ただ今回は「映像データを納品していただければ良いので、コラットさんが一番やりやすいツールを使ってください」とお願いしました。
山元:リギングとアニメーションではMotion BuilderとMaya、エフェクトではHoudini、レンダリングではArnold、ラインの描画ではPencil+ 4 for Mayaを使いました。
和田勝裕さん:プライマリまではMotionBuilderを使い、そのモーションをMayaに移行させた後に、セカンダリ、シミュレーション、フェイシャルを行なっています。フェイシャルはボーンとブレンドシェイプの併用で、輪郭の調整にはSoftModを使いました。これらのしくみは、東アニさんからご提供いただいた、過去の『プリキュア』シリーズのデータを参考にしています。同レベルのセットアップを実現すれば、同じクオリティのアニメーションもつくれるだろうと思いました。
カット6〜11のビー玉ライトによるコースティクスの試行錯誤
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ライン素材の工夫と、レンダリング用のツール開発
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野沢正人さん(以下、野沢):本作はレイアウトからプライマリまでを全カット私が担当し、以降はカット担当者に割り振る体制にしています。ただ、後期EDでは揺れものなどのセカンダリのベースと、口パクや目パチなどのフェイシャルのベースだけ、先行して全カット同じ担当者に付けてもらったので、統一感をとりやすく、効率化も図れました。
若杉:キュアウィングは男子、キュアバタフライは18歳の成人女性という設定ですよね。特別に配慮したことはありますか?
野沢:キュアウィングもモーションキャプチャのダンサーは女性だったので、がに股気味にして、肘の角度も調整しました。キュアバタフライは、お姉さんっぽくなるように、特に表情での差別化を図っています。
山元:初回放送時からキュアウィングの動きのちがいに気づいた視聴者もいて、「ひょっとして男子では?」とX(旧・Twitter)に投稿していたんです。よく見ているなとビックリしたのと同時に、『プリキュア』ファンの熱量の高さを肌身で感じました。
キュアウィングの男子ならではの調整
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「明日は良いことがある」という夢を令和の視聴者に届ける
若杉:プロジェクトの総括や、今後の抱負をお聞かせください。
野島:当社からCGスタジオさんにご依頼するとキャラクターの影色が黒くなりがちなので、「必ず色を入れてください」とお願いしているのですが、井上さんや山下さんは当社の作品に何度も参加しているので、まったく心配する必要がありませんでした。アニメーションに関しては、表情の可愛さはもちろんですが、目線も重要視していました。『プリキュア』シリーズはイベントでのキャラクターショーも展開しているので、目の大きいキャラクターがどこを見ているのかわからないと、子どもには人形のように見えてしまうのです。だから前期EDでは、目線の調整をご依頼することが多かったです。その経験をふまえて、後期はほぼ完璧な映像を最初からバッチリ仕上げてくださったので、20周年記念にふさわしいEDになりました。山元監督にも、コラットさんにも感謝しています。
山元:最初にも言いましたが、山元監督との仕事はすごくやりやすかったので、ぜひまたご一緒させていただきたいです!
山元監督:僕もコラットさんとの仕事は、とてもやりやすかったです。それから、東アニさんの20年にわたる『プリキュア』シリーズの系譜の中で、自分の演出スタイルも織り込んだ作品をつくれたことに心から感謝しています。今後も作り手の顔が見える作品をつくっていきたいと思いました。僕自身、アニメーションが好きでこの仕事を続けてきたので、「明日は良いことがある」という夢が膨らむ作品を、令和の時代の視聴者に届く描き方で表現していきたいです。
INFORMATION
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月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.303(2023年11月号)
特集:漫画×3DCGの現在地
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年10月10日
INTERVIEWER_若杉 遼/Ryo Wakasugi(CGWORLD)
TEXT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
EDIT_李 承眞/Seungjin Lee(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota、島田健次/Kenji Shimada