数々のハリウッド映画に携わるビジュアルデベロップデザイナー・伊藤頼子氏が主催するペインティング・ブートキャンプ『LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回』が、4月6・7日(土・日)に広島県・鞆の浦で、4月12~14日(金~日)に 島根県・津和野(つわの)で開催される。第1回開催から好評を博した本ワークショップ。今回はゲスト講師に米国アニメーション業界の巨匠ネイサン・フォークス氏を迎え、「感情の入れ方と伝え方」を学びつつ美しい日本の原風景を描く(オンラインでのライブ受講も可能)。

今回、来日を控えたネイサン・フォークス氏にインタビューし、アートの世界に入るきっかけや絵画との向き合い方、ネイサン氏が実践する練習方法を伺った。ゆっくりと穏やかに話すネイサン氏の、真摯かつ人間味あふれるたたずまいが伝われば幸いだ。そして願わくば、本ワークショップでネイサン氏と直接コミュニケーションをとってみてほしい。きっと世界がさらに優しく美しく、楽しいものに見えるはずだ。

記事の目次
    【オンライン配信】『LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回~広島県・鞆の浦~』詳細はこちら 【オンライン配信】『LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回~島根県・津和野~』詳細はこちら

    ネイサン・フォークス 氏

    ネイサン・フォークスは、アニメーション業界で活躍するベテランアーティストです。「プリンス・オブ・エジプト」「きれいな涙 スピリット」、シュレックシリーズの各種プロジェクト、「ヒックとドラゴン」「長ぐつをはいたネコ」「ブルー2 トロピカル・アドベンチャー」「フェルディナンド」、パラマウント・アニメーションの「みんなあつまれ!ワンダーパーク」など、12本の長編映画に参加しています。

    さらに、シネマティックの品質を向上するために、ゲームスタジオのコンサルタントとしても活躍しています。ブリザード・エンターテイメント、キング、ディズニー・インタラクティブ、ライアットゲームズ、 ユービーアイソフト、Rovio、Supercell、その他多くのスタジオと仕事をしています。

    またネイサンは、色、光、デザインを教える指導者としても知られています。アートセンター・カレッジ・オブ・デザインにて正規客員講師として教えていました。また、ロサンゼルスアカデミー・オブ・フィギュラティブ・アートやラグーナ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでも教えていた実績もあります。彼作品は nathanfowkes.comでご覧ください。

    とにかく毎日、たくさん描くこと

    CGWORLD(以下、CGW):はじめまして。どうぞよろしくお願いします。さっそくですが、ネイサンさんが絵を描くようになったきっかけをおしえてください。

    ネイサン・フォークス氏(以下、ネイサン):私はカリフォルニア中央の小さな街で育ちました。夏と秋が非常に暑く乾燥しているため良い印象を持たない人もいますが、春になると草原が広がり野生の花で覆われるとても美しい場所です。ルーピンという紫色の花やゴールデンポピーという黄色い花が丘に咲き乱れそれはもう本当に美しい景色で、10代の頃からその色彩豊かで美しい景色を描いてみたいと思うようになりました。

    CGW:長くアニメーション業界で活躍されてきたネイサンさんですが、アニメーションの世界に入るまでの経緯をお聞かせいただけますか。

    ネイサン:カリフォルニアにある「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」というデザインの学校に通っていたのですが、在学中にアニメーションの勉強をするためにテーマパークの企画会社で2年間働いていたことがあります。たしか日本に「志摩スペイン村」ってありますよね? スペイン村にある乗り物のセットのデザインをしたこともあるんですよ。

    CGW:スペイン村のお仕事をネイサンさんがされていたなんて! アートセンター・カレッジ・オブ・デザインはとても良い学校で有名ですよね。どのような学校でしたか?

    ネイサン:アートセンター・カレッジ・オブ・デザインは、パーティーをするような学校ではなく、プロフェッショナルとしての意識が高い「仕事に没頭するための学校」なので、私にとってはとても良い環境でした。テーマパークの企画会社を経てアニメーションの仕事に就いたのですが、厳しい世界に挑むための「Work Ethic(仕事への向き合い方や能力を高めるための仕事の仕方、責任、献身といった倫理観やマナー)」が身に着いたことは特筆すべき点です。プロフェッショナルの世界に出てとても役に立ちました。

    CGW:日ごろどのようにインスピレーションを得ていますか? また、影響を受けたアーティストがいたらおしえていただけますか?

    ネイサン:リチャード・シュミット(Richard Schmidt)やパスカル・カンピオン(Pascal Campion)、ボビー・チウ(Bobby Chiu)などがお気に入りのアーティストですが、これら師と仰ぐべきアーティストたちから多くのことを学んできました。そして今、私が絵を描くにあたって大切にしていることが3つあります。(1)風景(2)人物(3)イマジネーションで描くこと。それぞれがインスピレーションの源であり、これら3つが合わさるとコンセプトアートになるわけです。日ごろから、頭に浮かんだアイデアを「小さなサムネイル」に描くことを実践していて、とにかく沢山描くので良いものもあればそうではないものもありますが、描きためてきたものの中から良いものを選びブラッシュアップするということをずっと続けています。

    CGW:1999年から教育にも力を入れて携わっていらっしゃいますが、どのようなことを重視して教えていらっしゃるのでしょうか?また、現在の活動についてもお聞かせください。

    ネイサン:昼にアニメーションの仕事をしつつ、Los Angeles Academy Of Figurative Artという学校で15年ほど教えてきました。デジタルではなく手で描く絵画も好きなので、仕事とは別に人物のドローイングや油絵などを教えていて、ボーンデジタルから書籍も出ていますよ。現在は、映画やゲーム制作のコンサルタントをしつつ、オンラインスクール「Schoolism」で週に1~2度ほど教えています。

    CGW:Schoolismではデジタルペインティングを教えているのですか? それとも手描きでの絵画を教えているのですか?

    ネイサン:デジタルの日もあれば手描きの日もあります。デジタルでは色彩のことやコンセプトについて教えており、手描きでは水彩画を教えていて、課題として描いてもらった作品をスキャンして送ってもらい講評する……といった具合です。

    CGW:素朴な質問で恐縮ですが、ネイサンさんはデジタルと手描きではどちらが好きですか?

    ネイサン:良い質問ですね。どちらも好きですが、どちらか片方をずっとやっていると飽きてくるんですよ。だから、デジタルで描くことに飽きたら引き出しから水彩画のキットを取り出して描き始めるんです。もちろんその逆もあるので、デジタルと手描きを素早く切り替えられるようにしています。

    「何を加えるか」ではなく「何を引くか」

    CGW:著書「ネイサン・フォークスが教えるランドスケープ水彩スケッチ」を出版されましたが、この書籍を作った背景を聞かせていただけますか?

    ネイサン:正直に言うと私は油絵が好きなんですが、屋外で油絵を描くとなると準備するだけですごく時間がかかりますよね。時間をかけて準備していざ描こうとすると、すでに光が変わって風が吹き始めて……。それでガッシュや水彩で描くようになりました。自作の小さな絵画キットを持ち歩いているのですが、どこにいても1分以内で描き始められるようにしています。だいたい1時間以内で描き終えるのですが、この手法だととても新鮮で良い絵が描けるんです。短い時間(1時間程度)で描くとなるとあまり多くのことはできないため、「何を伝えたいのか」を編集しながら描かなければなりません。つまり、「絵には描かない部分があった方が良い」ということをこの書籍を通して伝えたかったんです。

    ネイサン・フォークス氏の著書「ネイサン・フォークスが教えるランドスケープ水彩スケッチ

    CGW:目に映る景色から「何が重要か」を一瞬で見極めなければならないわけですね。しっかりと描く場合はどれくらいの時間をかけて描かれるのですか?

    ネイサン:外で簡単にスケッチをして自宅に戻り、60×45cmくらいのキャンバスに2~3時間くらいで描き上げることが多いです。心でとらえたフィーリングが冷めないうちに描いてしまいたいので、あまり時間をかけないようにしています。

    CGW:アーティストとして日ごろから心掛けていることはありますか?

    ネイサン:とにかく練習に練習を重ねることです。古今東西、世の中には本当に素晴らしいアーティストがたくさんいますよね。しかし、そんな彼らと同じレベルで付いていくためにはとにかく練習が必要なんです。これまで1日も欠かすことなく、サムネイルサイズの絵を常に描いて練習してきました。私の練習方法は3つあって、「(1)実際にモノを観て描く(Life Painting)」「(2)イマジネーションで描く(Imagination Painting)」そして(今はあまりしませんが)「(3)有名なアーティストの絵を模写して描く(Master Painting)」といったことをしています。

    CGW:今でも欠かすことなく練習をされているんですね! ずっと絵を描いていらっしゃる様子が伺えるのですが、どのように1日を過ごされていますか? 1日に何時間くらい絵を描かれているのでしょうか。

    ネイサン:休みをとりながらではありますが、1日に12時間ほど絵を描く時間に当てています。夜更かしが好きで朝方まで仕事をすることもあるので、ときどき昼寝をしていたりするんですけどね(笑)。ドリームワークスで働いていた頃は、ランチ後の気分が乗らないときでも描かなければならなかったり、逆に気分が乗っているときに終業時間がきて中断しなければならなかったりと、会社の規則に沿って仕事をしなければならなかったのが苦痛でした。気分に合わせて仕事ができる方が、私には合っているようです。

    ▲インタビューを受けるネイサン・フォークス氏

    CGW:最近はSNSなどで世界中のあらゆるアーティストの作品を目にする機会がありますよね。ネイサンさんが魅力を感じる日本の表現はありますか?

    ネイサン:2005年あたりから水墨画などの墨を使った作品に興味を持ちはじめ、自分のアートに取り入れられないかと練習したことがあります。墨の良さは、先ほどお話しした水彩画の良さ(短い時間で伝えるべきことを厳選して描く)と通じるものがあり、その究極のところに水墨画があるのかなと考えています。やり直しが効かないところも良いし、Lost and Found(筆跡がかすれたり消えてなくなっていったり)な筆遣いや表現、にじみなど、そういったところがとても良いですよね。「何を加えるか」ではなく「何を引くか」という考え方に非常に共感します。

    CGW:さて、4月に開催されるペインティング・ブートキャンプ『LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回』についてくわしくおしえてください。

    伊藤頼子氏:今回は2箇所でワークショップを開催します。4月6・7日(土・日)に広島県・鞆の浦(とものうら)で2日間にわたり開催するワークショップは、「アナログペイントを通して感情表現できる色と光を学ぼう!」をテーマにネイサンと一緒に外に出て風景画のペインティング(アナログでの絵画)をします。

    4月12~14日(金~日)の3日間にわたり 島根県・津和野で開催するワークショップは、「美しい小京都にてコンセプトアートデザインを学び、課外制作を通して身につけよう」をテーマに、イマジネーションを働かせてコンセプトアートを描くワークショップになります。午前にレイアウトやコンセプトの表現方法について学び、午後は講義で習ったことの実践として、外に出てコンセプトアートを描いてみるといった内容になっています。

    ネイサン:どのように感情を入れて描けば伝わるかといった「感情の入れ方と伝え方」を中心に講義ができたらと考えています。

    CGW:どちらもすでに残席わずかとなっていますが、オンラインでの参加も可能とのことで開催が楽しみですね。最後に、ワークショップに参加される皆さんにメッセージをお願いします。

    ネイサン:ワークショップを通して、皆さんの日本人らしさに触れつつ文化を教え合うこともまた、楽しみのひとつになっています。日本のアーティストの皆さんに会えることをとても楽しみにしています。

    CGW:ネイサンさん、伊藤さん、今日はありがとうございました。

    Information

    【オンライン配信】LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回(鞆の浦)講師にネイサン・フォークスを迎えて

    開催日

    2024/4/6(土)~4/7(日)

    開催方法

    オンライン配信

    参加費

    24,200 円(税込)

    講義の詳細はこちら

    【オンライン配信】LET'S ART IN 田舎 2024・Boot Campシリーズ第2回(津和野)講師にネイサン・フォークスを迎えて

    開催日

    2024/4/12(金)~4/14(日)

    開催方法

    オンライン配信

    参加費

    36,300 円(税込)

    講義の詳細はこちら

    INTERVIEW_みむらゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE
    EDIT_西原紀雅/Norimasa Nishihara(CGWORLD)
    Interpret_伊藤頼子 / Yoriko Ito