国民的に愛されているビスケット菓子「たべっ子どうぶつ」が映画化されるというニュースは、多くの人を驚かせた。そして劇場に足を運んだ観客は、さらに別の驚きを体験することになる。パッケージイラストでお馴染みのキャラクターたちが、これまでの日本の3DCG作品とは異なる質感と存在感をまとい、スクリーンの中で活き活きと動き回るのだ。

本作は、明確なストーリーを前提としないキャラクターIPから1本の長編映画を立ち上げるという点でも、国内では稀有な試みといえる。制作を担ったマーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ)にとっても、表現手法・制作体制の両面で新たな挑戦となった本作。CGWORLD.jpでは、その映像制作の裏側を3回に分け、パートごとにひも解いていく。

記事の目次

    Information

    『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』
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    2025年12月19日(金)絶賛発売中!

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    Blu-ray豪華版:9,900円/DVD豪華版:8,800円
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    tabekko-movie.com
    ©ギンビス ©劇場版「たべっ子どうぶつ」製作委員会

    Interviewee

    写真左から
    Sets&Propsリギングスーパーバイザー・森永健太氏、キャラクターモデルスーパーバイザー・何 雯氏、アニメーションスーパーバイザー・増子理準氏、キャラクターリギングスーパーバイザー・Harshad Bari氏、アニメーションリードアーティスト・浅村元樹氏、CGスーパーバイザー・堺井洋介氏、Sets&Propsスーパーバイザー・永田浩司氏、ストーリーボードアーティスト・山口将史氏、ライティングコンポジットスーパーバイザー・戸松 聡氏、FXスーパーバイザー・安部 清氏、FXリードアーティスト・大島遥日氏、レイアウトスーパーバイザー・冨山竜徳氏、ルックデヴ/クラウドスーパーバイザー・佐藤佑亮氏、アニメーションスーパーバイザー・坂本知万氏
    以上、マーザ・アニメーションプラネット

    パッケージイラストの想像を超えた「たべっ子どうぶつ」映画化企画

    本作の企画がマーザの制作チームに届いたのは2023年2月のこと。まだシナリオは初稿段階だった。企画を受け取ったCGスーパーバイザーの堺井洋介氏は、当時の第一印象について次のようにふり返る。

    「お菓子のパッケージに描かれている『たべっ子どうぶつ』のような、のんびりした世界観を想像していたところ、そこからは思いも寄らない展開や演出が用意されていました。賑やかで楽しい作品になる予感を感じたものの、いざつくるとなると限られた時間の中ではCG的なチャレンジも多く、様々な種類のキャラクターや演出、ゼロからつくる世界観や物量の多さなども合わさるととても期間内には終わらないと感じたため、つくり切るためにはつくり方・見せ方の整理と要素の削減のアイデアが必要、と考えました」。

    ▲CGスーパーバイザー・堺井洋介氏

    従来のキャラクターIPと異なり、本作には“原作ストーリー”が存在しない。そのため脚本開発では、単に物語を組み立てるだけでなく、たべっ子どうぶつたち1体1体の性格やパーソナリティを踏まえた展開が求められたという。

    「竹清(仁)監督はCGにも明るく、『ただのキャラクターIPではない』という点に強くこだわられていました。らいおんくんがお菓子であることの意味や必然性を、キャラクター造形や演出の中でどう表現するかを丁寧に詰めていったんです。こちらからも『マーザでつくるのであれば、こういう見せ方ができます』と提案し、すり合わせを重ねていきました」。

    開発の過程では、脚本を担当した池田テツヒロ氏にも竹清監督を通じてCG側のアイデアの提案を行いながら、物語の展開を調整していったという。シナリオ上のブラッシュアップに加え、CGでのテスト映像制作を通じて得られたフィードバックを反映しながらチューニングを重ね、シナリオは同年9月にFIX。並行してプロダクションが進行し、作品は2025年3月に完成、5月に公開された。およそ2年にわたる長期プロジェクトとなった。

    ▲本作の制作スケジュール(※クリックで拡大できます)。2023年2月の企画立ち上げから、シナリオFIX、プロダクション進行を経て、約2年をかけて完成・公開に至った

    おもちゃ箱をひっくり返したような世界観

    脚本を受け取って最初に行われたのが、コンセプトアートの制作だ。竹清監督が重視したのは、「賑やかで楽しい、おもちゃ箱をひっくり返したような遊び心のある景色」だったという。

    そこで、ライブステージのコンセプトアートでは、らいおんくんをモチーフにしたアーチや柱、ぺがさすちゃんの羽根を想起させる背景、ねこちゃんバルーンなど、アートチームが様々なモチーフを提案。カラーリングについても原作のイメージを尊重しつつ、観客の視線が散らないよう全体のバランスが調整された。

    プロップ制作の自由度も高く、キャラクターを模した料理やお菓子、バイクといったアイテムが次々とデザインされていった。これらは竹清監督のオーダーを基に、アートディレクターの亀井清明氏が中心となって形にしていったという。

    従来のマーザ作品では、リアルなルックを追求するか、あるいはUnity等を用いた2D的な表現に振り切るケースが多かった。本作ではそれとは異なり、デフォルメされた世界観に対してリアルなライティングを施しつつ、見た目は2Dと3Dの間を目指すという新機軸に挑戦している。

    亀井氏は、実際に粘土をこねて立体物としての見え方を検証しながら制作にあたったという。ぽっこりとしたお腹やお尻に、キャラクターならではの愛嬌が宿る仕上がりとなった。

    「パッケージイラストのかわいらしさを大切にしつつ、各チームのスペシャリストと相談しながら、この作品ならではのモフモフ感を表現していきました」(堺井氏)

    ▲らいおんくんの三面図
    ▲らいおんくんの表情集
    ▲らいおんくんのターンテーブル動画。硬いぬいぐるみのようなサーフェスに対して光を当てると、リアリティある反射をする

    ▲眉毛がない、いわゆる「ごま目」のらいおんくん。演出に合わせて上記のような感情豊かな表情を大胆につくっていった。「ここまで表現して大丈夫かなと思いましたが、監督ほか関係者からも好評で、制作における風通しの良さを感じました」(堺井氏)

    ▲ひよこちゃんの三面図。原作パッケージデザインでは後方部が見えないため、特に尻尾の設定はされていなかったが、演出上の可愛さを優先し本作で付け加えられた
    ▲ひよこちゃんのターンテーブル動画。硬いぬいぐるみのようなサーフェスに、実際のひよこのように産毛が足されたことでよりリアルに感じられる。上記の尻尾の形も立体感があり、光の当たり方で全体的な凹凸がハッキリわかる

    『カワイイ』を武器にした戦闘シーンの構築

    絵コンテは、ストーリーボードアーティストの山口将史氏と竹清監督を含む5名(Vコンテまで含めると計7名)体制で制作された。山口氏が担当したのは物語後半、たべっ子どうぶつたちと兵士たちが戦うシーンだ。本作はバトルアクションを主軸とした作品ではないが、各キャラクターの特徴を活かしたアクションシーンが盛り込まれている。

    ▲ストーリーボードアーティスト・山口将史氏

    竹清監督からのオーダーは「たべっ子どうぶつたちの可愛らしさをしっかり伝えること」。シナリオのアイデアをいかに膨らませるかがストーリーボードアーティストの腕の見せどころだ。本作では各キャラクターのイメージを膨らませ、絵コンテの段階で精密にアクションを描いていったという。

    「意識したのはメリハリです。たべっ子どうぶつたちが立ち向かっていくながれを、テンポよく見せられるように構成しました」と山口氏は語る。

    たべっ子どうぶつたちは兵士たちと異なり戦いというものを知らないため、逃げ惑うような動きがロングショットでコミカルに描かれる。また、兵士側もたべっ子どうぶつたちへの対応の仕方がわからず戸惑っている様子を、らいおんくんの反応を通じて表現した。

    「監督からは、らいおんくんのモフモフ感や可愛らしさについて細かくオーダーをいただきました。クスッと笑えるような演技を入れたところ、アニメーターの力もあって素晴らしい仕上がりになりました」(山口氏)。

    ▲らいおんくんの前でたべっ子どうぶつたちが逃げ惑うシーンの絵コンテ

    たべっ子どうぶつたちの武器は「カワイイ」こと。抱きしめると相手はその可愛らしさのあまり気絶してしまい、ハートが湧き出る。たべっ子どうぶつたちは基本的に兵士よりも体が小さいため、飛び跳ねさせるなどアクションのさせ方にもアイデアが多く盛り込まれている。

    • ▲きりんちゃんが戦うシーンの絵コンテ
    • ▲完成カット
    • ▲さるくんが戦うシーンの絵コンテ
    • ▲完成カット
    • ▲かばちゃんが戦うシーンの絵コンテ。山口氏によると、イメージしやすかったのはかばちゃん。一方できりんちゃんは苦戦したものの、アニメーターのアレンジによって良い仕上がりになったという
    • ▲完成カット

    レイアウトの前準備「スカウティング」とは?

    一般的に「レイアウト」の役割は画面設計やキャラクター配置だが、マーザではこれに加え、後工程が同じデータを参照できるようパイプライン上にデータを載せることも重要な役割となっている。

    ▲レイアウトスーパーバイザー・冨山竜徳氏

    本作ではレイアウト工程に入る前段階として、全ショットで「スカウティング」を実施した。これは、背景(BG)のスケール感や道の距離感などを事前に測定・検証する工程だ。全カットでカメラを仮置きし、キャラクターが広いセット内を走り回るシーンでも、その時間とセットの大きさや距離感の関係が破綻しないように確定させる必要がある。

    スカウティングでは、まずSets(背景)チームからラフ状態の背景データを受け取り、全てのショットを仮組み。その映像を基にアート班とスケール感やデザインを相談し、最終的なスカウティング映像を確定させてから監督の確認を仰ぐ。

    「この後にレイアウト工程が控えているので、スカウティング段階ではBGのサイズと距離感だけを見てもらうようにしました。これにより、スムーズに進めることができました」(レイアウトスーパーバイザー・冨山竜徳氏)。

    監督のOK後、データはパイプライン上にパブリッシュされ、レイアウト作業へと進む。

    ▲スカウティングからレイアウト段階までのフローチャート。編集チームから渡された仮のカッティングデータと、セットチームによる仮アセットを用いてスカウティングを実施し、それぞれに差し戻して確認を行なった上でレイアウトを確定させる。パイプライン上に載せる(パブリッシュする)ことで、後工程のチームはそのショットに必要なアセットやカメラデータを読み込むことができるため、早い段階でスカウティングを行うことは全体の工期を考えるうえで重要なプロセスといえる

    全てのカットでスカウティングを行うのはコストもかかるため、原則として1ショットにつき1ポーズに抑えられた。ただし、たべっ子どうぶつたちが工場に潜入し、身を隠しながら工場内を走るシーンでは、実際の尺を入れなければ正確な距離が把握できなかったため、キャラクターを配置してブロッキングを行い、ストーリーボード上の位置関係を3D空間で再確認した。

    ▲工場内を走るシーンのスカウティング映像。画面上部に俯瞰図、画面下部にスカウティング画面を配置し、右上のワイプには絵コンテを表示している。それぞれの位置関係やカメラアングルに矛盾がないかを確認するためのものだ。画面下部にはカメラのミリ数も表示されている

    また、クラウド(群衆)シーンのスカウティングにはMayaのプロシージャルエフェクトシステムMASHを使用。ローポリ化したモブキャラクターをコピー配置し、リアルタイムで密度や並び方を調整することで、後工程の群衆制作を効率化した。

    ▲群衆シーンのスカウティング
    ▲完成カット

    ライブ会場の群衆も同様の作業を行なった。レイアウトの段階では密度感やキャラクターを配置する場所などを固め、具体的なキャラクターの詳細はクラウドのチームに任せる。観客が画面に映る範囲をレイアウト段階で確定させることで、余計にデータを敷き詰めることなくスムーズかつ効率的に配置することができたという。

    ▲ライブシーンのスカウティングの様子
    ▲完成カット

    音楽と連動した群衆アニメーション

    本作の規模でのクラウド(群衆)制作は、マーザにとって初の試みだったという。ライブシーンの群衆制作ではまず、Houdiniにライブ用音源をmp3で読み込み、ローパスフィルタをかけて波形を抽出。観客の腕振りモーションを音のリズムに同期させていった。

    腕を振るモーション自体は、曲のテンポに合わせたループモーションをアニメーターが制作。そこに音源データのタイミングを参照しながら配置していく。

    「音と手の振りがピッタリ合いすぎるのも良くないので、少しだけずらして自然に見えるよう調整しました。最終的にはバラバラに見せたかったので、音源からの波形抽出も精度は求めませんでした」(ルックデヴ/クラウドスーパーバイザー・佐藤佑亮氏)。

    ▲ルックデヴ/クラウドスーパーバイザー・佐藤佑亮氏
    ▲たべっ子どうぶつたちのコンサート会場。サイリウムを振るモーションと音のリズムを同期させている
    ▲音源の波形データ。山の頂点がドラムのキックが鳴る瞬間。このリズムに合わせてモーションを作成

    また、観客のモブキャラクターは、悪目立ちしないよう敢えて単色の服装で制作されている。一方で画面上ではそこから色のバリエーションで多様性をみせるため、色のランダマイズが行われた。

    キャラクターチームが群衆用アセットを作成しシェーディングを行い、クラウドチームが色をオーバーライドできるしくみを構築。肌や髪の色はスクリプト制御によって、現実的な範囲内でランダムな値を生成している。服の色についても、アートディレクターと相談して作成したカラーパレットから自動的に割り当てられる。

    ▲モブの観客キャラクター。無地の服はデータ削減にも役立ったという
    ▲肌や髪の色をオーバーライドするノード。軽量のDiffuseかリアルな質感のSSSを切り替えて使うことができる
    • ▲髪の色のバリエーション
    • ▲肌の色のバリエーション
    • ▲アートディレクターと相談して作成した服の色のカラーパレット
    • ▲群衆のモデルのバリエーション。子供・女性・男性それぞれのバリエーション。服や肌の色、髪の色を3色ずつ用意してもらい、オーバーライドでランダムな色を載せていく

    群衆表現では、見た目の密度を保ちつつ、レンダリング時間を1フレームあたり2時間以内に抑える必要があったため、無駄な部分の削減と最適化を行なった。ライブ会場を満席にするように配置すると3〜4万人規模になってしまうため、カメラに映る範囲のみに配置を限定し、十分に満席に見える人数まで間引きを行なっている。

    さらに、カメラからの距離に応じてポリゴン数を切り替えるLOD設計を採用。近景はハイメッシュ、中景・遠景に行くにつれてローポリゴンへと段階的に切り替えることで、負荷を大幅に削減した。こうした工夫により、2名体制で140ショットの群衆シーン制作を行い、そのうち約120ショットが本編で使用されている。

    ▲群衆がカメラに映る範囲を示した図
    • ▲カメラの範囲でモブを敷き詰めた状態
    • ▲カメラから遠いエリアの群衆を間引いた状態。カメラに近いキャラクター(赤)はハイメッシュのポリゴンで作成し、緑→青と遠くになるにつれてローポリゴンになっていく
    • ▲間引いた状態をカメラから見た図。観客で埋め尽くされているように見える
    • ▲群衆データの効率化を行なったHoudiniのノード

    ▲主にアニメーターが使用したクラウドのガイドデータ

    (2)に続く(近日公開予定)。

    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota