映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』において、まず観客の目を惹いたのはキャラクターのルックだ。セル調でもリアル調でもない、まるでお菓子のパッケージイラストがそのまま立体化したかのような存在感と、抱きしめたくなるぬいぐるみのような質感は、本作ならではの大きな特徴といえる。この独特なキャラクタールックが、シリアスさも併せもつシナリオとのコントラストによって、作品全体の印象をより強いものにしている。
メイキング第2回となる本記事では、こうしたキャラクター表現を支えたキャラクターモデル制作の工夫や、リグ、アニメーション制作におけるポイントについて、マーザ・アニメーションプラネット(以下、マーザ) の制作現場での取り組みを交えながら解説していく。
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tabekko-movie.com
©ギンビス ©劇場版「たべっ子どうぶつ」製作委員会
Interviewee
Sets&Propsリギングスーパーバイザー・森永健太氏、キャラクターモデルスーパーバイザー・何 雯氏、アニメーションスーパーバイザー・増子理準氏、キャラクターリギングスーパーバイザー・Harshad Bari氏、アニメーションリードアーティスト・浅村元樹氏、CGスーパーバイザー・堺井洋介氏、Sets&Propsスーパーバイザー・永田浩司氏、ストーリーボードアーティスト・山口将史氏、ライティングコンポジットスーパーバイザー・戸松 聡氏、FXスーパーバイザー・安部 清氏、FXリードアーティスト・大島遥日氏、レイアウトスーパーバイザー・冨山竜徳氏、ルックデヴ/クラウドスーパーバイザー・佐藤佑亮氏、アニメーションスーパーバイザー・坂本知万氏
以上、マーザ・アニメーションプラネット
「動くぬいぐるみ」をイメージした動物たちのシェーディング
本作のキャラクターモデリングは、まずZBrushでラフモデルを制作し、監督によるチェックを経た後、Mayaで本番モデルを仕上げる手順を取った。たべっ子どうぶつたちに共通するコンセプトは、「動くぬいぐるみ」。
「ベースカラーはシンプルな単色にして、Substance 3D Painterでプロシージャルに生成したノイズを加えています。ラフネスとバンプをやや強めに設定し、表面に繊維感が出るようにしました。また、耳先や指先にはSSSを適用して、光がわずかに透けることで生き物らしさを感じられるようにしています。最終的にはSheenを使って、布のような柔らかいハイライトを加え、ぬいぐるみ感を強調しました」(キャラクターモデルスーパーバイザー・何 雯氏)。
Diffuseテクスチャは、まず単色のベースカラーの上にノイズを重ねることで、ぬいぐるみ特有の毛羽立ちを表現(=凹凸ノイズ)。さらにSubstance 3D PainterのBlur Slope Filterにファーのノイズを加え、 Blurの方向をコントロールして色の境目に毛並み感を出している。全体に重ねた凹凸ノイズをより柔らかくすることも可能だ。
最後にYetiを使用してファーを追加。これは全てのキャラクターに対して行なっている。全身に生やすとリアルになりすぎるため、ArnoldのaiFacingRatioとRampを組み合わせカメラに対する面の向きに応じてOpacityを制御することで、輪郭部分にのみ細かな毛が見えるよう調整した。
たべっ子どうぶつとのルックの調和を目指した人間キャラクター
人間キャラクターのルックは、たべっ子どうぶつたちと統一感のある表現になるよう設計された。肌の質感は、ベースカラーを基本としつつ、鼻や耳にのみスペキュラを入れるシンプルな構成としている。これは、監督からの「リアルよりもスタイライズされた表現にしたい」というオーダーに基づいたものだ。
帽子や服の質感には、たべっ子どうぶつの体と同じノイズテクスチャを使用。ベースはあくまでシンプルに保ちつつ、光が当たる輪郭部分にのみ服のディテールが見えるよう調整している。
髪の毛についても、キャラクター同士のルックの調和を優先し、ポリゴンヘアとYetiを併用して制作された。眉毛はリアルになりすぎるのを避けるため、Yetiは使わず、モデルの凹凸として表現している。
髪は干渉を避けるため、4パーツに分けて管理している。生やす範囲はYetiのAttribute Paintで制御。
▲毛の根元から毛先にかけて色や明るさが自然に変化するようグラデーションを付けて調整
▲シンプルなオレンジのベースカラーにAOを追加し、立体感を強調した
個別に完成度を高めるボディリグとフェイシャルリグ
キャラクターリギングにおいては、原作の2D表現に忠実でありながら、3Dキャラクターとして表現力豊かな表情を実現することが課題だった。そこで採用されたのが「データセントリックシステム」だ。
「フェイシャルリグとボディリグを個別に構築し、最終段階で結合する設計にしています。そうすることで、それぞれを高い精度でつくり込みながら、管理やイテレーションの自由度も確保できました」(キャラクターリギングスーパーバイザー・Harshad Bari/ハシャッド・バリ氏)。
ワークフローとしては、ガイドとリグのデータをベースとして他キャラクターに転用できる方式を採用。モデラーやアニメーターからのフィードバックを迅速に反映でき、修正や再構築が容易な点が特徴だ。制作にはmGearとインハウス製のカスタムツールが活用された。
フェイシャルリグは唇や眉など顔の各パーツをレイヤーごとに分け、それぞれにジオメトリとデフォーメーションデータを管理している。これにより、複雑な表情を安定して制御することが可能となった。
フェイシャルリグはジョイントベースを主体とした設計とし、ブレンドシェイプは最終的な微調整にのみ使用している。ジョイントをメッシュ形状に沿って配置することで、表情変化時にも破綻が起きにくく、安定した変形を実現しているという。
また、フェイシャルとボディはレイヤーを分けて管理され、アニメーション制作時にもそれぞれを独立して調整できる構成としている。
フェイシャルリグの構築にあたっては、マーザが開発した自社ツールも活用された。リギング作業の最初の段階で必要な情報をツールに入力すると、あらかじめコントロールとスキンウェイトが設定されたリグが生成される。変形データをファイル単位で扱えるため、リグの再構築や調整にも柔軟に対応できる設計となっている。
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▲ライン用のピッカー。メッシュに沿って動かせるしくみとなっており、まぶたや眉毛のラインを操作することで、緊張感や表情の変化を表現する -
▲眉毛やヒゲのラインを変形させ、らいおんくんの怒りの表情をマンガ的に強調して表現した例
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▲たてがみ用のピッカーパネル。微調整を細かく、直感的に行うことができる -
▲らいおんくん用のソフトモッドコントロールパネル。アニメーターがメッシュを自由に変形させることでキャラクターの生き生きとした感情やインタラクション表現が可能となる
また、アニメーター側で表現したい表情が作成できるよう、リガーとアニメーターの間で何度もやり取りがなされた。まずは2Dアートで描かれた表情を基にポーズライブラリをアニメーターに作成してもらい、それを踏まえてどういった動きや機能が必要か、追加で必要な情報や綺麗なシルエットをつくるための動作の改善などを検討。リグで最も時間を費やした工程になったという。
最終的に用意したポーズもブラッシュアップし、アニメーターはそれらを起点に、シーンや演出に応じた細かな表情調整を行なった。
シンプルな造形の表情をわかりやすく見せるための工夫
アニメーション制作におけるポイントのひとつは、たべっ子どうぶつたちの表情をどのように成立させるか、という点だった。黒目のみで構成された目やシンプルな造形をもつキャラクターに、感情や視線をどう与えるか、現場では様々な試行錯誤が重ねられた。
リグパートでも触れたように各キャラクターの表情集はあらかじめ準備されていたが、制作初期にはたべっ子どうぶつたちの多彩な表情を十分にカバーしきれておらず、作業が終わったショットの中でよりキャラクターらしさを表現していた表情を他のショットにも展開する、といった進め方が取られていた。
▲最初に用意されたらいおんくん(左)とぞうくん(右)の表情集と目のパターン。眉の僅かな動きで感情が表現されている
「例えば白目の表現は、もともとはリグ側で、黒目が完全になくなって真っ白になる表情を用意していました。ただ、あるショットでアニメーターが、ハイライトを大きくすることで黒目の縁だけが残り、白目に近い見え方になる表現を出してきたんです。それがすごく良くて、監督とも『これはいいですね』という話になり、以降はそのハイライトの使い方を採用しました」(アニメーションリードアーティスト・浅村元樹氏)。
たべっ子どうぶつたちは黒目のみの目の構造をしているため、表情や視線の向きを表現する際には、より微細なコントロールが求められた。「視線変更の際にハイライトを動かすことはNGで、眉毛の位置や全体のバランスにも気を配りながら制作を進めました」(CGアニメーションスーパーバイザー・増子理準氏)。
▲ゾウくんの目線の演技。顔自体の向きを変え、次いで眉の形を変化させることで目線の動きをわかりやすくしている
また、目のハイライトは光源の考え方と密接に関わるため、その配置ルールについても慎重に検討が行われた。マーザでは、光源に忠実に配置する方法、シーン内で向きを揃える方法、カメラ側に光源を置いて左右対称に見せる方法の3つが使い分けられており、本作では向きを揃える方法を採用。アニメーターがコントローラで調整して配置している。
視線や表情と同様に、キャラクターを印象づける要素として重視されたのが、各キャラクター固有の“記号”的な造形だった。これらは単なるパーツではなく、シルエットとしてキャラクターを成立させる重要な要素であり、アニメーションの中でも常に「どう見えているか」が意識された。
特にらいおんくんのマズルは、顔の向きやポーズによって左右の見え方が大きく変わるため、どのフレームで切り替えるかの判断が難しかったという。一方、ぞうくんの鼻についても、後ろ姿や振り向きのカットでもキャラクター性が損なわれないよう、見せ方が細かく調整されている。
徐々に“遊び”が入り面白さが増すマーザ流アニメーション制作
表情と並んで、アニメーション制作においてもうひとつ重視されたのが、たべっ子どうぶつたちの「モフモフ感」と「わちゃわちゃ感」だった。丸みのある体型やぬいぐるみのような質感をもつたべっ子どうぶつたちに、触れたくなる柔らかさと、集団で動く際の賑やかさをどう与えるかは、本作ならではの重要なテーマだった。
モフモフ感を表現するため、アニメーターからリグチームに要望を出し、お腹や腕などの皮膚を細かく動かせる専用のコントローラが追加された。肉の揺れなどは全て手付けで作成されており、キャラクターの動きに合わせた柔らかさがつくり込まれている。
▲わちゃわちゃ感を象徴するカット。汗を飛ばすようなギャグ演出はアニメーターが自由に付けており、監督もそれを前向きに受け止めたことで、高いモチベーションを保ちながら制作が進められたという
また本作では、画面上での見えを優先し、誇張したパース表現も取り入れられている。丸みのある体型のたべっ子どうぶつたちを意図した画として成立させるため、モデル上でスケールを崩したいわゆる“嘘パース”を用い、ショットごとにバランスを調整していったという。
「マーザが手がける作品としてストーリーやキャラクターをしっかり理解した上でアニメーション制作に取り組んでほしい、というSV・リード陣の想いがありました。その点を大切にしながら、メンバーとコミュニケーションをとって表現を模索していきました。
序盤はある意味手堅い表現が多かったのですが、制作が進むにつれ、作品や登場人物を理解した上での"遊び"がメンバーからどんどん出てくるようになりました。結果的に、後に取り組んだシークエンス、例えば序盤の歌と踊りが華やかなライブシーン、らいおんくんとぺがさすちゃんの空中ドタバタ劇などの方がアニメーションとして攻めた表現が増えたと思います。作品として良い味になりつつアニメーターの成長もつながりましたね」(浅村氏)。
例えば劇中で「ばかうけ」や「蒲焼さん太郎」などのお菓子が登場するシーンは、遊びを入れるのが得意なアニメーターの裁量に任せて自由に制作されたという。「ただ笑わせにいくギャグではなく、可愛さや面白さもきちんと伝えられる、良いカットになったと思います」(増子氏)。
こうした傾向は本作に限らず、マーザの映画作品全体に共通する特徴であり、同社ならではの醍醐味だという。「制作に入る前にスクリーニングを行い、全体の流れを全員で共有できたのも良かったです。竹清監督も自由にやらせてくれる方だったので、上手くかみ合ったと思います」(アニメーションスーパーバイザー・坂本知万氏)。
(3)に続く(近日公開予定)。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota