月刊『CGWORLD + digital video』vol.331(2026年3月号)特集「デジタルファッション制作ハンドブック2026」より、一部を抜粋してお届けする。服の自然さは、装飾の細密さではなく、構造と力のながれの設計によって決まる。本稿では「アームホール」、「袖山」、「ドレープ」という肩まわりと布の落ちを左右する要点に絞り、3D制作における破綻の防ぎ方と、リアリティを支える設計思想を解説する。

記事の目次

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    アームホールの形状

    アームホール(袖ぐり)は、肩まわりの見え方と腕の動かしやすさを左右する、服の中でも特に重要な設計ラインである。カーブの深さや前後差によって、肩の丸みの出方やシワの寄り方は大きく変化する。一般に前側をやや深くすると腕を前に動かしやすくなり、肩まわりも自然に見えやすい。

    一方、全体を浅くするとリラックスした印象になるが、腕を上げた際に脇や背中にシワが出やすくなる傾向がある。ジャケットでは肩をシャープに見せるため小さめに、Tシャツでは柔らかさを出すため大きめに設計されることが多い。

    3D制作においてもこの差は顕著で、アバターの肩の角度や腕の可動範囲に合わせて前後のカーブをわずかに調整するだけで、シミュレーション時の破綻や不要なシワを抑えやすくなる。アームホールは後述する「袖山の高さ」とも密接に関係するため、動きやすさを優先するのか、肩の見せ方を整えるのかを先に定めることが、安定した形づくりにつながる。

    ▲ジャケットのアームホール形状
    ▲シャツのアームホール形状。ジャケットは小さく締めた線で肩をシャープに見せ、シャツは大きめに設計することで、柔らかな印象と腕の動かしやすさを確保している

    袖山の高さ

    袖山の高さとは、袖パーツ上部にあるカーブの高さを指し、肩のシルエットと腕の可動性を左右する設計要素である。袖山が高いと、肩に沿った形が保たれ、腕を下ろした状態では袖がすっきりと落ちる。その一方で肩まわりのゆとりは少なく、腕を上げたり前に出したりすると、布が引かれやすくなる。ジャケットやシャツでは、肩のラインを整えて見せる目的で袖山を高めに設定することが多い。

    一方、袖山を低くすると肩まわりに余裕が生まれ、腕の動きに布が追従しやすくなる。Tシャツやスウェットではこの設計が多く、肩から自然に丸く落ちる柔らかな印象につながる。

    3D制作においても袖山の高さは重要で、わずかな差が肩の落ち方やシワの入り方に大きく影響する。アームホールの形状や袖幅との組み合わせを意識し、アイテムの用途やキャラクターの動きに合わせて調整することで、肩まわりの表情を安定してコントロールしやすくなる。

    ▲袖山の高さと腕の角度の関係。袖山が高いほど腕を下ろした姿勢が美しく、低いほど可動域が広がる
    • ▲ジャケットの袖山
    • ▲Tシャツの袖山。用途に応じて、袖山の高さは大きく異なる
     

    ドレープのつくり方

    ドレープを設計する際にまず考えるべきなのは、布の余りをどこに生み出し、どの方向へ落とすかという点である。ドレープは、余った分量が重力によって落ちることで生まれるため、その起点となる余りは、パターン操作によって意図的につくる必要がある。

    基本的な方法のひとつが、パターンの一部を扇状に広げて分量を追加する手法だ。広げた方向に余りが生まれ、その分だけ布は重力方向へ落ちる。片側だけを開けばながれに偏りが生じ、中心から均等に開けば放射状のドレープになる。開く角度が大きいほど谷線は深くなり、小さいほど控えめな波になる。

    次に重要なのが支点の位置である。肩から落とすのか、ウエストから落とすのかによって、谷線の方向や表情は大きく変わる。ギャザーもこの考え方の延長にあり、余りを一箇所に集め、そこを起点として波を広げる設計だ。

    さらに、布をどの向きで扱うかもドレープに影響する。バイアス方向は少ない分量でも体に沿いやすく、縦横方向では張りが残りやすい。Marvelous Designerで調整を始める前に、余りの位置、落とす方向、支点、布の向きをパターンとして整理しておくことで、ねらったながれを再現しやすくなる。

    ▲四角形の布を2点で支えると、余った分量が下へ落ちてドレープが生まれる
    ▲支点を肩に置くことで、肩幅との差分が大きな垂れとして現れる

    PROFILE

    CLTHEN

    パタンナー出身のデジタルファッションアーティスト
    衣料の構造理解を基に、衣装制作やクロスシミュレーションを得意とする。現在はコレクションブランドに勤務しながら、初学者向けのCLO講師としても活動し、リアルと3DCGをつなぐ制作に取り組んでいる。
    clthen.myportfolio.com

    岡保杏奈

    ボーンデジタル サポート事業部 Marvelous Designer担当
    美術大学でデザインを学び、デンマークでテキスタイルをメインに手工芸全般を学ぶ。卒業後に、3DCGとファッションの専門学校へ通い、アナログ領域からCLO・Marvelous Designerを使用し3DCGの中での表現手法を模索している。
    www.borndigital.co.jp

    INFORMATION

    ボーンデジタルユーザー限定講座「モデラーのための知っておくべき服の構造」

    本講座では、デジタルで服づくりを行うクリエイターに向けて、衣服構造の基礎をわかりやすく解説。形が決まる理由やシワ・ドレープのしくみ、パターンの読み方など、3Dでは見落としやすいポイントを実例と図解・生地を触るワークショップで整理。Marvelous Designerで「なぜその形になるのか」を理解し、布表現の精度を高めたい人に役立つ実践的な講座だ。

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    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.331(2026年3月号)

    特集:デジタルファッション制作ハンドブック2026
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年2月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT_CLTHEN、岡保杏奈/Anna Okayasu(ボーンデジタル)
    EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota