2026年3月19日(木)、没入型体験施設「ワンダリア横浜 Supported by Umios」(以下、ワンダリア横浜)がオープンした。DeNAが企画運営する本施設は、高原や深海、原生林など異なるテーマをもつ6つのゾーンで構成され、来館者は日常では出会えない生き物や自然の風景に包まれる。
映像は4面や天井までを使った大規模投影で展開され、ゾーンによっては国内最大級のLEDも導入。さらに公式スマートフォンアプリ「ワンダリアアプリ」をかざせば、映像中の生き物をオンデバイスAIがリアルタイムで読み取り、カードとして収集できる。ただ眺めるだけでなく、探し、学び、何度も巡りたくなる仕掛けがインタラクティブ体験の核だ。
本稿では、ゾーン1〜5のCGアニメーション制作を統括したMontBlanc Pictures(モンブラン・ピクチャーズ)と、ゲームエンジンによる画づくりをルック開発から担当したVolca(ボルカ)の両社に、一連の取り組みを聞いた。
wonderia.jp
Creative Director: Minoru Sako (minsak)
Planner: Minoru Sako (minsak)
Creature Designer: Lē Yamamura
World Building: Hiroshi Takane(Studio ONI, Synthese), Seiji Yoshida, Takuya Sejima
Project Manager: Kanako Nagatomi
Design: Saeka Shoda
<VI & Graphic>
Art Direction: Tomoyuki Arima(Nippon Design Center)
Design: Jun Matsumoto、Haruki Kawaguchi(Nippon Design Center)
Motion Graphic Designer: UDON(VIXI)
Producer: Yoshie Sone (Nippon Design Center)
<Movie Production>
Producer: Sosuke Minamiura(nos)
Project Manager: Mami Sonokawa
Director(ZONE 01, 02, 04): Yasuhiro Arafune (EPOCH)
Director(ZONE 03, 05): Shin Okawa(EPOCH)
CG Director: Satoshi Takeno (MontBlanc Pictures)
CG Producer / Main CG Production Manager: Yuta Kanazawa (MontBlanc Pictures)
CG Production Manager: Aguri Kato (MontBlanc Pictures)
CG Producer / CG Director: Kohei Kajisa (Volca)
Concept Artist: Hiroaki Ueno
Director(ZONE 06): Kohta Morie (MORIE)
Production(ZONE 06): P.I.C.S.
<Music etc.>
Shuta Hasunuma
Journey SPECIAL OTHERS (SPEEDSTAR RECORDS)
Photographer: Shodai Nishihata
Videographer: Yota Iino
様式化されたルックで、イマーシブ体験を描く
——まずは自己紹介と本プロジェクトにおける主な役割を教えてください。
MontBlanc Pictures/竹野智史氏(以下、竹野):
CGディレクターを務めた竹野智史です。本プロジェクトでは、ルック開発の段階から指示出しに加わり、ゾーン1〜5全体のCGディレクションを統括しました。
MontBlanc Pictures/金澤勇太氏(以下、金澤):
金澤勇太です。CGプロデューサーとメインのCGプロダクションマネージャー(PM)を兼務しました。制作進行のサブPMとして加藤阿久里にも入ってもらい、基本はこの3名でクリエイティブ面を監修されたクリエイティブディレクターの左居 穣(minsak)さんやプロデューサーの南浦ソウスケ(nos)さん、クライアントであるDeNAさんとのやり取りを進めていました。
Volca/加治佐興平氏(以下、加治佐):
加治佐興平です。Volca側のCGディレクターとCGプロデューサーを兼ねる立ち位置で、アートからアセット、ゲームエンジン周りまでを取りまとめました。
Volca/陸 洋一郎氏(以下、陸):
陸 洋一郎です。テクニカルチームのリーダーとして、ゲームエンジン関連の作業を全般的に担当しました。
——両社はこれまでにも様々な案件でコラボレーションされていらっしゃいますが、今回はどのような経緯で参加されましたか?
金澤:
2024年末に当時間に入られていたプロダクションのプロデューサーさんから竹野宛にご相談をいただいたことがきっかけです。
横浜に新しくオープンする体験型施設向けの映像制作に協力してほしいという内容でしたが、かなり大規模かつ全6ゾーンのうち、1〜5番目のゾーンは体験として連動する設計のため、そのCGアニメーション制作の全体をみてほしいというものでした(※1)。
加治佐:
2025年の初頭に竹野さんかご相談をいただきました。ただ、竹野さん的には「(MontBlanc Pictures内の)制作ラインがかなり厳しいので受けるか迷っています」という温度感だったのですが、そのときに拝見したイメージボードのルックがいわゆるフォトリアルではなく、様式化された世界観なところに惹かれました。
「画づくりがすごく楽しめそうな案件だぞ」と、思わず前のめりで食いつきました(笑)。アート&ルック開発については、Volcaのアート顧問である上野拡覚さんと、Volcaのスタッフであれば、DeNAさんのご期待にきっと応えられるはずだと、当時から思っていました。
※1:全6ゾーンのうち、ゾーン6「イントゥ・ザ・ワンダー」は実写合成パートであり、森江康太氏(MORIE)が映像ディレクターを務め、制作プロダクションはP.I.C.S.が担当した。 www.pics.tokyo/works/wonderiayokohama/
▲ 来場者のTikTok投稿より@tonosama8799 横浜に新しくできた「ワンダリア」が異次元すぎた どこ撮っても映えるし、最新技術が詰まった没入体験が最高!! ちなみに完全無加工 週末のお出かけにピッタリなスポット 営業時間 月〜木:10:00〜19:00 金〜日:10:00〜21:00 アクセス:JR関内駅徒歩1分 チケット料金 大人 (18歳以上):2,900円〜 中学生・高校生:2,200円 小学生:1,500円 幼児 (4歳以上):1,000円 3歳以下:無料 #ワンダリア横浜 #basegate横浜関内 #yokohama #japantravel #djiosmoaction6 @wonderia_yokohama @DJI JAPAN @DJI Osmo @DJI公式ストア オリジナル楽曲 - tenpaland|japantrip
MontBlanc Picturesスタッフ
mtblanc.jp
Volcaスタッフ
-
<前列>左から、制作進行 高山氏、リギングアーティスト 許氏、CGディレクター 加治佐興平氏/<後列>左から、モデラー 張氏、アートディレクター 上野拡覚氏、制作進行 陳氏 -
<前列>左から、テクニカルアーティスト 伊藤氏、モデラー 蔡氏/<後列>左から、アニメーター 宮下氏、テクニカルディレクター 陸 洋一郎氏、リードアニメーター 片平氏、エンジニア 王氏
www.volca.tokyo
ゲームエンジンを使い分けながら、柔軟に連携する
——一連の制作では、両社の役割分担はどのように整理されましたか?
加治佐:
各ゾーンごとに主担当は決めていました。ただ実際には、両社の作業がかなり複雑に混ざり合っています。
例えばゾーン1は、冒頭の一番大きなゾーンでもあったので、モンブランさんとボルカの両社で協力して主担当を務めました。その上で、ゲームエンジン用アセットの制作はボルカが主担当を務めつつ、モンブランさんのモデラーやリガーさんにもご担当いただきました。同様に、プリビズ作業はモンブランさんに主担当を務めていただきながら、ボルカのアニメーターも一部の作業を担当しました。
またゾーン1の後半工程も、Unityのマスターシーンの構築やライティング環境はボルカが担当、レンダリングは両社で分担、最終コンポジットはモンブランさんが統括する、というかたちで連携しました。
加治佐:
ゾーン2〜5については両社で分担しました。その上でボルカ側が一貫して担当させていただいたのは、プロダクションアートとゲームエンジン周りの技術サポートですね。
金澤:
この割り振りも、最初から決まっていたわけではありません。「ここは全作業をボルカさんが担当するのは難しそうですね」「でも、こちらでやるとなると技術的にこれが足りなそうです」など、臨機応変に相談しながら作業を進めていきました。
——没入感(イマーシブさ)を実現する上で、当初から意識されたのはどのようなことでしたか?
金澤:
クライアントさんがおっしゃっていたのは「いわゆるCGの空間にはしたくない」ということでした。具体的には、多種多様な生き物を数多く登場させたいけれど、その世界観にも確かなオリジナリティをもたせたい、というご要望でした。
竹野:
その意味でも、ゲームエンジンによるコンテンツ開発を得意とされているボルカさんに、ルック開発の段階から入っていただく必要がありました。
単にハイエンド(ハイクオリティ)を目指すのではなく、アニメの背景美術のような独創性を兼ね備えつつ、臨場感も両立させる。そのバランスを探ることが、最初のチャレンジになりました。
特に背景のルックがとても大事でした。3DCGならではの立体感と、アニメ背景美術的な雰囲気を両立させたい。「そんな方向性のルックをゲームエンジンで実現するには?」という段階から、加治佐さんに色々とご相談していました。
尺の長さや、3面・4面投影といった要件をふまえると、ゲームエンジンによる画づくりが必須でした。
独自ルックの実現に、Unityのカスタマイズ性を活かす
——制作に用いたゲームエンジンの構成を教えてください。
加治佐:
初期のルック検証はUnityで行い、本制作ではゾーン3のみUnreal Engine(以下、UE)で、残りのゾーン1・2・4・5はUnityで制作しました。ちなみにゾーン6は実写合成による表現のためゲームエンジンではなく、Maya+Arnoldのプリレンダーを採用されたと伺っています。
——ゾーン3だけUEを採用した理由を教えてください。
竹野:
僕たちもUEとUnityのどちらも使っていますが、ゾーン3にアサインしたスタッフが使い慣れていたのがUEだった、といういたってシンプルな理由ですね。
——加治佐さんにお聞きしたいのですが、Unityを軸された理由は何ですか?
加治佐:
先ほどお話ししたように様式化された独自のルックを追求する必要があったからです。そしてボルカのTAチームは、Unityによるルックデブや表現に関するツールの開発にも精通しています。
今回はルックデヴの段階から、トゥーンのシェーダや、リムにセル調の質感が乗ったポストエフェクトなどを開発しました。またこれまでの経験上、パノラマ動画レンダリングには問題が起きやすいんです。開発の比重が大きいプロジェクトでは、細かなカスタマイズもやりやすいUnityの方が適していると考えました。
——具体的な作業の進め方を教えてください。
加治佐:
例えば左居さんから「こんな生き物を、こういう設定とデザインで表現してほしい」といった画づくりの方向性を提示していただきます。こうした全体の方向性を決める左居さんや各ゾーンのディレクターさんとのやり取りは、基本的に竹野さんに担っていただきました。
そして僕たちの方では、竹野さんから共有してもらった方針に沿って、技術検証と、動物や背景のプロダクションアートを描くことから始めました。プロダクションアートは、3DCG(プリレンダー)+ゲームエンジン(リアルタイム)で表現することを想定した上で、上野さんと擦り合わせた上で作成していただきました。
ルックがある程度定まってきたら、アセット制作を進めていきます。各ゾーンの制作では、シークエンスによって実作業をモンブランさんとボルカのどちらが担うのか、作業内容やその時々の状況に応じて話し合って決めていました。ただしコンポジットなど最終的な画の仕上げと、現地での投影確認・調整は、必ずモンブランさんにご担当いただいています。
またプリビズやアニメーション工程でも、演出的な要素が多いポイントについては、実作業をボルカが担当する場合も竹野さんが目を光らせてくださっていました。
くり返しになりますが、ゾーンごとのモンブランピクチャーズとボルカの担当割合は本当に様々です。主担当を共同で務めたゾーン1の制作では、序盤の縦長構図のシーンはボルカ、その後に続く横長構図のシーン以降はモンブランさんが担当する、といった具合でした。
——各ゾーンのディレクターさんとのやり取りはどのように行いましたか?
竹野:
ゾーン1・2・4のディレクションにはEPOCHの荒船泰廣さん、ゾーン3・5のディレクションには同じくEPOCHの大河 臣さんに立っていただきました。おふたりともご自身でもCG・VFXワークを行われることがあるディレクターさんなので、CGへの理解が深くて、円滑にコミュニケーションを行うことができました。
Vコンを作ってくださる場合もあれば、実際に作ってみないと勘所がつかみづらい表現については、僕たちの方でプリビズなどを作り、それをチェックしてもらいながら作業を進めることもありました。
プロダクションアートを挟むことで、立体化の方向性をそろえる
——ルック検証は、どのように進めましたか?
加治佐:
2025年3月中旬頃から、竹野さんたちとルック検証(ルックデヴ)を始めていました。大まかな方向性となるリファレンスは早期にいただいていましたが、「具体的にどんな表現に落とし込むのか、どんな手法で実現するのかは検証を行なった方が良いですよ」と提案させてもらいました。
最初はリアル寄りのものから、複数のルックパターンを作っていきました。キャラクターのルックデヴを経て、背景シーンのルック検証も行いました。まずは陸地の森を、その後に海を、というように順を追って進める計画でしたが、プロジェクト後半では検証フェーズを挟まずにそのまま本制作に入った箇所もあります。
——プロダクションアートでは、具体的にどのような調整を加えていたのですか。
加治佐:
大元となる動物のデザインは、クリーチャーデザイナーの山村れぇさんが担当されています。キービジュアルにも山村さんのデザインが使われていました。
僕たちの方では、立体に起こすにあたって山村さんの線画スケッチに着色したものをご提供いただき、それをベースにコンセプトアーティストの上野さんにご協力いただきながら「プロダクションアート」を作成してきました。3Dに起こしやすいよう構成し直し、あわよくばテクスチャにそのまま使えるようペイントしてもらう。この立体化の前にプロダクションアートの工程を挟むことで、立体としての捉え方やテクスチャのタッチを人によってばらつかせないねらいがありました。またゲームエンジンでは負荷の高い毛の表現を上手くスタイライズして形状で表現するといった方針もこの工程で判断しました。
そしてプロダクションアートに基づき、3DCG+ゲームエンジンに最適化するための調整をさせていただきました。
例えばカモシカの場合、コンセプトアートに対して、首周りの毛の整合性を取る調整、動いたときにめり込み干渉しそうな部分や手足の毛の大きさの調整、それからアウトラインの消し込み調整などを行いました。検証ムービーではアウトラインなしのものが採用されたためですね。
——様式化されたルックを、3DCGとして成立させるための表現開発もあったと伺いました。
陸:
ルックデヴの段階では、アニメ風のリム表現をポストFXで実現する仕組みや、イラスト調キャラクター描画シェーダ(カスタマイズを施したトゥーンシェーダ)、アニメ風の植物表現用シェーダなどを開発しました。
トゥーンとリアルのブレンドは、もともとゲーム案件で経験を積んでいた領域です。セル調と3Dの中間を探る案件が多かったので、それらから得た知見を活かすことができました。
——ルックデヴについて、特に難航した表現を教えてください。
加治佐:
ゾーン2「ダイブ・トゥ・ブルー」の画づくりが一番苦戦しました。ルック検証で作っていた2Dライクな背景とルックを維持したまま、移動距離の大きいパノラマの水中映像を作るのが、どうしても上手くいかなくて……。
ゾーン2では、海中でカメラがぐるりと回り込む演出が多く、さらにワンカットのように見せる必要もあったため、シーンを分割するタイミングも限られました。
海中表現は、データ的にも重くなりがちでリアルタイム描画の面でも難易度が高くなりました。そこで竹野さんから「ゾーン2はイレギュラー対応にしましょう。体験(没入感)を優先して、ルックは雰囲気として綺麗に見えれば大丈夫です(ルック検証で決めたテイストの再現にこだわらなくてOK)」とおっしゃっていただけたことで、一気に道が開けました。他のゾーンよりも立体感を強めに残しつつ、デザイン要素を反映させることで、全体をまとめ上げることができました。
逆にゾーン2以外は、ルック検証時の方向性のままスムーズに作ることができたと思います。
ゲーム開発の知見を、展示映像の量産に活かす
——陸さんを中心とするTAチームの具体的な取り組みをお聞かせください。
陸:
大きくは、プリプロ(プロトフェーズ)、本開発、納品前という3つのフェーズに分かれます。
プリプロでは「指針となるルックを実現するための表現手法の開発」を、本開発フェーズでは「実制作に必要なツールやシステムの開発と、それらを用いた制作」を、そして納品前フェーズでは「納品クオリティを達成するための最適化作業」をテーマに、様々な取り組みを行いました。
——本開発フェーズにおけるツール開発について具体的に教えてください。まずは「VR投影シミュレーション環境」とは、どのようなものですか?
陸:
展示映像の制作では、DCCツール上でのプレビューだけでは実際の見え方を把握しづらいことがよくあります。
そこで「ワンダリア横浜」の展示環境をUnity上に再現し、作成したCGアニメーションを、VRパノラマ動画として施設投影した状態で確認できるシーンを構築しました。このツールを使うことで、現地で観たときの速度感や位置関係を直感的に確認できるようになったと思います。
竹野:
VRによるテストも行なっていましたが、アニメーターとしては、作業しながらプレビューしたいときの方が多いです。このVRシミュレーターを使えば、After Effects上でマルチ投影したときの見え方を確認できるので、作業効率を上げることができました。
展示映像の場合、現地の環境を頭の中でイメージしながら作る必要があります。ですが、複雑な表現ほど、それが難しくなります。
例えばゾーン3は、4面プラス天井の5面に森の映像を投影する仕様で、映像としてはワンループで90度回転する構造になっています。ゾーン3に来られたお客さんが正面の映像に登場したヤマネコを見ていると、その動物がフレームアウトした後、向かって右側の壁に投影された映像にフレームインする、という具合です。
竹野:
ヤマネコが木を登って降りてくる間に、登場する位置が90度回っていき、4回転すると体験者は最初に見ていた正面の位置に戻るというわけです。
そうした構成のなかで、ヤマネコが森の木々を自由に移動していく様を描く必要がありました。「ヤマネコがどのくらい見えて、どのくらいのスピードなら体験者が気持ち良く追えるのか」など、アニメーションを付ける際に考えることが膨大にありました(苦笑)
カメラワークをざっくり付けたら、ヤマネコのキャラクターアニメーションも軽く付けてみる。そして、その見え方を確認してカメラやキャラクターの動きを調整する、という行き来をくり返していきました。
竹野:
ちなみにモンブランでは、制作初期に社内のオープンスペースで実寸サイズでの投影テストも行いました。
以前にVRゴーグルで現場環境を再現した際、VRで見るときと人間の視野で見るときでは感じ方がかなり違うことがありました。そこで一部分だけでもリアルスケールで投影できるようにしておきたかった次第です。クライアントの方々に「現場ではこのくらいの大きさに見えます」と説明する際にも役立ちました。
竹野:
生き物が数多く登場する案件だったので、僕の方でアニメーターひとりひとりに担当する生き物を割り当て、「飼育員のつもりで、愛情を持って仕上げてほしい」と伝えていました。「あなたは鳥マスターになってください」「あなたはヤマネコマスターです」といった具合に、指名していったんです。
モンブランのアニメーターたちとは、休日にクルマを借りて鹿児島県の平川動物公園へ行き、担当する動物たちの観察も行いました。今回登場する哺乳類や鳥類などをまとめて見られるのが、平川動物公園だったからです。
さらに、見た目の動きだけでなく、骨格の構造からしっかりと学んでもらった上で、アニメーション作業に臨んでもらいました。
——魚群制御システムは、ゾーン2向けのものですか?
陸:
その通りです。魚群を構成する魚を1体ずつ手動で配置すると大変なことになってしまうので、パーティクル的なアプローチで大量に配置し、制御する仕組みを開発しました。
群れ単位で追従するターゲットを作成し、アニメーターがロケーターにアニメーションを入れてキーを打つことで、コントロールできるようにしています。よりシンプルに、スプラインのラインで一定の領域を周回させることも可能です。
複数の魚群を表示させてもラグが起きないように、そしてなるべく精密に制御できる仕組みを模索しました。ちなみに、この案件における最大量の1.5倍ほどの数を表示させても、安定して動作することを確認しています。
——物量への対応としては、背景を軽量化するための工夫も多く行われたそうですね。
陸:
背景モデルは通常の映像制作の感覚で作ってしまうと、展示映像用途としてはデータ容量的にオーバーしがちです。
今回も、特にゾーン2に登場する尖ったサンゴ礁など情報量の多いモデルでは、できるだけ軽量化する必要がありました。実際の見え方を確認しながら、見えない領域をローモデルに置き換え、見た目として成り立つ範囲でLODモデルも利用しています。
作業の要領としては、中景や遠景にはブロック状のシルエットが綺麗な軽量モデルを置き、近距離やアップで映るものにだけハイモデルを使う、という使い分けをしています。
——納品前フェーズで開発したという「Character Sniper System」とは、どのようなものですか?
加治佐:
ゲームエンジンの仕様として、画面に小さく映るモデルほど描画が荒くなります。リアルタイム性を担保するには必要な処理ですが、映像としては見た目の綺麗さを保つことも不可欠です。
つまり、体験者の目が行くところさえ違和感がなければ、データとしては粗くてもOKというわけです。そこで、シーン中の任意の箇所を指定すると、バウンディングボックスで囲まれた領域だけを実際の出力解像度よりも高解像度でレンダリングし、最終出力に合成する仕組みを作りました。
『ワンダリア横浜』プロジェクトでは、遠くに見える生きものに利用することが多かったので「Character Sniper System」と命名しました。陸くんが別案件と並行して開発していたものを、制作終盤に導入しています。
陸:
展示映像系の案件でUnityから直接レンダリングしたときに、「もう少し見た目のクオリティを上げてほしい」とリクエストされることが何度かあったので、このシステムの開発に取り組んでいました。今回ようやく実案件に導入できたので、さらに改良を加えて、より使い勝手の良いツールとして運用していきたいと思っています。
——ボリュームベースのマテリアル調整機能も、量産を支えたそうですね。
陸:
ゾーン1は、同じ世界観で四季が移り変わるのですが、レイアウトは大きく変わらないコンテンツでした。そこで、簡易的に木の色や地面の色を変えられる仕組みを作りました。
ボリュームで色を変えたり、デカールのように草の色を変えたりするシステムです。これを利用することで、4つの季節分の背景制作を約4倍に高速化することができました。
加治佐:
ゲーム開発の仕組みを、映像制作に上手く持ち込んだ例だと思います。ゾーン1では、広大な背景を4Kサイズで何枚も並べる必要があった一方で、本制作に着手できたのがプロジェクト後期でした。
そこでTAチームがこのツールを使い、全ての背景を1ヶ月ほどで綺麗に揃えてくれました。Unityシーン上では、横から見ると平面的な切り貼りに見えるのですが、カメラビューではしっかりと立体的に見えるように仕上がっています。ボルカのスタッフが、このプロジェクトを通じて様式化されたルックのアセットを作るのが、格段に上手くなったと思います。
▲ ゾーン1『うつろう四季の彩り』より。ボリュームベースのマテリアル調整機能を活用することで、春夏秋冬それぞれの世界観を描きだしている
次なる目標は、インタラクション性を高めたイマーシブ表現
——オープン後の反響はいかがですか?
竹野:
SNSでも好評で、TikTokでは100万再生を突破した動画もあります。やはり出てくる動物たちがしっかり可愛くて見応えがあること、そして体験としての面白さが伝わっているのが嬉しいですね。
アプリ(※2)と連動して生き物を探し、そのきっかけで動物に詳しくなる、といった多様な楽しみ方ができる施設になっているので、ぜひ楽しんでもらえたらと思います。
※2:公式スマートフォンアプリ「ワンダリアアプリ」のこと。アプリを起動してスマートフォンのカメラを施設内の映像にかざすと生き物に関する情報を取得・閲覧できる。
——最後に、おひとりずつ今後の展望などをお聞かせください。
陸:
今回の案件に参加できてとても光栄でした。完成した海のゾーンを現地で初めて見たときは、こんなに大きなLEDのトンネルに投影されるコンテンツを、時間をかけて作ってよかったと感動しました。
この経験を活かして、これからも生き物表現に関わるツールや仕組みを作っていきたいです。
加治佐:
ボルカはプロダクションアートの作成から携わり、それをテクニカルに落とし込んで最終出力まで持っていくことを得意としています。
今回はその強みを、竹野さんたちに上手く拾って使っていただくことができました。個人的にも終始本当に楽しくて、悪い記憶は全部消えて、楽しかった記憶しかない状態です(笑)
ゲームエンジンを映像用途に利用する傾向は一時期増えましたが、今は少し落ち着いているかもしれません。ですが、『ワンダリア横浜』のような施設向けのコンテンツ制作では、ゲームエンジンのリアルタイム特性をダイレクトに活かせます。
手早く確認ができたり、複数のパターンを試せたり。そうしたゲームエンジン活用のメリットを強く感じた仕事でした。
金澤:
長期間の案件はこれまでも経験がありますが、今回は特に長かったですね。そうしたなか、ボルカさんをはじめ関わってくださった皆さんがとても協力的で、気持ち良くコミュニケーションさせていただけたことに感謝しています。
最後までクオリティを良くすることを考えながら走り抜けられた、すごく良い仕事でした。
竹野:
加治佐さんとは「次に組むときは、ぜひインタラクティブな要素のある企画をやりましょう」と話しています。
ただ見るだけではないところに広げていけると、面白いと思います。大変ですが、作り方そのものが変わる。そうした拡張性も、イマーシブならではの魅力だと感じています。
INTERVIEW & EDIT_NUMAKURA Arihito