世界最大級のCG国際コンベンションSIGGRAPH 2026が、7月19日(日)〜23日(木)の5日間に渡り開催された。SIGGRAPHでは毎年プロダクション・セッション(Production Sessions)が開催され、ハリウッド映画を中心にプロダクションの制作事例が披露される。

その中から、「The Fate of Humanity rests with Project Hail Mary. ILM's Contribution to visual effects behind the film」(映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』VFXにおけるILMの貢献)の内容を、要約してお届けする。

記事の目次

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    はじめに

    プロダクション・セッションの講演中は撮影禁止であるが、なるべく文面から会場の雰囲気が伝わるように執筆してみた。また、臨場感を出すため、チーム内での名前の呼び方や、ハリウッドの現場で使われている用語などは、そのまま記述している。

    パネラー

    ポール・ランバート&マグ・サルノフスカ/ Paul Lambert & Mag Sarnowska
    Production Visual Effects Supervisors
    トリスタン・マイルズ/Tristan Myles
    Visual Effects Supervisor, Industrial Light & Magic
    ショーン・ロス/Shaun Roth
    Associate VFX Supervisor, Industrial Light & Magic
    ロン・ラデツキー/Ron Radeztsky
    Astrometric Systems Modeling Engineer, Lucasfilm

    ▲SIGGRAPH 2026は、LAコンベンションセンターで開催された(筆者撮影)

    <1>2,018ショットを手がけた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のVFX制作

    ポール・ランバート(以下、ポール):VFXスーパーバイザー、ポール・ランバート(以下、ポール)です。

    この映画では、撮影監督のグリーグ・フレイザー(以下、グリーグ)、SFX(※)スーパーバイザーのクリス・コーボールド(以下、チャーリー)、プロダクション・デザイナーのチャールズ・ウッド、そして衣装デザイナーのグリン・ディロンやデヴィッド・クロスマンといった各部門の責任者たちと、極めて緊密に連携を取り合いながら、作業を進めていきました。

    ※SFX:煙や炎、爆発など、撮影時に映像に収める視覚効果をSFX(スペシャル・エフェクツ)と呼ぶ。一方、VFX(ビジュアル・エフェクツ)は撮影後のポストプロダクションで追加される視覚効果を指す

    マグ・サルノフスカ:私たちは約2年半にわたり、この映画の制作に携わりました。全ショット数は2,018ショットに及び、ポストプロダクションには1年以上を費やしています。

    今日は、どのようにポストプロダクションが進められたのかをご紹介します。まずは、ショーン・ロスに登壇していただきます。

    ショーン・ロス(以下、ショーン):おはようございます。ショーン・ロスです。

    映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』では、ILMの物理シミュレーション担当とアソシエイトVFXスーパーバイザーを務めました。今日は、ルーカスフィルムのシニア・ソフトウェア・エンジニアであるロン・ラデツキーもパネルに同席しています。

    また、トリスタン・マイルズ(以下、トリスタン)も登壇予定でしたが、残念ながら今回は来場が叶いませんでした。そこで今日は、彼が事前に収録した映像を3回に分けてお届けします。では、“バーチャル”なトリスタンにバトンタッチしたいと思います。

    トリスタン:(事前収録映像にて登場)ILMのVFXスーパーバイザー、トリスタン・マイルズです。

    本日は会場に伺えず、申し訳ありません。一時的な背中の痛みで歩き回ることが難しく、残念ながら来場できませんでした。今朝お集まりいただいた皆さんに感謝します。

    本日は、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の世界を映像として実現するために、ILMが手がけた作業についてお話しします。

    『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 OFFICIAL本予告

    トリスタン:私の経験上、制作の初期段階からポストプロダクションに至るまで、各部門が緊密に連携している作品こそ、携わっていて最も素晴らしい現場になります。本作もまさにそのような現場でした。

    これまでにもポールやグリーグと仕事をする機会に恵まれてきました。また本作の監督であるクリス(クリストファー・ミラー)とフィル(フィル・ロード)も気さくで素晴らしい方々で、一緒に仕事ができて本当に光栄でした。

    プロダクションデザイナーのチャーリーは常に現場にいて、ヘイル・メアリー号やロッキーの宇宙船について、制作の過程で生じた変更点などを随時共有してくれました。ポストプロダクションに入ってからも、彼のコンセプトチームと引き続き連携し、ロッキーの宇宙船の最終的な仕上げを詰めていきました。

    私はこの業界で約26年間のキャリアがあり、当初はコンポジターとして仕事を始め、その後VFXスーパーバイザーへと移行してきました。以前から宇宙や未知の世界に強い関心があり、現在進められている様々な宇宙探査ミッションによって、宇宙への関心が高まっていることもうれしく感じていました。

    その後、『ファースト・マン』(2018)でポールと仕事をする機会に恵まれました。この作品でポールは、リアリズムを徹底的に追求しようとしていました。それは非常に挑戦的でありながら、やりがいのある仕事でした。そして今回のプロジェクトでは、さらにその先を目指そうとしていたので、私も喜んでその挑戦を引き受けました。

    2024年6月、私はイギリスのスタジオで撮影に加わりました。各部門が連携して一丸となっている様子を肌で感じられる、素晴らしい機会でした。また、何か疑問があれば、原作者のアンディ・ウィアーに直接質問できる環境が整っていたことも大きな助けになりました。

    <2>Gaiaの観測データから構築するリアルな宇宙

    トリスタン:ILMが担当したのは、主に宇宙に関する要素です。サウンドステージに組まれたヘイル・メアリー号の巨大なセットを目にしたときは、とても印象的でした。エイドリアン星のシークエンスに対応するため、セットにはわずかに角度がつけられていたことも覚えています。

    細部までつくり込まれていたため、ポストプロダクションでヘイル・メアリー号のセット・エクステンションを行う際にも、必要な情報が十分に揃っていました。

    今日はヘイル・メアリー号の3Dプリントモデルを用意しましたので、これを使って説明しましょう。

    撮影準備には、何度も打ち合わせを重ねました。カメラを適切な位置に配置し、照明も正しい方向から当てる必要があったからです。

    例えば、ヘイル・メアリー号とロッキーの宇宙船には「遠心力モード」があります。トンネルで接続された2隻の宇宙船が回転することで、トンネル内に重力を発生させるという設定です。そのため、トンネルのショットについては特に時間をかけて撮影方法を検討しました。

    ポールは、「可能な限り、科学的に正確な宇宙の姿を描くべきだ」と提案しました。その中には、高感度で撮影したかのように、肉眼でも見える多くの星々を捉えるというアイデアも含まれていました。

    ヘイル・メアリー号には3つの燃料タンクがあります。これらは巨大なレフ板にも、遮光板にもなり得ます。そのため照明を設置する際には、燃料タンクが意図しない影を落とさないよう配慮しました。また、後のポストプロダクションも考慮し、映像の整合性が取れるように照明を組んでいます。

    一方、ロッキーの宇宙船は、太陽光が当たる角度によって見え方が変化するよう意図的にデザインされていました。これによって、異星人の宇宙船らしい異質な印象を生み出しています。

    撮影前から検討していたのが、リアルな宇宙をどのように構築するかという問題でした。リサーチの結果、ESAの宇宙望遠鏡「Gaia」による観測データ、Gaia Data Release 3(DR3)に辿り着きました。

    DR3には膨大な数の恒星のデータが含まれており、まさに私たちが求めていたものでした。ただし、そこから必要なデータを抽出するのは非常に困難な作業でした。

    この作業にはHoudini上でHythonを使用しました。先ほどお話ししたように、私の専門はコンポジットだったため、まさに試行錯誤の連続でした。プロジェクトの初期段階ということもあり、最初は私1人でこの作業を担当していました。

    DR3は非常に巨大なデータセットなので、処理にも時間がかかりました。しかし最終的に、私たちがよく知るミルキーウェイ(天の川)の姿が形成され始めたのを見て、この方法が機能すると確信しました。

    続いてロン・ラデツキーに、このデータを扱うために構築したレンダラなどについて説明してもらいます。

    ▲LAの市街地で見かけた、映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のビルボード(筆者撮影)

    <3>Gaia DR3を基に10億個の恒星をレンダリング

    ロン・ラデツキー:ロン・ラデツキーです。ルーカスフィルムのアドバンスド・デベロップメント・グループに所属しています。この仕事が私にもち込まれたときは、本当に感激しました。なぜなら、私は科学者だからです。物理学を専攻し、プリンストン大学で天体物理学の学位を取得して核融合を研究した後、NASAでも数年間研究に従事していました。

    ですから、科学や宇宙という、私が愛してやまない要素に取り組めることは、本当に素晴らしいことでした。目指したのは、映画によくある空想上の星空ではなく、実際のデータに基づいたリアルな星空を再現し、可能な限り現実に即した描写を行うことです。

    しかし、映画の舞台となるのは地球から約12光年離れたタウ・セティ星系です。もちろん、まだ誰も行ったことがありません。これは難しい課題であり、大きな挑戦でした。

    くり返しになりますが、これはファンタジーではなく、本格的なSF映画です。だからこそ、現実や実在する恒星を基にしたものにしようと努めました。

    一方で、映像として仕上げるためには、クリエイティブな表現をコントロールするための機能も必要です。科学的な背景を詰めながら、同時に映像として成立させる必要がありました。

    そこで役立ったのが、先ほど紹介したGaiaの観測データです。Gaiaは、私たちの銀河系に関する膨大な情報を収集してきました。

    私たちが選定したデータセットは全体で約9TBに及び、そのうち作業に必要な部分だけでも約1TBありました。扱うべきデータ量は桁外れで、その管理は最大の課題の1つでした。これをGPU上でレンダリングするのも容易ではありません。

    また、もう1つわかったのは、こうした観測データは科学的な研究を目的としたものであり、私たちのように画像をつくる人間のために用意されたものではないということです。恒星のデータには重複している箇所もあり、それらをクリーンアップして除去する必要がありました。

    こうして整理していくと、極めて明るい恒星から暗い恒星までを網羅したデータセットができ上がります。全てを合わせれば、現在得られている天の川銀河の情報を可視化した、巨大な銀河地図のようなものになります。今お見せしている画像の下部には、太陽系が位置する領域も確認できます。

    初期にHoudiniで行なったレンダリングテストでは、単純に点を描画したり、小さなメッシュを空間に配置したりするだけでは上手くいきませんでした。何十億ものオブジェクトが互いに重なり合い、真っ白な塊になってしまうのです。そこで、光学の原理に立ち返る必要がありました。

    単純に高解像度でレンダリングするだけでは、エイリアシングの問題が発生します。そこで利用したのがガウス関数です。ガウス関数は、強度が中心から外側へ向かって減衰していく分布を表現するのに適しています。

    超高解像度の画像をピクセルレベルで考えると、恒星そのものはごく小さな領域として表現されます。例えばシリウスのような明るい恒星は、点ではなく、周囲へのにじみや広がりを伴った像として見えることになります。

    色も興味深い要素です。恒星の色については多くのデータを調べ、検討を重ねました。恒星の温度データを色へマッピングすると、かなり正確な結果が得られます。そこで、そのデータをACES色空間へ変換し、浮動小数点のEXRファイルとして出力しました。

    EXR画像は非常に広いダイナミックレンジを保持できます。ここで画像のエクスポージャーを上げてみましょう……すると、突然たくさんの星が浮かび上がってきます。露出を少し調整するだけで、この1枚の画像の中にこれほど多くの星が含まれていることがわかります。さらに露出を上げていくと、ガスや雲、星雲も見え始めます。中には南半球からしか見ることのできない星雲も含まれています。

    これは、10億個ものガウシアン・スプラット(Gaussian Splats)を画像上に蓄積することで、10億個の恒星をレンダリングしたものです。

    <4>リアルタイムレンダラ「Helios」で探る宇宙船のライティング

    ショーン:さて、次はロッキーの宇宙船についてお話します。

    この船のデザインは、撮影前のかなり早い段階から始まりました。求められたのは、これまで見たことのない異星的な外観でありながら、同時に威圧感や脅威を感じさせないデザインでした。

    フィルムメイカーが求めるスケール感を探るため、様々なコンセプト・デザインが制作されました。特にヘイル・メアリー号と並んだ際、その巨大さを感じさせる強烈な存在感が求められていました。今お見せしているコンセプト・アートは、ILMのコンセプト・アーティスト、田島光二によるものです。

    直線的な形状から生じるエイリアシングやジャギーを、いかに回避するかも課題でした。また実際にレンダリングを始めてみると、光源の方向によって、船の見え方が想定以上に大きく変化することもわかりました。

    多数のスラット(羽板)がある状態で単一の光源を使うと、影にノイズが生じやすく、スペキュラの処理も難しくなります。そこで、サンプリング数などの設定値を大幅に引き上げることで対応しました。

    照明の方向については、撮影監督のグリーグがVFX用の撮影段階で設定していました。彼自身、燃料タンクなどの配置を熟知していたため、撮影素材が非常に優れた出発点となりました。それをベースに、必要に応じて調整を加えていくという流れです。

    調整作業には、主に「Helios(ヘリオス)」というツールを使用しました。これは実質的に、ILM独自のリアルタイム・レンダリング・システムです。詳細は後ほど触れますが、Heliosを使うことで素早くテストでき、レンダリングも1分足らずで完了しました。

    そのため、ポールやマグに映像を見せながら、「照明の当たり方はどうですか?」「影の出方はこれでいいですか?」「このシークエンスのこの部分では、ライトをどこに配置しましょうか?」といった確認を頻繁に行うことができました。

    リファレンスについては、NASAや宇宙関連の写真など、膨大な資料が手元にありました。そのため、宇宙船をどのような外観にするべきか、スペキュラの反射特性をどう表現するかといった点について、明確なイメージをもって制作を進めることができました。

    宇宙空間では、基本的に恒星が主要な光源となります。地上のように大気や周囲の環境から回り込む光はありません。そこで重要になるのが、恒星から直接届く光と、物体から生じるバウンス(反射光)です。

    宇宙空間のシーンでバウンスがどの程度影響するのかを把握するため、NASAの撮影データなどと比較しながら、4〜5回程度までバウンス回数を変えて検証し、適切な値を絞り込みました。

    次は、トリスタンが担当したアストロファージのシーンに移りましょう。再び、“バーチャル”なトリスタンに登場してもらいます。

    <5>赤外線撮影のルックを再現したアストロ・ビーチ

    トリスタン:アストロ・ビーチ(Astra Beach)は、アストロファージのサンプル採取シークエンスに登場します。グレースは調査のために宇宙空間へ出て、アストロ・ビーチの一部を採取しようとします。視覚的に非常に興味深く、どこかシュールな映像に仕上がっています。

    このルックのベースとなったのは、撮影監督のグリーグが現場で実際に撮影した映像です。グレースのクローズアップ撮影では、彼を囲むように赤外線LEDライトのアレイが配置されていました。

    さらに、被写体とカメラレンズの間には2枚のガラス板を設置し、その隙間に水を流していました。赤外線と可視光の両方を捉えられるよう改造したカメラで撮影することで、ハイライト部分に独特の屈折効果を加えるためです。

    ここでは、グリーグが撮影した実写素材と、私たちが制作するVFX素材を違和感なく馴染ませる必要がありました。クローズアップとワイドショットが切り替わっても、観客が作品の世界から引き戻されないようにするためです。

    クローズアップで奥行き方向に少数のパーティクルを追加する場合には、Nuke内で作業を完結できるよう、Nuke上にパーティクルシステムを構築しました。

    屈折やハイライトについては、初期段階で2Dによるテストを行いましたが、ディテールが足りず、グリーグの撮影素材に馴染ませるにはもう一工夫必要でした。

    そこでNuke上で、ジオメトリをベースにフラクタル状の形状をつくり、わずかにスミア(にじみ)のような質感を加えました。さらに、元のプレートがもつ赤外線映像特有の色味に合わせて最終的なカラーグレーディングを施しています。

    これらの要素をクローズアップや演出上必要な箇所へ慎重に配置し、実写素材と違和感なく馴染むようブレンドしました。

    一方、ワイドショットではHoudiniによるセットアップを使用しました。多様な形状のバリエーションを用意し、使い分けることで、調整が必要なショットにも柔軟に対応できるようにしています。こうして確かなベースを構築した上で、最後に微細な処理を加え、実写のルックへさらに近づけていきました。

    では再びショーンにバトンタッチし、エイドリアン星について話してもらいましょう。

    <6>実寸スケールと恒星データを活かした宇宙の画づくり

    ショーン:エイドリアン星(プラネット・エイドリアン)は、プランテーションのような緑豊かな場所にしたいと考え、初期デザインでは惑星の「緑」の表現を模索しました。

    地球の1.8倍の大きさをもつ惑星ですが、自転速度は地球の1.5倍に設定しました。これらは全てKarmaでレンダリングしています。コンポジットに必要な忠実度と柔軟性を確保し、自然な仕上がりを得るため、全面的にボリュームレンダリングを採用しました。

    シークエンスはオーロラの上空から始まり、その下へと抜けていきます。そのため、アセット上でも各要素の位置関係を正確に再現する必要がありました。

    惑星の描写には2つの外層を設けています。1つは地表から離れた上空にある「オーロラ層」、もう1つはその下にある「ベース層」です。熱圏を下層部に設定したのは、惑星のディテールをしっかりと視認できるようにするためでした。

    スケールについては、全てを現実のスケールに合わせて構築しました。科学的に正確な基準からスタートしたいという意図によるものです。相対的なスケールへ置き換えるより、現実世界のスケールを維持する方が手間が少なく、理にかなっていました。

    もちろん、それによって別の問題も発生します。例えば、データの位置が原点からあまりにも遠くなると、レンダリング時に浮動小数点演算の精度不足による問題が発生するといった、現場レベルの課題です。

    これらの映像では、Genチーム(ILMにおけるエンバイロンメント・チームの呼称)が、多数の形状バリエーションを収録したボリュームライブラリから必要なボリュームを選び、手作業で配置しました。その後、HoudiniのレンダラKarmaでレンダリングしています。各種パラメータを入力することで、リアルな光の散乱を再現しました。

    それでは、再び“バーチャル”なトリスタンに登場してもらい、ロッキーの救出シーンにおける演出上の工夫について語っていただきます。

    ▲映画の公式サイトでは、3Dプリント可能なモデルが公開されていた。こちらは、筆者の友人である矢ヶ﨑 裕二氏(LolaVFX/CGスーパーバイザー)が3Dプリント&塗装した作品より。モデルの中にはLEDライトを仕込み、光るように手を加えたという

    トリスタン:映画の終盤、グレースがロッキーを探すために船内へ引き返す際、実はロッキーの「偉業」の跡を垣間見ることができます。具体的には、燃料タンクに開いていた穴が塞がれている箇所です。ほんの数カットしか映りませんが、これは原作にもある細かなディテールで、映画にも取り入れられたのは素晴らしい工夫だと思いました。

    このシークエンスでは、宇宙をどこか暗く、生命の気配が薄い、「陰のある空間」のように見せることにしました。グレースが、宇宙空間を漂うロッキーの船を発見する場面の雰囲気に合わせるためです。「ロッキーはまだ生きているのか、それとも……」という緊迫したシーンですね。

    そこで、実際の星系データを使い、見かけ上、星の数が少なく見える宙域を選びました。実際に恒星が少ないわけではなく、天の川にある濃いガス雲によって光が遮られ、観測上、背後の星が見えにくくなっている領域です。

    これによって、ストーリーテリングの上でも、ある種の「生命の気配が薄い」印象をつくることができました。このシークエンスには非常によく機能したと思います。

    ではここからショーンにバトンタッチして、Helios(ヘリオス)システムと、それが本作でどのように活用されたのかについて話してもらいましょう。

    <7>Heliosと露出計で支えたバーチャルプロダクション

    ショーン:先ほど少し触れましたが、Helios(ヘリオス)はILM独自のリアルタイム・レンダラです。制作中も頻繁に活用し、監督や制作陣へ複数のバリエーションを提示したり、コンセプトを素早く検討したりすることで、意思決定を早めることができました。

    制作途中には、撮影監督のグリーグと共にバーチャルプロダクションによる追加撮影も行いました。

    Heliosの利点の1つは、VFX制作で使っているアセットをそのまま利用できることです。データを変換したり転送したりする必要がなく、ショットやアングルが決まれば、そのままシステムへ組み込むことができました。制作の最中に行われた今回の追加撮影において、このパイプラインとの高い親和性は大きな強みになりました。

    例えば、エイドリアン星のオーロラ表現ではヘイズ・ボリュームを使用しています。夕暮れ時のように、光が空気中を透過して見える効果を得られるもので、処理も軽く、リアルタイムで表示できました。

    特に大きかったのは、グリーグのようにバーチャルプロダクションへ精通した撮影監督自身が、実際に構図を決め、撮影できたことです。彼なら、私たちだけでは思いつかないようなアングルを見つけ出してくれますから。

    さらにHelios向けに独自開発した機能の1つが、露出計です。

    グリーグが撮影現場に参加し、ポールと空間内のISO値について話し合うなど、初期段階から実写撮影と同じ考え方で作業していたことを踏まえて開発されました。

    私たちは、グリーグが実際の撮影現場で使い慣れている道具を、バーチャルプロダクションの環境でも使えるようにしたいと考えました。そこでHeliosの技術チームが、撮影現場で使用する露出計の機能をHelios内に実装したのです。

    これによって、非常に高い柔軟性が得られました。実際にグリーグが設定したカメラアングルやライティングを見ると、本当に素晴らしいものがあります。単なる絵コンテや限られた情報だけで進めるのではなく、実際の撮影ツールに近い環境を使いながら、各部門が連携して作業できるメリットは計り知れません。

    先ほども申し上げましたが、あらゆる部門が連携して1つの作品をつくり上げていくプロセスに参加できたという意味でも、本作は私たちがこれまで携わった中で最高の作品の1つでした。

    ……以上です。なんとか時間内に収まりましたね! お忙しい中、プレゼンテーションをご覧いただき、ありがとうございました。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada