7月19日(日)から23日(木)までLAコンベンションセンターで開催されたSIGGRAPH 2026。そのSIGGRAPHに併催されるかたちで毎年開催されているのが、「DigiPro(デジタル・プロダクション・シンポジウム)」だ。これまで何度もSIGGRAPHを取材してきた筆者だが、DigiProは初参加となった。SIGGRAPH 2026開幕前日、7月18日(土)に行われたDigiProの模様をレポートしていこう。

記事の目次

    関連記事

    世界のVFX・アニメ・ゲームの最前線を一挙上映! Electronic Theater上映全15作品を紹介〜SIGGRAPH 2026(1)

    SIGGRAPHに併催、映像制作の最前線を探るシンポジウム「DigiPro」

    DigiProはDigital Production Symposiumの略で、2012年に安生健一氏(株式会社オー・エル・エム・デジタル技術顧問)を含む2名のシンポジウムチェア、2名のプログラムチェア、そしてJ.P. Lewis氏(当時、Weta Digital) の5人が共同で創設した。

    デジタル・プロダクションの現場に従事する人々のアイデア・技術交流の場として、初回のDigiPro 2012はドリームワークス・スタジオを会場に、100人ほどの小規模で始まった。現在では数百人が集う規模に成長し、チケットは完売になる人気ぶりだ。

    DigiProはSIGGRAPHと併催されているが、SIGGRAPHのコンファレンスではなく、独立したシンポジウムとして開催される。併催ということもありレジストレーションおよび参加費はSIGGRAPHとは別となっており、別途専用サイトから申し込むかたちとなる。

    SIGGRAPHでは数多くの応募の中から審査を通過した発表が披露される。審査員の中には研究者としてのバックグラウンドをもつ人も多いため、プロダクション的に興味深い発表内容であっても、入選しなかった、という場合もあるという。

    そうしたSIGGRAPHとは異なる視点から、優れたアイデアや技術を「現場寄り」のプロダクション関係者が集う場でシェアしていこう、というのがDigiProの立ち位置である。SIGGRAPHとはやや切り口の異なる興味深いプレゼンテーションが、朝から夕方まで、ランチ休憩を挟みながら行われる。

    ▲大勢の参加者で賑わうロビー。右のパネルはこの日のプログラム(筆者撮影)

    DigiPro 2026の会場は、SIGGRAPHが行われたコンベンションセンターに隣接するホテル「JW Marriott Los Angeles L.A.LIVE」のDiamond Ballroomだった。

    DigiPro公式サイトには「DigiProはVFX、アニメーション、インタラクティブ分野の世界トップクラスのアーティストやスタジオが集結し、アーティスト、科学者、エンジニア、プロデューサーが映像制作に革新をもたらすアイデアやテクニックを共有します」とあり、その発表内容も専門的かつユニークである。

    中にはかなりテクニカルな内容や、そのスタジオのツールやパイプラインの予備知識がないと理解が難しいプレゼンテーションも見られたが、これもDigiProの持ち味と言えるのかもしれない。

    ▲会場ロビーには、お土産用のDigiProのロゴ入りソックスが並んでいた(筆者撮影)

    では、DigiPro 2026の各プレゼンテーションの概要を紹介していこう。

    KPOP Chibi Face

    Chibi Face
    Armin Bruderlin(Sony Pictures Imageworks)、Joshua Beveridge(Sony Pictures Imageworks)、Irene Hernandez(Sony Pictures Imageworks)

    映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のキャラクターに極端な表情をつけるために開発された「Chibi Face」というシステムの紹介。「Chibi Face」とは、日本のアニメなどで見られる、キャラクターの顔や表情をデフォルメしてコミカルに強調する表現を、3DCGで実現するためのシステムだ。

    この作品では、既存のフェイシャルアニメーション・システムを拡張するのではなく、口や目のパーツは、顔のメッシュから独立したリグ付きのジオメトリとして扱う手法を採用している。これにより、アニメーションの表現がベースとなる顔のメッシュの解像度や変形に制限されずにコントロールできる。

    「Chibi Face」システムは、『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の多くのショットにおいて、キャラクターの口や目、あるいはその両方に使用された。分離された口や目が顔の一部として自然に馴染んで見えるように、アニメーター用のMaya専用ツールの開発に加え、Katanaによるライティング、そしてNuke上でのコンポジットを行うための新しいワークフローなどが構築された。

    『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』予告編

    Kora:物理ベースの炎シミュレーションシステム パイプラインおよびツールセット

    Kora:A Physics-Based Fire Pipeline and Toolset
    Alexey Stomakhin(Wētā FX)、John Edholm(Wētā FX)、Murali Ramachari(Wētā FX)、Aleksandr Isakov(Wētā FX)、Zahra Forootaninia(Wētā FX)、Marcus Schoo(Wētā FX)、Nicholas Illingworth(Wētā FX)、Joe Letteri(Wētā FX)

    Wētā FXの開発チームが、映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』で開発した炎シミュレーションシステム「Kora」の概要を紹介。

    Koraは、主に2つの要素で構成される。

    1:弱圧縮性、スパース(Sparse)、空間適応型、MPI分散処理に対応した物理ベースの燃焼ソルバなど。このソルバは、新規のエネルギーカスケード乱流モデルや断熱冷却への対応を特徴としている。

    2:Houdini上でのコントロール。高度な燃焼処理機能を、直感的かつアーティストにとって使いやすいインターフェイスを通じて提供。主な機能には、カスタマイズ可能な予混合燃料の供給、液気連成および気化、そしてディレクションや演出に対応するためのコントロール機能、さらには物理ベースのシェーディングやレンダーグラフとの統合などが含まれる。

    このプレゼンテーションでは、Koraのアーキテクチャとソルバがもつ技術の概要、映画『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』における実際の運用事例について解説が行われた。

    『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』日本版予告

    Gaussian Splattingによる、VFXシーン再構築の事例

    Experiments in Gaussian Splatting for VFX Scene Reconstruction
    Chen Wu(AWS)、Yin Song(AWS)、K. Ho(AWS)、GG Heitmann(Wētā FX)、Peter Hillman(Wētā FX)、Ibrahim Gabr(Wētā FX)、Kimball Thurston(Wētā FX)、Josh Passenger(AWS)、Viral Shah(AWS)

    AWSとWētā FXのコラボレーションによるプレゼンテーションで、オープンソースのコンポーネントを基盤としたGaussian Splattingを用いて、マルチカメラや移動カメラの映像から動的VFXシーンを再構築したテスト事例を紹介。

    このプロセスを通じて高速移動するカメラに対応するための「Shape of Motion」の拡張、近年の4D Gaussian Splatting手法の再実装、ベースラインの検証、そして既存の手法の様々な制約に対処するためのアルゴリズムの改良について、成功例や失敗例も交えた紹介が行われた。

    Ubisoftにおける、アセット制作のためのエージェンティックAIパイプライン

    From Brief to Scene:Agentic AI for Asset Production at Ubisoft
    Cyrus Rahgoshay(Ubisoft)、Nicolas Gaffiero(Ubisoft)、Patrick Sauvageau(Ubisoft)、Maxim Parisée(Ubisoft)、Anna Jaeeun Cho(Ubisoft)、Alessandro Bernardi(Ubisoft)

    Ubisoftにおける3Dアセット制作のための「エージェンティックAI(自律型AI)」パイプラインの紹介。このパイプラインは、DigiPro 2022で発表されたUSDマイクロサービス・インフラストラクチャを基盤としている。

    ①クリエイティブ・ブリーフの分析
    ワークフロー自動化プラットフォーム(n8n)とComfyUIによる画像生成パイプラインを組み合わせることで、会議の議事録やクリエイティブ・ブリーフから、コンセプト・プリビズ画像を含む構造化された「アセット・キャスティング・リスト」を数分で作成する。

    ②インテリジェントなアセット検索
    YOLO-World(オープンボキャブラリ検出)とCLIPベースのセマンティック検索を用いたパイプラインにより、6つの視点から埋め込み処理が施された3万点以上のプロダクション用USDアセット・ライブラリから、適合するアセットを1秒未満で検索・抽出する。

    ③シーンレイアウトの構築
    Model Context Protocol(MCP)を介して、Blenderと連携するAIエージェントが、自然言語による指示に基づき、検索されたアセットをシーン内に配置する。

    この3段階で構成される。主に開発中のコンテンツにおけるラピッドプロトタイピングやプレースホルダー(仮素材)の配置に活用されているこのパイプラインは、プリプロダクション段階のアセット関連作業にかかる時間を、数日から数分へと短縮することが可能となる。この恩恵として、クリエイティブディレクター、VFXスーパーバイザー、レイアウトアーティストは、作業を効率化し、よりクリエイティブな業務に専念できる。

    マルチエージェントAIシステム、Smart Set Assembly(SSA)のリサーチ事例

    Smart Set Assembly
    Matt Lathrop(The Walt Disney Studios)、Raymond McCord(Deloitte)、Abdullah Nasir(Deloitte)、Abby Wysopal(Deloitte)

    Disney StudioLABによるプレゼンテーション。複雑な3Dシーンにおけるセットドレッシング作業を行うアーティストを支援するために構築されたマルチエージェントAIシステム「Smart Set Assembly(SSA)」のリサーチ事例の紹介。

    このシステムは、「クリエイティブ・コントロールとプロダクション・クオリティのUSDシーンを維持しつつ、AIエージェントを使用することで、作業に時間がかかるセットドレッシングをどの程度効率化できるか」という観点で設計された。

    エージェントをオーケストレーションするフレームワークを5つ構築し、60種類以上の制約つき実行関数(Constrained execution functions)を実装。さらに、大規模言語モデル(LLM)を「頭脳」として使うエージェントが、単にコマンドを実行するのではなく、LLMエージェントを教育・構造化するプロンプティング手法を開発。

    大規模なUSDマテリアル・オーサリング“Squid”

    Squid:USD Material Authoring at Scale
    Eric Vezinet(Wētā FX)

    Wētā FXによる、VFX制作向けのシェーディング・パイプラインおよびマテリアル・オーサリング・ツールセットである「Squid」の紹介。

    HoudiniのSolarisに統合され、USDフォーマットを採用したSquidは、HoudiniプラグインとUSDベースのAPIから成るシステムで構成され、ハイエンドなVFXのルックデヴに求められる多岐にわたる要件を満たすべく設計された。

    自社開発レンダラManukaやGazeboを使用しての巨大プロジェクトにおいて、複雑なインスタンスが組み合わさった際のパフォーマンス向上を重視し、開発が行われた。

    基調講演「パンドラを巡る、私のジャーニー」

    My Journey Through Pandora
    Pavani Rao Boddapati(Wētā FX)

    Wētā FXのVFXスーパーバイザー、パヴァニ・ラオ・ボッダパティ氏による基調講演。ボッダパティ氏が映画『アバター』のライティングアーティストとして初めてニュージーランドへ渡った思い出から始まり、Wētā FXでの過去18年間にわたるキャリアと軌跡を語った。

    ボッダパティ氏は、Wētā FXに加わった当初、同社の制作パイプラインに適応するために経験した思い出について紹介。また、様々なタスクを担当していく中で、いかにしてそのパイプラインの発展に貢献したかについても言及した。最終的には、『アバター』シリーズの続編における数々の賞を受賞した「水」の表現のパイプライン設計において、中心的な役割を果たすまでに至る。

    さらに、チームが直面し克服した数々の課題や、それらの経験がいかにして映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』および『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の画期的な映像表現に繋がったのか、エピソードが披露された。

    映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』本予告編

    ハンドオフの自動化:レイアウトから始まりアニメーション・レビューに至るまでの、ハードコードされたQCスクリプトからマルチエージェント・アーキテクチャへの移行

    Automating the Handoff: From Hardcoded QC Scripts to a Multi-Agent Architecture for Layout-to-Animation Reviews
    Cole Pearsall(Symbiote)、Alaina Hardie(Symbiote)、Mo Sakr(Symbiote)、Jonasz Bigda(Symbiote)

    「ハンドオフ」とはVFXパイプライン上で次の部署にデータを受け渡す手続きを指す言葉。スタジオによっては「パブリッシュ」と呼ぶケースも多い。例えば、クライアントからOKが出たカメラの新バージョンのアニメーションデータは、パイプラインの下流にある各部署へ「ハンドオフ」、「パブリッシュ」される。

    これまでVFXにおけるAIの活用は、主に「画像生成AI」について焦点が当てられることが多かった。しかしここでは、「VFXスタジオの制作パイプラインにおける、各ショットに付随する運用・管理タスクのAI活用」に着目している。

    パイプラインの中で、レイアウトからアニメーションへのデータ受け渡し「ハンドオフ」。あるショットが、次のプロセスへ進める状態にあるかを確認するには、タスクのステータス、バージョン管理、そしてストーリーボードやプレビズとの整合性、シーンの整合性、レンダリング状況など、互いに連携していない複数のシステムにまたがる要素をチェックする必要がある。専任のショット管理チームを置くVFXスタジオでも、この品質管理には時間と手間がかかる場合が多い。

    そこで同様の検証作業をエンドツーエンドで約27秒(推論コストは1回あたり約10セント)で実行するAIマルチエージェントシステムが提案された。

    このシステムは、検索機能を通じてスタジオ固有の慣習を把握し、認証情報や映像データをローカルに保持するプロキシ経由でアーティストのワークステーション上のDCC(デジタルコンテンツ制作ツール)での操作を実行し、根拠となる証拠を明記した構造化された合否判定レポートを出力。

    このアーキテクチャは、基本構造を変更することなく、「クライアントへの納品用データの取り込み」や「アセット検索」といった他の制作ワークフローの実現にも応用できる。こうして得られた知見やシステム上の限界、そして今後のアーキテクチャ拡張プランについても紹介された。

    プレビズから完成まで:リアルタイム技術による長編アニメーション制作の再考

    Previs to Final Pixels: Rethinking Feature Animation Production in Real-Time
    Olivier Pinol(Dwarf Animation Studio)、François Tarlier(Dwarf Animation Studio)、Maxime Robinot(Dwarf Animation Studio)、Vincent Callede(Dwarf Animation Studio)

    Dwarf Animation Studioは、リノ・ディサルヴォ監督による80分の長編アニメーション映画『Twisted』を、プリプロダクションを含め16ヵ月という短い期間で制作した。

    クリエイティブを損なうことなくスケジュールを達成するため、Unreal Engine 5.6を最終的なレンダリングおよびコンポジティング環境とするパイプラインを構築。

    従来の作品では、RenderManを使用し1フレームのレンダリングに35〜60分を要し、200台以上の専用レンダリングノードが必要だった。しかし、この『Twisted』では、10台未満のファームノードでポストプロセスを含む2K解像度のレンダリングが、1フレーム約3秒で完了した。ここでは、これを実現するために構築した技術システムについて解説。その例として、

    ・ショットグループの自動生成機能を備えた、ネストされたUnreal Level Sequence上でのマルチショットライティングワークフロー
    ・FBXとAlembicを組み合わせたデュアルフォーマットアニメーションパイプライン(アセットごとのタグ付けとデータ駆動型Blueprintアーキテクチャを採用)
    ・シークエンスごとに環境データを一度だけ出力しショットごとのオーバーライドファイルは軽量化するよう改良されたUSDエクスポータ
    ・カスタムシェーダに基づくルックデヴパイプライン
    ・NVIDIA GeForce RTX 5080の16GBという厳しいVRAM制限下でのパフォーマンスに対する挑戦

    が紹介された。また、データへの同時アクセスによって生じた各部門での問題点や、現場のアーティストを集中型ネットワークドライブパイプラインからバージョン管理されたローカルワークフローへと移行させる際に生じた問題などについても解説があった。

    フロントエンドから最終まで:長編アニメーション制作における大規模2D3Dハイブリッド・バックエンド・パイプラインの構築

    From Front-End to Final Frames: Building a 2D/3D Hybrid Back-End Pipeline for Feature Animation at Scale
    Vijoy Gaddipati(Paramount Animation)、Andrew Titcomb(Paramount Animation)、Karyn Buczek Monschein(Paramount Animation)

    Paramount Animationはこれまで、主にフロントエンドのクリエイティブ・スタジオとして機能し、CG制作のワークフローから最終納品までの工程は外部ベンダーと連携して進めてきた。

    しかし、アニメーション作品『アバター 伝説の少年アン』においては、CGレンダリング、2D手描きアニメーション、2.5Dのプロジェクション(投影)ベースの手法を融合させたハイブリッドなビジュアルスタイルが求められ、単一のベンダーがその全工程を一貫して担当することは不可能だった。

    そこで、これまでバックエンド制作の経験がほとんどなかったスタジオで、5名のTD(テクニカルディレクター)チームが62名のアーティストを支援する体制を整え、データの受け渡し・レイアウト・コンポジット・エフェクト・レンダリングを網羅する全く新しい社内バックエンド・パイプラインを5ヵ月未満で構築した。

    ここでは、USDからNukeへのアセンブリシステム「FLO」、ベンダーの特性を考慮したデータの受け渡し時の検証機能、パスに依存しないコンポジティングや手描きアニメーションのタイミング調整・ショットごとのローカライズを可能にするNuke用ツール群、HoudiniとUSDを統合したFXワークフロー、そしてDeadlineによるレンダリングファームの自動化について解説。約1,500ショットにおよぶ制作事例を紹介するとともに、制作中に得られた情報なども紹介された。

    『アバター:伝説の少年アン』予告編

    シェーダボールで、中に人が入れる“ゆるキャラ”マスコットをつくってみる

    A Wearable Shader Ball
    Takahito Tejima(Polyphony Digital)、André Mazzone(ILM

    DigiPro 2026の最後を締め括ったプレゼンテーションは、ポリフォニー・デジタル シニアマネージャーの手島孝人氏、そしてILM リード・エンジニアのアンドレ・マゾン氏による発表だった。タイトルからして「A Wearable Shader Ball」という何やら難しそうなテーマであり、筆者はシェーダやマテリアル関連の技術的な内容であろうかと予測していた。しかし蓋を開けてみると、爆笑もののプレゼンテーションであった。

    この発表では、シェーダ開発で使用される3Dモデル「シェーダボール」をモチーフに、中に人間が入ることのできる「ゆるキャラ」を制作していく……という試練と挑戦の日々が紹介された。シェーダボールというデジタル上の基準オブジェクトを、「移動可能な物理的実体(ゆるキャラ)」へと変換する試みだ。

    その始まりは2年前のSIGGRAPH Asia 2024まで遡る。SIGGRAPH Asia 2024の「Real-Time Live!」で、セッションチェアを務めた手島氏。そこでこの「シェーダボールのゆるキャラ化」という企画を思い立ち、ILMのアンドレ・マゾン氏に「あなたがつくったシェーダボールを、ちょっと使用したいのですが」と相談したそうだ。マゾン氏は趣旨を理解した上で、これを快諾。そこから手島氏による開発の日々が始まったのだそう。

    ▲ILMアンドレ・マゾン氏の元に、手島氏から「シェーダボールを使用したい」と打診があった(画像はアンドレ・マゾン氏のプレゼンテーションより)

    まず手島氏は奥様からミシンの使い方を習い、布で簡単な「ゆるキャラ」を制作。その後、空気注入式「ゆるキャラスーツ」の開発を本格的にスタートさせた。

    人が入れるサイズのスーツ開発では、様々な課題に直面した。加圧された膜構造の中でモデルの特徴である凹面形状を維持すること、構造的な完全性と着用者の動きやすさを両立させること、そして厳しい制約下で迅速なプロトタイピングを行うことなど。

    材料の性能評価や気流の最適化、構造工学的なアプローチを駆使することで、堅牢かつイベント・ステージでの運用に耐えうるマスコットを完成させた。

    この日のプレゼンテーションでは、形状設計、材料選定、空気ファンの取りつけ、そしてライブイベントという環境下での運用にいたるまで、一連の開発経緯が紹介された。こうして完成した「シェボちゃん」(笑)は、SIGGRAPH Asia 2024の「Real-Time Live!」でお披露目されたという。

    ▲DigiPro会場に登場した「シェボちゃん」にスマホを向ける参加者(筆者撮影)

    そしてDigiProでのプレゼンテーションの最後にも、何と「シェボちゃん」が、会場にサプライズで登場。場内は拍手と爆笑に包まれていた。

    このように、DigiProでは様々なジャンルの発表が行われ、大変興味深いシンポジウムであった。

    所属スタジオのTシャツを着たアーティスト、エンジニア、DCCツールの開発・販売に携わる人など参加者の顔ぶれも幅広く、会場のロビーでは知り合いや元同僚と握手したりハグする姿も見られ、まるで同好会のような雰囲気に包まれていた。

    来年参加してみたいと思った方は、ぜひDigiPro公式サイトをチェックしてほしい。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada