2026年7月22日(水)〜24日(金)、国内最大級のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2026」が開催された。約200ものセッションが行われた同カンファレンスから、本稿では「『モンスターハンターストーリーズ3』におけるアニメ調レンダリングを徹底解剖!」の内容を紹介する。


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    『MHS3』開発における3つの課題

    『モンスターハンターストーリーズ』シリーズは、『モンスターハンター』(以下、MH)シリーズの世界をアニメ調グラフィックで描くコマンドRPGだ。リアル調グラフィックを特徴とする『MH』シリーズ本編との差別化も、本シリーズの特徴となっている。

    『モンスターハンターストーリーズ3 ~運命の双竜』
    www.monsterhunter.com/stories3/ja-jp/
    ©CAPCOM

    シリーズ3作目となる『モンスターハンターストーリーズ3 ~運命の双竜』(以下、MHS3)では、カプコンの内製エンジンRE ENGINEでアニメ調レンダリングに挑戦した。フォトリアル作品で培われてきたRE ENGINEにとって、NPRへの本格的な対応は初の試みとなり、レンダリングパイプラインにまで踏み込んだ対応が必要になったという。

    講演には、株式会社カプコン CS第二開発統括 開発三部 テクニカルマネジメント室の牛嶋啓太氏と、システム基盤部 アプリケーション基盤室の渡辺 竜氏が登壇。牛嶋氏はテクニカルアーティストとしてシェーダやレンダリング、ワークフロー整備を担当し、渡辺氏はプログラマーとしてグラフィックやライティング関連の実装、開発ツールの実装を担当している。

    ▲左から 渡辺 竜氏(株式会社カプコン CS第二開発統括 システム基盤部 アプリケーション基盤室)、牛嶋啓太氏(株式会社カプコンCS第二開発統括 開発三部 テクニカルマネジメント室)

    まず牛嶋氏は、開発における課題として、「グラフィックの正統進化」「内製エンジンの新規路線開拓」「効率的なグラフィック開発」の3点を挙げた。「似たような課題を抱えながら奮闘されているNPR開発者の方も多いのではないでしょうか」(牛嶋氏)。

    以降は、この3つの課題に対し、『MHS3』でどのような技術的アプローチを採ったのかが順を追って紹介された。

    ビジュアルのコンセプトと基本設計

    牛嶋氏は、まず本作のビジュアルコンセプトを紹介した。

    背景では、「広大な自然を描く」をテーマに、アニメの背景美術のような表現を目指した。PBRパイプラインによるリッチなレンダリングを行いつつ、情報量を整理したテクスチャとシェーダ表現により、自然環境を描いている。

    キャラクターでは、「劇場版風・少年漫画から青年漫画風」をキーワードに、前作より線の密度を高めたデザインを採用。よりリッチなアニメ調表現を目指しながらも、『モンスターハンターストーリーズ』らしいセル調の表現は崩さないことを重視した。

    カットシーンでは、「ドラマチックにつくる」を掲げ、ライティングアーティストが自由にライティングできる環境を整備。さらに、アニメの撮影効果に近い付加表現を取り入れることで、演出の強化を図った。

    続いて牛嶋氏は、キャラクター表現の基本設計について解説した。重視したのは、「情報のまとまりを大事にすること、記号的な情報の中に複雑性を持たせる」という考え方だ。

    セルアニメでは、明部と暗部、ハイライト、リムライトといった情報が記号化され、シンプルに整理されている。本作では、その特徴を維持したまま情報量を増やすため、陰影やハイライトの柔らかさといった材質ごとの特徴をシェーダで制御し、固定値として管理。量産性とセルルックの統一感を両立させた。

    レンダリングパイプラインの再設計

    RE ENGINEでは、タイトル開発チームがエンジン本体を直接改造することはできない。そのため、描画仕様を早期に固めるためのプロトタイプとして、まずはタイトル側でカスタマイズ可能なフォワードライティングを用い、キャラクター表現の実装を進めた。

    フォワードライティングは、キャラクターごとに異なるライティングルールを適用しやすく、アニメ調表現との相性も良かった。しかし、解像度の上昇がそのまま描画負荷の増加につながるため、キャラクター描画時のフレームレートが不安定になり、最も重いケースでは約7fpsまで低下したという。

    一方、この実装を通して、本作に必要な描画機能やレンダリングパイプラインの要件も明確になった。「フォワードライティングでの実装からディファードライティングへの移行を進めていきました」(渡辺氏)。

    この過程で、RE ENGINEの新機能「ユーザーライティング」が開発された。これにより、ディファードライティングのライティングコードをIDごとにタイトル側でカスタマイズできるようになり、アニメ調表現に必要な追加のGバッファも定義可能になった。

    ユーザーライティングでは、キャラクター向けにGバッファを4枚追加。基本色、影色の比率、各種ID、エミッシブ情報(LITとShadowで分離)などを格納し、GバッファのIDによってシェーディングのプリセットを切り替えるしくみを採用した。これにより、Gバッファだけでは保持しきれない影の刻み方やハイライトの柔らかさといった情報も効率よく扱えるようになったという。

    「画の変化は大きくない状態で移行ができた」(渡辺氏)と語るように、描画負荷も大幅に削減されたとのこと。

    最適化では、シェーダ機能単位でマテリアルを分割し、高負荷な機能を必要最小限の領域に限定したほか、不要になったパラメータの削除や定数化も実施。さらに、RE ENGINEのデバッグビューを活用し、テクスチャのミップマップやシェーダ命令数を確認しながら最適化を進めた。

    セル調表現を支えるシェーダとライティング

    続いて、キャラクターアセットの基本仕様が紹介された。キャラクターモデルは、防具・モンスター・武器などカテゴリごとに最適な基準スペックで管理されている。

    防具や衣装の頂点数は平均5万で、処理負荷は頂点数ではなく、エンジン上での描画時間を基準に管理している。テクスチャは、ベースカラーに関わるものに4K解像度を採用し、セル調表現で重要となる輪郭線の美しさを確保。一方、シェーダ計算用の各種テクスチャは解像度を抑え、メモリ使用量を削減している。

    キャラクターメッシュには、表現を補助する専用メッシュも組み込まれている。顔には、アウトラインの太さをアーティストが細かく調整できる背面法アウトライン用メッシュを内包し、意図的に強調したい輪郭はポリゴンで作成したラインを重ねて表現。また、「シャドウメッシュ」と呼ばれる専用メッシュも用意し、鼻筋や眉間などに生じる落ち影を制御することで、ノイズ状のシャドウが発生することを防いでいる。

    キャラクターシェーディングは、ライト方向と法線方向の内積(N・L)をベースとした2階調の方式を採用した。SDFフェイスシャドウのような手法も検討したものの、多光源・多方向から自由にライティングするというコンセプトとは合わず、採用は見送られた。

    ハイライトは、フォンモデルで計算したスペキュラをベースに、カラーや大きさをマスクマップで制御する設計としている。ハイライトカラーはアーティストがテクスチャで直接指定でき、リオレウスの角では色ムラを加えて鉱石のような質感を表現するなど、「記号的な情報の中に複雑性をもたせる」というコンセプトを具現化している。また、ハイライト計算はメインライト1灯のみに限定し、多光源による情報過多を防いだ。

    さらに、エッジハイライト、グラデーションハイライト、目の表現といった専用シェーダも実装した。エッジハイライトは、視線方向と法線方向の内積を利用して輪郭付近へハイライトを加え、ライトの当たり方によって情報量が不足する部分を補うもの。グラデーションハイライトは、1Dテクスチャで定義したグラデーションをブレンドし、甲虫の羽のような構造色の表現に利用している。

    目の表現では、まぶたの落ち影をシェーディングへ組み込むことで情報量を増やした。矯正影マップとハイライト用αマップはジョイントの動きに合わせてUVをスライドさせ、瞬きと連動。さらに、視線方向に応じてハイライト位置を補正することで、表情によってハイライトが完全に隠れてしまうことを防いでいる。

    ライティングについては渡辺氏が解説した。基本色・影色・2影色・フィルライト・リムライトの5要素を基本構成とし、キャラクター専用のディレクショナルライトを用意。背景用ディレクショナルライトと同期させつつ、影色のティントやGIの影響など、一部はキャラクター専用の設定としている。「従来のワークフローに沿ったライティング作業が行えるようにしています」(渡辺氏)。

    特殊なライトとして「フェイクライト」も実装した。塗り分けた色に対し、距離ベースの照度をソフトライト合成するもので、基本色・影色への加算率や法線の考慮度をライトごとに設定できる。影面へ青みを加え、鉱石の地面からの照り返しを表現するなど、演出に奥行きを与えている。

    GIについては、そのまま利用するとフォトリアル寄りの結果になってしまうため、特定方向のGIのみを取得し、影色やフィルライトへ反映。基本色は本来の色味を維持したまま、影色によってフィールドへの実在感を演出している。

    落ち影には、セル調表現向けのシャドウマップフィルタを独自実装した。ガウシアンフィルタで境界をグラデーション化した後にステップ処理を施すことで、ジャギーを抑えつつ、シェーディングと同様の2階調によるシャープな境界を実現している。

    背景表現を支えるシェーダとポストエフェクト

    背景は標準的なPBRシェーディングをベースとしながらも、そのまま利用するのではなく、各種パラメータを調整している。

    「PBRとNPRを対立するものとして扱うのではなく、PBRシェーディングの特性を細かく理解した上で、どこを利用し、どう崩してアニメ調表現を行うかという考えで設計しました」(牛嶋氏)。

    特に、フラットなシェーディングやスペキュラに関わるパラメータの扱いが重要だったという。テクニカルアーティストが、それらの情報がGバッファへどのように書き込まれ、ライティングへ作用するのかを詳細に調査し、描画仕様へ反映した。

    背景用シェーダに実装した代表的な機能が法線加工だ。草や木の葉といったオブジェクトに対し、頂点シェーダで法線を加工することで、柔らかなシェーディングを実現している。

    法線をオブジェクトスペースの真上へ揃える「ベンドノーマル」は地面の草などに、指定したポイントから各頂点へ放射状の法線を計算する「ラジアルノーマル」は木の葉などに利用。シェーディングをフラットにすることで、セル調らしい陰影をつくり出している。

    水面シェーダには、湖と川、それぞれ専用の実装が用意されている。湖では4枚のノーマルマップをブレンドし、泡やコースティクスを加えている。描画面積が大きくなることを考慮し、近距離では3枚のノーマルマップによる高品質なブレンド、遠距離では専用の1枚へ切り替えることで処理負荷を抑えている。

    一方、川では水流を強調するため、各種シェーダ処理をUVのY方向へスクロールさせている。専用のマスクマップは使用せず、UVだけで制御することでメモリ使用量も削減した。

    ポストエフェクトも重要な役割を担う。代表的な機能として、画面端へ任意のグラデーションを加える「フレア」と「パラ」、深度や法線を利用して輪郭を抽出する「アウトライン」、シェーディングベースとポストエフェクトベースを場面ごとに切り替える「リムライト」、空気遠近法のような効果を加える「カスタムフォグ」、キャラクターのみに適用するブルーム風表現「リフュージョン」、シーン全体の影色を変更する機能などが紹介された。

    アウトラインはキャラクターごとにプリセットを使い分けており、人型キャラクターとモンスターで検出感度を変更することで、モンスターで輪郭線が過剰に抽出されることを防いでいる。リフュージョンは最大輝度以外の色を抑えることで彩度を維持しつつ、キャラクターの肌の赤みを補正し、SSSの代替としても機能している。

    また、モンスター図鑑専用の手描き風フィルタも実装された。深度・法線・ライト方向からマスクテクスチャの利用方法を決定するハッチング表現を採用しており、1枚のマスクテクスチャで薄い影・濃い影・影の向きを表現している。

    量産と検証を支えた開発環境

    量産と検証を並行して進めるため、開発チームでは様々なツールも整備した。

    まず、Substance 3D Painter用のプレビューシェーダを開発した。特殊な個別機能を除く多くのシェーダ機能をDCCツール上で再現するもので、RE ENGINEを起動せずにシェーダの見え方を確認しながらテクスチャを制作できる。これにより、イテレーションを高速化した。また、Mayaでも強制影などの機能を実装したシェーディングプレビューに対応している。

    モデルビューアは、モデルやモーション、ライトの当たり方まで幅広く確認できるツールだ。画づくりや各種しくみの検証が頻繁に行われる本作において、イテレーションの維持に大きく貢献したという。

    さらに、シェーダのデバッグ描画ツールも用意された。テクスチャの貼り付け結果や、ハイライト、エッジハイライトなど、シェーダ処理の途中結果を出力できるほか、デバッグ描画用のシェーダ処理は任意のタイミングで静的に除外することも可能だ。アーティストの制作効率を最優先に考えたデバッグ環境を構築している。

    本作では、フォワードライティングによる描画仕様の早期策定からディファードライティングへの移行という大きな方針転換を経ながらも、アートスタイルを維持したままレンダリングパイプラインを刷新した。

    「NPR分野はアートスタイルに応じて多様な実装方法が生まれるため、先人の知見は必要不可欠でした。今回の講演も、そうした知見の循環の一部となればと思い、実装事例や開発のながれをできるだけ共有させていただきました」(渡辺氏)。

    RE ENGINEといえばフォトリアル表現の印象が強い。しかし本講演では、そのレンダリングパイプラインをNPRへ対応させるまでの試行錯誤が、実装レベルまで踏み込んで紹介された。レンダリング技術だけでなく、量産を支えるツールやワークフローまで共有された点も印象的だった。フォトリアル向けエンジンで異なるアートスタイルへ挑戦する開発者にとって、多くの示唆を与えるセッションだった。

    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada