2026年7月22日(水)〜24日(金)、国内最大級のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2026」が開催された。約200ものセッションが行われた同カンファレンスから、本稿では「『ドンキーコング バナンザ』もっと壊したくなる世界 ~驚きデストラクションと濃厚な絵作り~」の内容を紹介する。

記事の目次

    ゲームコンセプトを支えるアート方針の成り立ち

    2025年7月に発売された『ドンキーコング バナンザ』は、広大なフィールドのほぼ全てを破壊できるという大胆なゲームデザインを採用したタイトルだ。その圧倒的な破壊表現は、プレイヤーだけでなく、多くのゲーム開発者にも強いインパクトを与えた。

    『ドンキーコング バナンザ』
    www.nintendo.com/jp/games/switch2/aaaca/index.html
    ©Nintendo

    2026年のCEDEC AWARDSでは、本作がエンジニアリング部門で「ボクセル技術による地形破壊と物理演算の高度な統合」、ゲームデザイン部門で「キャラクターの魅力を活かした破壊による爽快な探索体験」、ビジュアルアーツ部門で「完全に破壊可能な3D世界を実現したボクセル技術」がそれぞれ評価され、3部門で最優秀賞を受賞した。

    CEDEC AWARDSでは、ゲーム業界のクリエイターで構成されるノミネーション委員会が優秀賞を選出し、その後、CEDEC受講者と講演者の投票を経て最優秀賞が決定される。本作が3部門で最優秀賞に選ばれたことからも、業界内で高い評価を得たことが窺える。

    本セッションでは、その中でもアート面から「もっと壊したくなる世界」をどのように実現したのかを解説。任天堂より、アートディレクターの渡辺大介氏、地形リードアーティストの濱田 亮氏、グラフィックスプログラム担当の佐々木浩幸氏が登壇した。

    渡辺氏はまず、アート方針を考える上での根本的な姿勢を語った。「大事にしたかったのは、見た目を飾るだけではない、ゲームコンセプトそのものを支え、強めるアートであることです」(渡辺氏)。

    本作のテーマは「破壊」だ。そのテーマをゲーム体験として具体化するため、開発チームは「驚きデストラクション」というゲームコンセプトを掲げた。壁を壊してアイテムを発見する、岩山を丸ごと崩す、NPCをパンチするとバラバラに壊れるなど、破壊をきっかけに予想外の出来事が起こる驚きを、ゲーム全体に散りばめることを目指したという。

    この「驚きデストラクション」をアートの出発点に据えた渡辺氏は、ビジュアル面でも破壊と驚きが結びつく表現を追求した。「破壊したことで何かが起こって、それが驚きにつながる。アートとしては、その一連の流れの起点となる“破壊の瞬間”に『え、これが壊せるの?』と思わせることで、より直感的な驚きを与えられるのではないか、と考えました」(渡辺氏)。

    一般的に、形状が整理されていてパーツの区切りがはっきりした地形は、「壊せること」が事前にプレイヤーに伝わりやすく遊びとしては理解しやすい。しかし壊したときの驚きは想定内に収まりやすく、意外性に欠ける。

    そこで本作では、あえて逆のアプローチを採用した。舞台をパーツごとに区切るのではなく、ひと続きの広大な地形として構築。リアリティのある質感と高密度な配置物による「濃厚な画づくり」によって、「これが壊せるの?」と思わせる世界を実現し、破壊の驚きをより大きなものにした。

    そんな濃厚な画づくりを達成するための手法として採用したのが、ボクセルとポリゴンモデルの融合だ。破壊による形状変化に適したボクセルをベースにしつつ、質感を強調した表情豊かなマテリアル表現を施し、その上にポリゴンモデルの配置物を組み合わせるというアプローチである。

    さらに渡辺氏は、「もっと壊したい」とプレイヤーに感じさせるため、破壊の各工程にも着目した。まず破壊前は、「これを壊すことができるんだろうか?」と思わせる、つくり込まれたルックにした。破壊中は、素材ごとに異なるリアルな動きによって説得力を生み出す。

    破壊の瞬間には派手に破片が吹き飛び、手応えと気持ちよさを感じさせる。破壊後は、えぐれた部分をマテリアルで表現することで破壊された状態をわかりやすく見せ、達成感につなげた。こうして各工程の表現を追求することで、破壊体験全体を向上させたわけだ。

    「ドンキーコングが豪快に暴れ回る世界観なので、舞台はデフォルメされた表現で構成されています。だからこそ、リアリティにこだわった破壊表現で、デフォルメされた世界に重みと手応えを生みました。そのコントラストにより、壊すという行為そのものをより強く印象づけることができました」(渡辺氏)。

    破壊体験の前提となるボクセル技術について

    本作の破壊表現を語る上で欠かせないのがボクセルだ。本作では地形や敵、NPCなど、様々なものがボクセルでつくられている。このボクセルデータをゲーム内でリアルタイムに変更することで、細かな単位での破壊表現を実現している。

    ボクセルとポリゴンモデルの融合について、濱田氏がアーティストの視点から解説した。まず前提として、ボクセルモデルには特有の制約がある。アーティストが事前に作成したポリゴンモデルを一度ボクセルデータへ変換し、そのデータを基にゲーム内でメッシュを再構築するしくみのため、頂点やUV、エッジといった情報は引き継がれない。

    また、処理負荷の都合から再構築されるメッシュの密度にも制限があり、形状はどうしても大まかなものになる。テクスチャについても、アーティストが事前にUVを指定することができず、タイリングテクスチャを用いることになる。こうしたボクセル特有の制約の中で、いかに「濃厚な」画づくりを実現するかが課題となった。

    こで取り組んだのが、マテリアルの細分化だ。UVをコントロールできない分、マテリアル自体を細分化することで、ボクセル表面のリアリティや情報密度を高めた。

    例えば同じ岩でも、上面はマテリアルを分けることで風化の差を表現。苔のように土台の上へ別のマテリアルを重ねたり、泥の水たまりでは複数のマテリアルをランダムに混ぜたりすることで、リッチな表現を実現している。

    本作の地形アートでは、動物のモチーフもポイントになっている。シマウマやキリンの模様を地形へ取り入れることで、ボクセル表面をより魅力的に見せる工夫が施された。マテリアルを細分化しているため、表面だけでなく内部にも模様が続いており、破壊した断面まで一体感のある見た目を実現している。

    次に取り組んだのが、形状の強調だ。ボクセルによる大まかな形状だけでは、どこに乗れるのか、どこが壁なのかを判断しづらいという課題があった。そこでシェーダの機能を使い、上面と側面でアルベドを色分けすることで、足場と壁のちがいを強調。さらに地形リムによって地面の稜線を強調し、進行方向の凹凸も把握しやすくしている。

    「ボクセルの形をシェーダの機能で補強することで、見た目をよりリッチにしつつも、遊びやすい地形を目指しました」(濱田氏)。

    さらに、デカールによる装飾も行った。タイリングによって単調になりがちなボクセル表面に対し、デカールでワンポイントの装飾を追加。木の年輪や文様、ポスターなど、タイリングでは表現しづらい要素に用いることで、ボクセル表面にアクセントを加えている。

    アーティストから「ボクセルのマテリアルを重ねたり混ぜたりしたい」という要望を受けた佐々木氏は、レベルエディタ上でボクセルを編集するしくみを用意した。このしくみでは、レベルエディタ上でボクセルに対する編集範囲を指定し、ボクセルの追加や部分的なマテリアルの上書きといった編集を行うことができる。

    これにより、シチュエーションごとの細かなマテリアル調整をアーティスト側でコントロールできるようになった。木に生える苔や泥の表現など、マテリアルが細かく分かれている箇所は、全てこのしくみを使って制作されている。「この機能により、ボクセル表面を濃厚にする取り組みが大きく推進しました」(濱田氏)。

    さらに、ポリゴンモデルで編集範囲を指定してマテリアルを塗り替える機能も用意した。編集したいボクセルと編集範囲を示すポリゴンモデルを用意してレベルエディタ上で重ね、マテリアルの塗り替え設定を行なってからゲーム上に出力すると、ポリゴンモデルと重なった部分のマテリアルを塗り替えることができる。

    断面についても、ポリゴンモデルが重なった部分であればボクセル内部までマテリアルを塗り替えることができ、動物の模様など複雑なマテリアルの塗り分けに使用されている。

    デカールについてもプログラマー視点での工夫が施されている。本作ではボクセルの表現を補うためにボクセル専用のデカールのしくみを用意しており、ゲーム内でリアルタイムに配置を検証することも可能だ。

    また本作ならではの課題として、デカールの投影先となる地形が破壊される可能性がある。破壊に対応しない場合はデカールが残り続けてしまい違和感が生じるため、地形の変化に合わせてデカールの描画を制御。デカールと投影先地形との深度値の差を用いて浮きを検出することで実現した。

    ポリゴンモデルでさらに濃厚な画づくりを実現

    ボクセル地形の上に配置されるポリゴンモデルについても、濱田氏が具体的な取り組みを紹介した。

    まずはじめに、「壊れモデル」と呼ばれる破壊用の装飾物をポリゴンで作成した。この壊れモデルには、その場で壊れるものと、吹き飛んだ先で壊れるものの2種類がある。特に「吹き飛ぶもの」は、その先で新しいルートやアイテムを発見するきっかけになるなど、レベルデザインの面でも重要な役割を担う。また、ボクセル地形とは異なる壊れ方をするため、破壊表現のアクセントにもなっている。

    一方、草や小石のようにコリジョンを付けるほどではないが、テクスチャだけでは物足りない小さな立体物はポリゴンで作成し、大量に配置することで画面の密度を高めた。触れるとダメージを受けるトゲの表現にも利用されているほか、地形の外を移動するオブジェクトや敵にもポリゴンモデルが使われている。

    さらに、細かな凹凸や繊細な形状表現を補うためのカバーパーツも作成した。これはボクセル地形に被せて形状を補強するもので、配置先のボクセルと同じ材質にすることで設置面を自然に馴染ませている。また、ボクセルが変化するタイミングでカバーパーツも消すなど、あくまでボクセルと一体に見えるよう工夫した。主に石像や建物の装飾など、ボクセルだけでは表現しきれない部分で使用されており、景観の説得力を高めている。

    大量の装飾物を様々なシチュエーションに配置したいというアーティストからの要望を受け、佐々木氏はHoudiniによる配置ワークフローを構築。大量配置では、ボクセルやポリゴンモデルで構築された地形データをHoudiniに取り込み、その形状やマテリアル情報に基づいて装飾物を配置するしくみとしている。配置は基本的にルールベースで行われるが、アーティスト側で指定した範囲の密度を調整することも可能だ。

    破壊への対応も重要な課題だった。地形が破壊された際に装飾物が浮いて残ってしまう問題を防ぐため、破壊に合わせて装飾物を消すしくみを導入。ボクセルの変化は地形の破壊だけでなく、マテリアルの変化にも対応している。

    一方で、単純に装飾物を消すだけでは問題になるケースもあった。茨のトゲがその例だ。ボクセルの破壊に合わせてトゲを消してしまうと、表面が滑らかな見た目になってしまい、「触ってもダメージを受けない」とプレイヤーが誤認する恐れがある。そのため、破壊に合わせてトゲをリアルタイムに再配置するしくみを導入。破壊後も「触れてはいけないもの」であることが直感的に伝わる表現を実現した。

    続いて濱田氏が、「もっと壊したい」と思わせるゲーム体験を実現するため、各工程で追求した破壊表現について解説した。

    破壊中の説得力に関わるひび表現では、まず内部を露出させることで破壊が始まったことを示し、次にひびテクスチャを重ねることでダメージの蓄積を表現。最後に丸く印象的な破壊痕を加えることで「あと一発で壊れる」ことを示すなど、段階的な表現を採用している。

    「ひびは破壊の説得力を高めると同時に、固さの仕様とも深く関係しています。ゲームが進むにつれてマテリアルは固くなり、地形を壊す難易度も上がっていきます。ひび表現は、こうした固さを視覚的に伝える役割も担っていました」(濱田氏)。

    破壊した瞬間の気持ちよさに関わる破片のエフェクトでは、「何を壊しても気持ちよく派手に吹き飛ぶ」ことを重視。多少大げさに放物線を描いて吹き飛ぶよう調整したほか、破片の割れ方や重さ、放出方向を材質ごとに変えることで、質感のちがいが伝わるよう工夫した。

    破壊後の達成感については、内側マテリアルによる表現が重要な役割を担った。本作では壊した後も地形が残り、そのまま遊び続けることができるため、内部の作り込みが不可欠だった。全てのボクセルマテリアルに対して内側マテリアルを用意し、外側とのコントラストがしっかり付くよう調整している。

    例えば、表面には草が生えていて、パンチをすると草が剥がれて土だけになるという変化も、内側マテリアルのしくみで表現。さらに地中のリアリティを高めるため、濡れ表現も採り入れた。地形の深度に応じてラフネスやアルベドを変化させることで、深く掘るほどマテリアルが湿っていくように見せている。

    ボクセルの内側の表現については、シンプルながら効果的なしくみで解決している。アーティストがボクセルの内部構造を常に意識してモデリングを行い、マテリアルを塗り分けるといった膨大な作業工数をかけるのではなく、表面マテリアルと内側マテリアルの2種類をリアルタイムに切り替えるしくみを導入した。



    具体的には、破壊が発生した際に、破壊範囲より少し広い範囲の表面マテリアルを内側マテリアルへ塗り替えるというシンプルな方法だ。これにより、アーティストは内側マテリアルを作成して表面マテリアルと紐づけるだけで、内部表現を実現できるようになった。

    「表面のマテリアルに内側マテリアルを設定しておくだけで地形の内部を表現できるため、アーティストとしてもとても直感的で便利でした」(濱田氏)。



    リアルタイムにマテリアルを塗り替える手法には、表現面でのメリットもある。スケボーの動きに合わせて地面のマテリアルを内側マテリアルへ塗り替えることで、表面を薄く削る軌跡を表現できた。実際にはボクセルは削れていないものの、削れているように見せた事例だ。

    この機能をアーティストに提供したところ、当初プログラマーが想定していた一部の表現だけでなく、ゲーム内の全てのボクセルマテリアルで活用されるまでに広がったという。

    ひび表現についても、内側マテリアルと連動したシステムを用意した。破壊の手応えを表現するため、ひびが段階的に変化するようになっており、ボクセル側で保持しているダメージ情報を参照して制御している。


    シェーダ側でダメージ値に応じたブレンド率を算出し、その値を使って法線とAOを格納したひび用テクスチャをブレンドすることで、段階的なひび割り表現を実現している。さらに、あと一発で壊れる箇所をより強調するピンポイントな表現として、「破壊コンデカール」と呼ばれるひび模様のデカールを投影している。

    このデカールは、プレイヤーが地形にダメージを与えた際に地形情報を解析し、その形状に沿って変形させた板ポリゴンを配置するしくみだ。どのボクセルに投影しても自然になじむよう、投影時にボクセルからアルベドと法線のテクスチャを取得し、デカール描画時にブレンドしている。

    渡辺氏は最後に本セッション全体を振り返り、冒頭にも触れたアート方針を改めて語った。

    「まず大事にしたかったのは、破壊というゲームコンセプトそのものを支え、強めるアートであること。ゲームコンセプトでもある驚きデストラクションを出発点として、破壊と驚きを連動させるため、『え、これが壊せるの?』と思わせる濃厚な画づくりをアート方針に掲げ、その実現に向けた取り組みを重ねていきました」(渡辺氏)。

    ボクセルとポリゴンモデルの融合によるつくり込まれた地形、そして外見だけではない各工程における破壊表現の追求。それらは全て、破壊するたびに驚きと気持ちよさが返ってくる、「もっと壊したくなる世界」を実現するための試みだった。

    TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
    EDIT_小村仁美 / Hitomi komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada