2026年6月28日(日)、東京・池尻大橋のイベントスペース「BPM」にて、3DCG、VFX、ゲーム業界の交流イベント「クリエイターズHUB v3.00」が開催された。3周年を迎えた今回は、AI技術を活用したエンターテインメント分野の研究・開発に取り組む新 清士氏をゲストに迎え、生成AIが制作現場にもたらす変化や、これからクリエイターに求められる力についてトークセッションが行われた。本記事では、その内容を中心に会場の様子をレポートする。

記事の目次

    イベント概要

    クリエイターズHUB v3.00

    日時:2026年6月28日(日) 15:00〜18:00
    場所:BPM (東京・池尻)

    X(Twitter):@creatorshub_vfx
    Instagram:@creatorshub_vfx
    note : creatorshub

    3周年を迎えたクリエイター交流イベント

    3DCG、VFX、ゲーム業界で働くクリエイター同士の交流を目的に、定期的に開催されている「クリエイターズHUB」。3周年となる今回も、例年と同じく池尻大橋駅南口から徒歩30秒ほどのイベントスペース「BPM」にて開催された。

    会場には、業種や所属企業、世代の異なるクリエイターが集まり、開場直後から各所で活発な交流が行われた。協力企業として、恒例となったアイリッシュウイスキーJAMESONに加え、MaxonXPPenも参加。製品を実際に体験できる展示ブースやプレゼント企画が設けられ、交流会にさらなる賑わいを添えていた。

    ▲会場の様子

    Maxonブースでは、同社の製品ラインナップへ新たに加わったモーショングラフィックス/コンポジットツール「Autograph」を中心に展示が行われた。

    XPPenブースでは、23.8インチ・4K液晶を搭載した液晶ペンタブレット「Artist Pro 24(Gen2)4K」をはじめとする最新製品を展示。実際に描き心地を試せる体験コーナーには、多くの来場者が足を止めていた。

    ▲Maxon、XPPenの担当者がそれぞれステージでコメント

    恒例のトークセッションには、株式会社バリーン・スタジオ Creative Tech Lab.に所属する新 清士氏が登壇。モデレーターは、クリエイターズHUB発起人のひとりであるjitto inc.の恵美孝彦氏が務めた。

    生成AIが急速に制作現場へ入りつつある一方で、クリエイターの間には、積極的に活用したいという期待と、将来の仕事に対する不安が混在している。今回のセッションでは、新氏が実際に制作したゲームやツールを紹介しながら、現在のAIに何ができ、クリエイターはどのように向き合うべきなのかが議論された。

    AIによって広がる個人の制作領域

    恵美孝彦氏(以下、恵美): 今、制作現場でAIという言葉を聞かない日はないと思います。すでに制作へ取り入れている方がいる一方で、クリエイターとして使ってみたいという気持ちと、これから仕事がどうなるのかという不安の両方を抱えている方も多いのではないでしょうか。

    だからこそ、まずはAIに何ができ、何ができないのかを知る必要があると考え、専門家として新さんをお招きしました。私自身も業務でAIを日常的に使っており、新さんのASCII.jp記事を毎回参考にしておりました。本日はよろしくお願いいたします。

    新 清士氏(以下、新): 現在はバリーン・スタジオに所属し、生成AI部門の立ち上げに取り組んでいます。デジタルハリウッド大学大学院ではゼミ形式のラボをもち、ゲームを使ったAIの応用について研究しています。ASCII.jpでの連載は4年ほど続けており、毎週、新しい技術を検証してレビューしています。

    また、内閣府の知的財産戦略本部に設置された「AI時代の知的財産権検討会」の委員も務めています。知財の専門家や大学の研究者と共に、AIを知的財産の枠組みの中でどのように位置づけ、どのような情報開示を求めていくかを議論する場です。私は、AIを実務で使う立場から意見を求められています。

    恵美: そこで話された内容が、日本のルールや法改正に直接つながっていくのでしょうか。

    : 文化庁や内閣府、経済産業省、総務省などがまとめた文書が、日本におけるAI政策の基本的な考え方になっています。「国内でAIはどのように法的に位置づけられているのか。まだ未整備なのではないか」と聞かれることがありますが、2025年のAI法の成立によって、すでに基本的な部分の法的整備は完了しているという状態です。その上で、情報開示や知財の扱いをより具体的に実務的な形で整理を進めている段階です。

    ▲恵美孝彦氏(左)、新 清士氏(右)

    恵美:それでは、AI時代にクリエイターは何を武器にしていけばいいのかというテーマでお話しできればと思います。

    :言葉で説明するより、実際につくったものを見てもらうのが早いと思います。私自身は絵描きでもないし、プログラマーでもありません。これはChatGPT 5.5とCodexで作ったゲームです。アニメーションと画像はChatGPTの画像生成モデルimage 2.0でつくらせています。大規模なゲームではありませんが、基本的な部分は1時間ほどでできました。

    恵美:キャラクターのデザインや背景制作も含めて、1時間ですか。

    :含めてです。むしろ時間がかかったのは画像生成の方で、ロジックの実装自体はかなり速かったです。自分でコードを書くのではなく、AIと相談しながら必要な機能を追加していきました。

    恵美: どのような指示を出しているのでしょうか。

    : 最初に、どういうゲームにしたいかを文章で伝えます。その後、実際に動かしてみて、操作感や画面構成、敵の出現方法などを修正していきます。つくりたいものを明確にし、結果を見ながら細かく調整するという意味では、人に仕事を依頼するのと大きく変わりません。

    次は、AIキャラクターと会話できるチャットアプリです。ユーザーの入力に対してローカル環境で動くLLMが文章を生成し、音声合成AIがリアルタイムに近い速度で読み上げます。音声合成には「Irodori-TTS」という音声出力用のAIを使っています。


    恵美:ローカルTTSでこの応答速度は驚きです。しかも表情が声に合わせて変わっていますね。

    :生成のタイミングで表情を判定するしくみを作っておいて、それに合わせて絵が動くようになっています。表情のパターンはだいたい48種類ありますが、これは自分ではいっさい描いていません。AIに「表情差分も作ってくれ」と指示しただけです。

    口パクも試しましたが、そこはまだ難しかったので、話している間にキャラクターが少しずつ動くようにしています。これもimage 2.0とCodexでつくっていて、複雑そうに見えますが、コードは一切自分で書いていません。制作期間は4日ほどです。

    さらに2Pモードもあって、人間が介入しなくてもAI同士がずっと会話し続けます。

    恵美:ラジオみたいですね。会話もAI任せということですか。

    :そうです。自分たちの話を勝手にするモードもあれば、こちらからテーマを与えて会話を広げるモードもあります。裏側でキャラクター設定を変えることもできます。GitHubで公開しているので、それを基に4人で会話するバージョンをつくった人もいました。GoogleのGemma 4を使って、ローカル環境で動かしています。

    恵美: API経由ではなく、ローカルLLMを使う利点は何ですか。

    : まず、お金がかからないことです。また、入力した情報を外部のサーバーへ送らずに済むため、秘匿性の面でも利点があります。ローカルLLMは性能が低いという印象をもたれがちですが、今年に入ってから、ここ数ヶ月で状況はかなり変わっています。QwenやGemma 4など、比較的小さなモデルでも、かなり実用的に動くようになってきました。

    恵美: モデルによって得意分野も異なるのでしょうか。

    : コーディングに特化したものもあれば、Gemma 4のようにコーディング専門ではないものの、会話が得意なモデルもあります。日本語でキャラクターを会話させる場合は、Gemma 4が向いています。Qwenのような中国語を中心に学習したモデルでは、日本語の中に中国語が混ざることがあります。



    アーティストが使える生成AI環境を構築する

    : これとは別に、社内向けにつくったアーティスト用の画像・動画生成管理ツールもあります。素材のビューアを兼ねた画像生成アプリと動画生成アプリで、翻訳機能によるプロンプト入力の支援も備えています。社内で使えるように3台のマシンに処理を分業化して回せるようにしています。

    :画像生成にはANIMA、動画生成にはWan 2.2を使っています。いずれもローカル環境です。

    恵美:有名なモデルですね。複雑になったノードを簡略化したUIにし、アーティストが使いやすい形にしたのですね。

    :そうです。私はサーバをつくった経験がなかったのですが、これが初めてのサーバ環境構築でした。動画生成は処理に時間がかかるため、GeForce RTX 5090を搭載したPCへ処理を送り、作業者は自分のPCで別の作業を続けられるようにしています。

    裏側ではComfyUIが動いています。重要なのは、ComfyUIのノードをそのまま見せるのではなく、用途に合わせたUIへつなげることです。プロンプトを指定すれば、入力画像の内容を認識しながら生成を進められます。

    恵美: これは社内向けのツールですか?

    : もともとは自分用につくったものですが、社内でも使いたいという話になりました。ただ、メンテナンスが大変なので一般公開はしていません。

    恵美:そうなんですね。公開されていたら触ってみたかったです。

    :私はプログラマーではありませんが、グラフィック制作のどこでつまずくのかは理解しています。その知識を基に、CodexやClaude Codeを使って必要なアプリをつくっています。

    この規模のツールを通常の方法で外部へ発注すれば、数ヶ月の開発期間と数百万円規模の費用が必要になる可能性があります。デバッグまで考えれば、自社ではなかなか発注できない金額です。それがAIによって、必要な機能や構造を適切に設計できれば、自分でも形にできるようになりました。これは大きな変化です。

    AIは「つくる」だけでなく「考える」へ

    恵美:バイブコーディングという意味では、Claude CodeとCodexをどのように使い分けていますか。

    :その時点で性能の良いものを使い分けています。最近特に驚いたのが、Fable 5でつくったシューティングゲームです。企画ドキュメントの作成に5分、実装に19分しかかかっていません。

    恵美:バイブコーディングでシューティングゲームをつくることは、AIの性能を測る例としてよく使われますよね。

    :Fable 5がこれまでと大きく違うのは、単にゲームをつくれるだけでなく、遊んでみると面白いことです。ボスや敵にバリエーションをつけること、レベルアップやボムの概念などは指示していますが、それ以外の細かな部分はFable 5が考えています。

    これまでのAIは、指示された機能を最低限実装することはできても、何をもって面白い状態とするかを考えるのは得意ではありませんでした。

    恵美:これまでのモデルは、つくることはできても、ゲーム性の面白さまでは設計できなかったということですね。

    :例えば掲示板をつくらせる場合、従来のAIは、投稿機能を実装してサーバへ送るところまでで終わっていました。

    ところがFable 5は、「どういう状態になれば、この掲示板が盛り上がっているといえるのか」と考え始めます。スレッドへの書き込みが増えていることや、議論がある程度まとまっていくことなどを数秒で言語化し、それをコンセプトモデルにしてから実装を始めるんです。

    このゲームも明らかに面白くなっていましたし、バグもほとんどありませんでした。これは大きな変化だと感じました。

    恵美:これまでは、人間が自分の中で練り込んだイメージをコーディングエージェントへ渡し、それを実装させる使い方が中心でした。それが今は、プランニングの一部までAIが行い、人間が明示していない部分も補うようになってきたわけですね。

    :そうです。また、この短編作品では、シナリオをChatGPT 5.5につくらせ、音声はIrodori-TTS、音楽はSunoで生成しました。それらをFable 5へ渡し、演出と画像を加えています。

    アニメーションまでは十分に生成できなかったため、『銀河鉄道の夜』をモチーフにした静止画中心の作品にしましたが、かなり良い出来になりました。今後はSeedanceを組み合わせてもよいと思います。

    3D生成とMCPが変える制作現場

    恵美:近年では画像や動画だけでなく、3Dモデルの生成も活発ですが、ゲーム開発の中で実際に使われたりするのでしょうか?

    :ゲーム開発でももちろん使われています。日本では使っていることをあまり公言しないですが、中国では普通に使っていますね。背景やプロップなど、動かないモデルには実際に使用している場合が多いです。

    恵美:近年ではGaussian Splattingが熱いですよね。国内でも4DGSのボリュメトリックスタジオができたり、つい先日のHoudini 22の発表では編集やアニメーションもできるようになったり、Nuke 17でもサポートされたり。業界的にも主力になっていく分野だと予想されるのですが、今後AIによってGaussian Splattingはどのように強化されていくと思いますか。

    :アルゴリズム自体が発展しているので、精度や品質はより上がっていくでしょう。ただ、動かすための実装環境や処理速度、通常のポリゴンモデルとの相性の悪さ、当たり判定をどう合わせるかといった課題もあります。そういった部分が、これからクリアされていくのではないでしょうか。

    恵美:個人的には、AIで時間軸も含めた4DGS——動きのある空間そのものを生成できるようになったら、制作現場はまた大きく変わりそうだなと思っています。撮影方法の概念から変わってきそうなので、この分野の動向にはとても注目しています。

    そしてもう一点気になっているのがMCPです。AIがアプリケーションを直接操作できるようになりましたが、まだできることが限られており、これなら自分で操作した方が早いなと感じることの方が多いです。MCPの上手い使い方とはどういうものなんでしょうか?

    :MCP自体は普段から使っていて、Claude CodeとCodexを組み合わせることもあります。重要なのは、AIへ何を与えるかです。Unreal Engine(以下、UE)向けのMCPには大きな可能性がありますが、まだ研究が始まった段階だと思います。現在は、Codexを経由して、音楽に合わせてエフェクトを出すしくみなどを試しています。

    恵美:UE 5.8では公式にMCP対応が入りました。この先、ゲーム業界は変わっていくと思いますか。

    :UEは、触っていてもどこを操作すればよいのかわかりにくい部分が多くあります。MCP経由でNiagaraなどを制御できるようになれば、相当変わると思います。

    恵美:UEのネックは、問題が起きたときに原因を見つけるまで時間がかかることですよね。そういった問題解決の部分でもMCPの恩恵は大きいでしょうか。

    :そこは大きいですね。以前はAIに「目」がなかったんです。AIがコードを書いて処理を実行できても、結果が画面上で正しく表示されているかまでは理解できない。だから、こちらで画面キャプチャを撮ってAIに送り、状況を説明しながら指示を出す必要がありました。それが今は、MCP経由でAIが自分でスクリーンショットを撮って結果を確認したり、ログやエラーを直接読み取ったりできるようになりました。UEはUIが複雑なので、手動で原因を探すよりも、問題の発見はずっと容易になりますね。

    恵美:画面キャプチャを手動で渡していた頃と比べると、大きな進化ですね。MCPの性能が上がれば作業は大幅に効率化できそうです。

    :BlenderでもMCPを試したことがあります。私はBlenderを自力で使うことには挫折したのですが、ショットをつくり、そこから動画にする流れをMCP経由で試しました。

    まだ癖があり、期待どおりに動かない部分もありますが、Seedanceには動画を渡して処理させることもできます。AIがアプリケーション内部の状態をより深く読み取れるようになれば、制作工程は大きく変わると思います。

    生成AIのクラウドとローカルをどう使い分けるか

    恵美:クラウド型とローカル型のAIは、どのように使い分けていますか。

    :クライアントワークでクラウドサービスを使う場合、入力したデータがサービス提供側のサーバに残るかどうかを確認する必要があります。ローカル環境であれば秘匿性は高くなりますが、使用できるモデルや処理性能には限界があります。案件ごとに判断しています。

    恵美:最近はComfyUIからAPI経由で外部のモデルを呼び出せるようになっています。API経由であれば、秘匿性は保たれるのでしょうか?

    BytePlusには確認しており、API経由の場合はデータがサーバ内に残らないと聞いています。BytePlusのサービスでSeedanceを使う場合もAPI経由なので、流出のリスクはないとのことです。

    恵美:オープンなモデルはカスタマイズしやすい一方で、性能や開発速度ではクラウド型のサービスが先行している場合もあります。Wan 2.2やANIMAをローカルで使うことはできますが、性能面ではSeedance、Kling、Omniなどの方が高い。仕事で使うとなると、API経由で利用するのが現実的な選択になりそうです。

    :ただし、費用の問題は大きいです。Seedanceは利用コストが高く、少し実験しているだけでも料金が積み上がります。同じ入力でも毎回結果が変わるため、何度も試す必要があります。品質だけでなく、何回生成するのか、どこまで試行錯誤するのかを含めて設計しなければなりません。社内でもよく議論になるポイントです。

    AIとクリエイターの未来──指数関数的に進化する技術とどう向き合うか

    恵美:実践の話をたくさん伺いましたが、最後に未来についてもお聞きしたいです。以前、「AIによる動画生成がリアルタイムになり、瞬時にワールドを生成し、ユーザーが自由に体験できるようになる」とお話しされていました。現在はどこまで来ているのでしょうか?

    :Googleは、その方向へかなり近づいています。ただ、それが一般ユーザーまで広く普及するには、もう少し時間がかかるでしょう。計算コストが非常に高く、1人につき1台サーバを使うような負荷になってしまうからです。

    恵美:ハードウェアの性能が追いつけば、今でも実現できるものなのでしょうか?

    :実際にそこへ取り組んでいるベンチャー企業もあります。技術としては、もう見え始めています。

    恵美:あとはコストの問題だけということですね。そう考えると、思っていたよりずっと近い未来の話なのかもしれません。

    :AI全体も同じです。1950年にベル研究所のクロード・シャノンがつくった迷路探索マウス「テセウス」を基準にすると、現在のモデルクラスは、人間には想像できないほどの性能差があります。

    2010年代にディープラーニングが普及して以降、性能は毎年桁違いのペースで伸び続けています。コンピューターの性能向上だけでなく、アルゴリズムも改良され、各社が巨額の投資を続けています。

    画像生成、動画生成、プログラム生成など、あらゆる分野で同じことが起きています。この流れはまだ止まらないでしょう。性能が上がるということは、これまで難しかった小さな問題も、次々と解決できるようになるということです。

    恵美:AGI(汎用人工知能)やシンギュラリティも、もう遠い未来の話ではないように感じます。

    :もう境界がどこなのか分からなくなってきています。

    恵美:実際に使っていても、単なるツールという感覚ではなくなってきていますね。

    :今のAIは、人間の心へ入り込めるところまで来ています。ゲームや映像の「面白さ」をある程度理解し、演出できるようになってきたということは、人間の感情をモデル化し始めているということでもあります。AIを恋人や相談相手のように使う人も増えていますし、人間との距離は急速に縮まっています。

    恵美:自分も毎日のように相談しています。もうLLMが使えなくなったら困るレベルです。

    AIは仕事を奪うのではなく、人を拡張する

    恵美:最後に、クリエイターはAIとどう向き合っていけばいいのでしょうか。

    :私は、AIが仕事そのものを奪うとは思っていません。AIは、その人がこれまで培ってきた経験や感性、ものの見方を拡張する道具です。ただし、自分が何を良いと考え、何を目指したいのかを定義しなければ、AIも力を発揮できません。

    実際には、AIを使う人と使わない人の間で、見えている世界そのものに差が生まれ始めています。どうAIと共同作業を行い、自分のパフォーマンスを高めていくかを真剣に考える時代になりました。そして興味深いのは、ベテランのほうがAIを上手く使いこなしているケースが多いことです。

    恵美:経験がある人ほど、AIへ適切に仕事を依頼できるということですね。

    :AIへ仕事を依頼するということは、部下へ仕事を発注することと本質的には変わりません。だからこそ、会社としては新人教育やノウハウ共有をどう維持していくのかも重要になります。コストやセキュリティも含め、AIとどう共存し、生産性を高めるかを考えなければいけません。

    恵美:AIによって、これまでできなかったことができるようになった実感はありますか。

    :私自身、ソフトを書けない、絵を描けないという理由で諦めていたことが数多くありました。それが今では実現できるようになり、本当に楽しいんです。

    恵美:その「楽しい」という感覚こそが、実はいちばん大事なのかもしれませんね。つくれなかったものがつくれるようになる。でも、そのとき何をつくりたいと思うのか——そこは、AIには決められない部分です。

    映像制作でも、たとえリアルな映像をAIだけでつくれるようになったとしても、私たちは作品の背景にある物語や、どういう思いで制作されたのか、ブレイクダウンやメイキングも含めて価値を感じています。

    人を感動させる作品には、必ず人の意図があります。誰かが「これをつくりたい」と願った、その熱量が宿っているからこそ観る人の心に届くのだと思います。

    だからこそ私はAIによって制作が楽になっても、人の仕事そのものがなくなることはないと信じています。

    「AIを能動的に使うことへの抵抗感」とどう向き合うか

    セッションの最後には、会場の参加者から新氏への質疑応答の時間が設けられた。

    Q:新さんの発信を拝見していて、AIへ興味はあります。ただ、クリエイターとして積極的に使うことには、どこか抵抗があります。どのように考えればよいでしょうか。

    :難しい問題ですね。ただ、ゲーム業界は何度も大きな変化を経験してきました。

    ファミコンからPlayStationへ移り、2Dから3Dへ変わったときも、「あんなグラフィックは流行らない」と言われていました。それでも結果として3Dが主流になりました。プログラミングも同じです。新しい手法が登場するたびに否定されましたが、時代に合わせて変化してきました。

    一方で、感性はなくなりません。例えば3D全盛になったあと、携帯電話向けゲームでは、再び2Dグラフィックを描ける人材が必要になりました。

    だから、これまで積み重ねてきた経験が無駄になることはありません。ただし、時代に合わせて自分も変わり続ける必要があります。

    恵美:ゲーム業界は変化が速いからこそ、適応にも慣れているのかもしれませんね。抵抗を感じるのは、それだけ自分の手でつくることを大切にしてきた証拠だと思います。だからこそ、無理に全部を変える必要はなくて、まずは触ってみて、自分の制作に合う部分だけ取り入れてみる。それくらいの距離感でいいのかもしれません。

    本日は貴重なお話をありがとうございました。

    3周年を迎えたクリエイターズHUBは、今年もクリエイター同士の交流の場として多くの来場者で賑わった。AIをはじめ制作環境が大きく変化する中でも、クリエイター同士が知識や経験を共有し、新たなつながりを築く場の重要性は変わらない。技術とコミュニティの双方を支えるイベントとして、クリエイターズHUBは今後もさらなる広がりを見せていきそうだ。

    TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎデ)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota