『Clair Obscur: Expedition 33』の開発ポストモーテムが2026年7月26日(日)、横浜市開港記念会館にて開催された。本イベントはThe Game Awards 2025のGame of the Yearなど数多くの賞を獲得した同作について、Sandfall Interactive(以下、Sandfall)のキーパーソンたちが開発をふり返るポストモーテム(事後検証の意)だ。
当日は4つのセッションとラウンドテーブルが開催され、多くのゲーム開発者や学生が訪れる1日となった。本記事では前編として、午前中に行われたキャラクター制作とテクニカルアートに関する2つのセッションの模様をお届けする。
Clair Obscur: Expedition 33
開発:Sandfall Interactive
発売:Kepler Interactive
リリース:発売中
価格:7,400円ほか
Platform:PS5、Xbox Series X|S、PC(Steam/Epic)
ジャンル:リアクティブターンベースRPG
Developed by Sandfall Interactive. Published by Kepler Interactive. All rights reserved.
expedition33.sega.jp
SESSION 01:苦しみすぎずにキャラクターを作る方法
最初のセッションに登壇したのは、Sandfallのリードキャラクターアーティスト兼コンセプトアーティストのアラン・レイノー氏。ゲーム専門学校でコンセプトアートを学んだ後、他社でのキャラクターアーティスト経験を経て2021年にSandfallへ参加した人物だ。
Sandfallのキャラクターチームはわずか4名。その体制で、メインキャラクター10体、スキン25種、敵キャラクター60体、NPC20体の計120体近くを、本作を特徴づける絵画調かつリアル寄りなアートディレクションで制作する必要があった、と氏は語る。
リアル寄りの画づくりは使えるツールの幅が広がる一方、少しの破綻が「不気味の谷」に直結するハイリスクな選択でもある。講演タイトルの「苦しみすぎずにキャラクターを作るには?」は、この難題に対するツール遍歴の記録そのものだった。
レイノー氏が最初に試したのはCharacter Creator 3。カスタマイズ性は高いものの習得コストが大きく、何よりUnreal Engineから独立したツールであるため、連携のたびにワークフローの分断が生じた。
続いて登場したMetaHumanは、次世代品質のベースメッシュとUEとの完全な互換性が魅力で「見た瞬間に使うと決めた」と氏は語るが、当時はブラウザ上でしかカスタマイズできない制約があったのだという。
そこで、カスタマイズ性を補うべくMeshMorpherプラグインを導入。リリース直後から使い始めたため初期はバグも多く、エンジンのバージョンアップごとにプラグインの更新を待つ必要があったものの、開発元と直接やり取りしながら活用したそうだ。2022年頃からはMesh to MetaHumanも併用し、NPCの多くはこの手法で制作された。
こうした試行錯誤の末に確立したのは、複数ツールの組み合わせだ。MetaHuman Creatorでラフを作成し、ZBrushでシルエットをスカルプトし、Mesh to MetaHumanで取り込んでディテールをベイクする。テクスチャとマテリアルはキャラクター間でモジュール化され、UE内でのテクスチャ調整も容易になった。
一方で難点もあるといい、メッシュのエクスポート(特に三角化まわり)の煩雑さ、首と身体の継ぎ目の処理、そしてトポロジーを変更できないという制約についても話された。「首のシームなど、いくつかの部分には一見するだけでMetaHumanだとわかってしまうような特徴が出てしまうのでそこは大変でしたね」と氏は語る。
制作はリトライの連続で、主人公クラスのキャラクターは6回以上作り直し、トレーラー公開の1ヶ月前にはメインキャラクター全員を作り直すという決断もあった。「とはいえ、もっと良いものを作れるはずだとその時々でチームの誰かしらは信じていました。そして、チームの誰かが確信をもっているなら、それを信頼すべきです」と同氏はふり返る。
講演の締めくくりには、UE5.7で実装されたMetaHuman Creatorプラグインを紹介。エディタ内でMetaHumanを作成できるようになったことで、これまでの課題の多くが「ワンストップで解決した」という。
エクスポートにMayaが必須である点や、Body Builderツールの現状の使いにくさなど未だ残る実践的な課題にも触れつつ、UE内で完結する新ワークフローの手順が詳細に解説された。
質疑応答では、新しいツールの検証をどう社内で認めてもらったのかという質問に対し、「4人のチームでは自社ツールを開発する余力がなく、学校時代から使い慣れたツールと市販ツールを検証して使う方が合理的だった」と、少人数ならではの割り切りを明かした。
SESSION 02:学校から『エクスペディション33』へ UEでのテクニカルアーティストの日記
第2セッションは、テクニカルアーティストのアレクサンドル・ブルトン氏による講演。氏は5年制のゲーム専門学校でUE4とHoudiniを習得し、Houdiniのスキルを買われて卒業後すぐSandfallに参加、Blueprintは入社後に覚えたという経歴の持ち主だ。
同スタジオにはテクニカルアーティストという専任職が同氏しかおらず、シェーダ、Houdiniによるプロシージャルモデリングと配置、エディタツール、最適化・プロファイリングまで何でも屋として担当してきたという。
講演の冒頭ではまず、若手開発者ならではの視点でUnrealのエコシステムへの感謝が語られた。C++を書けなくともツール制作からデバッグまでこなせるBlueprintへの賛辞と共に、YouTubeのチュートリアルやXで新機能を共有する開発者たち、手頃な価格のコミュニティ製パック、Unreal Festのようなイベントについて氏は謝辞を述べた。また、「夜型の自分にとって、時差の関係で同じタイムラインにいる日本のコミュニティにいちばん助けられた」と当日の来場者へのサービスとともとれるような一幕も。
技術面の解説では、まずNaniteとVirtual Shadow Maps(以下、VSM)の活用が紹介された。NaniteによりLOD制作が不要となり、フルモデリングされた街並みのような高密度なアセットを少人数でも回せる制作スピードがもたらされたという。
また、VSMによりライトベイクが不要となり、イテレーションが劇的に速くなった結果、風に揺れる木々の影も追加コストなく行えるようになった。アクタ単位でWPO無効化距離などを最適化できる点、プラットフォームごとに細かく設定を変えられる点も開発者には魅力的であると氏は語る。
続いて、本題であるHoudiniとUEの連携に話題は移る。ここでは、Vertex Animation Texture(VAT)によるスキニング不要のアニメーション、ソフトボディ/リジッドボディのエクスポート、Houdini Engineを使った街の構築について語られ、UEのスプラインとHoudiniのスプラインを直結させ、同じ入力データから同一の結果が得られる様子が披露された。
建物はアクセス可能なものだけにコリジョンを生成して負荷を抑え、Per Instance Custom Dataによりマテリアルインスタンスを1つに保ったまま建物ごとの汚れなどの表情づけを行う。まったく同じアセットを用いた上で、インスタンスデータだけで見た目を変えたという作中建造物の実例も示され、少人数開発により広大な世界を成立させた裏側がつぶさに解説された。
一方、Houdini Engineには重さや不安定さ、ライセンスの問題もあると率直に指摘し、「同じことをエンジン内でできないか」という問題意識から、後半はプロシージャル生成やカスタムインスタンスデータ、そしてNanite アセンブリへの期待が語られた。
特にNanite アセンブリは、同作の最適化における最大の課題だったというフォリッジ(植生)での容量・メモリ問題を解決しうる技術として注目しているといい、「初期デモでは岩ばかりで不安だったが、『The Witcher 4』のデモで高精細な木々が大量に出てきたので期待している」とユーモアを交えて語った。
質疑応答では、UE4時代のアセットはUE5移行時に「全て作り直した」こと、学校で学んでいてもエコシステム全体を仕事のレベルで理解するには1年かかったことなどが率直に共有され、学生から実務者まで幅広い聴衆に響くセッションとなった。
後編では、クリエイティブディレクターのギヨーム・ブロシュ氏によるシーケンサー講演、テクニカルディレクターのトム・ギルマン氏による開発思想の講演、そして日本のクリエイターを交えたラウンドテーブルの模様をお届けする。
TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平 / Yohei Onuma