『Clair Obscur: Expedition 33』の開発ポストモーテムが2026年7月26日(日)、横浜市開港記念会館にて開催された。本イベントはThe Game Awards 2025のGame of the Yearなど数多くの賞を獲得した同作について、Sandfall Interactive(以下、Sandfall)のキーパーソンたちが開発をふり返るポストモーテム(事後検証の意)となっている。

そのレポート後編となる本記事では、午後に行われた2つのセッションと、アトラスより『ペルソナ』シリーズ、Tango Gameworksより『Hi-Fi RUSH』のクリエイターらを迎えたラウンドテーブルの模様をお届けする。

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    Clair Obscur: Expedition 33

    『Clair Obscur: Expedition 33(クレール オブスキュール:エクスペディション33)』
    開発:Sandfall Interactive
    発売:Kepler Interactive
    リリース:発売中
    価格:7,400円ほか
    Platform:PS5、Xbox Series X|S、PC(Steam/Epic)
    ジャンル:リアクティブターンベースRPG
    Developed by Sandfall Interactive. Published by Kepler Interactive. All rights reserved.
    expedition33.sega.jp

    SESSION 03:シーケンサーで"すべて"を作る

    午後最初のセッションに登壇したのは、Sandfall InteractiveのクリエイティブディレクターでありCEOでもあるギヨーム・ブロシュ氏。日本のRPGで育ったJRPGオタクを自認し、来日のたびに毎晩カラオケで過ごすという親日家だ。

    ▲ギヨーム・ブロシュ氏(クリエイティブディレクター/CEO/右)

    氏は自己紹介にて「シーケンサーは我が人生、我が人生はシーケンサー」と高らかに宣言、制作では全てのカットシーンの脚本・演出とバトルのカメラ・演出を一手に担当しながら「開発時間の半分以上はシーケンサーを触っていた」と語るところからセッションはスタートした。

    なぜシーケンサーなのか。そんな問いに対して氏は「カメラ・ライト・VFXを一箇所で完全にコントロールでき、ゲームプレイと大胆な演出を組み合わせられる」というメリットを最大の理由として挙げる。全てが制御された環境で進行するターン制RPGとシーケンサーの相性は抜群で、しかも習得は容易。氏いわく「チームは30人だが、シーケンサーを理解していない人は1人もいない」というほどの浸透ぶりなのだそうだ。

    また、同作のバトルシステムは、実のところ「シーケンスを次々と連鎖再生させるしくみ」だという。メニューへの遷移からカメラワーク、キャラクターの切り替えまでもがシーケンスであり、味方のスキル発動中はシーケンサーによるカメラコントロールで映画のような演出を実現する。

    ほぼ全キャラクターがUE5標準スケルトンを使用され、タグでシーケンサーに紐づいているため、どのキャラクターでもシーケンスを動かせる設計でゲーム本編は制作されたのだという。一方、敵の攻撃はターゲットや配置によってアングルが変わるため、FoVやタイムダイレーションで攻撃の見やすさを高めつつも「プレイヤー側ほど細かくは作り込めなかった」と明かした。

    セッション後半はカットシーン制作について言及。映画の鉄則「語るな、見せろ」を哲学として演出を行なったことを明かした。氏いわく、セリフは情報を伝える最後の手段であり、キャラクターの内面は演技・音楽・ライティング・カメラで表現することで、プレイヤーに想像させるべきだと考えているという。

    ここでは、「プレイヤーの頭が悪いと思わないこと。作り手がプレイヤーをリスペクトすれば、プレイヤーも作品をリスペクトしてくれる」と言葉の端に力を込めて語る一節も見られた。

    そうしたカットシーン制作においては、XsensとMetaHuman Animatorで全てのモーションキャプチャを賄った。

    まず、L0/L1/L2の3段階の品質レベルを設け、モーキャプデータを取り込んだラフ版・L0を素早く作成し、画面に映る部分だけクリーンアップ。カメラ演出を磨いてL1に、VFXとサウンドを加えてL2へと仕上げていく。

    また、6人で4時間30分もののカットシーンを制作する必要があったため「映らないものには時間をかけない」ということも徹底した。キャラクター同士が手をつなぐといったカットに関してはカメラで隠して逃げるなどの割り切りもあったという。

    その一方で、ほぼ全てのショットに専用ライティングを組むといったこともしている。全キャラクター共通の表情アニメーション用Blueprintでは目や肌に微細な動きを加えることで「死んだ魚のような目」になるのを回避し、キャラクターに命を吹き込むことにこだわったと語った。

    SESSION 04:プログラマーとデザイナーの理想のコラボレーションを求めて

    4つ目のセッションに登壇したのは、テクニカルディレクター兼リードプログラマーのトム・ギルマン氏。2017年からUbisoftで『ゴーストリコン ブレイクポイント』(2019)、『ディビジョン2』(2019)などに携わった後、Sandfallに参加した人物だ。

    氏はまず「『Clair Obscur: Expedition 33』の最大の強みは技術でも美しいレンダリングでもなく、クリエイティブビジョン。われわれの役割はそのビジョンを支えることだ」と宣言し、講演は始まった。

    ▲トム・ギルマン氏(テクニカルディレクター兼リードプログラマー)

    同作のプロジェクトは2019年1月にUE4.21で始まった。同じプロジェクトファイルのままUE4.26でバーティカルスライスを完成させ、UE5に移行。最終的なリリースの際にはUEは5.4.3となっている。

    こうしたエンジンのバージョンアップの際にはプログラマーの時間を要したものの、「新機能とバグ修正・パフォーマンス改善が無料で手に入るメリットが上回った」と氏は総括する。

    同スタジオの開発環境はPerforce、Unreal Game Sync、TeamCityという業界標準の組み合わせだ。開発思想は明快で、「エンジンの大きな改造やリファクタリングはしない」「可能な限り自作せず、ネイティブのUnrealツールを使う」というものになっている。

    氏は「Sandfallのプログラマーは4人だけだが、裏では200人超のEpicのプログラマーが働いてくれている」と表現し、エンジンではなくゲームそのものの開発に集中できたことが少人数開発を成立させたと語る。

    それを裏付けるように、ゲームプレイロジックの95%はBlueprintで書かれ、NaniteやLumen、Niagara、MetaHumanといった標準機能をフル活用。UIナビゲーションを独自実装したこともあったが、保守が複雑化した末にCommonUIに移行したといった失敗談も語られ、とにかく標準機能で足りるものは標準機能で賄うという姿勢が強調されることとなった。

    また、プラグインに関してはUnreal標準を約30個、ALSやKawaiiPhysicsなど外部製を約25個程度の構成となっているという。

    こうした技術面はデザイナーとの協業を目指して整備されている、と氏は話す。これは言い換えれば「デザイナーが何でも作れる環境」の構築だ。

    スキルやアイテムの定義にはData Assetを徹底活用し、バトルシステムの中核であるバフシステムには状態異常からパッシブ効果、敵固有の挙動まであらゆる用途に Blueprintスクリプトを利用。プレイヤーのビルド次第で何が起きるかわからないという自由度を確かな土台で支えつつ、デザイナーのクリエイティビティを最大限に反映できる形をとった。

    また、リリース工程では、TeamCityによる継続的インテグレーションで毎晩自動パッケージングとSteamへのアップロードを行い、問題があればDiscordに通知を飛ばすというシステムを回し続けたという。

    締めくくりにギルマン氏は「技術はクリエイティブビジョンの邪魔をせずただ支えるべきだとわれわれは考えています。その信条に従って、シンプルなやり方でゲームを作りました」と講演を総括した。

    ROUND TABLE:少人数開発の本質と、これからのゲーム開発

    イベントの最後には、Sandfallからブロシュ氏とギルマン氏、そしてアトラスでP-STUDIO総合プロデューサーを務める和田和久氏、『ペルソナ3 リロード』ディレクターの山口拓也氏、Tango Gameworksで『Hi-Fi RUSH』のディレクターを務めたジョン・ジョハナス氏を迎えたラウンドテーブルが行われた。

    ▲写真右から 山口拓也氏(アトラス 『ペルソナ3 リロード』ディレクター)、和田和久氏(アトラス P-STUDIO総合プロデューサー)、ジョン・ジョハナス氏(Tango Gameworks 『Hi-Fi RUSH』ディレクター)、ブロシュ氏、ギルマン氏

    最初のテーマは、「30人弱での開発は奇跡なのか、再現可能なのか」。

    和田氏は「再現可能だと思う。PS1の時代はわれわれも30〜40人で作っていた。当時UEがあれば同じことができたかもしれない」と話しつつ、逆に「Sandfallはこの体制を維持するのか、拡大するのか」と質問。

    Sandfall側は「人を増やすことは考えていない。人が増えれば管理に時間と能力を取られ、クリアなビジョンと意志を貫くことが難しくなる。次回作も少人数で、会社とチームの純粋さを保ちたい」と回答。

    QAのような特定時期にだけ必要なリソースはアウトソースで補い、「常駐すべき人とピンポイントで入ってもらう人を、まさに遠征隊のように編成する」という考え方を示した。その上で「大事なのはスコープの絞り方。全部をやる必要はない。何を一番表現したいのかを見定め、やらないことを決めることだ」と続けた。

    2つ目のテーマは「共通言語としてのUnreal Engine」。

    内製エンジンからUEへ移行した経験について、山口氏は「アーティストフレンドリーなので、プログラマーがいなくてもデザイナーだけで遊び心地を確かめるモックが作れる。一方で、自社エンジン時代は何もかも自分たちで用意する必要があり、否応なく勉強させられたが、おかげで学ぶものもあった。その時間が減ったのは失ったものかもしれない」と語った。

    ジョハナス氏も「内製エンジンはプログラマー向けで、アーティストには敷居が高かった。UEはレゴのように部品が揃っていて、アイデアの検証が速い」と同意しつつ、エンジンというゲームの機関部がブラックボックス化していくことへの不安には共感を示した。

    一方、その不安に反論するようにギルマン氏が「内製エンジンは機能の開発者が退職すると資料が出てこなくなるが、UEなら検索すれば必ず誰かが答えてくれる。ノウハウの蓄積という面で大きい」と実務者からのメリットを訴える一幕もあった。

    また、テーマは「UEっぽい画をどう避けるか」という問いにも発展。ジョハナス氏が『Hi-Fi RUSH』開発の実体験から「最初にやったのはレンダリング機能をOFFにすることだった。最小限の状態から始めて、実現したいビジュアルを足していくことを勧める」と回答。

    和田氏も「アセットを入れればいい感じの画になってしまうのがUEだが、われわれはそこを基準にしない。『ペルソナ』のアニメ的表現のように、やりたい表現が先にあり、それをUEでどう実現するかから発想する。エンジン改造は最終手段」と、画づくりの主導権を手放さない姿勢を強調した。

    一方、Sandfallの面々は「シュールレアリスム絵画的なアートディレクションだけを基準に、カッコよく見えるか、他と差別化できるかで判断してきた。UEっぽいかどうかは気にしていなかった」と続き、三者三様のスタンスが示された。

    ラウンドテーブル最後のテーマは「数年後のゲーム開発」。

    ブロシュ氏はSandfallの未来について「2028年、2030年になってもチームは30名以内のままだろう。だが一人ひとりができることは何十倍にもなる。追求したいのは匠の精神だ」と展望を語り、「AI製のゲームが氾濫するかもしれない時代だからこそ、作品に込められた作り手の意志こそがプレイヤーに届く価値になる」と力を込めた。

    和田氏は「ペルソナは多くの人数の意志が集結して作られるタイトルなので正直減らしにくい。ただ、コンセプト次第では少人数でいけるし、むしろ僕が1人で作りたいくらいの気持ちはある」と本音を漏らし、山口氏は「効率化で浮いた時間は『もっと作り込ませてほしい』という現場の声に消えていく。スタッフとのせめぎ合いにいつも負けている」と会場の笑いを誘った。

    質疑応答では日本の開発者へのアドバイスを問われ、ブロシュ氏は「自分に素直に、自分が良いと信じるものを定めてから作ればいい。われわれは日本のアニメとゲームに大きな影響を受けたからJRPG的な『Clair Obscur: Expedition 33』をつくった」と回答。

    ジョハナス氏も「誰かのためではなく、まず自分が納得できるものを。『Hi-Fi RUSH』も世の中にまだないゲームを自分が遊びたいという気持ちから始まった」と呼応した。

    閉会にあたりブロシュ氏は「われわれの作ったゲームの作中に ”後に続く者たちのために” という言葉がある。ゲーム開発者として、みんなの将来の仕事の役に立てるなら嬉しい。そのために日本に来た」と語り、6時間超に及んだイベントは大きな拍手のうちに幕を閉じた。

    ▲最後には、劇中音楽のピアノ演奏も

    TEXT_稲庭 淳 / Jun Inaniwa
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
    PHOTO_大沼洋平 / Yohei Onuma